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年齢差別(エイジズム)の健康影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
エイジズム.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年6月15日ウェブ掲載された、
最近注目されている年齢差別(エイジズム)についての論文です。

性差別の問題が今ほど注目されている時代はないでしょう。

もう男女の違いについて、
少しでも発言することはタブーとなっています。

ただ多くの人はそのスピードに追い付いてはいないので、
多くの炎上や批判が、
意図せざるような発言の度に繰り返されています。

たとえば村上春樹さんの短編、
「ドライブ・マイ・カー」を読むと、
最初から「女の運転というものは…」というような、
明確なNGワードが目白押しで、
これがそれほど昔の作品ではないことを思えば、
この時代の変化には、
ちょっと恐ろしいものを感じます。

社会的な偏見や思い込みに伴う性差というもの、
特に「女性は男性に比べて劣っている」
と言う優劣の認識を元にしている考え方については、
明らかに差別的で誤ったものだと思います。

ただ、科学的には性差といものは間違いなくあって、
遺伝子レベルでも明確な差があり、
その性質の違いというものも存在しています。
動物においてももちろん性別はあって、
性別による役割の差も、
それが何処までが遺伝子レベルで決まっているものなのかは、
簡単に区別することは出来ませんが、
存在していることは間違いがありません。

そうした科学的な性差というものを、
今の混沌とした性差別の海から拾い上げることは、
そう容易いことではありません。

ある意味、医学の役割はより増した、
という言い方も出来ますが、
その責任を医学者や科学者が自覚しているかと言うと、
はなはだ疑問にも感じます。

性差別の問題と比べるとまだ目立ってはいませんが、
問題となりつつある差別意識の現れの1つが、
今回のテーマである年齢差別です。
これをエイジズム(Ageism)と呼んでいます。

エイジズムというのは、
主に高齢者であることを理由に、
偏見と思い込みにより、
「高齢者は若者より劣っている」
という考え方を持ったり、
それを表明したりそれを元に行動したりすることで、
上記論文においては、
これを年齢差別的思考(intermalized ageism)、
年齢差別的メッセージ(ageist messages)、
年齢差別的対人関係(interpersonal ageism)、
の3種類に分けてスケール化しています。

年齢差別的思考というのは、
「年を取ると孤独になる」「年を取ると病気になる」、
というような考え方を自然に持ってしまうことで、
年齢差別的メッセージというのは、
他人のそうした発言などを、
見たり聞いたりすることです。
年齢差別的対人関係というのは、
高齢者が相手から、
「物わかりの悪い年寄りだから、難しい言葉は使わずに話をしよう」
というような、差別的対応を受けることです。

平然とテレビやネットなどでも言われている、
「老害」や「いい加減若者に道を譲るべきだ」、
というような発言は、
本来は間違いなくエイジズムなのです。

医療現場で言えば、
高齢の患者さんに対して、
子供に使うような言い回しをして、
「ほらほら、おばあちゃん、転ばない様に気をつけて」
というような対応をすることも、
高齢の患者さんが不定愁訴的な訴えをすると、
「それは年のせいだから仕方がないですね」
のようなステレオタイプ的あしらい方をすることも、
エイジズムであると言えるのです。

さて、こうした年齢差別は、
高齢者の健康にどのような影響を与えるのでしょうか?

上記論文ではアメリカにおいて、
50から80歳の2035名の一般住民を対象として、
エイジズムの健康影響を調査しています。

その結果、全体の93.4%に当たる1915名が、
毎日何らかのエイジズムを経験していました。
中では年齢差別的思考を81.2%が、
年齢差別的メッセージを65.2%が、
年齢差別的対人関係を44.9%が経験していました。

そして、エイジズムを多く経験している人ほど、
体調は悪く、
高血圧や糖尿病、癌などの疾患のリスクも高く、
うつ病などの精神疾患のリスクも増加していました。

これは因果関係を推測出来るような性質のデータではありませんが、
「高齢者は病気を持ち具合も悪く孤独だ」
というような全ての高齢者に当て嵌まる訳ではない、
ステレオタイプな高齢者像がすり込まれることにより、
実際に高齢者の健康にも負の影響が生じるのではないか、
という可能性を示唆するものです。

難しい点は性別の差別と同じように、
年齢(加齢)も医学的に健康に大きな影響を与える因子ではあることで、
問題は年齢に伴う科学的な事実と、
ステレオタイプな高齢者像がもたらす悪影響とを、
どのように区別して議論してゆくべきか、
という点にあるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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