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コレステロール低下療法の長期効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から書類など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リピトールの長期効果.jpg
英国の医学誌Lancet誌の先月号に掲載された、
コレステロール低下療法の、
長期予後についての論文です。

コレステロールを下げる治療については、
色々な意見があります。
心筋梗塞などの動脈硬化による心臓病に対して、
そのリスクの高い人に対する、
予防効果のあることは、
ほぼ間違いがありません。

ただ、その効果は、
多くの研究において、
一般的に言われる「正常範囲」より、
かなり下のレベルまで、
コレステロールを低下させないと、
明確な形では証明されません。

スタチンと呼ばれる、
強力な効果を持つ脂質低下剤が開発され、
それが活用されることによって、
その効果は確認されることになりました。

メバロチン、リポバス、リピトール、クレストールなどが、
そのスタチンの代表で、
多くの薬は既にジェネリックも発売されています。

皆さんの中にも、
そうした薬をお飲みになっている方が、
沢山いらっしゃるのではないかと思います。

しかし、コレステロールは、
身体には必要不可欠な脂質でもあります。
それを血液中で通常の正常値以下に、
人工的に下げ続けることで、
何か身体に対する悪影響はないのでしょうか?

コレステロールが低いということは、
身体が一種の低栄養状態になっている、
ということです。

低栄養になることで、
免疫力が低下し、
動脈硬化の進行自体は抑えられても、
長期的には他の病気、
たとえば癌などが増加する、
という可能性はないのでしょうか?

実際、コレステロールの低い人では死亡率が高かったり、
癌の発症率が高い、
という疫学データが存在します。

しかし、これは別にスタチンでコレステロールを下げた人の、
死亡率や癌の発症率が、
高かった、という意味ではありません。

コレステロールが低いということは、
薬を飲まない状態として考えれば、
低栄養状態であることを示しています。
癌があり進行していれば、
当然低栄養状態でもあるのですから、
そうした方の死亡率が高いことも、
想定出来る結論です。

つまり、
これは低栄養状態を見ているだけの、
可能性があるのです。

しかし、
スタチンを長期間飲んでいる患者さんで、
同じようなことが起こらないとも言い切れません。

これは多くのスタチンを飲んでいる患者さんにとって、
重要な問題です。

HPS(Heart Protection Study)と呼ばれる大規模臨床試験があります。

これは心臓疾患のリスクの高いと思われる患者さん、
トータルで約2万人をほぼ1万人ずつ、
2つの群にくじ引きで割り付け、
一方にはスタチンのシンバスタチン(商品名リポバスなど)を、
1日40mgという高用量を使用し、
もう一方は偽薬を使用します。
量の調節をするのではなく、
最初から高用量を開始し、
継続する訳で、
ある意味かなり乱暴な臨床試験です。

そのため、
多くの患者さんではコレステロールは、
正常範囲より低下しています。

観察期間は平均5年間です。

その結果、スタチン使用群では、
偽薬に対して総死亡が17%有意に低下し、
心筋梗塞などの死亡も18%有意に低下しました。
心臓死以外の死亡には、
両群で明らかな差はありませんでした。

つまり、5年間という観察期間においては、
スタチンの効果と安全性とが、
共に確認されたのです。

しかし、より長期間の安全性についてはどうでしょうか?

その疑問に答えようとしたのが、
今回ご紹介する論文です。

今お話したHPSという臨床試験の患者さんを、
観察期間終了後も、
6年間の追跡調査を行ないました。
多くの患者さんがそのままリポバスを継続したため、
実際には11年という長期間の、
リポバスの安全性が検証されたのです。

その結果…

コレステロールの低下作用は11年間に渡って持続し、
癌死亡を含めた心疾患以外の死亡も、
スタチンの使用により、
有意な増加は示しませんでした。

つまり、糖尿病がある、血圧が高いなど、
心疾患のリスクが高い方では、
リポバスによりコレステロールを低下させることにより、
心疾患の発作による死亡のリスクを、
2割程度減少させることが期待出来、
現状11年間の使用により、
癌のリスクの上昇などの、
薬による有害な影響は、
ない可能性が高い、
という結果でした。

ただし、
この結果はイギリスでの研究で、
それがそのまま日本人でも当て嵌まるものであるかは、
確定的なものではありませんし、
血糖値の上昇のリスクや、
横紋筋融解症など、
直接死亡率の増加には関連性が薄くとも、
薬による有害な事象も存在することも事実です。

スタチンは内科の治療において、
最も強力な武器の1つだと思います。
その利点と欠点とを検証した上で、
患者さんに最も有用な選択肢を提供することが、
実地の診療をする末端の医者の1人として、
重要な作業だと信じて、
日々の診療に当たりたいと思っています。

今日はスタチン治療の長期予後についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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