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片頭痛と認知症リスク(2022年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
片頭痛と認知症.jpg
Aging Clinical and Experimental Research誌に、
2022年1月31日ウェブ掲載された、
片頭痛と認知症との関連についての論文です。

片頭痛は慢性頭痛の1つで、
30代の女性に多く、
目の前に光が走るなどの前兆の後に、
頭の片側が拍動性に激しく痛む発作が特徴的です。

発作をコントロールする薬については、
トリプタン製剤が発作の軽減に有効で、
最近抗CGRP抗体という注射薬も開発され使用されています。

しかし、片頭痛の原因については、
局所的な脳神経細胞の興奮による、
という考え方が一般的ですが、
それほどクリアに分かっている訳ではありません。
多くの片頭痛は良性の病気ですが、
高齢者における片頭痛は、
脳梗塞や認知症との関連を示唆する疫学データが、
これまでに多く報告されています。

今回ご紹介するのは片頭痛と認知症との関連ですが、
たとえば2020年のthe Journal of Headache and Pain誌に掲載された研究では、
オランダの住民データを元にした解析で、
片頭痛があるとその後の認知症のリスクが1.5倍増加し、
特に閃輝暗点や知覚過敏などの前兆があると、
2.11倍認知症リスクが増加した、
と言う結果が報告されています。

今回の研究は、
これまでの主要な臨床データをまとめた解析した、
メタ解析と進手マティックレビューです。

9つの臨床研究に含まれる、
トータルで291549名の事例を解析したところ、
片頭痛があるとその後の認知症のリスクが、
1.33倍(95%CI:1.16から1.53)有意に増加していました。
このうち特に脳血管性認知症については、
1.85倍(95%CI:1.22から2.81)と、
より高いリスク増加が認められました。

このように、
高齢者での片頭痛は、
認知症のリスクと一定の関連のあることは間違いがなさそうで、
特に脳血管性認知症と関連が深いことは、
脳血管の障害の1つの現れとして、
片頭痛が関与している可能性が高いと推測されます。

片頭痛は特に高齢者においては、
めまいなどと同じく、
脳の状態を表す1つの兆候として、
捉える必要があるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺癌手術後の放射線治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺癌術後アブレーションの有無.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年3月10日掲載された、
甲状腺癌手術後の放射線治療の可否についての論文です。

甲状腺腺癌は一部の未分化癌のような悪性度の高いものを除けば、
一般に生命予後の良い癌として知られています。

ただ、その一方で転移や局所再発は稀ではなく、
そのため欧米においては、
悪性度の低い癌においても、
甲状腺の全摘手術を行なった上に、
放射性ヨードによるアブレーションという、
補助療法を行なうことが一般的です。

放射性ヨードによるアブレーションというのは、
大量の放射性ヨードを使用することにより、
手術で取り残された僅かな甲状腺組織を、
全て身体から除去してしまう、という治療です。

勿論患者さんは甲状腺機能低下症になるので、
その後一生甲状腺ホルモンを飲み続ける必要があります。

そうした弊害がありながら、
何故こうした治療をするのかと言えば、
再発や転移をより減らせると共に、
仮に再発があってもそれを早期に検出することが可能だ、
という利点があるからです。
甲状腺組織から漏れ出る蛋白質にサイログロブリンがあり、
アブレーション後にはその数値はほぼゼロになるので、
サイログロブリンを定期的に測定することにより、
再発の有無をチェックすることが出来るのです。

一方でもともと生命予後の良い甲状腺癌に対して、
アブレーションまでするのは過剰ではないか、
という意見もあります。

日本においては以前から、
甲状腺癌手術後のアブレーションは、
一部の予後の悪いことが想定されるような事例以外には、
あまり行なわれていません。

これは放射線治療を施行可能な施設が、
日本には少ないという事情もあり、
また日本では甲状腺癌は部分切除を行なう事が多く、
早期の事例で全摘はあまり行なっていない、
というような事情もありました。

ただ、最近になり海外でも、
比較的軽症の事例におけるアブレーションの施行を、
見直す動きが出始めています。

今回の臨床試験はフランスにおいて、
18歳以上の分化度の高い甲状腺癌で、
大きさは大きくても2センチ以下で、
局所のリンパ節転移や遠隔転移のないなど、
低リスクと想定される甲状腺癌の手術事例730例を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1.1GBqの放射性ヨードによるアブレーションを施行し、
もう一方は施行せずに経過観察のみ施行して、
3年の経過観察を行なっています。

