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血中循環腫瘍DNAを活用した大腸癌術後化学療法の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血中循環腫瘍DNAを指標とした大腸癌術後化学療法の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年6 月16日掲載された、
大腸癌の術後の補助的な化学療法の適応を、
血液中の癌遺伝子を測定することにより行うという、
臨床試験の結果をまとめた論文です。

大腸癌には0から4までの5段階のステージ(病期)があり、
それにより治療の方針が定められています。

このうちステージ2というのは、
がんが漿膜下層を超えて浸潤するというもので、
内視鏡では取ることは出来ないのですが、
ステージ3のようなリンパ節への浸潤はないので、
手術治療の良い適応ということになります。

手術で癌が切除されても、
目に見えないような病変が、
実際には残っているという可能性があります。
そうした残存する病変が進行すると、
「再発」と呼ばれる状態になります。

その再発を抑えるために、
術後に補助的な化学療法を施行するという考え方があります。
ただ、化学療法に使用する抗癌剤には有害な影響もあり、
現在再発のリスクが高いとされる事例に限って、
そうした補助化学療法が施行されていますが、
その施行により明確に患者さんの予後が改善したという根拠は乏しく、
その施行については議論があります。
その選択が最終的には患者さんに委ねられることもあり、
患者さんが決められずにストレスを抱えるということも、
稀ではないように思います。

そこで術後の再発のリスクを検査で判断して、
補助化学療法施行の可否を判断しよう、
という考え方があります。

その検査として注目されているのが、
血液中の腫瘍由来の遺伝子を検出する方法です。
これをctDNA検査と呼んでいます。
画像診断などでは再発の兆候はなくても、
血液中には癌由来の遺伝子が検出されることがあり、
それがあると高い確率で再発が起こりますが、
それが検出されないと、
その後の再発のリスクは低いと考えられるからです。

そこで今回の臨床研究では、
オーストラリアの23か所の専門施設において、
ステージ2の大腸癌で治癒切除を施行した、
トータル455名の患者をくじ引きで2対1で2つの群に分けると、
一方は術後4から7週の時点でctDNA検査を施行して、
それが陽性の事例のみに補助化学療法を施行、
もう一方は通常の再発リスクの判断に伴う治療を施行して、
登録後2年の時点での予後を比較検証しています。

その結果、
通常治療群では28%の患者が補助化学療法を施行したのに対して、
ctDNA検査施行群ではより少ない、
15%の患者が補助化学療法を施行していました。
2年の時点で再発がなかったのは通常治療群で92.4%、
ctDNA検査施行群で93.5%で、
有意な差は認められませんでした。
ctDNA検査施行群での解析では、
3年の時点で再発がなかったのは、
ctDNA検査陽性事例の86.4%、陰性事例の92.5%でした。

このように、
従来の方法による補助化学療法の適応判断と比較して、
血中循環腫瘍DNAを活用した適応の判断を行うと、
補助化学療法を施行する患者は減り、
その一方で再発の予後には変化がないことより、
無用な化学療法を抑制する意味で、
この方法は一定の有効性があることが確認されました。

術後の再発予防目的の補助化学療法は、
その適応が不明確で、
患者さんに無用のストレスを生じることもありましたが、
今後はより科学的に実証された判断で、
その施行が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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