高齢者の慢性腎臓病における蛋白制限の影響(2024年スウェーデンの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日なので休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年8月7日付で掲載された、
高齢者の慢性腎臓病(CKD)における、
蛋白制限の必要性についての論文です
CKDという言葉が、
一般向けの書籍や報道などでも、
使用される機会が最近増えています。
CKDはChronic Kidney Diseaseの略で、
要するに慢性腎臓病という意味合いです。
腎臓という臓器はソラマメのような形をして、
背中に近い位置に2つあり、
その主な働きは、
身体に不要な物質や老廃物を、
おしっことして体外に排泄すると共に、
身体の水分や電解質などの量を、
適切に調節することにあります。
この腎臓の働きは、
他の臓器と同じように、
年齢や、高血圧・糖尿病など他の病気の影響で、
次第に低下してゆきます。
この働きが高度に低下した状態が腎不全で、
こうなると身体は老廃物を排泄することが出来ないので、
そのままでは死に至ります。
そして、高度に進行した腎不全において、
死を回避する方法は、
腎移植を除けば、
透析により人工的に老廃物を除去するしかありません。
しかし、
透析の治療は患者さんにも大きな負担になりますし、
社会生活も大きく制限を受けると共に、
高額な医療費が掛かるために、
医療経済的にも大きな問題となっています。
特に日本においては、
超高齢化社会が目の前に迫っていて、
透析が必要となるような、
高度の腎不全の患者さんも急増が予想され、
社会保障制度の存続のためにも、
大きな問題の1つになることは避けられません。
CKDという概念自体はアメリカで始まったものですが、
より早期の段階で腎臓病の管理を行なうことにより、
透析が必要となるような患者さんの数を減らし、
医療費の削減を期待しようという考え方は、
現在の日本ではよりその意義が大きく、
事態はより切迫しているように思います。
こうした背景があるので、
報道などでもCKDの話題が、
しばしば取り上げられるようになりましたし、
僕のような末端の医者に対しても、
CKDを見落とさずに適切な管理を行ない、
一定以上進行した場合には、
速やかに専門医へ患者さんを取り次ぐように、
という指導が行われているのです。
CKDの概念は比較的シンプルです。
腎機能の低下は、
GFR(糸球体濾過量)という数値で表現され、
その数値が平均の体表面積当たり、
60ml/min という数値を切った状態が、
3ヶ月以上持続する場合に、
CKDがあると判断されます。
もう1つの要素はおしっこの所見で、
おしっこにアルブミンという蛋白が検出される状態が、
これも3ヶ月以上持続すれば、
GFRが60を超えていても、
CKDがあると診断されるのです。
CKDはその進行度によって、
1~5までのステージに分かれ、
概ねGFRの数値によって区分けされます。
1は90以上で、
2は60~89まで、
3は30~59で、
4は15~29、
そして5は腎不全でGFRは15未満となっています。
GFRは推算GFRとして、
血液のクレアチニンという数値から、
年齢と男女差のみから算定されます。
たとえば、
55歳の男性で血液のクレアチニンが1.5mg/dl の場合、
概算でeGFRは36.0ml/minとなり、
これは進行度ではCKDのステージ3になる、
という訳です。
こうした指標を導入する意味は、
ステージ3以下の進行度が比較的軽い状態で、
CKDを診断し、
その後の進行を遅らせて、
透析になるような事態を回避する方策を取る、
というところにあります。
それでは、
どのようにして腎機能の低下を遅らせることが出来るのでしょうか?
栄養指導で指摘されることが多いのが蛋白制限です。
蛋白質は勿論身体にとって必須な栄養素ですが、
腎機能が低下した状態で食事の蛋白質が多いと、
それが腎機能の低下に、
拍車をかける可能性が指摘されているからです。
そのため現行の海外のガイドラインでは、
ステージ1から2のCKDでは、
体重1キロ当たり1.3グラムを超える高蛋白食を避け、
ステージ3以上のCKDでは、
体重1キロ当たり0.6から0.8グラムに蛋白質を制限する、
というように記載をされています。
日本のガイドラインでも、
細部は異なる点はありますが、
ほぼ同一の方針が示されています。
しかし…
これが高齢者の慢性腎臓病においても、
同じように当て嵌まるものかどうか、
という点については、
議論があるところです。
高齢者は筋肉量が減少することによって、
体力の低下や転倒リスクの増加などが指摘されていて、
そのため体重当たり1から1.2グラムくらいの蛋白質の摂取を、
維持することが重要であると考えられているからです。
高齢者のCKDにおいて、
蛋白制限は必要なのでしょうか、
それとも必要ないのでしょうか?
今回の研究では、スウェーデンにおいて、
高齢者の健康についての3つの疫学研究のデータを、
まとめて解析する手法で、
生命予後に与える蛋白制限の影響を検証しています。
対象は登録時点で60歳以上の一般住民14399名で、
そのうちの4739名はCKDと診断されています。
最長10年の観察期間において、
1468名が死亡されています。
CKDでステージ4以上の患者さんは除外されているので、
対象となっているのは、
ステージ1から3の、
軽症から中等症の患者さんです。
ここで体重1キロ当たり0.8グラムという蛋白制限と比較して、
1.0グラムの通常蛋白群では、
総死亡リスクは12%(95%CI:0.79から0.98)、
1.2グラムの軽度高蛋白群では、
総死亡リスクは21%(95%CI;0.66から0.95)、
1.4グラムという高蛋白群では、
総死亡リスクは27%(95%CI:0.57から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。
つまり、蛋白摂取量が多いほど、
総死亡のリスクは低下していたという結果です。
蛋白制限の生命予後改善効果は、
CKDのない人でより強く認められていて、
蛋白の組成では、
動物由来蛋白より、
豆類などの植物由来蛋白質の摂取で、
より強く認められる傾向がありました。
つまり、高齢者においては、
高蛋白食が生命予後の改善に繋がる可能性が高く、
確かに腎機能低下においては、
その効果は減弱はするものの、
CKDステージ1から3の状態であれば、
体重1.2グラム程度の高蛋白食は健康上のリスクにはならない、
蛋白の組成は植物性蛋白主体であればより望ましい、
という結果です。
今回のデータは生命予後のみを対象としたもので、
腎機能低下の抑止という観点からは、
また別の結果が出る可能性がありますが、
いずれにしても高齢者の腎機能低下時の蛋白制限については、
今後ガイドラインを含めて変更される可能性がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。