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妊娠糖尿病の診断基準の適切さについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠糖尿病の診断基準.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年8月18日掲載された、
妊娠糖尿病の診断基準の適切さについての論文です。

妊娠糖尿病というのは、
糖尿病という名前は付いていますが、
実際には糖尿病にまでは至らない糖代謝の異常のことです。

糖尿病にまでは至らなくても、
妊娠中に一時的な耐糖能異常があると、
正常妊娠と比較して流早産や巨大児などの、
母体や胎児双方の異常が、
多くなることが報告されているので、
対応が必要な「病気」として捉えられているのです。

ただ、実際に血糖値がどのレベルを超えると、
妊娠糖尿病と言って良いのか、
という点については、
専門家の中でも見解が一致しているとは言えません。

現行世界的に最も広く使用されている基準は、
国際糖尿病妊娠学会が2010年にまとめたもので、
妊娠24週以降くらいの時期に75グラム糖負荷試験を施行して、
負荷前の血糖値が92㎎/dL以上、負荷後1時間値が180mg/dL以上、
負荷後2時間値が153mg/dL以上のいずれかを満たすとき、
というように規定されています。

この基準が現行日本においても適応されていて、
通常まず血糖値などを測定して、
上昇が疑われる場合には糖負荷試験が施行され、
上記の基準を満たせば「妊娠糖尿病」とするのが一般的です。

ただ、たとえば上記論文が書かれたニュージーランドにおいては、
2010年以前にはよりゆるやかな診断基準が施行されていて、
2010年以降も医療機関によって、
どの基準を用いるかはまちまちであったようです。

現行の基準はかなり厳しいもので、
以前の数倍の妊娠糖尿病が診断される事態となっているので、
その適切さを疑問視する意見も根強くあるのです。

そこで今回の研究ではニュージーランドにおいて、
4061名の妊娠女性をくじ引きで2つの群に分けると、
妊娠24から32週の時点で75グラム糖負荷試験を施行し、
一方は上記の国際基準により妊娠糖尿病を診断、
もう一方はより緩い基準として、
負荷前の血糖が99mg/dL以上、負荷後2時間値が162mg/dL以上の、
どちらかを満たす場合を妊娠糖尿病と診断する基準を適応して、
母体と胎児の予後を比較しています。

国際基準を適応した場合には、
15.3%の妊娠女性が妊娠糖尿病と診断されましたが、
より緩い基準を適応した場合には、
診断されたのは6.1%に留まっていました。
そして、巨大児のリスクについては、
どちらの基準を用いても発症率には有意な差はなく、
他の主な母体と胎児の健康の指標も、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、もう少し緩い基準を適応すれば、
妊娠糖尿病として管理すべき人数は半分以下に減るのですが、
妊娠糖尿病に伴う合併症や有害事象については、
特に増えるという結果にはなっておらず、
今の国際基準が厳し過ぎるという見解を、
支持するような結果となっているのです。

今後こうしたデータを議論することにより、
妊娠糖尿病の基準については、
再検討が行われることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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