その結果、
再発などの所見が認められなかったのは、
アブレーション施行群の95.9%、未施行群の95.6%で、
両群に明確な差は認められませんでした。

つまり。アブレーションをしてもしなくても、
低リスクの甲状腺癌であれば差はないことを、
推測させる結果です。

ただ、これはまだ3年の結果なので、
今後より長期の予後の検証が必要ですし、
有害事象についてもより詳細な比較が必要であるように思います。

それでも欧米の甲状腺癌の治療のトレンドは、
変わりつつあることは間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染による脳の変化 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の脳への影響.jpg
Nature誌に3月7日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症後の脳の変化についての論文です。

これはまだ、
正しいとも誤っているとも言いにくいものですが、
一般のニュースにもしばしば取り上げられています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
多くの体調不良が後遺症のように残ることが知られていて、
その中には全身倦怠感や頭痛など、
脳の機能との関連が疑われるものが含まれています。
認知機能の低下が見られたとする報告もあります。

またこの感染症に非常に特徴的な嗅覚味覚障害は、
嗅覚中枢の神経細胞の障害によるという考え方があり、
これは脳病変の1つの現れと考えることが出来ます。

ただ、それではどの程度の脳への影響が、
どのような脳の部分に生じるのか、といった詳細については、
あまり多数の事例を緻密に分析したような、
信頼のおけるデータは存在していませんでした。

今回のデータは遺伝情報と臨床情報を含めた、
大量の医療情報を蓄積しているUKバイオバンクのデータを解析したもので、
平均で141日の間を空けて2回の脳MRI検査を施行した、
51から81歳の785名のうち、
その間に新型コロナウイルス感染症に罹患した401名と、
感染しなかった384名を比較して、
感染による脳構造の変化を比較しています。

その結果コントロールとの比較で、
脳全体の体積はコロナの感染により0.3%程度低下していました。
脳の部位別に見ると、
認知機能や記憶に関わる海馬傍回と、
嗅覚に関わる嗅皮質の部位に、
特に感染による萎縮傾向が強く認められました。
この脳萎縮の程度は0.3から2%くらいのレベルもので、
1年で0.2から0.3%は中年以降は自然に脳萎縮が生じるので、
微妙な程度の差ではある点に注意は必要です。

この脳の感染による萎縮の変化は、
インフルエンザ感染の事例やコロナ以外による肺炎の事例では、
明確には認められませんでした。
ただ、インフルエンザの事例は5例で、
肺炎事例は11例のみですから、
この点についてはまだ検証の余地を残しています。

この新型コロナ感染後の脳萎縮の変化は、
入院にした比較的重傷の事例であった15例を、
除外しても同様に認められていました。

つまり、論文の著者らの意見としては、
今回認められた脳の一部に強く見られる萎縮性の変化は、
感染に伴う嗅覚低下や認知機能低下と関連があり、
新型コロナ感染に特徴的な変化で、
軽症な事例にも認められる、ということになります。

これはもう事実のように報道されていますが、
現状は「そうしたこともあるかも…」というレベルのもので、
今後他のウイルス感染などとの比較や、
より長期の画像的変化などの検証などが積み重ねられることにより、
その真偽が明らかとなる性質のものではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「コンフィデンスマンJP 英雄編」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
JPコンフィデンスマン.jpg
古沢良太さんの凝りに凝った台本が魅力のドラマの映画版、
その3作目となる最新作に足を運びました。
観たのは実際には結構前です。

東出昌大さんがレギュラーですし、
1作目の映画のメインは竹内結子さんと三浦春馬さん、
今回は城田優さんが活躍しますし、
つくづく不思議な巡り合わせのシリーズだな、
という気がします。

今回は最高傑作という評価の方も多かったので、
結構期待を高めて映画館に足を運びました。

結果は…

うーん。
個人的には映画は1作目が一番良かったですかね。
確かにツイストは多いのですが、
オープニングを見ただけで、
多分そういうことなのね、と思っていると、
その通りになってしまった、という感じなので、
少し物足りなく感じました。
尺も少し長すぎると感じました。

コンゲームなので、
もっと大仕掛けの欺しというか、
そこまで全部嘘だったの、
というような大風呂敷が欲しいところなのですが、
今回はメインキャスト3人の競い合いという感じがあるので、
そうしたスケールには乏しいのですね。
それがちょっと物足りなく感じる部分ではありました。

