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脂肪肝に対する低用量アスピリンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの脂肪肝改善効果.jpg
JAMA誌に2024年3月19日付で掲載された、
脂肪肝に対する低用量アスピリンの有効性についての論文です。

肝機能障害が命に関わるのは、
肝硬変や肝臓癌になった場合で、
その原因としてはB型肝炎やC型肝炎による慢性肝炎や、
アルコール性肝障害が知られています。
ただ、近年それ以外で注目されているのが、
アルコールを飲まないのに脂肪肝や脂肪肝炎を発症し、
中には肝硬変に至り肝臓癌を合併する事例もある、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。

NAFLDのうち、
肝臓の組織に通常の脂肪肝とは別個の所見を持ち、
進行性で肝硬変などのリスクの高い脂肪肝炎の状態を、
特にNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼んでいます。

通常NAFLDは肝細胞への脂肪の沈着で始まり、
長い月日を掛けて、
肝臓の炎症と線維化とが進行して、
その一部がNASHの状態に至ると考えられています。

そのメカニズムは内臓脂肪の増加と関連していますから、
当然肥満や糖尿病とも関連の深い病態です。

従って、NAFLDのある人は、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクも高くなっています。

つまり、NAFLDはメタボの1つの現れ、というように、
考えることも出来るのです。

ここまでは、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患を、
お酒を飲むかどうかで分類するという視点でした。

より最近になって、
新たに「代謝異常関連脂肪性肝疾患」
という概念が提唱されているようになりました。
英語ではMetabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease、
これを略してMASLDです。

MASLDは今度は飲酒の有無には関わらず、
糖尿病や高血圧、肥満など、
メタボに関わる代謝異常があって、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患がある状態を指している言葉です。

NAFLDの中でも、
肝硬変に至るような事例と、
そうではない事例とがあり、
代謝性疾患やメタボを合併している時に、
重症化のリスクが高いことから、
こうした概念が提唱されたのです。

それぞれ理屈や理由はあるのですが、
コロコロと新しい言葉が次々と出て来て、
分類も変化してしまうので、
かなりややこしいという感じはあります。

さて、NAFLDにもMASLDにも、
現時点で確実に有効性が確認された治療はありません。

低用量のアスピリンは、
動脈硬化に伴う病気の再発などのリスクを、
抑制する効果が確認され、
広く使用されている薬剤です。

この低用量アスピリンの主要な作用は、
血栓の形成などに重要な役割を持っている、
血小板の作用を抑制することですが、
実は肝臓の細胞の炎症や線維化の進行においても、
血小板が重要な働きを持っていることが報告されています。
そのため、低用量アスピリンを使用することで、
脂肪肝炎の進行が抑制される可能性が注目されているのです。

今回の研究はアメリカにおいて、
肝硬変までは進行していないMASLDと診断された患者、
トータル80名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを継続して使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
半年間の治療後の肝脂肪量の低下の有無を、
MRIを用いた定量法により比較検証しているものです。

その結果、
半年の治療後の肝脂肪量は、
偽薬群では3.6%増加していたのに対して、
アスピリン使用群では6.6%減少していて、
アスピリンは偽薬と比較して、
肝脂肪量を10.2%(95%CI:-66.7から-2.6)有意に低下させていました。

これはまだ試験的な結果に過ぎませんが、
古くから使用されている安価な薬剤が、
脂肪肝炎の進行予防にも有効な可能性がある、
という結果は非常に興味深く、
今後より多数例でより厳密な方法での再検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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へアトリートメントの薬剤による急性腎障害の事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
グリオキシル酸と腎障害.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月21日付で掲載された、
ヘアトリートメントに使用する薬剤による、
急性腎障害の事例についての報告です。

事例は26歳のチュニジア人の女性ですが、
ヘアサロンで酸熱トリートメントと言われている、
グリオキシル酸という成分を含むトリートメント剤を使用した、
くせ毛矯正の施術を行ったところ、
時期の違う3回の施術のいずれにおいても、
その後に嘔吐や下痢、発熱、背部痛などの症状が起こり、
腎機能の指標である血液のクレアチニンの数値が、
正常範囲から1.5から2.0mg/dLまで急上昇し、
その後速やかに正常に復しました。

