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インフル予防接種の効果は2割、を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

本日の午後の診療は、
石原が認知症サポート医の講習会に出席のため、
代診になります。
この講習会は土日に掛けてしかやらないので、
休診か代診にするしかないのです。
ご迷惑をお掛けしますが、
ご了承下さい。
なるべく午前中の受診をお願いします。

それでは今日の話題です。

インフルエンザの流行が続いていますが、
診療所ではピークは過ぎたかな、
という感じです。
A香港型が主体ですが、
B型もちほら見られるようになりました。
傾向としては、
B型はそれほど熱が上がらず、
それでいて経過は長く、
全身症状はなかなか抜けない印象があります。

最近インフルエンザ絡みで、
こんな見出しの記事がありました。
インフル予防接種の効果は2割「今年は特に効きにくい」と医師

これは見出しを読むと、
今年のインフルエンザワクチンの効果は、
2割しかなく、
今年は特に効きにくい、
という内容に思います。

つまり、
インフルエンザワクチンの今シーズンの接種は、
あまり役には立たない可能性が高い、
というように読めます。

しかし、
今はまだインフルエンザのシーズン中ですから、
それでどのようにして、
今シーズンのインフルエンザワクチンの効果を、
評価することが出来たのだろうか、
という点は疑問に思います。

通常臨床的な評価は、
シーズンが終了しないと、
データもまとめられないからです。

それで、
今A香港型のインフルエンザが流行していますから、
臨床をされている先生の感触として、
今年はワクチンを接種していても感染する患者さんの数が、
例年より多い、
というような印象を述べられて、
それを記事にした可能性や、
地域の保健所等では、
ワクチンのウイルス株に対する抗体の反応と、
実際のウイルスに対する反応の差を、
感染の傾向として調べていますから、
そのデータで、
例年よりその差が開いている、
という報告があるのかな、
というようにも思いました。
差が開いているということは要するに、
ワクチンの効かないウイルスである可能性が、
大きなものになるからです。

そう思って記事を読むと、
全く題名とは異なる内容が書かれていることに驚きます。

インフルエンザワクチンの効果が2割、
というのは、
日本臨床内科医会が出した、
2010年~2011年のシーズンにおいての話で、
今シーズンの話ではありません。

ご存じの方も多いように、
インフルエンザウイルスは、
次々と変異を繰り返すので、
同じ抗原のタイプのウイルスであっても、
ワクチンの効果には違いが生じることがあるのです。

2009年は言わずとしれた「新型インフルエンザ」のシーズンで、
この時の新型インフルエンザワクチンの有効率は、
同じ計算では7割近いという、
非常に良好なものだったのですが、
その後2シーズンの季節性インフルエンザワクチンの効果は、
芳しいものではなく、
2010年~2011年が2割というのは事実ですし、
2011年~2012年は更に悪く、
計算上は殆ど有効性が認められていません。

その反省を踏まえて、
今シーズンはA香港型を、
昨年の流行株に改めて、
ワクチンが製造されたのです。

従って、
今シーズンに関しては、
ここ2年間と比較すれば、
流行しているのはA香港型で、
それを入れ替えたのですから、
マッチングは少なくとも、
昨シーズンのような悲惨な結果にはならない、
という想定が出来るのです。

そして、
記事を読むと、
その想定に矛盾するような発言は、
誰もされてはいないのですが、
幾つかの発言を強引に重ね合わせて、
「今年のワクチンは効果がない」
というイメージを、
強引に結論付けています。

その手法は、
コメントを寄せている、
日本臨床内科医会の先生と、
もう1人の開業医の先生の発言とを、
バラバラにして繋ぎ合わせることにより、
意図する意見に読者の気分を誘導するもので、
比較的よく見られるトリッキーな手口です。

まあ、
いつもこんな感じですね。

こうした記事の分析をしたところで、
あまり建設的な意味はないのですが、
お読みになった方は、
有効率2割というデータはどういうものなのだろう、
という点に疑問を持たれたのではないかと思いますので、
その点をご説明します。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザワクチンの有効率の図.jpg

これは日本臨床内科医会インフルエンザ研究会編による、
インフルエンザ診療マニュアル(第7版)の18ページにある図です。

日本の先生の書かれたものを引用すると、
お叱りを受けることがあるので、
普段はしないのですが、
上記のネット記事においては、
日本臨床内科医会の先生が発言をされているのに、
それが誤った結論に結び付けられているので、
元のデータをお示しして、
誤解を解きたいという趣旨から、
引用することにしました。

ただ、
もし支障がありましたら、
許可を取っているものではないので、
削除したいと思います。

これが各シーズンでのワクチンの有効率を、
グラフ化したものです。

ワクチンの有効率とは何かと言うと、
シーズン前にワクチンを接種した方と、
接種していない方とを、
多数エントリーしておいて、
シーズン終了後に、
その中でインフルエンザに罹患した方の比率を計算し、
そこから、
ワクチンを打つことによって抑制された発症人数を、
比率で表わしているものです。

従って、
有効率が2割というのは、
ワクチン未接種で発症した、
10人のインフルエンザの患者さんが、
仮にワクチンを打っていれば、
8人に減らせていた、
という意味です。

