日本人にはアスピリンは効果がないのか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ちょっと古いのですが、
2014年のJAMA誌の論文で、
日本の一般臨床において、
低用量アスピリンの心血管疾患の一次予防の効果を見たものです。
これはつい最近この研究のサブ解析の結果が医療ニュースになっていて、
それを読んで、
そう言えばこの論文は取り上げていなかったのではないかしら、
と思ったので再読してみたものです。
アスピリンは非ステロイド系の消炎鎮痛剤の一種ですが、
80から100mgくらいの少量で継続的に用いた時に、
抗血小板作用を持ち、
心血管疾患の予防や一部の癌(腺癌)の予防に、
その有用性が確立されています。
脳卒中や心筋梗塞の予防として、
一度そうした病気を起こした人の、
再発予防としての有効性は確立されています。
これを二次予防と言います。
これは国内外で特に違いはありません。
一方でまだ病気を起こしてはいないけれど、
そのリスクが高い人に使用する、
いわゆる一次予防の有効性は、
二次予防よりその差が出にくいということもあって、
必ずしも明確ではありません。
以前ご紹介した今年のアメリカの最新の指針としては、
一定のリスクのある人にアスピリンを10年以上継続して使用した場合、
心筋梗塞のリスクを17%、
脳卒中のリスクを14%、
大腸癌のリスクを40%、
それぞれ低下させる効果があり、
その一方で重症の消化管出血のリスクは58%、
出血性梗塞のリスクは27%増加するので、
リスクのある40から50代の成人の使用には一定のメリットが、
生命予後を含めてあるけれど、
70歳以上ではその効果はあまり期待出来ない、
という結論になっています。
ここで問題となるのは、
アスピリンの有効性には人種差があるのかどうか、
ということです。
心血管疾患の予防という観点から考えると、
日本人は脳卒中が多いのに対して、
欧米では心筋梗塞が多いという病気のリスクの差があり、
また脳梗塞における出血の合併も、
日本人では多いという差もあります。
上記の論文はそのアスピリンの一次予防を、
一般臨床において多数例で検証した、
ほぼ唯一の臨床データです。
医師会系の学術団体である日本臨床内科医会が中心となり、
年齢が60から85歳で、
高血圧、脂質異常症、糖尿病で治療を受けている、
トータル14464名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は1日100mgのアスピリンを使用し、
もう一方は使用をしないで、
6.5年の経過観察を行い、
その間のアスピリンの使用の有無による、
心血管疾患のリスクを比較検証します。
内訳はアスピリン群が7220例で、
アスピリン未使用群が7244例です。
本来は偽薬を使用するのが適切ですが、
この研究では使用はしていないので、
患者さんにはアスピリンの使用の有無は明らかにされています。
一般臨床の片手間でも可能であることを優先させているので、
止むを得ないことではあるのですが、
とても残念には思います。
その結果はアスピリン群の有効性が、
当初の目標に達しないことが中間解析で明確であったので、
観察期間の中間値が5.02年の時点で終了となりました。
その結果では、
メインの指標とされた、
心血管疾患による死亡と、
非致死性の脳卒中と心筋梗塞とを併せたリスクには、
アスピリン使用群と未使用群とで、
有意な差は認められませんでした。
観察期間中の死亡事例は、
両群とも56例と同一でした。
非致死性の虚血性梗塞は、
アスピリン群で83例、未使用群で94例、
脳内出血はアスピリン群で23例に対して未使用群で10例、
クモ膜下出血はアスピリン群で8例に対して未使用群で4例、
心筋梗塞はアスピリン群で20例に対して未使用群では38例でした。
入院を要するような消化管など脳以外の出血は、
アスピリン群で0.86%に当たる62例発症したのに対して、
未使用群では0.51%に当たる34例に発症していて、
アスピリンの使用によりこうした重篤な出血のリスクは、
85%増加していました。
この結果は基本的には、
アメリカのガイドラインの元になったデータと、
傾向としては一致しています。
トータルには有意な差が出ていないのですが、
心筋梗塞などに限って見れば、
アスピリンによる一次予防効果は認められています。
ただ、日本人では心筋梗塞が少なく、脳梗塞が多いので、
トータルにはその差が出にくくなるのと、
重症の出血は欧米のデータでは0.1%程度であるものが、
単純比較は出来ませんが0.86%という高率で発症しています。
海外データの解析でも、
アスピリンの一次予防効果は、
40から50代で開始した場合に最も高く、
高齢になるほど低くなりますから、
60歳以上での一次予防効果を見たこの試験のデザインは、
今から見るとやや疑問に感じます。
つい最近上記研究の研究グループは、
70歳以上の年齢層でHDLコレステロールが低値の群でサブ解析すると、
心血管疾患のリスクが有意に低下していた、
という結果を学会報告していますが、
統計のマジックのような感じがして、
トータルにはそうした方向性も疑問に感じます。
むしろもう少し若い年齢層で、
検証することが必要ではないでしょうか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました
下記書籍予約受付中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ちょっと古いのですが、
2014年のJAMA誌の論文で、
