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年齢差別(エイジズム)の健康影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
エイジズム.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年6月15日ウェブ掲載された、
最近注目されている年齢差別(エイジズム)についての論文です。

性差別の問題が今ほど注目されている時代はないでしょう。

もう男女の違いについて、
少しでも発言することはタブーとなっています。

ただ多くの人はそのスピードに追い付いてはいないので、
多くの炎上や批判が、
意図せざるような発言の度に繰り返されています。

たとえば村上春樹さんの短編、
「ドライブ・マイ・カー」を読むと、
最初から「女の運転というものは…」というような、
明確なNGワードが目白押しで、
これがそれほど昔の作品ではないことを思えば、
この時代の変化には、
ちょっと恐ろしいものを感じます。

社会的な偏見や思い込みに伴う性差というもの、
特に「女性は男性に比べて劣っている」
と言う優劣の認識を元にしている考え方については、
明らかに差別的で誤ったものだと思います。

ただ、科学的には性差といものは間違いなくあって、
遺伝子レベルでも明確な差があり、
その性質の違いというものも存在しています。
動物においてももちろん性別はあって、
性別による役割の差も、
それが何処までが遺伝子レベルで決まっているものなのかは、
簡単に区別することは出来ませんが、
存在していることは間違いがありません。

そうした科学的な性差というものを、
今の混沌とした性差別の海から拾い上げることは、
そう容易いことではありません。

ある意味、医学の役割はより増した、
という言い方も出来ますが、
その責任を医学者や科学者が自覚しているかと言うと、
はなはだ疑問にも感じます。

性差別の問題と比べるとまだ目立ってはいませんが、
問題となりつつある差別意識の現れの1つが、
今回のテーマである年齢差別です。
これをエイジズム(Ageism)と呼んでいます。

エイジズムというのは、
主に高齢者であることを理由に、
偏見と思い込みにより、
「高齢者は若者より劣っている」
という考え方を持ったり、
それを表明したりそれを元に行動したりすることで、
上記論文においては、
これを年齢差別的思考(intermalized ageism)、
年齢差別的メッセージ(ageist messages)、
年齢差別的対人関係(interpersonal ageism)、
の3種類に分けてスケール化しています。

年齢差別的思考というのは、
「年を取ると孤独になる」「年を取ると病気になる」、
というような考え方を自然に持ってしまうことで、
年齢差別的メッセージというのは、
他人のそうした発言などを、
見たり聞いたりすることです。
年齢差別的対人関係というのは、
高齢者が相手から、
「物わかりの悪い年寄りだから、難しい言葉は使わずに話をしよう」
というような、差別的対応を受けることです。

平然とテレビやネットなどでも言われている、
「老害」や「いい加減若者に道を譲るべきだ」、
というような発言は、
本来は間違いなくエイジズムなのです。

医療現場で言えば、
高齢の患者さんに対して、
子供に使うような言い回しをして、
「ほらほら、おばあちゃん、転ばない様に気をつけて」
というような対応をすることも、
高齢の患者さんが不定愁訴的な訴えをすると、
「それは年のせいだから仕方がないですね」
のようなステレオタイプ的あしらい方をすることも、
エイジズムであると言えるのです。

さて、こうした年齢差別は、
高齢者の健康にどのような影響を与えるのでしょうか?

上記論文ではアメリカにおいて、
50から80歳の2035名の一般住民を対象として、
エイジズムの健康影響を調査しています。

その結果、全体の93.4%に当たる1915名が、
毎日何らかのエイジズムを経験していました。
中では年齢差別的思考を81.2%が、
年齢差別的メッセージを65.2%が、
年齢差別的対人関係を44.9%が経験していました。

そして、エイジズムを多く経験している人ほど、
体調は悪く、
高血圧や糖尿病、癌などの疾患のリスクも高く、
うつ病などの精神疾患のリスクも増加していました。

これは因果関係を推測出来るような性質のデータではありませんが、
「高齢者は病気を持ち具合も悪く孤独だ」
というような全ての高齢者に当て嵌まる訳ではない、
ステレオタイプな高齢者像がすり込まれることにより、
実際に高齢者の健康にも負の影響が生じるのではないか、
という可能性を示唆するものです。