ただ、好きなシリーズではありますし、
とても楽しい作品なので、
今後も是非マンネリ上等で、
続けて欲しいとは思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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飲酒量と脳萎縮との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコールと認知機能.jpg
Nature Communications誌に、
2022年3月4日ウェブ掲載された、
アルコールと脳萎縮についての論文です。

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、
というのは未だ解決はされていない問題です。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
2016年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

2017年に発表されたイギリスの大規模疫学データでは、
概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
というものになっていました。

ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、
一部の癌はより少ないアルコール量でも、
そのリスクが増加した、
というデータもあります。

これまでのデータを整理すると、
アルコールの摂取量が少なくとも、
ノーリスクとは言えないのですが、
その量が1日換算で20から23グラム未満程度であれば、
大きな健康上の問題は生じない、
と考えて良いように思います。

ただ、アルコールの脳への影響、
と言う点についてはそれほどクリアになっていません。

少量のアルコールは認知症のリスクを低下させた、
という報告がある一方で、
脳画像による同様の検証では、
こうしたアルコールの良い影響は確認されていません。

以前記事にしました2017年のイギリスのデータでは、
登録時の平均年齢が43歳の男女550名を、
アルコール摂取量を聞き取りした上で、
30年間の経過観察を行い、
その前後で脳のMRIを撮って、
その所見の比較も行っています。

その結果…

アルツハイマー型認知症の所見として見られる海馬の萎縮(右側)は、
アルコールの摂取量が多いほどその頻度が高く、
1週間のアルコールの摂取量が8グラム未満と比較して、
112から168グラム未満では3.4倍(95%CI; 1.4から8.1)、
168から240グラム未満では3.6倍(95%CI; 1.4から9.6)、
240グラム以上では5.8倍(95%CI; 1.8から18.6)と、
それぞれ有意に増加していました。

認知機能の検査については、
記憶の再生や、
野菜の名前をなるべく沢山言う、
というような意味流暢性の検査では、
アルコール摂取量との関連は認められませんでしたが、
「A」で始まる言葉をなるべく沢山言う、
というような文字流暢性の検査では、
アルコール摂取量が多いほど、
結果が低下しているという相関が認められました。

ただこの研究ではまだ、
認知症の事例が沢山発症する、
という年齢には至っていないので、
実際に認知症の発症リスクが、
アルコールの摂取量で高まるかどうかは確認されていません。

2018年のBritish Medical Journalに掲載された疫学データは、
登録の時点で35から55歳の9087名の男女を、
23年間に渡り経過観察しています。
その結果397名の新規の認知症の発症が認められています。

飲酒量と認知症発症リスクとの関連をみたところ、
1週間に1から14単位(アルコール量で1単位は8グラム)の飲酒と比較して、
14単位(1週間に112グラム)を超える飲酒習慣を、
中年期に持っていた人は、
その後の認知症発症リスクが1.47倍(95%CI: 1.15から1.89)
有意に増加していました。
1週間に14単位以上飲酒をしている人は、
飲酒量が7単位増える毎に認知症リスクは17%増加する、
という推算されています。

この週に112グラムというのは、
1日に換算すると16グラムですから、
日本で適正飲酒量とされる1日23グラム以下より、
かなり少ないということが分かります。

つまり、通常考えられている1日20グラムよりも、
かなり少ない量から飲酒による認知症リスクは増加する、
という結果です。

そして今回のデータはMRIなどの画像による脳の形態のデータを、
飲酒量の聞き取りのデータと対比させたものです。

イギリスのUKバイオバンクに登録された、
健康な中高年の36678名のデータを解析したところ、
飲酒量が増加するほどトータルな脳の容積、
白質と灰白質の容積のいずれもが低下することが確認されました。
経時的なものではないのでその精度には劣る面がありますが、
対象事例数はこれまでで最も多い点が特徴です。

この飲酒による脳萎縮は、
1日10グラム以上のアルコール接種で明確に認められ、
脳萎縮を脳の老化として評価すると、
1日0から10グラムの飲酒と比較して、
1日10から20グラムでは、
2歳の脳の老化が起きていると推計されました。

少量の飲酒に大きな健康上の害はない、
という常識に現状は大きな変化は起こっていないのですが、
より少量の飲酒でも、
認知症の発症には、
若干の関連がある可能性があります。

