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「慢性硬膜下血腫」のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は高齢者に多い病気の1つである、
「慢性硬膜下血腫」の話です。

まず、1つの事例をお示しします。

Aさんは80代の女性です。
高度の認知症があり、
施設に入所されています。
飲まれているのは高血圧の薬だけです。

ある時期から、徘徊の最中に片側に身体が傾き、
転ぶことが多くなりました。
その症状は強い時と弱い時があります。

それで、脳の病気を疑い、
ある病院の脳神経外科に紹介しました。
診察を受け、脳のCT を撮りました。

結果は脳の萎縮はあるものの、
問題はないので様子を見るように、
ということでした。

ところが、それから1ヵ月ほどして、
Aさんは昼間も寝ているような状態となり、
ぼんやりとして、食事も取らなくなりました。
それで再度、病院を受診。
今度はMRIを撮影して、
診断が確定しました。
この事例のものではありませんが、
同じ病気のMRIの画像をここでお示しします。

赤い矢印の先にあるのが、
血液の塊です。
脳の外側に血の塊が出来、
それが脳を圧迫して、
症状を出していたのです。

これが「慢性硬膜下血腫」です。

Aさんは即日入院し、
頭蓋骨に小さな穴を開けて、
そこから血を吸い出す手術を受けました。

これによって症状は劇的に改善し、
お元気になられました。

「慢性硬膜下血腫」は、
高齢者に多い病気です。
60歳以上では、
人口10万人当たり、5人程度の発症率との、
報告がありますが、
実際には診断されない例もかなりあると思われ、
潜在的な患者さんの数は、
多分その統計の数倍はあると考えられます。

脳の表面には、クモ膜という膜があり、
その更に外側には硬膜という膜があります。
その2つの膜の間には、
何かどろどろとした物質で満たされた空間があります。

年齢と共に、脳が萎縮すると、
クモ膜は下方に引っ張られるような形となり、
2つの膜の間にずれが生じやすくなります。
脳から出てくる静脈は、
その2つの膜の間を貫通する訳ですが、
それが引っ張られることで、
負荷が掛かると、
ちょっとした衝撃でも、
切れやすい状態になるのです。

ここで、激しくはなくとも頭をぶつけるような衝撃があると、
細い静脈が切れて、
小さな出血が起こります。

これが「慢性硬膜下血腫」のきっかけとなります。
小さい出血は止まりますが、
そこに傷を残します。

すると、血を固める働きと、その血を再び溶かす働きとが、
互いに強い状態が、
慢性に繰り返されます。
それが新しい出血を誘発し、
徐々に血の塊は大きくなって、
脳を圧迫して症状を出すのです。

これが現時点での、
「慢性硬膜下血腫」のメカニズムの仮説です。

MRIを撮れば、
ほぼ診断は確定しますが、
CTのみだと診断を誤ることがあります。
急性の出血は、
CTでは白く映るので、
間違いようがないのですが、
この場合はじわじわと出血が進行するので、
脳と同じくらいの濃度に映ることがあり、
また髄液と同じように見えることもあって、
ただの脳萎縮と、
間違えられることがあるのです。

特に認知症の進行した方では、
検査中に動いてしまったりされて、
条件の良い画像が撮れず、
診断の付かないケースもあります。
上の事例のAさんも、
最初に受診した時点で血の塊はあったのですが、
CTのみの検査だったので、
単なる脳萎縮として、
出血を見落とされてしまったのです。

治療は手術が原則で、
通常局所麻酔でも可能な、
「穿頭血腫洗浄術」が広く行なわれています。
要するに穴を開け、
血を吸い出してしまうのです。
ガソリンのような色の血液が、
出て来ると言われています。

血を吸い出すだけなので、
当然再発するケースもあるのですが
その率は10パーセント以下と、
意外に低率です。
再発を繰り返す場合には、
頭蓋骨を大きく切って開く、
開頭手術が必要となるケースもあります。

それでは今日はこのくらいで。

明日はまた別の角度から、
この病気の話題を取り上げます。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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