難しい点は性別の差別と同じように、
年齢(加齢)も医学的に健康に大きな影響を与える因子ではあることで、
問題は年齢に伴う科学的な事実と、
ステレオタイプな高齢者像がもたらす悪影響とを、
どのように区別して議論してゆくべきか、
という点にあるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オミクロン株とデルタクロン株の免疫反応 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デルタクロン株.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年5月18日に掲載された解説記事ですが、
オミクロン株のBA.3系統の変異株と、
デルタクロン株の性質についての検証結果です。

オミクロン株は当初のBA.1系統から、
BA.2、BA.3と次々と変異を繰り返して流行し、
それ以前に流行したデルタ株とオミクロン株とが融合して、
両者の性質の一部を併せ持った、
通称デルタクロン株まで同定されています。

日本では現状BA.2系統が主流となっているようで、
クリニックで採取した検体のゲノム解析でも、
2から3週間程度前の報告ですが、
解析された事例の全てがBA.2系統となっています。

ただ個別の変異株の性質については、
まだそれほど明確なことが分かっていません。

今回の検証はアメリカにおいて、
元の新型コロナウイルス株と比較した、
BA.3系統とデルタクロン株の免疫的特徴を比較しているものです。

ファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社製ワクチンを、
2回接種してから3、4週後に採取された検体での検査では、
元の新型コロナウイルス株(D614G変異株)への中和抗体価と比較して、
BA.3系統に対する中和抗体は3.3分の1、
デルタクロン株に対する中和抗体は44.7分の1しか、
誘導はされませんでした。
つまり、元の新型コロナウイルスや現行のワクチン株による免疫は、
オミクロン株の亜系統やデルタクロン株に対しては、
かなり限定的な効果しかない、
ということが推測されます。

デルタ株流行期の入院患者の検体を利用した検査では、
元の新型コロナウイルス株に対する中和抗体価と比較して、
オミクロン株のBA.3系統はほぼ同じ中和抗体価を維持していましたが、
デルタクロン株に対する中和抗体価は137.8分の1しか誘導されませんでした。

オミクロン株の流行期の入院患者の検体を利用した検査では、
元の新型コロナウイルス株に対する中和抗体価と比較して、
オミクロン株のBA.3系統とデルタクロン株の中和抗体価は、
ほぼ同等でした。

このように、
オミクロン株のBA.3系統は、
それ以前の株に対する免疫を回避するような傾向はなく、
その一方でデルタクロン株に関しては、
オミクロン株やデルタ株の免疫もあまり有効ではなく、
それ以前の多くの変異株に対しても、
抵抗性である可能性が高いと想定されました。

mRNAワクチンを複数回接種した場合の免疫は、
元の新型コロナウイルスに感染した際の免疫より、
遥かに強い免疫を誘導するため、
確かにその後の変異株に対しても一定の有効性はあるのですが、
オミクロン株以降の変異株に対する有効性はかなり低いもので、
今後は今の状況に合わせたワクチンの導入が、
急務であるように思います。
一方で変異株の中には性質がおとなしく、
より通常感冒への移行を、
期待させるものがある一方、
免疫も逃避する傾向が強く感染力の強いものもあり、
まだ楽観をするべき状況ではないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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帯状疱疹と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
帯状疱疹と認知症リスク.jpg
Neurology誌に2022年6月8日ウェブ掲載された、
帯状疱疹と認知症リスクの関連についての論文です。

帯状疱疹は水痘ウイルスの再活性化により起こる病気で、
皮膚の神経領域に帯状に湿疹が生じ、
強い神経痛を起こします。

最近間違いなく増えていることは、
クリニックの外来でも実感として感じていることですが、
その理由については新型コロナウイルス感染症との関連を、
指摘される方もいますが、
左程根拠があるようには思えず、
実際には不明です。

