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KERA CROSS第五弾「骨と軽蔑」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
骨と軽蔑.jpg
ケラさんの新作がKERACROSSの第五弾として、
今シアタークリエで上演されています。

20世紀初頭くらいの設定で、
ヨーロッパ辺りの架空の内戦中の国が舞台となっています。
キャストはいずれも手練れの女性俳優陣7人のみで、
休憩を入れて前半と後半に分かれた、
3時間くらいのお芝居になっています。

ケラさんのお芝居はとても広いジャンルに渡り、
その独特の間合いやテンポ感、
非常に長い、という共通の特徴はありますが、
演劇そのものを俯瞰するかのような、
広大な領域で作品を残しています。

僕はナイロン100℃の旗揚げから観ていますが、
正直こんな風になるとは想像も出来ませんでした。
同世代のあこがれであり、
演劇界の巨人であることは間違いがありません。

今回の作品はケラさんとしては観易い部類で、
分かり難いところはあまりありません。

設定はベリズモオペラに近い感じで、
偽の手紙のやりとりや、
舞台には登場しない男性が、
敵と味方の国で寝返ることで、
女性の運命が一変する辺りなどは、
オペラの定番の設定と言って良い感じです。

作品の本質はかなり重く、
戦争の絶えない現代を意識していますし、
ラストはかなり踏み込んだものになっています。
伝えたいことをストレートに出した、
という感じがケラさんとしては珍しいと思います。
戦争に加担しているという側面がありながら、
戦争には無関心な主人公達の姿は、
「平和ボケ」と揶揄される私達の戯画と思われますが、
それを決して完全否定しているのではなく、
「平和ボケ」の良さも悪さと同時に描写している辺りに、
ケラさんらしさを感じました。

ケラさんの舞台に馴染みのない観客も多いことを意識して、
犬山イヌコさんに「日比谷の皆さん」と、
呼び掛ける場面を用意し、
観客の心理を解き解す趣向が巧みで、
後は次々と登場する手練れの女優さんの競演を、
心ゆくまで楽しむことが出来ました。

屋内と屋外を組み合わせた舞台セットや、
得意の音響やプロジェクションマッピングを組み合わせた演出など、
舞台効果のクオリティも非常に高く、
東京で現在望みうる、
最高水準の舞台に仕上がっていたと思います。

唯一物足りなかったのは小池栄子さんの扱いで、
充分主役を張れる大女優に成長しているのに、
最近の舞台では、
勿体ない役柄に甘んじていることが多く、
今回もそうであったことは少し残念でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)のメカニズム [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サンダーストームアズマ.jpg
JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、
ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、
喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。

これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。

喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、
特定の気象変化に伴って、
喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。

それが非常に注目されたのは、
2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、
雷雨の後30時間以内に、
急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、
という事例が報告されたからです。

これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。

これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、
このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、
これも通常の救急受診率の992%という、
異常な増加でした。
35名の患者が集中治療室管理となり、
10名の患者が亡くなっています。

それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?

こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、
それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf

主にブタクサなどのイネ科の花粉が、
飛散し易い状態になっている時期に、
ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、
その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、
その急激な濃度上昇が、
喘息発作の原因になると想定されています。

花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、
飛散量の多いシーズンでは、
普段は花粉症にならない人でも、
症状の出ることがしばしばありますが、
それと同様の現象と考えられるのです。

それ以外に雷の電荷の影響により、
花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、
という仮説がそれ以前から提唱されていますが、
この2001年の論文ではその可能性には否定的です。

2023年には中国で同様の現象の報道があり、
日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、
天候変化にともなって、
喘息などの症状が悪化することは、
花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、
今後その関連については、
臨床医の経験的印象のようなものではなく、
より科学的な検証が必要なように思います。

メルボルンの事例においては、
救急に多くの患者が押し寄せてパンク状態となり、
その対応が大きな課題として指摘されています。
ゲリラ豪雨のような現象の予測はなかなか困難で、
花粉の潜在的な飛散量との関連も、
現時点では推測の域を出ませんが、
新型コロナの流行期にも問題となったように、
救急患者が急増した時の短期的な対応をどうするべきかは、
より具体的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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食物アレルギーに対するオマリズマブの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゾレアの食物アレルギーへの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月25日付で掲載された、
食物アレルギーに対する生物学的製剤の治療の有効性についての論文です。

食物アレルギーは、
特定の成分を含む食品を食べた時に、
アレルギー反応を起こす病気で、
軽ければ口の周りが少し赤くなったり、
かゆみが出たりする程度の場合もありますし、
アナフィラキシーと言って、
血圧低下などを伴う重篤な全身的な症状が出ることもあります。
その反応の強さは、
摂取する量によって違いがあり、
食べる量が多いほど症状も強くなります。
そして、重症のアレルギーがあるほど、
ごく少量の摂取でも重い症状が出るのです。

食物アレルギーの治療は、
その成分を除去することが、
長くスタンダードな治療として行われて来ました。

卵のアレルギーがある場合には、
卵を一切食べないという治療です。

ただ、患者さんによっては多くの食品に、
アレルギー反応を示す場合もあり、
全ての食品を除去することは、
栄養的にも困難なケースがあります。
また、食事は人生の楽しみでもありますから、
ある食品を一生食べられないというのは、
かなりの犠牲を強いることでもあります。

何か良い治療法は他にないのでしょうか?

