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パニック障害の薬物治療(ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中のみで終わりますが、
午後の事務仕事などを経由して、
夜はいつも通りRT-PCR検査の結果を待ち、
結果が出次第電話連絡と発生届の提出の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パニック障害の治療薬比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年1月19日掲載された、
パニック障害の薬物治療についての論文です。

パニック障害は海外統計では、
生涯で1から5%は罹患する、
とされているほど多い病気です。

その症状は典型的には、
通勤電車や狭い場所、
ストレスの掛かる会議や発表などの時に、
動悸や呼吸困難などの発作を起こすというものですが、
症状は典型的なものから、
腹痛や頭痛、眩暈など、
自律神経症状と言われるものの多くを内包しています。

こうした発作は一度起こすと、
しばらくは繰り返し易い状態となり、
繰り返すことにより、
また起こるのではないか、
という予期不安と呼ばれる症状が出現、
抑うつ状態を伴ったり、うつ病に移行することもあり、
またうつ病のような精神疾患が、
パニック発作を伴うこともあります。

その治療には、
認知行動療法のような心理療法と共に、
発作の一時的抑制のためには抗不安薬が、
発作を持続的に抑制するためには、
抗うつ剤が使用されます。
抗うつ剤としては、
以前は三環系抗うつ薬と呼ばれる薬が主に使用されていましたが、
今はセロトニンを脳内で選択的に増加させる、
SSRIと呼ばれる薬が主に使用されています。

ただ、本当にSSRIが第一選択の薬と言えるのか、
複数あるSSRIのうち、
最も優れた薬と言えるものはどれなのか、
というような点については、
それほどしっかりとしたデータがある、
という訳ではありません。

今回の研究では、
これまでの87の精度の高い介入試験に含まれる、
トータルで12800名のデータをまとめて解析し、
12種類の薬剤の有効性と有害事象とを、
ネットワークメタ解析と言う手法で直接比較しています。

その結果、
三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、
SSRI、SNRIの4種類の薬剤は、
それぞれ偽薬と比較して、
パニック障害の寛解率を有意に増加させていました。
その有効率をSUCRA(累積順位曲線下面積)という指標で比較すると、
ベンゾジアゼピン系抗不安薬、三環系抗うつ薬、SSRIの3種類が、
他の薬と比べて高い有効性を示していました。

その一方で偽薬と比較した有害事象のリスクは、
ベンゾジアゼピンが1.76倍(95%CI:1.50から2.06)、
三環系抗うつ薬が1.79倍(95%CI:1.47から2.19)、
SSRIが1.19倍(95%I:1.01から1.41)と、
SSRIが他と比較して明確に低いという結果でした。

要するに有効性と有害事象とのバランスという点から考えると、
パニック障害の寛解に向けた薬物治療として、
最も優れているのはSSRIということになります。

今回のデータで解析されたSSRIの中では、
セルトラリン(商品名ジェイゾロフトなど)と、
エスシタロプラム(商品名レクサプロなど)が、
他剤と比較して有効性が高く、
有害事象も他剤と同程度であるので、
治療薬として優れている可能性が高いと判断されました。

ただ、トータルに見て個々のデータの信頼性や精度は、
それほど高いものではなく、
今後より精度の高い診療データが、
この分野の治療の評価には、
必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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