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中年期の歩数と生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療や事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら
歩数と生命予後.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年9月3日ウェブ掲載された、
中年期の歩数が生命予後に与える影響についての論文です。

健康のためにはよく歩くのが良い、
というのは健康の専門家かそうでないかに関わらず、
多くの人が言っていることです。

最近ではスマホやアップルウォッチなどの、
所謂ウェアラブル端末が普及して、
簡単に毎日の歩数が計れるようになり、
よりその健康効果が一般に広まりを見せています。

そこで問題となるのは目標とするべき歩数です。

馴染みのあるのが1日1万歩歩きましょう、という基準で、
皆さんも何度もお聞きになったことがあると思います。

海外たとえばアメリカにおいても同様の基準がポピュラーで、
意外にもその元になっているのは、
日本の万歩計の会社の宣伝にあったようです。

ただ、実際にはその根拠は、
あまり精度の高い研究に裏付けられたものではありません。

最近の研究結果は2019年に海外で発表されたものでも、
日本の中之条研究の報告においても、
もう少し少ない1日7000から8000歩程度が、
最も健康への有効性が高い、
という結果になっています。
更に最近指摘されることが多いのが歩行の速度で、
日本の研究では20分程度の「早歩き」を入れると、
より効果が高いというデータが得られていました。

ただ、こうしたデータの多くは、高齢者がその対象となっていて、
心血管疾患などの病気の予防効果が、
健康効果の主体として検証されていました。

それでは、もっと年齢の若い中年の時期に歩くことの、
長期的な生命予後への影響はどうなのでしょうか?

今回の研究はアメリカで施行された、
虚血性心疾患のリスクについての大規模な疫学研究のデータを活用して、
中年期の歩数や歩行の速さと、
生命予後との関連を検証しているものです。

38から50歳の2110名の一般住民を、
平均で10.8年という長期間観察したところ、
1日7000歩未満しか歩いていない人と比較して、
1日7000から9999歩歩いている人は、
観察期間中の総死亡のリスクが、
72%(95%CI:0.15から0.54)有意に低下していました。
1日1万歩以上歩いている人では、
55%(95%CI:0.25から0.81)の総死亡リスクの低下が認められました。
1分間に100歩以上歩くような早歩きをしても、
そうでない場合と比較して総死亡のリスクには変わりはありませんでした。

このように、
中年期の歩数が7000歩を超えることで、
その後10年の早期死亡のリスクの低下が確認されました。
その一方で1万歩を超える歩行は、
7000歩から9999歩の歩行を超えるような効果はなく、
早歩きをしても、
明確な死亡リスクの差は認められませんでした。

これは勿論体力を付けることなどとは、
全く別の視点からの分析ですが、
中年の時期に7000歩から1万歩を超えないくらいの歩数を確保することは、
その後10年の早期死亡の予防に、
かなりの効果が期待出来るという言い方はして間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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