痛み止めと胃薬併用の下部消化管出血リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Gut and Liver誌に2025年1月3日付でウェブ掲載された、
頻用されている痛み止めと胃薬の併用で、
下血のリスクが高まるという、
ちょっと気になる報告です。
アスピリンや、
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれる消炎鎮痛剤は、
安全で即効性のある痛み止めや解熱剤として、
幅広く使用されています。
ただ、幾つか無視できない副作用や有害事象があり、
その1つが胃潰瘍などの消化管出血です。
これは私自身も臨床で何度も経験していますが、
たとえばロキソプロフェンなどの痛み止めを、
短期間使用しただけでも、
胃の中に小さな潰瘍が無数に出来ていたりするのです。
痛み止めを使用しているので、
潰瘍が出来てもあまり痛みを感じず、
出血による貧血で初めて発見される、
というような事例も稀ではありません。
その予防のためには勿論、
消炎鎮痛剤の使用を最小限に留めることが第一ですが、
継続的な使用が止むを得ない、というケースも多く、
その時にしばしば行われる方法が、
胃酸の分泌を強力に抑えて潰瘍を治療する、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を、
痛み止めと併用するという考え方です。
こうした方法を取ることにより、
確かに痛み止めの使用による、
胃潰瘍などの上部消化管出血は減少しました。
ところが…
上部消化管の出血は減少した一方で、
十二指腸より下部の消化管からの出血(小腸や大腸からの出血)は、
むしろ増えているのではないか、
という指摘が最近見られるようになりました。
2023年に発表されたメタ解析の論文では、
これまでに発表された12の臨床研究に含まれる、
トータルで341063名の症例をまとめて解析したところ、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
下部消化管出血のリスクは3.23倍(HR95%CI:1.56から6.71)、
有意に増加していて、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の単独使用と比較して、
プロトンポンプ阻害剤の併用は、
下部消化管出血のリスクを6.55倍(HR95%CI:2.01から21.33)、
有意に増加させていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37553807/
今回の検証は韓国において、
5つの医療機関のデータをまとめて解析することにより、
この問題の実地医療での検証を行っているものです。
非ステロイド系消炎鎮痛剤と、
プロトンポンプ阻害剤を併用した事例8728例を、
年齢などをマッチングさせた、
非ステロイド系消炎鎮痛剤のみ使用している同じ8728例と、
比較検証したところ、
プロトンポンプ阻害剤併用群は、
非ステロイド系消炎鎮痛剤単独使用群と比較して、
下部消化管出血のリスクが、
2.843倍(HR95%CI:1.998から4.044)有意に増加していました。
つまり、今回の検証においても、
矢張り痛み止めとプロトンポンプ阻害剤という胃薬の併用は、
下部消化管出血の危険性を増していたのです。
それでは、
何故胃酸を抑える薬で、
腸の出血が増加するのでしょうか?
カプセル内視鏡などを使用したこれまでの研究によると、
出血部位の多くは小腸であると考えられています。
これは仮説ですが、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
胃酸が強力に抑えられ、
それによって腸内細菌叢の変化などが起こり、
それが小腸の粘膜に悪影響を与えた可能性が指摘されています。
これはまだ実証された事実とは言えませんが、
非ステロイド系消炎鎮痛剤とプロトンポンプ阻害剤を併用することは、
胃などの上部消化管の出血は減らす一方で、
下部消化管特に小腸の出血は増やす可能性があり、
そうした併用は今後はより慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Gut and Liver誌に2025年1月3日付でウェブ掲載された、
頻用されている痛み止めと胃薬の併用で、
下血のリスクが高まるという、
ちょっと気になる報告です。
アスピリンや、
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれる消炎鎮痛剤は、
安全で即効性のある痛み止めや解熱剤として、
幅広く使用されています。
ただ、幾つか無視できない副作用や有害事象があり、
その1つが胃潰瘍などの消化管出血です。
これは私自身も臨床で何度も経験していますが、
たとえばロキソプロフェンなどの痛み止めを、
短期間使用しただけでも、
胃の中に小さな潰瘍が無数に出来ていたりするのです。
痛み止めを使用しているので、
潰瘍が出来てもあまり痛みを感じず、
出血による貧血で初めて発見される、
というような事例も稀ではありません。
その予防のためには勿論、
消炎鎮痛剤の使用を最小限に留めることが第一ですが、
継続的な使用が止むを得ない、というケースも多く、
その時にしばしば行われる方法が、
胃酸の分泌を強力に抑えて潰瘍を治療する、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を、
痛み止めと併用するという考え方です。
こうした方法を取ることにより、
確かに痛み止めの使用による、
胃潰瘍などの上部消化管出血は減少しました。
ところが…
上部消化管の出血は減少した一方で、
十二指腸より下部の消化管からの出血(小腸や大腸からの出血)は、
むしろ増えているのではないか、
という指摘が最近見られるようになりました。
2023年に発表されたメタ解析の論文では、
これまでに発表された12の臨床研究に含まれる、
トータルで341063名の症例をまとめて解析したところ、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
下部消化管出血のリスクは3.23倍(HR95%CI:1.56から6.71)、
有意に増加していて、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の単独使用と比較して、
プロトンポンプ阻害剤の併用は、
下部消化管出血のリスクを6.55倍(HR95%CI:2.01から21.33)、
有意に増加させていました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37553807/
今回の検証は韓国において、
5つの医療機関のデータをまとめて解析することにより、
この問題の実地医療での検証を行っているものです。
非ステロイド系消炎鎮痛剤と、
プロトンポンプ阻害剤を併用した事例8728例を、
年齢などをマッチングさせた、
非ステロイド系消炎鎮痛剤のみ使用している同じ8728例と、
比較検証したところ、
プロトンポンプ阻害剤併用群は、
非ステロイド系消炎鎮痛剤単独使用群と比較して、
下部消化管出血のリスクが、
2.843倍(HR95%CI:1.998から4.044)有意に増加していました。
つまり、今回の検証においても、
矢張り痛み止めとプロトンポンプ阻害剤という胃薬の併用は、
下部消化管出血の危険性を増していたのです。
それでは、
何故胃酸を抑える薬で、
腸の出血が増加するのでしょうか?
カプセル内視鏡などを使用したこれまでの研究によると、
出血部位の多くは小腸であると考えられています。
これは仮説ですが、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
胃酸が強力に抑えられ、
それによって腸内細菌叢の変化などが起こり、
それが小腸の粘膜に悪影響を与えた可能性が指摘されています。
これはまだ実証された事実とは言えませんが、
非ステロイド系消炎鎮痛剤とプロトンポンプ阻害剤を併用することは、
胃などの上部消化管の出血は減らす一方で、
下部消化管特に小腸の出血は増やす可能性があり、
そうした併用は今後はより慎重に行う必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。