従って、
飲酒の楽しみを否定するつもりはありませんが、
健康のためには、
1週間単位でなるべくたしなむ程度にしておくのが、
まずは上策ではないかという気がします。

ただ、こうした飲酒に関してのイギリスのデータは、
初めから結果を決めているような感じがあり、
他の分野でもそうしたことはありますが、
あまり厳密な科学ではないと、
そうした印象を持つこともまた偽らざる気持ちなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺ホルモン剤のジェネリックによる違い [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺ホルモンのジェネリックによる違い.png
JAMA Internal Medicine誌に2022年2月28日ウェブ掲載された、
甲状腺ホルモン製剤をジェネリックに切り替えることのリスクについての論文です。

ジェネリック薬品という言葉も、
今ではとてもポピュラーになりました。

ジェネリック薬品と言うのは、
パテントの切れた医薬品を、
自由に他のメーカーも製造販売出来るようにしたもので、
自由に、と言っても当該の国の認可がないと駄目ですが、
新薬は当然開発費などが上乗せされているので、
非常に高額に設定されていますから、
概ねその値段はかなり引き下げられ、
医療費削減の意味でもメリットがあり、
かつ低所得層や発展途上国の患者さんにも、
安価に薬剤を供給するための制度として、
世界的に広く普及しています。

その価格は自由競争で決められることが、
世界的には多いのですが、
日本には薬価制度というものがあって、
国が薬の値段を決めているので、
ジェネリック医薬品の価格も国が決めていて、
同じ性能と品質を持つ商品であるという建前なのに、
国が別の価格を付けているという、
ちょっと歪な仕組みになっています。

日本の場合医療費削減のための帳尻合わせとして、
ジェネリック薬品と薬価制度があるという側面が大きく、
それが必ずしも医療全体の将来であるとか、
バランスであるとかと言った面に配慮していない、と言う点が、
大きな問題であるという気がします。

今多くの一般的な医薬品の流通が、
非常に歪で不安定な状態となり、
昨日まで普通に使える薬が今日は使えない、
という異常な状態が生まれているのですが、
その原因の1つとしてジェネリック制度の歪な実態があるのです。

少し話が反れました。

ジェネリック薬品はその元になる先発薬品と、
基本的には同じ薬効を持っている建前です。

ただ、原材料は同じでも添加物などには差がありますし、
製造工程にも違いはあります。
また本当に同じ成分がどのジェネリック薬品でも、
同じ分量含まれているのか、と言う点についても、
現状は確認する方法はなく、
使用する患者さんや処方する医師、調剤する薬剤師は、
メーカーを信頼するしかない、というのが現状です。

このことは海外でも問題視はされていて、
ジェネリック薬品の種類による薬効の差が、
しばしば議論となっています。

今回の論文で取り上げられているのは、
甲状腺機能低下症で使用される甲状腺ホルモン製剤(T4製剤)ですが、
その吸収により薬効が異なるという微妙な側面があり、
そのため2014年のアメリカ甲状腺学会のガイドラインにおいては、
甲状腺ホルモン剤は原則として、
1つのメーカーの製品を持続的に使用することが望ましい、
という記載がされています。

今回の研究はその妥当性を検証したもので、
アメリカの医療保険のデータベースを活用して、
種々のジェネリック医薬品に、
甲状腺ホルモン剤を途中で変更した場合と、
1つのメーカーの製品を使い続けた場合において、
TSHの数値に変化が見られるかどうかを比較検証したものです。

その結果ジェネリック薬品への変更による、
明確な甲状腺機能への影響は確認されませんでした。

ただ、これをもって全てのジェネリック薬品の品質が同一、
ということは言い切れませんし、
今後は日本においても、
こうした検証が継続的に施行されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「命、ギガ長ス」(2022年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
午前中は新型コロナワクチンの接種があり、
午後はレセプト作業で、
夜はまだ昨日のRT-PCR検査結果を電話掛けの予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
命、ギガ長ス.jpg
2019年に松尾スズキさんと安藤玉惠さんの2人芝居として初演された、
「命、ギガ長ス」が、
ダブルキャストで今再演されています。

