SSブログ

年齢による新型コロナ神経障害発症のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
年齢による新型コロナ後遺症の違いのメカニズム.jpg
bioRxivという査読前の論文を公開しているサイトで、
2022年6月2日公開された、
新型コロナウイルス感染症に伴う神経障害の、
年齢による発症の差のメカニズムを、
動物実験で検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
国内外を問わずこれまでに多くの報告があります。

主にヨーロッパでは、COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
以前ご紹介したアメリカの研究では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
それ以外にロングCOVID(Long COVID)、
というような表現も使用されています。
要するに、まだ統一された概念ではないようです。
今回のイギリスの論文では、
ロングCOVIDという表現がされています。

日本でも罹患後症状、後遺症、後遺障害と、
多くの表現が使用されていて、あまり一貫性のない状態です。
保険病名としては、
COVID-19後遺症という記載も認められています。

いずれにしても、
概ね罹患後3ヶ月を過ぎても、
体調が罹患前と比べて悪い場合に、
そうした表現がされることが多いようです。

後遺症外来と称するものも複数開かれていて、
慢性疲労に使用されるような漢方薬やビタミン剤、
一部のアミノ酸製剤やその誘導体などが使用されているようですが、
明確にその効果が立証されているようなものは現時点ではありません。

中年以降の年齢層においては、
認知症と鑑別が困難となるような認知機能低下や、
抑うつ状態など種々の精神神経症状が、
多く報告されていますが、
そのうちのどの程度の部分が、
実際に新型コロナウイルス感染自体との関連があるのか、
というような点については、
まだあまり分かっていないのが実際だと思います。

今回の研究はネズミ(ラット)の動物実験で、
若年(生後2か月)のネズミと、
中年期に想定される12か月齢のネズミの双方の鼻腔に、
新型コロナウイルスを接種して感染させ、
その後の脳の変化を比較検証しているものです。

その結果、
若年のネズミと比較して中年のネズミでは
脳の炎症性の変化がより強く認められ、
血液脳関門の機能低下と、
Wnt/β-Cateninシグナル伝達経路と呼ばれる神経細胞の代謝経路の機能低下が、
そこに関連していることが示唆されました。

たとえば胃薬での精神神経症状が、
高齢者では出現しやすい理由として、
血液中の物質が脳に移行することを妨げている、
血液脳関門という部位の機能低下が指摘されることがありますが、
同様のメカニズムによって、
新型コロナウイルスも加齢に伴って脳に侵入しやすくなり、
それが脳の炎症を惹起して、
認知機能の低下などに結び付いているのではないか、
という仮説です。

これはまだ査読前の論文の知見で、
それも動物実験であるという点には注意が必要ですが、
新型コロナウイルスの脳への移行に、
年齢が関連しているという考え方は非常に興味深く、
これがより実証的な知見に結び付くことを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0)