アメリカ甲状腺学会の福島原発事故へのコメントについて [科学検証]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アメリカ甲状腺学会の学会誌に、
今年の春掲載された、
福島原発事故後の、
ヨード剤の使用についての解説です。
原発事故のような放射性物質の大量流出を伴う災害では、
放射性物質の被ばくの予防のために、
ヨード剤を使用することが、
特にチェルノブイリの原発事故後に、
世界的に推奨されるようになりました。
放射性ヨードは、
原発事故の初期に放出される放射性物質で、
その量の多さと共に、
半減期が短いため、
より人体にダメージを与え易いという点が、
大きな問題になります。
実際、
現在までに今回の福島の原発事故によって、
最も多くの被ばくを受けた方は、
原発の作業員でその被ばく量は670.4ミリシーベルトですが、
その主体は吸入の内部被曝で、
放射性ヨードが主であったと考えられています。
放射性ヨードの被ばくは、
ヨードが甲状腺に集まり易いという性質から、
より低線量でも、
特に小児の甲状腺癌を誘発することが、
チェルノブイリの知見から、
ほぼ明らかになっています。
そのために、
特に18歳以下の方と、
妊娠中の女性及び授乳中の方に対して、
放射性ヨードの被ばくが予想される時に、
ヨード剤を比較的大量に飲み、
放射性ヨードの甲状腺への取り込みをブロックしよう、
という発想が生まれ、
チェルノブイリの事故の時点から、
実際にその施行が行われています。
ところが…
今回の福島原発事故においては、
ヨード剤の配布は、
実際には殆ど行われませんでした。
使用の基準は、
空間線量の予測値から、
甲状腺の吸収線量が1歳のお子さんで、
100ミリシーベルトを超える場合、
と日本の場合規定されていました。
表向きの理由としては、
こうした線量に達するような被ばくは想定されなかったので、
配布は行なわなかった、
ということになります。
しかし、
実際の使用のゴーサインは出ないにしても、
これはあくまで治療ではなく予防の措置なのですから、
僅かでも被ばくの可能性があるとすれば、
配布自体は行なうか、
配布の準備は行なって、
必要な時には速やかに配布されるような、
態勢は必要だった筈です。
それがなされなかったということは、
今回の事故対応における、
大きな問題の1つです。
上記の解説によると、
今回の原発事故において、
アメリカの甲状腺の専門家の危惧したことは、
もっと広い範囲の住民に、
早期にヨード剤を配布するべきではなかったのか、
ということと、
特に妊娠中の女性と授乳中の女性に関しては、
そのお子さんと共に、
一時的な原発周辺からの退避の勧告を、
出すべきではなかったのか、
ということです。
多くの方はご存じはないと思いますが、
昨年の3月29日の時点で、
アメリカ甲状腺学会は声明を出していて、
これは東京の水道水からも、
放射性ヨード131が検出された、
というニュースがあり、
それを受けて妊娠中及び授乳をされている女性に対して、
放射性ヨードは母乳で濃縮するので、
極力安全性が確認されるまでは、
水道水を使用しないことが望ましいということと、
可能であれば一時的な退避が、
望ましい旨を勧告しています。
これはヨード剤による予防は、
胎児や新生児への安全性を考えると、
妊娠中の方や授乳中の方へは、
1回の使用の留めるべきだとされているからです。
ただし、
その時点での汚染の程度は低く、
そのまま水道水を利用したとしても、
現時点では心配には及ばず、
学会として現時点での日本政府の対応を、
適切なものとして支持する、
というフォローも付け加えられています。
またその中では、
ミルクに水道水を使用した場合、
新生児の甲状腺の被ばく量が、
最大で東京でも9ミリグレイに達する可能性がある、
という試算をしています。
この時点で、
アメリカは日本に住む自国民には、
ヨード剤を配布していて、
イギリスやフランスも同様の対応を取り、
矢張り広範囲の住民に、
日本もヨード剤を配布するべきである、
という勧告もしていました。
上記のアメリカ甲状腺学会の論説によると、
福島原発後1年が経過した時点で、