今回は宮藤官九郎さんと安藤玉惠さんの、
「ギガ組」の上演に足を運びました。

この作品は初演は観ているのですが、
ブログの感想など読み返すと、
あまり褒めていません。

ただ、今回再見してなかなかの傑作だと思いましたし、
クライマックスのアル中の死に際の妄想では、
素直に感動することが出来ました。

初演の時はもっと過激なものを期待していたので、
やや肩透かしの感じがあったのですね。
確かにもっとキャラが暴走しても良いのに、
と思う部分はありますし、
以前の松尾さんの少人数のお芝居では、
過剰なまでに多くのキャラが入れ替わり出没していましたから、
基本的にアル中の中年息子とその認知症の母親の2人だけで、
それをドキュメンタリーで撮影している女子大生と、
そのモラハラ指導教授のエピソードが、
ちょろっと挿入される程度という今回の作品は、
小さくまとまった、という感じはするのですね。

ただ、それであるだけに、
緻密で奥の深い表現が可能になったのだと思いますし、
それがクライマックスの感動に結び付いたのだと思います。

初演を微調整した松尾さんの演出は、
初演も感じましたけれど実に冴えていますよね。
以前野田秀樹さんの「農業少女」を演出した時も感じましたが、
こういう良い意味でチマチマした小細工が上手いんですね。
舞台イラストも、
吹越さんによる口での音響効果も、
ラストにのみ出現する小道具の扱いも、
場のつなぎ方も、
オープニングの暗転のタイミングも、
まあ実に見事ですよね。
小劇場演出の達人と言うか、
名人芸の域だと思います。

初演は松尾さんのアル中の中年男が、
ややリアルさに乏しい感じはあったのですね。
モラハラの大学教授の方は、これはもう抜群なのですが、
アル中には意外に見えないな、という感じはあったのです。

今回のクドカンは、
その良い意味で貧相な感じが、
松尾さんより役柄に合っていてリアルさがありました。
頑張って生きていて欲しいな、
という気がしますもんね。
その一方でモラハラ大学教授は、
ちょっと違和感はありました。

初演に引き続きの安藤玉惠さんは、
抜群に良かったですね。
彼女の代表作の1つと言って間違いのない出来でした。

お婆さんも女子大生も両方良かったですよね。
両方とも良い意味でエロいのですね。
初演の時はもう少しお婆さんは枯れた感じでやっていたんですね。
でも今回はもっと自然に、
色っぽくやっていて、
この方が絶対いいんですよね。
老人の色気のようなものが、
ある意味この作品のテーマでもあるので、
それが自然に感じられるのがとても凄いと感じました。

そんな訳で小劇場の魅力に溢れた素晴らしい2人芝居で、
是非是非劇場に足をお運びください。
感銘を受けますし、
演出と演技の掛け値なしの名人芸に接することが出来ます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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脂肪肝と低血糖リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
朝は保育園の検診、それから老人ホームの診療と周り、
午後はレセプト作業をして、
夜はいつものように昨日のRT-PCR結果の説明電話に追われる、
というスケジュールです。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脂肪肝と低血糖.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年2月23日掲載された、
脂肪肝炎と低血糖リスクについての論文です。

糖尿病の患者さんの治療において、
大きな問題となるのは、
副作用や有害事象としての重症低血糖です。

糖尿病は全身の血管に障害を起こす病気であり、
糖尿病の患者さんの予後を改善するためには、
血糖を極力正常に近づけることが必要なのですが、
血糖降下剤を使用すると、
その有効性が高いほど、
当然血糖が下がり過ぎて低血糖になる、
という危険性は増加します。

最近開発されたインクレチン関連薬やSGLT2阻害剤は、
それまでのインスリン注射やSU剤と言った薬剤と比較すると、
格段に低血糖のリスクは低くなりましたが、
それでもゼロという訳ではありません。

低血糖では、
異常な空腹感や頭痛、
手の震えなどの症状が出現しますが、
その多くは自律神経症状なので、
抗尿病の合併症である神経障害が進行したような患者さんでは、
このような低血糖症状が出現せず、
急に昏睡状態になって、
初めて低血糖であったことが分かる、
というようなケースも稀ではありません。

重症低血糖は脳などの臓器にダメージを与えますから、
その予防は重症の患者さんほどより必要性が高いのですが、
その一方で重症の患者さんほどその予防が難しい、
というジレンマがあるのです。

同じようなレベルの糖尿病の患者さんでも、
同じように重症低血糖を起こす訳ではありません。

それでは、どのような糖尿病の患者さんが、
重症低血糖を起こし易いのでしょうか?

