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マリエッラ・デヴィーアとベル・カントの話 [コロラトゥーラ]


こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は休みで、
今さっき起きたところです。

今日は久しぶりに趣味の話題です。

上の画像はイタリアのソプラノ、
マリエッラ・デヴィーアが演じる、
ドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」の1場面。
彼女はタイトルロールのルチアを演じています。

彼女は1948年生まれのイタリア人で、
30代の初め頃にドリーヴの「ラクメ」や、
この「ルチア」で頭角を現しています。
「ラクメ」はコロラトゥーラのレパートリーですから、
出発点はコロラトゥーラだったのです。
その後ロッシーニの歌唱で絶賛され、
ベッリーニやルチア以外のドニゼッティのオペラに役柄を広げ、
「ベル・カントの女王」的なニュアンスで、
語られることが多くなります。

ベル・カントとは何でしょうか。

何か分かり難い言葉ですね。
しかも、明らかに良い加減な定義をする人や、
適当な使い方をする人も多いので、
尚更分かり難くなっています。

たまたま、僕の手元に、
リードというアメリカの声楽専門家の書いた、
「ベル・カント唱法(その原理と実践)」
という本があるので、
そこからの情報をお届けします。
僕は別に声楽の専門家ではなく、
ただ聴くのが好きなだけなので、
間違った点もあるかも知れませんが、
ご容赦下さい。

その本によれば、
「ベル・カント」というのは、
イタリアの伝統的な声楽の歌唱テクニックです。
ある種「修練の必要な秘儀」的なイメージがあり、
特別な教師の手によって、
そのテクニックは選ばれた歌手だけに伝授されるのです。
要するに日本の伝統芸能の伝承みたいなものと、
同じようなニュアンスですね。
オペラというものが誕生したのが、
1601年と言われていますが、
その当時から「ベル・カント歌唱」は存在したのです。

その後「ベル・カント歌唱」は、
イタリアの伝統的なテクニックとして、
17~18世紀にその頂点に達し、
その後次第に衰退してゆきます。
19世紀の初めにはベッリーニとドニゼッティとロッシーニが現われ、
この3人の作品が「ベル・カントオペラ」のように表現されることがありますが、
別にこの時代が「ベル・カント」の黄金時代であった訳ではなく、
「ベル・カント歌手」が確かに存在したのは、
この時代までだったことを、
示している程度のことなのです。
19世紀後半にはイタリアにはベルディが現われ、
ドイツにはワーグナーが現われて、
歌手の技芸よりも作品の時代になり、
特殊な歌唱の技巧はその意味を失ってゆく訳です。
これは面白いことに歌舞伎でも同様の歴史がありますね。
ストーリーが重視されるにつれ、
それを超えた地点にしか存在し得ない、
個人のテクニックの妙味は観客の興味を失い、
衰退の道を辿るのです。

現代にも「ベル・カント」を歌う歌手は存在しますが、
その歌唱は少なくとも18世紀以前のものとは、
変質しており、現代にはベル・カントは存在しない、
というのが、僕の持っている本の著者の意見です。
多分そうなのだろうな、と僕も思います。
歌舞伎や文楽とは違って、
譜面に残された音楽そのものは再生が可能なのですが、
現在の歌手はたとえば「ルチア」なら「ルチア」を、
その初演の頃とは全然別の歌い方で、
舞台に掛けている訳です。

ええと、長々と書いたここまでが前置きで、
デヴィーアの話に戻ります。

デヴィーアは今年リサイタルで来日して、
僕は生で聴きました。
勿論年齢に伴う衰えはありますが、
それを超えた見事な歌唱で、
非常に感銘を受けました。

彼女の歌は18世紀の「ベル・カント歌唱」とはおそらく別物なのでしょうが、
それでも「ベル・カント」の本質のようなものを、
僕は確かに感じたのです。

音が自由であることが、ベル・カントの本質だと言われます。
低い音も高い音も、弱い音も強い音も、
基本的に1つの声として存在し、
スムースに自由自在に移行して、
心地良い1つの流れを作ります。
ブレスも自然で、気張ったような乱れがありません。
これはただ、修練によって得られたもので、
人工的な高度の構造物なのです。
実際には音の高低によって、
声の出し方は変えているのですが、
それを感じさせないのが技術なのですね。

アンコールでマリア・カラスの代名詞のような、
ベッリーニの「ノルマ」を歌ったのですが、
これなどは本当に音の持続が見事で素晴らしく、
胸が躍りました。
8月にもう一度リサイタルがありますし、
NHKの放送もあります。
ご興味のある方は是非。

今日はちょっと「ベル・カント」の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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