所謂新型インフルエンザの流行期に、
ワクチンの有効性が9割を超える、
というような報道がありましたが、
そうした数値はあくまでワクチン接種後の抗体の上昇が、
一定の基準に達した比率を見ているものなので、
実際に感染を予防したという、
有効率とは別物なのです。
極端に言えば、
抗体の上昇は100%基準を満たしているのに、
実際の有効率は2割、
ということも有り得ます。

これは全年齢層をそのまま加算したもので、
インフルエンザの診断は、
臨床で普及している、
インフルエンザの迅速診断キットで判断しています。
また、
本来は厳密に行なうには、
ワクチンの接種の有無もくじ引きで決めるべきなのですが、
そうではなく、
接種は本人の希望により行なわれています。

見て頂くと分かるように、
シーズンによってその有効率にはかなりの幅があります。

最近では新型インフルエンザの2009年のワクチンは、
非常に有効率が高かったのですが、
それ以外のシーズンは、
概ね良い結果ではありません。

ただ、
ワクチン接種が急激に増えた、
2000年代の前半は非常にワクチンの有効率が高く、
新しいワクチンであった、
新型インフルエンザの単独ワクチンの効果も、
高かったという事実からは、
インフルエンザワクチンというものの、
ある種の特徴が、
見えて来るような気がします。

個人的な見解としては、
閉じた集団で大多数の成員が接種した場合には、
その集団での感染防御には、
インフルエンザワクチンは間違いなく有効性があるのですが、
ワクチン接種者がさほど多くはない、
開かれた集団では、
その効果はそれほど高いものではなく、
接種していていても感染する時は感染します。

僕の関わっている老人ホームでは、
ワクチン接種を施行し始めて、
数年の間はシーズンに一度は、
入所者の複数にインフルエンザが蔓延する事態がありましたが、
3年後以降からはそうしたことはなくなり、
シーズンにポツリポツリと感染者が出ることはあっても、
それが全体に拡大するようなことはありません。

つまり、
そうした効果はワクチンには確実にあるのです。

しかし、
学校や会社など、
一般のもっと開かれた集団においては、
流行の初期には、
ワクチン未接種者を中心に感染が広がるのですが、
その感染者が一定の比率を超えると、
ワクチンを接種している方にも、
今度は感染するようになるのです。

つまり、
シーズン全体をトータルに解析して、
有効率を計算すると、
それは2割程度であっても、
流行の初期には100%に近い効果があるのです。
逆に流行のピークには、
有効率は2割より更に低いかも知れません。

現行のインフルエンザワクチンの効果とは、
そうしたものではないのか、
というのが僕の考えで、
個々の社会の成員が、
感染を拡大しないようにする努力、
閉じた集団を個々に形成する努力をすれば、
よりワクチンの効果は高まるのです。

2009年の新型インフルエンザの時期の、
ワクチンの有効性の高さは、
勿論同一のシーズンに間に合わせて、
実際に流行している株のワクチンを造ったのですから、
当然とも言えるのですが、
決してワクチンそのものの有効性ばかりではなく、
皆さん1人1人の防災意識の高さが、
ワクチンの効果を高めたように、
僕には思えます。

インフルエンザワクチンは、
集団予防効果はありますが、
個人の予防には限定的な効果しかないワクチンで、
そのためその有用性を高めるには、
個人レベルの感染予防の心掛けが、
不可欠のように思います。

こうした特性と限界とを理解した上で、
この程度の効果のワクチンなら止めてしまえ、
という意見もあり、
より個人予防の効果もあるような、
免疫増強剤を付加したワクチンや、
生ワクチンなども開発され、
ウイルスの変異により影響を受け難い、
所謂「万能ワクチン」の研究もされている訳ですが、
個人的にはワクチンというのは、
この程度の効果の方が、
予期せぬ有害事象のようなリスクは少なく、
この程度でコスト的に見合うものなのか、
という疑問は残りますが、
個人の防災意識の向上と合わせて、
「賢く」使用するのが肝要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

オレンジ

保育園に子どもが入園して以降、
やはり集団生活ですので、
インフルエンザの予防接種を毎年受けています。
毎年家族全員接種するのですが、
今まで1度も感染したことがないので、
確率の低い夫婦2人は今年はやめて子どものみ接種しました。

さて、ワクチンについて気になっていることがあります。
ワクチンの防腐剤に水銀が添加されており、
それが自閉症発症と関係あるのではないか?
と言われていることです。

上記の理由でワクチンを打つべきではない、
という意見もあります。

先生のお考えをぜひお聞きしたいと思います。
お時間がございましたらよろしくお願いいたします。
by オレンジ (2013-02-05 11:36) 

川田

私の経験上、まずワクチン接種者から必ずと言っていいほどインフルエンザが発症し、その後々未接種者が感染していくという構図が毎年です。子供達の幼稚園でも学校でも、クラスの誰が1番早くかかったという情報は確実に耳に入りますが、これまでの確率でいうと100パーセントワクチン接種者が発端です。
先生のおっしゃられる"ワクチン未接種者からインフルエンザが広がる"という見解の元のデータはどこにあるのですか?教えてください。
by 川田 (2016-03-04 23:48) 

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