日本の一般臨床において、
低用量アスピリンの心血管疾患の一次予防の効果を見たものです。
これはつい最近この研究のサブ解析の結果が医療ニュースになっていて、
それを読んで、
そう言えばこの論文は取り上げていなかったのではないかしら、
と思ったので再読してみたものです。
アスピリンは非ステロイド系の消炎鎮痛剤の一種ですが、
80から100mgくらいの少量で継続的に用いた時に、
抗血小板作用を持ち、
心血管疾患の予防や一部の癌(腺癌)の予防に、
その有用性が確立されています。
脳卒中や心筋梗塞の予防として、
一度そうした病気を起こした人の、
再発予防としての有効性は確立されています。
これを二次予防と言います。
これは国内外で特に違いはありません。
一方でまだ病気を起こしてはいないけれど、
そのリスクが高い人に使用する、
いわゆる一次予防の有効性は、
二次予防よりその差が出にくいということもあって、
必ずしも明確ではありません。
以前ご紹介した今年のアメリカの最新の指針としては、
一定のリスクのある人にアスピリンを10年以上継続して使用した場合、
心筋梗塞のリスクを17%、
脳卒中のリスクを14%、
大腸癌のリスクを40%、
それぞれ低下させる効果があり、
その一方で重症の消化管出血のリスクは58%、
出血性梗塞のリスクは27%増加するので、
リスクのある40から50代の成人の使用には一定のメリットが、
生命予後を含めてあるけれど、
70歳以上ではその効果はあまり期待出来ない、
という結論になっています。
ここで問題となるのは、
アスピリンの有効性には人種差があるのかどうか、
ということです。
心血管疾患の予防という観点から考えると、
日本人は脳卒中が多いのに対して、
欧米では心筋梗塞が多いという病気のリスクの差があり、
また脳梗塞における出血の合併も、
日本人では多いという差もあります。
上記の論文はそのアスピリンの一次予防を、
一般臨床において多数例で検証した、
ほぼ唯一の臨床データです。
医師会系の学術団体である日本臨床内科医会が中心となり、
年齢が60から85歳で、
高血圧、脂質異常症、糖尿病で治療を受けている、
トータル14464名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は1日100mgのアスピリンを使用し、
もう一方は使用をしないで、
6.5年の経過観察を行い、
その間のアスピリンの使用の有無による、
心血管疾患のリスクを比較検証します。
内訳はアスピリン群が7220例で、
アスピリン未使用群が7244例です。
本来は偽薬を使用するのが適切ですが、
この研究では使用はしていないので、
患者さんにはアスピリンの使用の有無は明らかにされています。
一般臨床の片手間でも可能であることを優先させているので、
止むを得ないことではあるのですが、
とても残念には思います。
その結果はアスピリン群の有効性が、
当初の目標に達しないことが中間解析で明確であったので、
観察期間の中間値が5.02年の時点で終了となりました。
その結果では、
メインの指標とされた、
心血管疾患による死亡と、
非致死性の脳卒中と心筋梗塞とを併せたリスクには、
アスピリン使用群と未使用群とで、
有意な差は認められませんでした。
観察期間中の死亡事例は、
両群とも56例と同一でした。
非致死性の虚血性梗塞は、
アスピリン群で83例、未使用群で94例、
脳内出血はアスピリン群で23例に対して未使用群で10例、
クモ膜下出血はアスピリン群で8例に対して未使用群で4例、
心筋梗塞はアスピリン群で20例に対して未使用群では38例でした。
入院を要するような消化管など脳以外の出血は、
アスピリン群で0.86%に当たる62例発症したのに対して、
未使用群では0.51%に当たる34例に発症していて、
アスピリンの使用によりこうした重篤な出血のリスクは、
85%増加していました。
この結果は基本的には、
アメリカのガイドラインの元になったデータと、
傾向としては一致しています。
トータルには有意な差が出ていないのですが、
心筋梗塞などに限って見れば、
アスピリンによる一次予防効果は認められています。
ただ、日本人では心筋梗塞が少なく、脳梗塞が多いので、
トータルにはその差が出にくくなるのと、
重症の出血は欧米のデータでは0.1%程度であるものが、
単純比較は出来ませんが0.86%という高率で発症しています。
海外データの解析でも、
アスピリンの一次予防効果は、
40から50代で開始した場合に最も高く、
高齢になるほど低くなりますから、
60歳以上での一次予防効果を見たこの試験のデザインは、
今から見るとやや疑問に感じます。
つい最近上記研究の研究グループは、
70歳以上の年齢層でHDLコレステロールが低値の群でサブ解析すると、
心血管疾患のリスクが有意に低下していた、
という結果を学会報告していますが、
統計のマジックのような感じがして、
トータルにはそうした方向性も疑問に感じます。
むしろもう少し若い年齢層で、
検証することが必要ではないでしょうか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました
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よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2016-10-18 07:44
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