甲状腺の被ばくとその予防としてのヨード剤の使用について、
幾つかの問題点が浮上している、
と書かれています。
まず、
今回トータルに考えると、
放射性ヨード単独による周辺住民の被ばく量は、
それほど高いものではなく、
ヨード剤の予防的な使用は、
多くの住民には必要はなかった可能性が高いのですが、
それは日本の牛乳の摂取量が、
ヨーロッパほどは多くなく、
季節的に家畜を放牧するということが少なく、
汚染地域以外の食物を手に入れることが、
比較的容易かったなど、
多くの要因が重なったためで、
今回の事例から、
ヨード剤の使用は必要ない、
と考えるのは危険ではないか、
と指摘されています。
海外の研究者から見ると、
今回の事例は、
「敢えてヨード剤を使用しなかった」場合に、
どのようなことが起こるのかの、
テストケースにような意味合いを持って感じられた、
ということのようです。
もう1つはヨード剤をどのように配布し、
配布を準備する範囲を、
どのように設定するのか、
という問題です。
アメリカにおいては、
原発から半径20マイル(32キロ)を、
1つの基準として設定しています。
つまり、
この範囲の自治体は原則として、
住民へのヨード剤の備蓄を行ない、
地域によっては事前に配布を行なうのです。
しかし、
アメリカ甲状腺学会はこれでは不充分との立場で、
原発周辺50マイル(80キロ)圏内の配布を、
提案しています。
現実に今回の福島の事例においても、
20マイルが避難の1つの指標にされましたが、
水素爆発後の風向きによって、
それより遠方にも放射性物質の降下の多い地域が存在したことは、
皆さんもご存じの通りです。
従って、
アメリカ甲状腺学会の提唱する範囲も、
今回のことを考えると、
妥当な面があるのです。
勿論こうした災害が2度とあってはならないと思いますが、
世界には多くの原発が存在して、
今も建設が続けられており、
仮に日本の原発が全て廃炉になっても、
世界の原発がすぐになくなる訳ではありません。
計画通りなら、
むしろどんどん増えてゆくのです。
今回の事例の教訓が、
日本の外において、
冷静に分析されていることは、
今後こうした事故を起こさないために、
かつまた適正な予防や対策が取られるために、
非常に重要なことだと思いますし、
上記の論説には毎日新聞の英語版が引用されていますが、
日本の情報はそのようにして活用されているのですから、
客観的で冷静な情報の発信が、
何よりも重要なのではないかと思うのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アメリカ甲状腺学会の学会誌に、
今年の春掲載された、
福島原発事故後の、
ヨード剤の使用についての解説です。
原発事故のような放射性物質の大量流出を伴う災害では、
放射性物質の被ばくの予防のために、
ヨード剤を使用することが、
特にチェルノブイリの原発事故後に、
世界的に推奨されるようになりました。
放射性ヨードは、
原発事故の初期に放出される放射性物質で、
その量の多さと共に、
半減期が短いため、
より人体にダメージを与え易いという点が、
大きな問題になります。
実際、
現在までに今回の福島の原発事故によって、
最も多くの被ばくを受けた方は、
原発の作業員でその被ばく量は670.4ミリシーベルトですが、
その主体は吸入の内部被曝で、
放射性ヨードが主であったと考えられています。
放射性ヨードの被ばくは、
ヨードが甲状腺に集まり易いという性質から、
より低線量でも、
特に小児の甲状腺癌を誘発することが、
チェルノブイリの知見から、
ほぼ明らかになっています。
そのために、
特に18歳以下の方と、
妊娠中の女性及び授乳中の方に対して、
放射性ヨードの被ばくが予想される時に、
ヨード剤を比較的大量に飲み、
放射性ヨードの甲状腺への取り込みをブロックしよう、
という発想が生まれ、
チェルノブイリの事故の時点から、
実際にその施行が行われています。
ところが…
今回の福島原発事故においては、
ヨード剤の配布は、
実際には殆ど行われませんでした。
使用の基準は、
空間線量の予測値から、
甲状腺の吸収線量が1歳のお子さんで、
