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妊娠中の女性に対するインフルエンザワクチンの効果と安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
新型インフルエンザワクチンと妊娠.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
インフルエンザワクチンの妊娠中の接種による、
胎児とお母さんへの効果と安全性についての論文です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」の流行時期には、
ご妊娠中の方の感染予防をどうするべきか、
ということが、
日本のみならず海外においても、
大きな問題になりました。

これまでのインフルエンザの疫学データより、
ご妊娠中のお母さんがインフルエンザに感染すると、
胎児の死亡のリスクが高まることから、
たとえ妊娠中であっても、
安定期であればワクチンの接種を行なうのが、
適切な対応であるとされています。

しかし、
ワクチン接種後それほど時間の経たない時期の、
接種者の死亡の事例などが世界的に報告され、
安全性の危惧も議論を呼びました。

今回のデータは、
国民総背番号制を取るノルウェーのもので、
ノルウェーにおいては、
妊娠の第2四半期と第3四半期における、
新型インフルエンザ単独ワクチンの接種が、
推奨され施行されました。
接種されたワクチンは、
殆どがグラクソ社製の免疫増強剤を含むワクチンです。

今回のデータは、
ノルウェーで2009年~2010年に出産された、
117347例の妊娠女性を対象とした非常に大規模なものです。

このうち妊娠の第2及び第3四半期の女性の、
54%がグラクソ社製の新型インフルエンザ単独ワクチンを、
1回もしくは2回接種しました。

ワクチンの接種群と未接種群とを比較すると、
このシーズン中に医療機関でインフルエンザと診断されるリスクは、
未接種群と比較して、
接種群では相対リスクで有意に70%低下していました。

この診断は医療の記録の病名を元にしているので、
遺伝子診断を含む確定診断の成されたものもあり、
そうでない臨床診断のみのものも含まれています。

それでも、
かなり著明な感染予防効果であったことは、
お分かり頂けるかと思います。

インフルエンザに妊娠中に罹患すると、
胎児死亡率は相対リスクで1.91倍に上昇しましたが、
ワクチンの接種によるそのリスクの低下については、
その傾向はあるものの、
統計的に有意なものではありませんでした。

つまり、
新型インフルエンザのシーズンに限って言えば、
妊娠中の安定期のワクチン接種は、
インフルエンザの感染を7割減らす効果があり、
その感染により胎児の死亡リスクがほぼ2倍になることから考えて、
一定の胎児死亡のリスク軽減効果も、
期待出来そうだ、
ということにになります。

ただし、
これは新型インフルエンザのパンデミックに限った話です。

先日の記事でも触れましたように、
ワクチンの感染予防効果は、
ワクチン株と実際の流行株とのマッチングにより、
かなりの差があり、
新型インフルエンザの時には、
そのシーズンに間に合わせて、
流行株のワクチンを作ったので、
非常に高い効果が期待出来たのですが、
通常のシーズンでは、
むしろ流行株とは一定の差があるのが普通なので、
ワクチンの効果はより限定的なものになり、
こうしたクリアな結果は、
おそらくは得られないと思います。

つまり、
現在のインフルエンザワクチンの効果は、
何らかの形で流行株とワクチン株とを、
しっかり流行前にマッチングさせるような工夫がないと、
一種のギャンブルのような性質を、
持つものになる、
ということです。

最近の上記の文献のような、
ワクチンの効果を検証した論文の多くが、
2009年の新型インフルエンザワクチンを対象にしているのは、
効果が実証し易いから、
という側面もあるのです。

インフルエンザワクチンの株の選定は、
もう少し正確なものにならないと、
自信を持って効果がある、
と言えるものにはならないように思います。

最後にグラクソのワクチンに関しては、
ナルコレプシーの発症を増やすのでは、
というようなデータがあるなど、
幾つかの問題点が指摘されたことも、
触れて置きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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