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低分子干渉RNAによるリポ蛋白(a)低下療法の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リポ蛋白a低下療法.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年11月6日掲載された、
遺伝子を活用した脂質異常症の新薬の有効性についての論文です。

リポ蛋白(a)というのは、
比較的簡単に測定可能な血液中の脂質の1つで、
動脈硬化性疾患に関連する指標として、
健康保険でも測定が可能です。

ただ、その数値の意味と、
高コレステロール血症の治療における意義については、
まだあまり一定の評価がありません。

そもそもリポ蛋白(a)というのは一体何でしょうか?

血液の中をコレステロールや中性脂肪などの脂質を移動させるため、
脂質はアポ蛋白という蛋白質と結合して、
リポ蛋白という形態を取っています。

要するに、荷台にコレステロールなどの荷物を載せた、
トラックのようなものがリポ蛋白です。

このリポ蛋白にも種類があって、
俗に悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールは、
LDLというリポ蛋白の荷台に載っているコレステロールの量のことです。

このLDLは主にアポB100というアポ蛋白が脂質と結合したものですが、
アポB100以外にアポリポ蛋白(a)という別の蛋白が、
一緒に結合したLDLの一種が存在していて、
これをリポ蛋白(a)と呼んでいるのです。

このアポリポ蛋白(a)というのは、
プラスミノーゲンという血栓などを溶解する仕組みに、
関連する物質と非常に良く似た構造を持っています。

通常血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
20mg/dL以下に保たれていますが、
その血液濃度が高い体質があり、
そうした人では狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が、
多く発症するということが確認されています。

非常に興味深い点は、
この血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
食事などの影響はあまり受けず、
基本的にその高低は、
アポリポ蛋白(a)をコードしている遺伝子のタイプで決まっている、
ということです。

高リポ蛋白(a)血症は、
ほぼ全て遺伝で決まっているのです。

最近このリポ蛋白(a)濃度とは別個にそのサイズ(粒子径)も、
遺伝子レベルで決定されていて、
より小さな粒子径のリポ蛋白(a)が、
より心血管疾患のリスクが高い、
という知見も発表されています。

このようにリポ蛋白(a)は、
LDLコレステロール濃度などとは独立した、
心血管疾患のリスク因子であると想定されるのですが、
これまでリポ蛋白(a)を有効に低下させるような治療は、
開発されていませんでした。

それが最近新しいメカニズムによる新薬が幾つか開発され、
今臨床試験が施行されています。

その1つが今回の論文で臨床試験結果が報告されている、
オルパシランです。

この薬は低分子干渉RNAと言われる薬剤の1つです。
低分子の相補的なRNAを使用することにより、
目標とする遺伝子の発現を抑制するのです。

この場合リポ蛋白(a)の合成に関わる遺伝子の発現を、
強力に抑制する効果が期待されます。

今回の臨床試験においては、
心血管疾患の既往のあるリポ蛋白(a)高値の患者に対して、
複数の用量のオルパシランを、
12週もしくは24週毎に皮下注射で使用し、
その有効性と安全性を検証しています。

その結果、通常用量で90%を超えるリポ蛋白(a)濃度の低下が、
持続することが確認されました。
36週の時点までの検証では、
主な有害事象は注射施行部位の疼痛などでした。

これはまだ用量を決定するための臨床試験の段階なので、
まだその長期の安全性などについては判断は出来ませんが、
これまでにない画期的な新薬の1つであることは間違いがなく、
今後のデータの積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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