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運動と食事制限の食欲に対する影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
運動と食事の関連.jpg
Official Journal of the American College of Sports Medicine誌に、
2016年に掲載された、
食事制限と運動が食欲に与える影響についての論文です。

少し古いものですが、
このテーマにおいて興味深い知見なので、
ご紹介をさせて頂きます。

ダイエットのために食事制限と運動を行ったら、
運動の後で無性に食欲が亢進して、
ドカ食いをしてしまって失敗した、
というような体験談が良く聞かれます。

運動はカロリーを消費することですから、
運動の後には食欲が増すのはおかしなことではありません。
その一方で激しい運動の後は、
精神は高揚していて心地良い疲労感がありますが、
そうした時にはあまり食欲が沸かないものだと思います。

一般論で言って、運動をしっかり習慣としている人は、
食事制限を意図的にしなくても、
太ることはあまりないと思います。
この事実は、運動すること自体が、
食欲を適度に調整して、
過不足のない身体の状態を維持している、
という可能性を想像させます。

実際にそれは事実であるのでしょうか?

今回の論文はそのテーマを、
主に女性を対象として検証しているものです。
その理由はこうした研究はこれまで、
専ら男性の被験者で施行されることが多かったからだ、
と説明されています。
また、女性は食欲が亢進しやすいとの、
あまり根拠のない言説が多いことも指摘されています。

研究ではまず、
12 人の女性に9時間自由に生活した場合と、
90分のランニングをした場合、
食事を1食240キロカロリー程度に制限した場合の、
3種類のパターンを1週間の間隔で繰り返してもらい、
時間内には自由に間食も摂ってもらって、
運動と食事制限が、
その後の食欲と摂食に与える影響を検証しています。
更に2つ目の研究としては、
10人の男性と10人の女性を対象として、
運動の食欲と摂食に与える影響を、
同様に検証しています。

その結果、
食事制限を行うと、
食欲増進のホルモンであるグレリンの血液濃度は上昇し、
被験者は空腹感を感じて食欲が亢進、
結果として間食の量が増加します。

その一方で運動により、
食事制限と同等のエネルギー消費があっても、
グレリンの濃度の上昇はあまり認められず、
食事制限に見られたような、
食欲の亢進や過食の傾向も認められませんでした。

第二の実験で男女に分けて同様の検証を行っても、
運動の食欲抑制効果には、
明確な性差は認められませんでした。

要するに運動(この場合最大酸素摂取量の70%程度)を施行して、
エネルギーが消費されても、
食欲の増進は起こらない一方で、
同じカロリーを食事制限で抑制すると、
強い空腹感と食欲が生じて、
結果としてカロリー過多の状態になり易い、
という結果です。

ここで最初の疑問に戻りますが、
ダイエットで運動をするとその後にドカ食いをし易いのは、
元々過度な食事制限を施行している状態なので、
運動後の食欲亢進が起こり易く、
問題は運動ではなく食事制限の方にある、
と考えるのが妥当であるようです。

体重のコントロールには、
確かに運動と食事制限が両輪ですが、
食事制限は確実に食欲の亢進をもたらすので、
それをどうコントロールするかがポイントで、
食事制限でフラフラの状態で運動することは、
食欲の亢進に輪をかける可能性が高い、
という点はしっかり押させておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性心筋梗塞後のβブロッカーの有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心筋梗塞後のβブロッカー使用の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年4月7日付でウェブ掲載された、
心不全治療薬を急性心筋梗塞後に使用することの、
有効性についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。

ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。

今回の研究はスウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。

その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。

ただ、同様の目的を持った別個の臨床試験も現在進行中で、
この問題はまだ一致した結論に至った、
とは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤の心不全患者のQOLへの有効性(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の臨床症状改善作用.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年4月4日付で掲載された、
心不全治療薬の臨床的な有効性についての論文です。

SGLT2阻害剤は、
尿へのブドウ糖の排泄を増加させることを主作用とする薬剤で、
2型糖尿病の治療薬として開発され、
糖尿病の血糖コントロールを改善する効果のみならず、
心血管疾患のリスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることが確認されたことから、
糖尿病の予後をトータルに改善する薬として、
大きな注目を集めました。

その臨床データの解析では、
特に心不全による入院などのリスクを、
低下させる作用が高いことが注目され、
その後糖尿病のない心不全の患者さんに対しても、
心不全の治療薬としてその適応が拡大されました。

現時点で心不全の患者さんに対して、
その入院のリスクと総死亡のリスクを低下させる効果については、
ほぼ実証されていると言って良いのですが、
実際のQOLの改善効果については、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
これまでの主だった精度の高い臨床試験のデータをまとめて解析することで、
SGLT2阻害剤の心不全患者のQOL改善効果を検証しています。

