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「ルーム」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
診療は午前中は石田医師が担当し、
午後は石原が担当します。

午前中には健康教室を予定しています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ルーム.jpg
アイルランド出身の作家エマ・ドナヒューによるベストセラー小説を、
同じアイルランド出身のレニー・アブラハムソンが監督し、
若手女優のブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞に輝いた、
話題の映画「ルーム」が今公開されています。

公開から間もない時期に観て来ました。

これは非常に繊細で感覚的な作品で、
なかなか感銘を受けました。

勿論母親役のブリー・ラーソンも良いのですが、
その5歳の息子を繊細かつ説得力のある演技で堂々と演じた、
子役のジェイコブ・トレンブレイが圧倒的な見事さで、
女の子にも見えるという、
原作のイメージそのままです。

原作も「部屋」という題名の翻訳を読んだのですが、
訳文が非常に読みにくく、かなり苦労して読了しました。

原作は全て5歳の少年の視点で描かれていて、
文章もわざとたどたどしく、
ブロークンイングリッシュで書かれているという代物です。
それが一部分だけならいいのですが、
全編がそんな調子なので、
はっきり言えば、翻訳は不可能なタイプの小説だと思います。

訳文はそれなりに工夫されているのですが、
スペルの間違いのギャグを、
日本語のギャグに変えて訳したりしているので、
読んでいてかなり白けてしまいますし、
不必要に読みにくくてイライラします。

作者としては、同じアイルランドの文豪、
ジェイムズ・ジョイスを意識したのかも知れません。
子供の意識の流れを、
全編子供の文法で描く、という試みなのです。

ですから、
個人的には翻訳小説としてはあまり評価は出来ず、
この作品に関しては、
原文を読解出来る英語力のある方以外は、
原作を先に読むのではなく、
映画を観ればそれで充分のように感じました。

以下少しネタバレがあります。

ハイティーンの少女が男に誘拐されて監禁され、
監禁された生活の中で男の子供を2人妊娠します。
最初の子供は女の子で死産となり、
2人目の子供は男の子で、
母となった少女は監禁された部屋の中で、
たった1人でそのジャックという息子を5年間育てます。

物語の前半はその監禁された母と子の、
たった1つの部屋の中での、
奇妙な生活が描かれます。

そして、子供に死んだふりをさせての脱出劇から、
後半は外の世界で、
世間の誤解や心理的な葛藤と戦いながら、
真の意味で2人が「部屋」の呪縛から解放されるまでを描きます。

主人公の女性は、
監禁されるという極限の状況の中で、
監禁した相手の男の子供を生むのですが、
部屋の中では処女懐胎のような気持ちでいて、
子供の親は自分1人という幻想の中で生きることが出来たのです。
それが、外の世界に出ることにより、
その幻想のままでは生きられなくなります。

息子のジャックも、
性別のない世界で生きることを強いられて、
自分が男の子であるのか女の子であるのかも理解していません。

闇の中から広い世界に出ることで、
そうした自分達の抱えた矛盾を、
突きつけられた親子が、
そこから本当の意味で解放されるまでの経過が、
非常に繊細に描かれていて、静かな感動を呼びます。

この難しい素材に正攻法で取り組んだスタッフワークが見事で、
もっとお涙頂戴の物語にも出来るところを、
決してそうはしていない真摯な姿勢には共感が持てます。

原作はもう少し性的な要素が描かれ、
子供ももっと普通でない部分を多分に持っているのですが、
その辺りはかなり綺麗事で処理している感じはあります。
ただ、映画としてはそれで正解であったように思います。

正直、あまりに淡々と展開して、
山場に乏しいのでしんどい感じもあるのですが、
演出、台本、演技、映像表現の全てにおいて、
非常に高密度で高品質の映画であることは間違いがなく、
良質の映画としては推奨したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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