ウイルス感染症に罹患することが、
その後の認知症のリスクになるという考え方は以前からあり、
帯状疱疹との関連を指摘する知見もあります。
特に三叉神経領域への感染では、
直接脳神経に炎症が及んでいることから、
そのリスクを指摘する意見があります。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているデンマークにおいて、
国レベルの医療データと処方データを解析することにより、
この問題の検証を行っているものです。

40歳以上の帯状疱疹患者トータル247305名を、
年齢などをマッチさせた感染歴のない1235890名と比較して検証したところ、
罹患後1年の認知症発症リスクは、
コントロールと比較して0.98倍(95%0.92から1.04)、
1年後以降では0.93倍(95%CI:0.90から0.95)で、
帯状疱疹罹患後1年以降の認知症発症リスクは、
むしろコントロールより低くなっていました。

今回の結果では、
帯状疱疹の罹患とその後の認知症発症との間には、
明確な関連は認められず、
むしろやや認知症のリスクを下げる可能性も示唆されました。

今回のデータは後から集計しただけのものなので、
因果関係を云々出来るものではありませんが、
これだけ多くの事例で検証した意義は大きく、
帯状疱疹と認知症との間には、
少なくとも強い関連はない、
と考えて現時点では大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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テストステロンと心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロン治療と心血管疾患リスク.jpg
Lancet Healthy Longevity誌に、
2022年6月1日ウェブ掲載された、
男性ホルモン治療と心血管疾患リスクについての論文です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
男性の性機能や筋肉などの体力の維持に必要なホルモンで、
その高度の欠乏による性腺機能低下症では、
性欲低下や筋萎縮、骨粗鬆症などが起こり、
生活の質の低下に至ります。

ただ、男性ホルモンと心血管疾患との関連については、
相反する知見があり一定した結論に至っていません。
男性ホルモンは内臓脂肪を減少させてインスリン抵抗性を改善しますから、
その意味では心血管疾患のリスクの低下に結び付きそうです。
その一方で男性ホルモンによる治療を行なうと、
血液の比重は増加し、
善玉コレステロールと呼ばれることのある、
HDLコレステロールは低下し、
心血管疾患のリスクも増加したとする、
臨床データも報告されています。

男性ホルモンの使用は、
男性更年期と呼ばれるような、
比較的軽度の男性ホルモンの低下においても、
最近は行なわれることが多く、
その有効性が指摘されることがある一方で、
心血管疾患のリスクが危惧されることもあります。

今回の研究は、
これまでの主な臨床試験データを、
まとめて解析したメタ解析とシステマティックレビューですが、
これまでの35の精度の高い臨床試験に含まれる、
5601名のデータをまとめて解析したところ、
平均で9.5ヶ月の観察期間における心血管疾患のリスクには、
男性ホルモン治療群と偽薬群との間で、
有意な差は認められませんでした。

このように、
今回のメタ解析においては、
1年未満くらいの期間における心血管疾患リスクを、
男性ホルモン治療が増加させることはありませんでした。

ただ、これは敢くまで短期の結果で、
男性ホルモンと心血管疾患との関連についての、
長期の影響はまだ不明だということは、
男性ホルモン治療を受けるに当たって、
押さえて置かなければいけないポイントではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「ドライブイン カリフォルニア」(2022年上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドライブイン カリフォルニア.jpg
1996年に初演され、
2004年に再演された松尾スズキさんの旧作が、
装いも新たに今再演されています。

これは初演も最初の再演も観ていますが、
正直当時はそれほど乗れませんでした。

「愛の罰」や「ふくすけ」に代表されるような、
ロマネスク的で百鬼夜行のような残酷見世物的世界、
話は膨らむだけ膨らんでラストにまとまることもなく、
役者は異形な怪物揃いというような、
唯一無二の大暴れは蔭を潜めて、
トム・シェパードなどを彷彿とさせるような、
家庭劇の色彩が強い物語となっています。
この作品や97年の「洞海湾」は特にそうした色彩が強くて、
当時は「こういうものを期待している訳ではないのに」
という感じが抜けなかったのです。