このことは、トリートメント剤に含まれる何らかの成分が、
髪や皮膚から吸収されて、
急性の腎障害を引き起こした可能性を示唆しています。

それを検証する目的でネズミの皮膚にトリートメント剤を塗り、
その後の経過を検証したところ、
塗布後28時間で血液中のクレアチニンは上昇し、
3DCTの画像において、
シュウ酸カルシウムの著明な沈着が、
腎臓全体に認められました。

つまり、皮膚から吸収されたグリオキシル酸が、
肝臓で代謝されてシュウ酸カルシウムとなり、
腎臓に沈着して急性の腎障害を来したことが、
動物実験でほぼ実証されたのです。

髪のトリートメント剤は、
髪をコーティングするのみの働きで、
全身的な影響は与えないと考えがちですが、
実際にはその成分の一部は髪や頭皮から吸収され、
急性の腎障害を来すリスクが存在しているようです。

上記レターの著者は、
トリートメント目的のグリオキシル酸は使用するべきではない、
と警鐘を鳴らしており、
今後の早急な対応に注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐十郎「鐵假面」(劇団唐ゼミ☆第31回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
鉄仮面.jpg
唐ゼミの久しぶりの野外公演として、
唐先生が1972年に上演した代表作の1つ「鐵假面」が、
上演されました。

この作品は勿論実際の状況劇場の舞台は観ていませんが、
戯曲は大学時代に何度も何度も読んで、
リライトして映像作品の台本を書き、
一時は真面目に撮影を考えて準備をしていたので、
かなり思い入れのある作品です。

中野敦之さんは唐先生の芝居を、
一番熟知している演出家の1人だと思います。
特に原作の戯曲を殆ど一語一句変えることなく上演してくれるので、
とても刺激的で個人的にはとても信頼をしています。

今回もこの作品に2つの結末があることを初めて知りました。
おそらく初演で上演された結末は、
唐先生演じる味代が殺されるというものですが、
今回の上演では最初に刊行された戯曲の通り、
スイ子さんが刺されるという結末が採用されています。

唐ゼミは以前にも「鐵假面」を上演していますが、
その時には観ていませんでした。
従って、中野版「鐵假面」を観るのは今回が初めてです。

感想としては、
原作をとても大切に上演しているという感じで、
その点はとても良かったのですが、
役者の力量にかなり凹凸があって、
唐先生の台詞を、
想定された生き生きとした台詞回しと迫力とで、
伝えてくれた役者さんは少数であったのが、
少し残念ではありました。

また、これは意図的なものだと思うのですが、
場面の切り替わるタイミングで、
ちょっとリアクションするような間を取ってから、
音効が入って切り替わると言う感じになっていて、
それがどうもテンポを悪くしているように感じました。

唐先生の作品は、
かなり強引に現実と幻想が切り替わったり、
笑いの場面とシリアスな場面が切り替わるのですが、
それをかなり過剰に思える音効のカットインと、
照明の大胆な切り替えで可能にしているんですね。
あのテンポ感は独特のもので、
僕も大学時代に唐先生のお芝居を上演したことが、
何度かあるのですが、
普通のお芝居のように、そのままの流れで台詞を言うと、
唐突な展開でブツ切れのような感じになり、
とても成立しないんですね。

勿論「鐵假面」の初演の時に、
既にそうした演出であったかどうかは、
分かり様はないのですが、
今普通に聞くことの出来る音源で最も古い、
「唐版風の又三郎」の初演の録音を聞くと、
既にそうした演出がされていることが分かります。

今回の上演ではおそらく敢えて、
そうした音効の入れ方やテンポ感を、
採用しない演出がされているのですが、
結果としては難しいな、というように感じました。
唐先生特有の台詞をまくしたてることろがあるでしょ。
そこがどうしても浮いた感じになってしまうんですね。
後半の裁判のところで、
ヒロインが劇中歌を2曲歌って、
その間に台詞が挟まるところがあるんですね。
これはもう唐芝居の抜群の聴き所なのですが、
それを普通のお芝居でやってしまっているので、
何か弾まなくなっているんですね。
また特にこの「鐵假面」は、
即興劇的な展開、
街中の公衆便所に、色々な人がやって来る、
という趣向が取られているので、
その自由度の魅力よりも、
全体の取っ散らかった散漫な感じが、
強調されてしまったような気がしました。

すいません。
少し意見するような感じになってしまったのですが、
久しぶりの唐ゼミの舞台は矢張り楽しく、
これからもその上演に期待をしたいと思います。

頑張って下さい!!

