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ジョーダン・ピール監督「ノープ」(ネタばれ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノープ.jpg
アリ・アスター監督と並んで、
世界のホラーを牽引する鬼才ジョーダン・ピール監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

これまでの「ゲット・アウト」も「アス」も傑作で、
ブラックバーンの小説を思わせるような、
SFスリラーの世界が極めて僕好みで大好きなのですが、
製作に関わった昨年の「キャンディマン」は、
オヤオヤという感じのチープな内容だったので、
今回は期待半分不安半分という感じでの鑑賞となりました。

シャマラン監督も「シックスセンス」、「アンブレイカブル」と、
独特の世界観の力作を続けて期待したのですが、
エイリアンを扱った「サイン」が、
思わせぶりだけの失敗作でとてもガッカリしたのですね。
今回も何となく異星人ものみたいな予告ですし、
シャマランの二の舞になるのではないかしら、
という不安があったのです。

でも、さすがジョーダン・ピール、
今回もなかなかの力作で、
シャマランよりは数段格上であることは、
間違いないと感じました。

ただ、前作の「アス」が大傑作であったので、
どうしてもちょっと落ちる感じはあるのですね。
今回は前2作と比べると通常の娯楽大作という感じがあって、
その枠は崩さずに作られているので、
その点の物足りなさがあるんですね。
後半はパニック大作みたいな感じになりますしね。
そうなると、その割には大したことないな、
という印象をどうしても持ってしまうんですね。
パニック映画はスケール感の勝負ですから、
予算もそこまでではないと思いますし、
後半でボルテージが下がるという感じがあるのです。

ただ、それでも監督の凄みは充分感じられる仕上がりになっていて、
特に悪夢の正体が分かるまでの、
前半の不気味さと捉えどころのない感じは、
さすが、という思いがしてスクリーンに惹き付けられました。

映像表現もリアルでありながらシュールでもあって、
高い美意識を感じさせますし、
中途半端な真似事をしない唯一無二な感じが、
とても素晴らしいと思います。

以下少し内容に触れます。
この映画は予備知識なく観た方が絶対に良いので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

これ、ベースは明らかに「ジョーズ」なんですね。
パニック映画を再構成した内容になっています。
ただ、そのベースに「動物を飼って芸を仕込む」という、
如何にも人間らしい行為、
それは差別意識や残酷さを多分に含んだ行為なのですが、
その行為の裏にある感情があるんですね。

これまでの2作でも、
差別や科学や宗教という、
人間ならではの行為の裏にある、
曖昧で不気味な物をテーマとしてきたジョーダン・ピールですが、
今回も動物を飼うという行為の中に、
そうした人間の本質的に持つ不気味さと残虐さのようなものを、
裏テーマとして描いているのです。

主人公は馬を飼って調教をしている黒人で、
他にアジア人の謎の男が、
かつてはテレビに出演していた類人猿が、
自分の意図を汲んで人殺しをしたのに味をしめ、
今は宇宙から飛来した謎の人食い生物を調教して、
馬を食べさせるショーをしているんですね。

しかし、類人猿が暴走したように、
結局人食い生物を調教することは出来ずに、
男は殺され、空飛ぶ人食い生物が暴走して村を襲うのです。

動物を調教するという行為の裏にある不気味さと差別感情を、
重層的に描くのが、
さすがジョーダン・ピールですよね。

暴力的な衝動も差別感情も、
ある意味とても人間らしい感情なんですね。
だから、口では「戦争反対!」とか「差別をなくせ!」と言っていても、
戦争も差別もなくならないのは当たり前で、
それは人間でなくなれ、と言っているのとかなり近いことで、
僕達が戦争のない世界や差別のない世界を想像すると、
何か無機的で人間味のない世界しかイメージ出来ないのもそのためなのです。

最初に類人猿の殺人を小出しに見せて、
怪物の体内をチラリと見せて、
それから急に何かが空から降って来て、
主人公の父親が殺される場面を見せるんですね。
後から繋がるお話の断片をバラバラに見せて、
それが全て別種の怖さを秘めているんですね。
上手いですよね。
「ジョーズ」の恐怖は海でしたが、
今回は空で、空は無防備でしょ、
いきなりコインが降って来て、
眼球を直撃して死に至るのです。

生理的な怖さを感じさせますし、
そうしたエピソードの裏に、
極めて人間らしい残酷な感情が潜んでいる、
というのがこの作品の面白さです。

恐怖の正体が明らかになると、
後半はパニック映画のパターンになるので、
正直少しありきたり感があります。
ただ、映像はクオリティが高く維持されていて、
最後まで緩みなく展開されるので、
まずはそう失望することなく、
最後まで鑑賞することが出来ました。

いずれにしても、
今年最も興奮して鑑賞した1本で、
ジョーダン・ピール監督の今後にも、
ますます目が離せなくなりました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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