ただ、実際には当時興奮した破天荒な残酷見世物演劇は、
コンプライアンス的な問題もあって、
今では殆ど上演される機会はなく、
旧作が上演されても、
かなりウェルメイドな方向に作品世界は改変されています。

その一方で当時は地味でやや保守的にも感じられた、
ミニマムな家庭劇の世界は、
松尾さんの劇世界の魅力の一端は確実に伝えつつ、
現在でもそのまま鑑賞可能な作品群となっているのです。
松尾さんが当時こうした作品を残していたことは、
矢張り先見の明があったと今では思います。

さて、この作品は14歳で死んだ少年が、
そこに至る顛末を語るという2時間15分ほどの長い1幕劇で、
最後は120年に一度の竹の花が咲いて、
皆が一瞬の幸福に酔い、
死んだ少年も成仏するという、
ハッピーエンドと言っても良いラストに帰着します。

多分松尾戯曲中一二を争う、
まとまりの良いエンディングの作品です。

これまでの上演では、
出鱈目の紙芝居を、
松尾さんが延々と演じるような場面や、
不気味な縫いぐるみの登場など、
要所要所に予定調和を崩すような、
破格的な演出があったのですが、
今回の松尾さんの出演しない上演では、
そうした「遊び」は完全に封印されて、
戯曲そのものの持つ構造の美しさが、
そのまま伝わるような上演となっていました。

岩松了さんの「水の戯れ」などにも、
とても近い世界が展開されているのですが、
これは当時の時代性の一部が反映されているのかも知れません。
ある1人の女性を救うために、
互いに交流を持たない男達が、
孤独で哀切な格闘をする物語です。

ただ、松尾さんは基本的に観客に親切なので、
狂言回しの少年を登場させて、
全てを説明してしまうのですが、
ラストにマリファナ入りのお茶を飲んで竹の花の幻影を見る、
というところなどは、
岩松さんなら絶対に説明しないで、
人物の仕草で匂わすだけですよね。
それを説明するところが、
テネシー・ウィリアムス的資質というか、
松尾さんの意外にアメリカ演劇的なところなのだと思います。

今回の上演で抜群に良かったのは谷原章介さんで、
あの登場の不気味で人間離れした感じは、
目から鱗という印象があり、
これまでの上演で間違いなく一番でした。
これならもっとあの役を膨らませて、
クライマックスで大暴れをしてもらっても良かったですよね。
ラストはやや尻すぼみに感じてしまうのは、
谷原さんが良過ぎたせいだと思います。

今回の上演はそんな訳で、
戯曲の本質的な部分を強く感じさせる、
とてもクオリティの高いものだったのですが、
良いなとは思いながらも、
松尾さんが登場して出鱈目な間合いで劇世界をかき乱すような、
かつての松尾さんのお芝居は、
もう観ることは出来ないのだなと思うと、
少し残念な気持ちにもなるのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「犬王」 [映画]

こんにちは
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
犬王.jpg
古川日出男さんの小説をもとにして、
湯浅政明監督がアニメ映画を作りました。

室町時代に実在した能楽師で鬼才とも言われた犬王を、
異形の肉体を持つ若者として描いて、
友魚という盲目の琵琶法師の少年と共に、
全く新しい音楽を創造する友情と夢と挫折と怨念の物語が、
アニメならでの自由自在の映像表現で、
映像詩のように描かれた意欲作です。

これはひょっとしたら傑作なのかしらと思い、
結構期待して観に行ったのですが、
映画館は閑散としていたので、おやおやと思い、
観てみるとかなり微妙でした。

映像のクオリティはとても高いですよね。
それも、日本のアニメというより、
東欧の神秘的なアニメーションという感じのタッチです。

ただ、多くの人が言っていることですが、
室町時代の話なのに、犬王の音楽がロックで、
クライマックスの楽曲はもろクイーンというのが、
矢張りちょっと変梃りんなんですよね。