その1つの因子として考えられているのが、
肝機能の低下です。

典型的なのは肝硬変のケースで、
肝硬変を合併した糖尿病の患者さんでは、
重症の低血糖を来し易いことが知られています。

身体のブドウ糖が不足した状態においては、
糖新生と言って、
肝臓の細胞にグリコーゲンとして保存されている糖質が、
ブドウ糖に変換されて血液中に放出されます。

これが低血糖を予防する働きをしているのですが、
肝硬変では糖新生の働き自体が低下しているので、
低血糖が起こりやすい状態になると考えられているのです。

それでは、より軽度の肝機能障害や肝炎でも、
それがない人と比べれば低血糖は起こりやすいのでしょうか?

非アルコール性脂肪性肝疾患という病気があります。

これは以前は脂肪肝として一括りにされていたものですが、
お酒を飲まない人でも脂肪肝があり、
それが持続的にALT(GPT)の数値を上昇させていると、
肝硬変や肝細胞癌のリスクにもなることが明らかとなって、
最近注目をされている疾患概念です。

これは内臓脂肪の蓄積に伴う、
メタボの1つの現れと考えることも出来ますが、
糖尿病自体もメタボと関連がありますから、
この2つの病気が一緒にあることは、
実際には非常に多いと想定されます。

それではこの脂肪性肝疾患の存在と、
糖尿病の患者さんにおける低血糖の起こりやすさとの間には、
何らかの関連があるのでしょうか?

今回の研究は韓国において、
1945381名の2型糖尿病の患者さんの医療保険のデータを、
後から解析することにより、
この問題の検証を行なっています。

その結果、
関連する因子を補正した結果として、
非アルコール性脂肪性肝疾患を併発していると、
重症の低血糖リスクが、
1.26倍(95%CI:1.22から1.30)有意に増加していることが確認されました。

これはまだ確定的とは言えないデータで、
また別個の臨床データにおいて確認される必要がありますが、
軽度の慢性肝障害においても、
糖尿病治療における重症低血糖が起こりやすいとする今回の知見は、
臨床的には非常に示唆的なもので、
日々の臨床においてもこうした患者さんの低血糖リスクについては、
常に気を付けつつ診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン4回目接種の必要性は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチン4回接種の有効性.jpg
査読前の論文を公開しているmedRxivに、
2022年2月15日公開された、
新型コロナワクチン4回目接種の有効性についての論文です。

現在日本においては、
2回目接種の6ヶ月以降において、
新型コロナワクチンの3回目接種が施行されています。

ワクチン接種が先行しているイスラエルでは、
主にファイザー・ビオンテック社ワクチンが、
21日を空けて2回接種され、
その6ヶ月後に3回目の接種が施行。
その後にオミクロン株の流行が起こったため、
4ヶ月後に4回目接種が、
こちらはモデルナ社ワクチンも採用して、
2種のワクチンにより施行されています。

今回の比較的小規模な検証では、
ワクチン3回目接種後に一定レベル抗体価が低下した医療従事者、
154名にファイザー・ビオンテック社ワクチン、
120名にモデルナ社ワクチンの4回目接種を行ない、
年齢をマッチさせた426名の3回接種者を、
コントロールとして比較しています。

その結果いずれのワクチンの接種においても、
その2週間後のIgG抗体のレベルは9から10倍に、
生きたウイルスを使用した、
オミクロン株に対する中和抗体も8倍に増加していました。

しかし、無症状を含む新型コロナウイルス感染に対する有効率は、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンが30%(95%CI:-9から55)、
モデルナ社ワクチンが11%(95%CI:-43から44)と低く、
有症状感染に対しても、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンが43%(95%CI:7 から65)、
モデルナ社ワクチンが31%(95%CI:-18から60)と、
3回接種と比較して満足のゆく結果ではありませんでした。

要するに4回目接種を施行しても、
それまでに低下した抗体価を一定レベル補完出来るだけで、
それでオミクロン株のブレイクスルー感染を、
完全に抑止出来るような効果は期待出来ない、
という結果です。

まだ査読前の比較的少数の事例の結果で、
もう少し有効性があったとする別個のデータもあるので、
この結果はまだ確定したものではありませんが、
4回目接種についての具体的な方法については、
まだまだ検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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