最近施行されている方法の1つが、
経口免疫療法と呼ばれる方法です。

これは原因となる成分を、
極微量から摂取することを開始して、
徐々にその量を増やしてゆく、
という治療法です。
まず、どのくらいの量で症状が出現するのかを、
負荷試験によって確認しておいて、
それより少ない量から摂取を開始するのです。

この方法を持続することによって、
徐々にアレルギーに対する耐性が獲得され、
少しの量なら食べても問題ない状態に、
改善する事例が少なからずあることが、
多くの研究によって確認されています。

最もその有効性が確認されているのは、
ピーナツアレルギーで、
それ以外にも牛乳や卵など、
多くのアレルゲンで同様の試みが行われ、
一定の効果が報告されています。

ただ、これで充分かと言うと、そうは言えません。

食物アレルギーの原因である食品を、
敢えて負荷するのですから、
当然体調不良やアナフィラキシーなどのリスクがあります。
治療は長期間を要しますし、
効果には個人差があって、
その食品が食べられるようになるという保証はありません。
特に複数の成分に対してのアレルギーがあると、
その1つ1つに対して同じことをするのですから、
かなりストレスの掛かる治療でもあります。

それでは、他に何か良い治療はないのでしょうか?

即時型の食物アレルギーでは、
その反応を媒介する物質の主体はIgEという、
免疫グロブリンです。

その成分に対する特定のIgEが増加していて、
それが反応を起こしているのです。

それであるなら、そのIgEを除去してしまえば、
反応は起こらなくなる理屈です。

IgEに結合する抗体を薬にした、
生物学的製剤が既に開発され、
重症の気管支喘息や蕁麻疹、花粉症などの、
アレルギー症状の改善に使用されています。

その代表がオマリズマブ(ゾレア)という注射薬です。

ただ、この薬を食物アレルギーに使用した場合の有効性と安全性とは、
まだ確立されていません。

そこで今回の臨床研究では、
年齢が1から55歳で、
100㎎以下の負荷で症状の出現するピーナツアレルギーを持ち、
それ以外に卵や牛乳など2種類以上のアレルギー(300㎎以下の負荷で症状出現)を、
併発している食物アレルギー患者、
トータル180名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は抗IgE抗体であるオマリズマブを、
2から4週毎に皮下注射することを繰り返し、
もう一方は偽の注射を同じように施行して、
16から24週の治療を継続。
その後にもう一度経口負荷試験を施行して、
その結果を治療前と比較しています。
解析は1から17歳の177名が最終的には対象となっています。

その結果、
ピーナツ蛋白に対する経口負荷試験で、
治療後に600㎎を負荷しても無症状であった比率は、
偽薬では59例中7%に当たる4名であったのに対して、
オマリズマブ治療群では118名中67%に当たる79名で、
オマリズマブの治療により、
食物アレルギーへの耐性が一定レベル獲得されているのが分かります。

ピーナツ以外のアレルギーについてみると、
治療後に1000㎎を負荷しても症状が出なくなっていたのは、
カシューナッツが偽薬群3%に対して治療群41%、
牛乳が偽薬群10%に対して治療群66%、
卵が偽薬群0%に対して68%、
となっていました。

つまり、複数の原因による食物アレルギーであっても、
オマリズマブの治療を継続することにより、
原因食品に対する耐性が獲得され、
一定の有効性があることが確認されました。

ただ、より長い治療期間(40から44週)の検討では、
有効性が維持されたり、より改善した事例があった一方で、
全体の21%においては効果が減弱していました。

従って、治療効果は永続的なものではない可能性もあるのです。

現在今回発表された報告と並行して、
経口免疫療法とオマリズマブの治療を併用する試みも行われていて、
それにより経口免疫療法がより安全に、
より効果的に施行可能となる可能性があり、
今後のデータの開示に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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仕事中の座位時間と健康リスク(台湾の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
座位時間と心血管疾患リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年1月19日付で掲載された、
仕事中の座位時間と健康リスクについての論文です。

1日のうち座っている時間が長いと、
動脈硬化関連の病気や糖尿病などのリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることは、
最近健康管理において注目されている知見の1つです。

その代表的な初期の知見の1つは、
オーストラリアで22万人以上の一般住民を対象としたものですが、
1日のうち11時間を超えて座っていると、
4時間未満しか座っていない場合と比較して、
総死亡のリスクが40%増加した、
という結果になっています。
このデータのポイントは、
1日の運動時間とは無関係にそうした関連が認められた、
ということで、
座っている時間が長いこと自体が、
それ以外の生活パターンとは独立して、
健康リスクになっているという点が重要なのです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22450936/