これはね、世界観として、
能楽師の対決をポップスターの対決として描く、
ということならいいんですよね。
たとえば、「グレーテストショーマン」の音楽は、
設定当時の音楽では全くないですし、
「ムーランルージュ」は現代のポップスが流れますが、
それはそれで音楽トータルとしては、
時代設定は滅茶苦茶でも、
統一感があるからそれでいいんですよね。
でも、この映画は犬王以外の音楽は、
割とその通りの能楽や琵琶法師の音曲が使われているんですね。
それなのに犬王の音楽だけが、
ロックになっているというところがおかしいのです。
とてもそれでは能楽師同士の対決、
ということにはならないのがおかしいのです。

犬王のキャラも何処か変なんですね。
能楽師の父親が呪いの仮面と契約して、
息子の犬王の身体を悪魔に売り渡してしまうので、
異形の姿で生まれて来てしまうのですね。
それが徐々に人間の姿に、
能楽を学ぶに連れて変貌してゆくのですが、
これ、設定は明らかに「どろろ」なんですね。
そういうお化け物語のような設定なのに、
途中からは普通の芸能ものになってゆくんですね。
観ている側としては、
途中で作品の根幹の部分がすり替わってしまうようで、
とても落ち着かない気分になるんですね。
普通の人間になってしまった犬王が、
割と淡泊にあっけらかんとして描かれているので、
更に釈然としない感じがするのです。

平家の怨霊の話があって、
亡霊みたいなものは沢山出て来るのですが、
呪いの仮面の話もあるので、
異なるベクトルの超常現象があって、
その相互の関連も不明なので、
話がゴタゴタなんですね。
琵琶法師の父親の復讐の話はどうなったの、
というように、
話の交通整理が出来ていないという印象です。

そんな訳で今一つではあったのですが、
カルト的な魅力もある映画であることは間違いがなく、
ブルーレイ化されたらエンドレスで、
作業中に流しておくと結構快適な気分になるような、
そんな1本ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19のリバウンドはあるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や小学校の健診には廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19のリバウンド.jpg
JAMA誌に2022年6月8日掲載されたニュース記事ですが、
新型コロナウイルス感染症のリバウンドと、
それに関わる経口治療薬の関与についての、
少し気になる内容です。

最初にHIV感染症の専門の研究者が、
新型コロナウイルス感染症に罹患した事例が紹介されています。

その研究者は倦怠感などの症状が出て、
抗原検査とRT-PCR検査で陽性を確認。
症状出現から12時間後に、
ファイザー社の経口治療薬である、
パキロビットパック(ニルマトレルビル・リトナビル)の使用を開始しました。

投与開始後4日の時点で症状は改善。
4日目と5日目にも検査を施行して陰性を確認したため、
規定によりその時点で隔離を解除しました。

ところが…
6日間続けて検査が陰性であった時点で、
再び体調不良あり。
抗原検査とRT-PCR検査で陽性が確認されました。

つまり、一旦回復した筈の感染が、
リバウンドした(ぶり返した)としか思えないような事例が、
確認されたのです。

実はこうした事例は1件のみではなく、
国内外を問わずSNSなどでは複数報告されています。

更にはパキロビッドパックの臨床試験においても、
全事例の1から2%で、
そうしたリバウンド事例があったことが確認されています。
ただ、事例は実薬群でも偽薬群でも、
同じように認められていて、
薬の影響ではないというのが、
製薬会社の見解です。

これは勿論推測の域を出ないのですが、
人工的に薬でウイルスの増殖を短期間抑えることにより、
使用期間の5日を終えた時点で、
抑えられていたウイルスの再増殖が起こり、
それがリバウンドに繋がっているという可能性や、
薬剤が身体の免疫機能に抑制的な影響を与え、
それがウイルス増殖期間を遷延させるという可能性は、
理屈ではあり得るという気もします。

その一方で、
オミクロン株の流行以降で、
そうしたリバウンド事例が多いことを指摘する報告もあり、
オミクロン株は確かに潜伏期は短く、
検査が陰性になるまでの期間も短いのですが、
その一方で持続感染の事例も多いのではないか、
というような可能性もあるのです。