100ミリシーベルトを超える場合、
と日本の場合規定されていました。
表向きの理由としては、
こうした線量に達するような被ばくは想定されなかったので、
配布は行なわなかった、
ということになります。
しかし、
実際の使用のゴーサインは出ないにしても、
これはあくまで治療ではなく予防の措置なのですから、
僅かでも被ばくの可能性があるとすれば、
配布自体は行なうか、
配布の準備は行なって、
必要な時には速やかに配布されるような、
態勢は必要だった筈です。
それがなされなかったということは、
今回の事故対応における、
大きな問題の1つです。
上記の解説によると、
今回の原発事故において、
アメリカの甲状腺の専門家の危惧したことは、
もっと広い範囲の住民に、
早期にヨード剤を配布するべきではなかったのか、
ということと、
特に妊娠中の女性と授乳中の女性に関しては、
そのお子さんと共に、
一時的な原発周辺からの退避の勧告を、
出すべきではなかったのか、
ということです。
多くの方はご存じはないと思いますが、
昨年の3月29日の時点で、
アメリカ甲状腺学会は声明を出していて、
これは東京の水道水からも、
放射性ヨード131が検出された、
というニュースがあり、
それを受けて妊娠中及び授乳をされている女性に対して、
放射性ヨードは母乳で濃縮するので、
極力安全性が確認されるまでは、
水道水を使用しないことが望ましいということと、
可能であれば一時的な退避が、
望ましい旨を勧告しています。
これはヨード剤による予防は、
胎児や新生児への安全性を考えると、
妊娠中の方や授乳中の方へは、
1回の使用の留めるべきだとされているからです。
ただし、
その時点での汚染の程度は低く、
そのまま水道水を利用したとしても、
現時点では心配には及ばず、
学会として現時点での日本政府の対応を、
適切なものとして支持する、
というフォローも付け加えられています。
またその中では、
ミルクに水道水を使用した場合、
新生児の甲状腺の被ばく量が、
最大で東京でも9ミリグレイに達する可能性がある、
という試算をしています。
この時点で、
アメリカは日本に住む自国民には、
ヨード剤を配布していて、
イギリスやフランスも同様の対応を取り、
矢張り広範囲の住民に、
日本もヨード剤を配布するべきである、
という勧告もしていました。
上記のアメリカ甲状腺学会の論説によると、
福島原発後1年が経過した時点で、
甲状腺の被ばくとその予防としてのヨード剤の使用について、
幾つかの問題点が浮上している、
と書かれています。
まず、
今回トータルに考えると、
放射性ヨード単独による周辺住民の被ばく量は、
それほど高いものではなく、
ヨード剤の予防的な使用は、
多くの住民には必要はなかった可能性が高いのですが、
それは日本の牛乳の摂取量が、
ヨーロッパほどは多くなく、
季節的に家畜を放牧するということが少なく、
汚染地域以外の食物を手に入れることが、
比較的容易かったなど、
多くの要因が重なったためで、
今回の事例から、
ヨード剤の使用は必要ない、
と考えるのは危険ではないか、
と指摘されています。
海外の研究者から見ると、
今回の事例は、
「敢えてヨード剤を使用しなかった」場合に、
どのようなことが起こるのかの、
テストケースにような意味合いを持って感じられた、
ということのようです。
もう1つはヨード剤をどのように配布し、
配布を準備する範囲を、
どのように設定するのか、
という問題です。
アメリカにおいては、
原発から半径20マイル(32キロ)を、
1つの基準として設定しています。
つまり、
この範囲の自治体は原則として、
住民へのヨード剤の備蓄を行ない、
地域によっては事前に配布を行なうのです。
しかし、
アメリカ甲状腺学会はこれでは不充分との立場で、
原発周辺50マイル(80キロ)圏内の配布を、
提案しています。
現実に今回の福島の事例においても、
20マイルが避難の1つの指標にされましたが、
水素爆発後の風向きによって、
それより遠方にも放射性物質の降下の多い地域が存在したことは、
皆さんもご存じの通りです。
従って、
アメリカ甲状腺学会の提唱する範囲も、