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「オッペンハイマー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
オッペンハイマー.jpg
クリストファー・ノーラン監督の新作で、
原爆の開発計画を主導した理論物理学者のオッペンハイマーの、
数奇な人生を描いたドラマです。

その内容から、
一度は配給会社が手を引いて公開がなくなり、
配給会社が代わって漸く公開となりました。
米アカデミー賞作品賞など7部門の受賞に輝きました。

これはなかなか良かったですよ。

これまで観たノーラン監督の作品の中では、
個人的には「インターステラー」と「メメント」に次いで、
好きな1本です。

ただ、確かに日本公開に躊躇したのも分かる感じがするのは、
本当にアメリカがあまり意味もなく無雑作に日本に原爆を落とした、
ということの分かるようなエピソードが、
かなり直接的にかつ即物的に描かれているので、
見て辛い気分になる方や、
憤りを感じる方もいると思います。

その点は注意の上鑑賞する必要のある映画です。

ただ、アメリカ視点の物語としては、
原爆の開発のいきさつや、その後の世界に与えた影響、
科学者と社会や政治との関係などが、
過不足なくリアルに描かれていて見応えがあり、
何よりオッペンハイマーという、
偉大でも卑小でもない稀有な1人の人間が、
キリアン・マーフィーの肉体をもって、
鮮やかに画面に刻まれていました。

これは絶対アイマックスで観るべき映画で、
音効の迫力が素晴らしいんですね。
原爆実験のカウントダウンの盛り上がりから爆音の迫力、
また原爆投下が成功して、
喜ぶ人達の踏み鳴らす靴音の轟音など、
音の迫力が映画の見せ場の大きな部分を担っているからです。

あまりネタばれは良くないのですが、
アインシュタインがキーパーソンとして登場して、
ほぼ本物、というビジュアルも凄いですし、
物凄く絶妙な役割を果たしていて、
ラストを鮮やかに締め括る辺りに最も感銘を受けました。

色々な感想の方があると思いますが、
原爆開発を扱った映画の中では、
間違いなくトップに位置する意欲的な大作で、
ノーラン監督が外連味は封印しながら、
その映像技巧を駆使して描いた3時間は、
必見の映像体験と言って間違いはないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDと糖尿病性末しょう神経障害.jpg
Diabetic Research and Clinical Practice誌に、
2024年2月15日ウェブ掲載された、
糖尿病の合併症とビタミンD欠乏との関連についての論文です。

糖尿病性末梢神経障害は、
所謂糖尿病の3大合併症の1つで、
手足の先端のしびれや痛みが特徴的な初期症状で、
進行すると痛覚の鈍麻から、
下肢の壊死や切断の原因ともなります。

そのメカニズムにはまだ、不明の点が多いのが実際です。

近年糖尿病性神経障害とビタミンDの欠乏との間に、
関連があるとする報告があり、注目を集めています。

ビタミンDは健康な骨の維持に必須のビタミンですが、
それ以外に免疫系や炎症の制御など、
多岐に渡る作用が確認されていて、
その中には神経調節因子の誘導など、
神経障害を予防するような働きもあると報告されています。
この観点からは、
糖尿病で頻度が多いとされているビタミンDの欠乏が、
神経障害の一因となっている可能性が示唆されるのです。

今回の研究は中国において、
年齢が60歳以上で2型糖尿病に罹患している、
トータル257名の患者の、
ビタミンD欠乏を反映する血液中の25(OH)D3濃度を測定し、
糖尿病性末梢神経障害とビタミンD欠乏との関連を検証しています。
25(OH)D3濃度が20ng/ml未満をビタミンD欠乏と定義し、
末梢神経障害は、
大きな神経線維の異常を筋電図において、
小さな神経線維の異常を皮膚伝導率で測定し、
分けての評価を行っています。

その結果、
末梢神経障害のある患者はない患者と比較して、
血液のビタミンD濃度が有意に低下していて、
他の関連因子を補正した結果として、
ビタミンD欠乏は糖尿病性末梢神経障害のリスクを、
2.488倍(95%CI:1.274から4.858)有意に増加させていました。
神経線維の比較では、
特に大きな神経線維の障害と、
ビタミンD欠乏との間に関連が認められました。

このように、
今回の検証においても、
ビタミンD欠乏と糖尿病性末梢神経障害との間には、
一定の関連が認められました。

今後はビタミンDの補充が、
そのリスクの低減に結び付くのかなど、
より実際的な検証の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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