オミクロン株の動態はまだ不明の点も多く、
こうしたリバウンドもあり得ることを想定して、
今後は慎重に個々の病状経過を、
臨床医としては見てゆく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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年齢による新型コロナ神経障害発症のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
年齢による新型コロナ後遺症の違いのメカニズム.jpg
bioRxivという査読前の論文を公開しているサイトで、
2022年6月2日公開された、
新型コロナウイルス感染症に伴う神経障害の、
年齢による発症の差のメカニズムを、
動物実験で検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
国内外を問わずこれまでに多くの報告があります。

主にヨーロッパでは、COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
以前ご紹介したアメリカの研究では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
それ以外にロングCOVID(Long COVID)、
というような表現も使用されています。
要するに、まだ統一された概念ではないようです。
今回のイギリスの論文では、
ロングCOVIDという表現がされています。

日本でも罹患後症状、後遺症、後遺障害と、
多くの表現が使用されていて、あまり一貫性のない状態です。
保険病名としては、
COVID-19後遺症という記載も認められています。

いずれにしても、
概ね罹患後3ヶ月を過ぎても、
体調が罹患前と比べて悪い場合に、
そうした表現がされることが多いようです。

後遺症外来と称するものも複数開かれていて、
慢性疲労に使用されるような漢方薬やビタミン剤、
一部のアミノ酸製剤やその誘導体などが使用されているようですが、
明確にその効果が立証されているようなものは現時点ではありません。

中年以降の年齢層においては、
認知症と鑑別が困難となるような認知機能低下や、
抑うつ状態など種々の精神神経症状が、
多く報告されていますが、
そのうちのどの程度の部分が、
実際に新型コロナウイルス感染自体との関連があるのか、
というような点については、
まだあまり分かっていないのが実際だと思います。

今回の研究はネズミ(ラット)の動物実験で、
若年(生後2か月)のネズミと、
中年期に想定される12か月齢のネズミの双方の鼻腔に、
新型コロナウイルスを接種して感染させ、
その後の脳の変化を比較検証しているものです。

その結果、
若年のネズミと比較して中年のネズミでは
脳の炎症性の変化がより強く認められ、
血液脳関門の機能低下と、
Wnt/β-Cateninシグナル伝達経路と呼ばれる神経細胞の代謝経路の機能低下が、
そこに関連していることが示唆されました。

たとえば胃薬での精神神経症状が、
高齢者では出現しやすい理由として、
血液中の物質が脳に移行することを妨げている、
血液脳関門という部位の機能低下が指摘されることがありますが、
同様のメカニズムによって、
新型コロナウイルスも加齢に伴って脳に侵入しやすくなり、
それが脳の炎症を惹起して、
認知機能の低下などに結び付いているのではないか、
という仮説です。

これはまだ査読前の論文の知見で、
それも動物実験であるという点には注意が必要ですが、
新型コロナウイルスの脳への移行に、
年齢が関連しているという考え方は非常に興味深く、
これがより実証的な知見に結び付くことを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸癌検診の開始年齢は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸癌検診と年齢.jpg
JAMA Oncology誌に2022年5月5日ウェブ掲載された、
大腸癌検診の開始年齢についての論文です。

便潜血検査と大腸内視鏡検査を、
適宜組み合わせた大腸癌検診は、
世界的にもその有効性が確認されている、
数少ない癌スクリーニングです。

日本では便潜血を一次検査とした大腸癌検診が、
40歳以上で推奨されていますが、
世界的には概ね50歳以上を推奨とするという地域が多いようです。
ただ、アメリカの専門部会では、
数年前から40歳代からのスクリーニングを推奨しています。
これは大腸癌の発症年齢が低年齢化していて、
50歳未満での事例増加が問題となっているためです。
ただ、これまでの臨床データの多くは、
50歳以降を対象年齢としているものなので、
40歳代でのスクリーニング開始に、
どの程度の有効性があるのかについては、
まだ実証的なデータは少ないのが実際です。

