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男性のHPV感染が精子に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
HPV感染と精子機能.jpg
Frontiers in Cellular and Infection Microbiology誌に、
2024年8月23日付で掲載された、
男性器へのウイルス感染が、
精子機能に与える影響についての論文です。

HPV(ヒトパピローマウイルス)は、
主に子宮頸癌の原因となるウイルスとして知られていますが、
男性においても性器周囲に感染し、
高リスク型と呼ばれるものは陰茎癌などの原因となり、
低リスク型と呼ばれるものは尖圭コンジローマと呼ばれる、
良性のいぼのような皮膚病炎の原因となることが分かっています。

そのため以前は女性のみに行われていた、
HPV予防ワクチンの接種が、
日本でも一部男性での公費接種が開始されています。

男性の精液などの分泌物には、
HPVのウイルスの遺伝子が検出されることがあります。
ただ、これが実際に精液へのウイルス感染を示すものなのか、
それとも性器に感染したウイルスが混入しただけのものなのか、
という点についてはまだ見解は一致していません。
仮に精子自体にHPVが感染すると考えると、
その感染が精子の機能に影響を与え、
男性不妊などの原因となることも想定されます。

実際にそうしたことがあるのでしょうか?

今回の研究ではアルゼンチンにおいて、
泌尿器科のクリニックを受診した205名の患者の精液のサンプルを解析し、
HPV感染の有無とその精子機能への影響を比較検証しています。

その結果、
HPVの遺伝子は検体の19%に当たる39例で陽性となり、
最も多かったのは高リスク型と呼ばれる16型でした。
HPV陽性の精子は陰性精子と比較して、
トータルではその機能に差はありませんでした。

しかし高リスク型HPVのみで解析すると、
感染のないコントロールと比較して、
精子機能に影響を与える因子である、
精子の壊死率とROS(活性酸素種)陽性率が、
有意に高くなっていました。

ただ、ウイルス遺伝子陽性の精子で、
炎症所見は認められず、
高リスク型と低リスク型を問わず、
ウイルス遺伝子陽性の精子は、
陰性の精子と比較して、
白血球数や炎症性サイトカインの数値は低下が認められました。

つまり、
「HPV感染によって精子機能が低下する!」
と言われると非常に衝撃的なのですが、
実際には高リスク型ウイルスの感染で、
若干の精子機能低下の疑いはあったものの、
それほど明確なものではなく、
炎症マーカーが増加していればその説明はし易いのですが、
実際にはマーカーは感染群で低下していた、
という相反する結果だったのです。

この問題はまだまだ今後の検証が必要ですが、
現時点でHPV感染によって精子機能が低下する、
という根拠はまだ明確なものはないと、
そう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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