腎機能低下に対するワルファリンの効果と安全性(2016年のメタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のChest誌に掲載された、
腎機能低下の患者さんに対する、
脳卒中予防のワルファリンの効果とリスクについての論文です。
心房細動という不整脈があると、
心臓内に血栓が出来易くなり、
そのため脳梗塞(脳塞栓)のリスクが増加します。
そのため、血液を固まり難くする、
抗凝固剤と呼ばれる薬剤が、
脳梗塞や他の血栓症の予防のために使用されます。
最も広く使用されていて、
データの蓄積もあるのがワルファリンで、
最近では新規抗凝固剤という複数の薬剤も発売され使用されています。
新規抗凝固剤はワルファリンのように、
納豆を食べられないなどの生活の制限が少なく、
最近ではその使用が拡大していますが、
その効果についてはワルファリンより優れているとは言えず、
その安全性についてもまだ未知数の部分を残しています。
その使用において、
問題となるのは患者さんが腎機能低下のある場合です。
腎機能が低下すると心房細動の頻度が増加し、
脳梗塞などのリスクもより増加します。
しかし、その一方で出血のリスクも増加することが知られています。
従って、
血栓症の予防のためには、
より抗凝固剤の必要性は増すのですが、
その有害事象である出血のリスクも増加するので、
その使用が患者さんにとって本当にメリットがあるかどうかは、
より慎重な判断が必要になるのです。
ワルファリンは、
心房細動の患者さんに対して、
その使用により脳梗塞のリスクを、
約60%減少させ、
その死亡リスクも約30%低下させる効果が、
確認されています。
ただ、これは進行した腎機能低下や、
透析の患者さんは除外した臨床試験によるものです。
(この場合の進行した腎機能低下というのは、
クレアチニン・クリアランスが15mL/分未満を概ね基準にしています)
腎不全の患者さんに対して、
同様の効果があるという根拠はないのです。
その一方でワルファリン以外の新規抗凝固剤は、
進行した腎機能低下では禁忌になっているので、
現実的には進行した腎機能低下の患者さんに対しては、
ワルファリンを使用するか、
それとも何も使用しないかの、
2つの選択肢しかないのです。
それではワルファリンの使用の効果と安全性は、
実際にはどうなのでしょうか?
これについては介入試験などは行われたことがなく、
観察研究しかないのですが、
その結果は研究により一定していません。
そこで今回の研究では、
これまでに発表された観察研究をまとめて解析して、
現時点における腎機能低下時のワルファリンの効果と安全性とを、
検証しています。
全体で11600人を超えるワルファリン使用者のデータを、
まとめて解析した結果として、
透析には至らない進行した腎機能低下の患者さんに対して、
ワルファリンを使用すると、
脳塞栓などの血栓症のリスクは、
30%有意に低下し、
死亡リスクも35%有意に低下していましたが、
その一方で出血系の重篤な合併症のリスクには、
有意な上昇は認められませんでした。
しかし、透析が必要な末期腎不全では、
血栓症のリスクは有意な低下を示さず、
死亡リスクにも有意な低下はなく、
出血系の重篤な合併症のリスクは、
1.3倍有意に増加していました。
今回の検討では、
ワルファリンを高度の腎機能低下を伴う、
心房細動の患者さんに使用することは、
有用性が高いと考えられますが、
透析が必要な患者さんにおいては、
その使用にはメリットがない、
という結果になっています。
ただ、血栓症の予防効果は、
高度の腎機能低下時においては、
通常より低いものと想定した方が良さそうです。
この問題はまだ解決しているとは言えませんし、
データによっては、
もっと出血系の合併症のリスクは高く見積もられ、
その効果は透析に至らない腎機能低下においても、
確認出来ないというものもあるので、
患者さんの病態に合わせ、
出血リスクが高いケースでは、
より慎重にその適応を考えることが、
必要なのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のChest誌に掲載された、
腎機能低下の患者さんに対する、
脳卒中予防のワルファリンの効果とリスクについての論文です。
心房細動という不整脈があると、
心臓内に血栓が出来易くなり、
そのため脳梗塞(脳塞栓)のリスクが増加します。
そのため、血液を固まり難くする、
抗凝固剤と呼ばれる薬剤が、
脳梗塞や他の血栓症の予防のために使用されます。
最も広く使用されていて、
データの蓄積もあるのがワルファリンで、