今回のことを考えると、
妥当な面があるのです。
勿論こうした災害が2度とあってはならないと思いますが、
世界には多くの原発が存在して、
今も建設が続けられており、
仮に日本の原発が全て廃炉になっても、
世界の原発がすぐになくなる訳ではありません。
計画通りなら、
むしろどんどん増えてゆくのです。
今回の事例の教訓が、
日本の外において、
冷静に分析されていることは、
今後こうした事故を起こさないために、
かつまた適正な予防や対策が取られるために、
非常に重要なことだと思いますし、
上記の論説には毎日新聞の英語版が引用されていますが、
日本の情報はそのようにして活用されているのですから、
客観的で冷静な情報の発信が、
何よりも重要なのではないかと思うのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-08-09 07:55
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コメント(5)
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東京在住の2児の母です。
3.11の際は出産直前の妊婦でした。
政府の「ペットボトルの水は赤ちゃんのために」の言葉を信じて、ペットボトルは生まれてくる赤ちゃんのために必要な分だけ少しずつ買い、当時5歳の子どもと妊婦の私も水道水を飲用や調理に利用していました。
出産から数ヵ月後に東京にも及ぶ放射能汚染について知り、放射性ヨウ素を含む水道水を家族で摂取していたことは正しい判断だったのだろうかと思っています。今となっては後の祭りですが、「乳児を持つ家庭のために」という思いやりが自分の家族に病気のリスクを増やしてしまったのではないかという後悔があります。誕生した赤ちゃんについてはペットボトルの水を使用しました。
by オレンジ (2012-09-19 14:27)
オレンジさんへ
色々なことが言われましたが、
基本的には、
今公表されている汚染の程度が事実とすれば、
問題になった期間は短期間ですし、
影響は少なくとも甲状腺に関しては、
軽微なものと考えます。
お母さんのご判断は、
決して誤りではなかったのだと思います。
色々とこれも議論のあるところですが、
甲状腺の超音波検査に関しては、
お母さんのご安心のための今後の評価のために、
施行することは無意味とは僕は思いません。
by fujiki (2012-09-19 22:45)
先生の過去記事を拝読いたしました。水道水からのヨウ素の体内への取り込みの影響(甲状腺癌)については致命的ではなかったようだと推察しております。
甲状腺の検査につきましては、超音波とともに血液検査もあるようですが両方受けたほうがよろしいでしょうか。
超音波検査につきましては、学会(?)から「結節やのう胞の大きさや数など放射能汚染に関することは言うな」というお達しが出ているので信頼できないというような話をよく聞きます。超音波検査を受ける場合は、どこでもよいというわけではなく信頼できる病院を探さなければならないようです。(隠蔽されたという人がいる一方で、きちんと説明を受けたという人もいます。)
内部被曝量の検査につきましては、尿・爪などについても勉強しましたが、血液検査・超音波検査が最も信頼できると感じています。家族全員(0歳、7歳、夫婦)受けようと思いますのでお手数をおかけしますがご助言をお願いいたします。
by オレンジ (2012-09-20 14:41)
オレンジさんへ
僕の見解としては、
可能であれば超音波検査と血液検査は、
セットで考えて頂いた方が良いと思います。
ただ、小さなお子さんでは、
採血もリスクがある処置ですので、
まず超音波検査のみをして、
それで所見のあった時に、
血液検査を追加するという方針が、
現実的のように考えます。
慎重に行なえば、
血液検査で問題のあるような甲状腺の機能異常があるかどうかは、
超音波検査のみである程度判断は可能と思います。
by fujiki (2012-09-22 22:45)
ご助言、ありがとうございました。
by オレンジ (2012-09-24 15:48)