これまでの17の臨床研究に含まれる、
トータルで23523名の患者データをまとめて解析したところ、
SGLT2阻害剤の使用により、
運動耐用能が改善し、
心不全患者のQOLに良い影響を与える効果が確認されました。

SGLT2阻害剤は、
現行日本では通常の心不全治療をまず施行した上で、
考慮すべき治療としての位置づけですが、
このように近年肯定的なデータが蓄積されることで、
今後その位置づけは、
より高いものとなることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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3種類の運動の健康効果比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
3種類の運動の健康効果比較.jpg
BMC public health誌に、
2023年6月14日付で掲載された、
3種類の運動毎の生命予後への効果を比較した論文です。

運動には大きく分けて、
有酸素運動と筋力トレーニング(無酸素運動)、
そしてストレッチの3種類があると言われています。

ジョギングなどをある程度の時間継続的に行うと、
身体は酸素を使って脂肪を燃焼させてエネルギーにします。
これが有酸素運動です。
一方で筋肉に強い負荷を掛けて緊張させる、
所謂「筋トレ」を行うと、
身体は筋肉に蓄えられた糖質を無酸素的に利用して、
エネルギー源にします。
これが無酸素運動です。
ストレッチングはエネルギーの消費よりも、
筋肉の曲げ伸ばしを行うことで、
身体の柔軟性を保つ目的で行われる運動で、
他の運動の前後に行うことが一般的です。

運動は健康に良いと言われていて、
それは科学的にも実証されている事実ですが、
その場合の運動というのは、
主に脂肪を燃焼させる有酸素運動のことで、
場合により、
有酸素運動に筋トレを組み合わせた運動プログラムのことです。

ただ、近年筋トレの単独の健康効果についても、
研究が進められています。

一方であまり触れられることがないのが、
ストレッチングの健康効果です。

今回の研究は韓国において、
大規模な健康調査のデータを活用することで、
この3種類の運動の生命予後に与える影響を比較検証しているものです。

その結果、
ストレッチングを全くしない場合と比較して、
週に5日以上行っていると、
総死亡のリスクは20%(95%CI:0.70から0.92)、
心血管疾患による死亡のリスクは25%(95%CI:0.70から0.95)、
それぞれ有意に低下していました。
週に50エクササイズ(メッツ・時)の有酸素運動を行うと、
全く行わない場合と比較して、
総死亡のリスクが18%(95%CI:0.70から0.95)、
心血管疾患による死亡のリスクが45%(95%CI:0.37から0.80)、
こちらもそれぞれ有意に低下していました。
筋力トレーニングのみを週に5日以上行っていると、
全く行わない場合と比較して、
総死亡のリスクは17%(95%CI:0.68から1.02)、
低下する傾向は示したものの有意ではなく、
心血管疾患による死亡のリスクの低下は、
認められませんでした。

このように、
生命予後に関してみると、
運動の効果は有酸素運動が最も優れていて、
意外にもそれに次い死亡のリスクを低下させていたのは、
筋トレではなくストレッチングでした。
ただ、勿論筋トレには筋トレの良さがあることも、
他の多くの臨床データで示されていて、
3種類の運動を適時組み合わせて行うことが、
現時点では最も賢い運動療法であると、
そう言って大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オフィスリバープロデュース「お目出たい人」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
お目出たい人.jpg
これは少し前ですが、
下北沢のスズナリで、
如何にも小劇場という感じの舞台に足を運びました。

新作だと思って観に行ったのですが、
これは水谷龍二さんが1995年くらいに、
椿組に書き下ろした作品で、
その初演もスズナリだったようです。

仕事も生い立ちも共通点のない、
それぞれ初対面の6人の男女が、
共通の知り合いであった孤独な男の通夜に集まる、
というお話で、
1時間30分弱くらいの小品ですが、
役者さんはいずれも歴戦の勇者的な小劇場の手練れなので、
その共演を心ゆくまで味わうことが出来る、
というような作品です。
途中でカラオケなど芸合戦、
という感じの趣向もあり、
小劇場ファンには至福の時間を過ごすことが出来ます。

内容的には拳銃を売って借金の足しにする、
というビックリするような設定があり、
それがそのままスルーされてしまうのですが、
これは1995年でも勿論NGだと思いますし、
どう捉えるべきなのか、
正直ちょっと悩んでしまいました。

渋川清彦さんが大好きなので足を運んだのですが、
どちらかと言えば目立たない役回りでした。
それを淡々とこなす渋川さんも勿論良いのですが、
正直もう少し無理難題を押し付けられて、
無茶ブリに悩むような姿も、
見て見たかったな、というようには感じました。

渡辺哲さんのお芝居を、
最近あまり観る機会がなかったのですが、
とてもお元気で驚きましたし、
そのいぶし銀の迫力に惚れ惚れしました。

そんな訳で如何にも小劇場的な役者を楽しむお芝居で、
とても楽しいひと時を過ごすことが出来ました。

ありがとうございます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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