最近では新規抗凝固剤という複数の薬剤も発売され使用されています。
新規抗凝固剤はワルファリンのように、
納豆を食べられないなどの生活の制限が少なく、
最近ではその使用が拡大していますが、
その効果についてはワルファリンより優れているとは言えず、
その安全性についてもまだ未知数の部分を残しています。
その使用において、
問題となるのは患者さんが腎機能低下のある場合です。
腎機能が低下すると心房細動の頻度が増加し、
脳梗塞などのリスクもより増加します。
しかし、その一方で出血のリスクも増加することが知られています。
従って、
血栓症の予防のためには、
より抗凝固剤の必要性は増すのですが、
その有害事象である出血のリスクも増加するので、
その使用が患者さんにとって本当にメリットがあるかどうかは、
より慎重な判断が必要になるのです。
ワルファリンは、
心房細動の患者さんに対して、
その使用により脳梗塞のリスクを、
約60%減少させ、
その死亡リスクも約30%低下させる効果が、
確認されています。
ただ、これは進行した腎機能低下や、
透析の患者さんは除外した臨床試験によるものです。
(この場合の進行した腎機能低下というのは、
クレアチニン・クリアランスが15mL/分未満を概ね基準にしています)
腎不全の患者さんに対して、
同様の効果があるという根拠はないのです。
その一方でワルファリン以外の新規抗凝固剤は、
進行した腎機能低下では禁忌になっているので、
現実的には進行した腎機能低下の患者さんに対しては、
ワルファリンを使用するか、
それとも何も使用しないかの、
2つの選択肢しかないのです。
それではワルファリンの使用の効果と安全性は、
実際にはどうなのでしょうか?
これについては介入試験などは行われたことがなく、
観察研究しかないのですが、
その結果は研究により一定していません。
そこで今回の研究では、
これまでに発表された観察研究をまとめて解析して、
現時点における腎機能低下時のワルファリンの効果と安全性とを、
検証しています。
全体で11600人を超えるワルファリン使用者のデータを、
まとめて解析した結果として、
透析には至らない進行した腎機能低下の患者さんに対して、
ワルファリンを使用すると、
脳塞栓などの血栓症のリスクは、
30%有意に低下し、
死亡リスクも35%有意に低下していましたが、
その一方で出血系の重篤な合併症のリスクには、
有意な上昇は認められませんでした。
しかし、透析が必要な末期腎不全では、
血栓症のリスクは有意な低下を示さず、
死亡リスクにも有意な低下はなく、
出血系の重篤な合併症のリスクは、
1.3倍有意に増加していました。
今回の検討では、
ワルファリンを高度の腎機能低下を伴う、
心房細動の患者さんに使用することは、
有用性が高いと考えられますが、
透析が必要な患者さんにおいては、
その使用にはメリットがない、
という結果になっています。
ただ、血栓症の予防効果は、
高度の腎機能低下時においては、
通常より低いものと想定した方が良さそうです。
この問題はまだ解決しているとは言えませんし、
データによっては、
もっと出血系の合併症のリスクは高く見積もられ、
その効果は透析に至らない腎機能低下においても、
確認出来ないというものもあるので、
患者さんの病態に合わせ、
出血リスクが高いケースでは、
より慎重にその適応を考えることが、
必要なのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2016-05-10 07:30
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ワーファリンを服薬し始めてから5年経過しました。心房細動は一過性1年経過して慢性化しました。かかりつけ医で2か月に1回採血しINR値にもとずいて投与を受けていますが、これまで1.6の時も2.4の時も1日2㍉の処方で、知人などは毎月の検査で2㍉のとき、1.5㍉、1.75㍉と変動されていますが、私の場合は終始2㍉で未だかって服用量は変わったことがありません。先日、それを伺ったら「こっちはプロだから」とのこと、いかなる薬も副作用があると認識しておりますので、出血や血栓が気になります。
by AF冠者 (2016-05-10 08:33)
AF冠者さんへ
医者によっても色々と流儀があり、
微調整をする人と、
割とざっくりと見て判断する人があるのだと思います。
どちらが良いとは一概には言えません。
個人的にはあまり微調整も、
意味は薄いようには思います。
by fujiki (2016-05-11 07:53)