問題は仕事をしている世代では、
仕事の内容によって座っている時間がほぼ固定されてしまう、
という事実にあります。

たとえば、電話対応が主体の仕事では、
7時間以上座りっぱなし、というようなケースもあり得ますし、
仕事によってはより長い時間、
座っていることを強いられる、
というような状況もありそうです。
私は外来を主体の診療を仕事としているので、
結果としてかなりの時間は座ったままで仕事をしています。

仮に座っているだけで健康リスクとなるのであれば、
そうした仕事に従事していて病気になれば、
それは労災ということにもなりかねません。

企業の経営者は、
労働者を長く座らせない義務がある、
ということも言えなくはないと考えると、
この問題が社会に与える影響は実は非常に大きい、
と考えることが出来ます。

ただ、ここで注意が必要なことは、
座位時間と健康リスクを検証した多くの研究において、
仕事中の座位時間と、
仕事以外の座位時間には区別がないということです。

そこで今回の研究は台湾において、
大規模な疫学調査のデータを活用し、
仕事中の座位時間と健康リスクとの関連を解析しています。

対象は平均年齢39.3歳の481688名で、
平均の観察期間は12.85年です。
性別などの因子を補正した結果として、
殆どの時間座って仕事をしている人は、
殆ど座って仕事をすることがない人と比較して、
総死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.11から1.20)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.34倍(95%CI:1.22から1.46)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で座る時間とそれ以外の時間を繰り返して仕事をしている人では、
総死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。
また仕事中の座位時間が長く、運動習慣もない人が、
1日15から30分の運動習慣を身に着けると、
座位時間は変化していなくても、
総死亡リスクの増加は認められないことも確認されました。

このように、今回のデータからは、
仕事中の座時時間の長さは健康リスクに繋がり、
ずっと座りっぱなしではない仕事環境に移行することにより、
その改善が可能であることが示唆されました。

こうした知見は研究によってかなり差があり、
1つの結果のみで「座りっぱなしの仕事は駄目」、
と決めつけることは危険ですが、
今後座位時間が長いことを強いるような業務が、
制限される可能性もあり、
かなり社会に与えるインパクトの大きな知見であることは間違いがないので、
今後の推移を慎重にフォローしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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横山拓也「う蝕」(瀬戸山美咲演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
う蝕.jpg
横山拓也さんの書き下ろし戯曲を、
瀬戸山美咲さんが演出した舞台が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。

これは架空の島が「う蝕」という原因不明の災害(?)に見舞われ、
多くの島民が犠牲になった後に、
遺体の身元を確認するために歯科医師が島を訪れる、
という設定で、
殆ど生きている者のいない孤島を舞台に展開される物語ですが、
如何にも小劇場的な仕掛けによって、
災害によって失われた命に対する生者の鎮魂と責任という、
「今」を強く感じさせるテーマを掘り下げた力作で、
鋭い刃物のような切れ味のある戯曲も素晴らしいですし、
瀬戸山さんの小劇場的なコントラストの明確な演出も良く、
男性のみのキャストの芝居も、
ベテランから若手までバランスの取れた見応えのあるものでした。

「不条理劇」という表現が紹介文に使われていますが、
前衛演劇ではあっても、不条理演劇ではないと思います。
昔の劇団300などで使われていた、
小劇場演劇の1つのパターンを使っていて、
イキウメの初期の「関数ドミノ」を初演した辺りくらいの、
技巧的な作品の肌触りに近い感じもあります。
こういう作品が個人的には大好物なので、
いいな、いいな、と心の中で反芻しながら、
後半はじっくりと観ることが出来ました。

これ、3幕劇なのですが、
2幕で一旦時制が戻るんですね。
3幕劇というより、能の構成に近くて、
前場と後場があって、
その間に間狂言が挟まれている感じなのです。
多分能は意識はされているんですね。
何故時制が戻るのかと2幕を観ている時は不思議に感じるのですが、
それが3幕で鮮やかに意味を持つことが分かるのです。
極めて巧緻な構成だと思います。

瀬戸山さんの演出が良いですよね。
最初に折り紙のような舞台が開くところ、
アングラ的でワクワクしますよね。
あんなことやらなくてもいいのですが、
敢えてやるところに小劇場の心意気みたいなものを感じます。
鈴の音のような音に意味を持たせたり、
舞台の凹凸がまた極めて巧みに活かされていました。

キャストは皆好演でしたが、
特に坂東龍汰さんの熱演が印象的で、
正名僕臓さんと相島一之さんのベテランが、
要所を綺麗に閉める、
とても良い仕事をしていたと思います。

総じて如何にも小劇場演劇らしい、
仕掛けと企みに満ちながら、
深いメッセージ性も秘めた力作で、
是非是非劇場で体感して頂きたいと思います。

ただ、仕掛けのある作品で、
最初から結構緊張と集中を強いる感じがあるので、
寝不足だと佳境に入る前に寝落ちする可能性もあります。
せっかくの力作がそれではとても残念なので、
是非万全の体調で観劇して頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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