そこで今回の研究では、
アメリカの女性の看護師を対象とした、
大規模な長期の疫学研究のデータを二次利用して、
大腸内視鏡検査の施行年齢とその予後を、
比較検証しています。

対象は111801人の女性看護師で、
登録時の年齢は26から46歳、
1991年から2017年に渡り健康観察が継続されています。

26年を超える観察期間中に、519例の大腸癌が診断されていて、
何らかの理由で大腸内視鏡検査を45歳以前で実施した人は、
実施しない人と比較して、
その後の大腸癌のリスクが63%(95%CI:0.26から0.53)有意に低下していました。
45歳から49歳で内視鏡検査を実施すると、
同様のリスクは57%(95%CI:0.29から0.62)、
50歳から54歳で内視鏡検査を実施すると53%(95%CI:0.35から0.62)、
55歳以上で内視鏡検査を実施すると54%(95%CI:0.30から0.69)の低下、
というように算出されていて、
確かに50歳以上での検査の有効性は明確ですが、
50歳未満で検査を実施することで、
より大腸癌のリスクの低減に結び付いていることが分かります。

50歳から54歳で大腸内視鏡検査を施行した人と比較して、
45から49歳でその施行を実施した人は、
60歳までに診断される大腸癌の累積の罹患率を、
10万人当たり72人減少させる有効性があると試算されました。

これは症状や家族歴などの理由で、
大腸内視鏡検査を施行した人が主体で、
大腸癌検診そのものの有効性を検証しているものではない点に、
注意が必要ですが、
40代での大腸内視鏡検査によって、
その後の大腸癌のリスクが低減されることは間違いがなく、
今後大腸癌検診の対象年齢とその方法については、
より実証的な議論が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチンの組み合わせと有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチン3回接種の組み合わせ.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年5月31日ウェブ掲載された、
新型コロナワクチンの組み合わせと、
その有効性についての論文です。

新型コロナワクチンとして、
最もその有効性が確認され、
データも豊富であるのは、
ファイザー・ビオンテック社と、
モデルナ社による2種類のmRNAワクチンであることは、
間違いがありません。

それに次いで臨床的知見が豊富なのは、
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンで、
それ以外にジョンソンアンドジョンソン社や、
ノババックス社製など、
複数のワクチンの臨床データが発表されています。

これらのワクチンは毎回同じ物を接種するのが原則ですが、
日本でも3回目のブースター接種については、
他の種類のワクチンを使用しても、
問題はないということになっています。
海外では1回目と2回目の接種を、
別個のワクチンで行っている場合もあり、
複数のワクチンを組み合わせた方が、
より効果があるという報告もあります。

それでは、
どのような組み合わせでどのようなワクチンを、
何回接種することが、
最も有効性が高い方法と言えるのでしょうか?

今回の検証はこれまでの53の臨床データを、
まとめて解析したネットワークメタ解析ですが、
無症状と有症状を併せた新型コロナウイルス感染症の予防効果は、
mRNAワクチンを3回接種する方法が最も高く、
96%(95%CI:72から99)に達していました。

アデノウイルスベクターワクチンを2回接種してから、
3回目接種をmRNAワクチンで行うと、
同様の予防効果は88%(95%CI:59から97)と算出されました。

重症化予防効果が最も高かったのは、
同じmRNAワクチンを2回接種した後で、
予防効果は99%(95%CI:79から100)と算出されました。

入院の予防効果が最も高かったのは、
mRNAワクチンを3回接種した場合で、
予防効果は95%(95%CI:90から97)と算出されました。

ワクチンの死亡リスクについての有効性は、
今回のデータの解析からは推計困難でした。

3回のワクチン接種の有効性は、
65歳以上の高齢者でも年齢に関わらず認められ、
α株、デルタ株、オミクロン株による差もありませんでした。

このように、
現状は3回接種に限定した場合、
mRNAワクチンを3回接種することが最も有効性は高く、
複数のワクチンを組み合わせる場合にも、
3回目接種はmRNAワクチンを選択することが、
妥当な選択であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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