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新型コロナワクチン3回目接種のオミクロンとデルタ株への有効性(アメリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンブースター接種の効果.jpg
JAMA誌に2022年1月21日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の、
オミクロン株とデルタ株への有効性を比較した論文です。

オミクロン株の現在の流行で顕著なことは、
ワクチンの2回接種後にも再感染が普通に見られると共に、
昨年デルタ株に感染している人も、
普通にオミクロン株に再感染しているという事実です。

そこで期待されるのは、
新型コロナワクチン3回目接種の効果ですが、
実際にはクリニックでも既に、
3回目接種後の感染事例を2例経験しています。
いずれも症状は軽微ですから、
ワクチンのために重症化が抑制された、
というように言えなくもないのですが、
もともとオミクロン株の感染は、
軽症の方が殆どなので、
重症化予防ということを、
臨床で実感するのは難しいのが実際です。

実際に3回目接種後の有効性はどの程度のものであり、
デルタ株とオミクロン株に対する有効性には差があるのでしょうか?

今回のデータは、
アメリカの薬局で無料のドライブスルー形式で行われた、
RT-PCR検査によるもので、
その聞き取りからワクチン接種の有無を確認し、
ワクチンの有効性を推測しているものです。
2021年12月10日から2022年1月1日までの検査事例が対象となっています。

トータルで23391例の検査陽性事例が対象となり、
そのうち13098例がオミクロン株で10293例がデルタ株の事例です。
これを46764件の検査陰性コントロールと比較しています。
ワクチンはファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社の、
mRNAワクチンのみが対象となっています。

その結果、
ワクチン未接種と比較した、
ワクチン3回目接種(接種後2週間以降)の有効性(有症状感染予防効果)は、
オミクロン株で67.3%(95%CI:65.0から69.4)、
デルタ株で93.5%(95%CI:92.9から94.1)と算出されました。
また、ワクチン2回接種と比較した3回目接種の有効性は、
オミクロン株で66.3%(95%CI:64.3から68.1)、
デルタ株で84.5%(95%CI:83.1から85.7)と算出されました。
2種のmRNAワクチンとも、
2回目接種6か月以降の有効性は低下していましたが、
デルタ株への有効性のみについて見ると、
接種後11か月までは認められていました。

このように、
ワクチン3回目接種の有効性は、
デルタ株については高いものの、
オミクロン株においては相対的には低くなっていて、
今後オミクロン株に特化したワクチンにシフトするべきか、
その感染力は抜群に高いが重症化しにくいという性質を考えると、
難しい選択を迫られることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2022年2月13 日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
夜はいつものように、
昨日のRT-PCR検査の結果説明にクリニックに行く予定です。
昼には自宅療養者の健康観察の電話を掛けます。

それでは今日の話題です。

今日は新型コロナウイルス感染症の、
クリニック周辺の現況です。

オミクロン株の感染拡大が続いています。

2月の前半はこれまでで一番きつかったかも知れません。
ほとほと疲れましたし、
今も平静な状態ではありません。

幾つかのパートに分けて、
その状況をご説明したいと思います。

➀数字から見る現況
1月にクリニックで行なったRT-PCR検査は、
トータルで275例で、そのうち178例は陽性でした。
月の初めはまだ陰性者が多かったので、
中旬以降のみで見れば、
全体の8割以上は陽性という、
「風邪症状があれば殆ど陽性」
というような状態が続いています。

2月の初めに一時陽性率が50%くらいの日があったので、
これはピークアウトしたのか、
と少し希望的観測を持ちましたが、
たとえば2月10日は18例の検査をして16例が陽性でしたから、
その勢いはまだおさまっていない感じです。

全例に電話をして症状を聞き取り、
療養の説明をしてから、
HER-SYSに発生届けの入力をします。

陰性者が多ければ楽なのですが、
陽性者が殆どという状況なので電話にも時間が掛かり、
終わるのが夜中になるのが通常です。

②高齢者と小児への感染拡大
1月の下旬までは明らかに若年者が感染の主体でしたが、
1月末頃から高齢者施設でのクラスターが目立つようになり、
2月に入って保育園や学校を介する小児の感染が急増しています。

学校も1月のうちは中学や高校が主体だったのですが、
2月になると小学校と保育園、幼稚園にシフトしてゆきます。

幼稚園のクラスで感染者が出ると、
そのクラスの先生とクラスの園児全員が、
濃厚接触者になります。

園児の大半は無症状か極軽度の風邪症状なので、
今の基準だと必ずしも検査をしなくてもいいのですね。

ただ、感触としては、
クラスで1人の園児が感染すると、
ほぼほぼ全ての園児が感染している、
という想定をして間違いのない状態なのです。

感染したお子さんが家に戻ることで、
今度はその家族に感染がひろがります。

今のオミクロン株の感染力では、
これもほぼ家族の全員が感染しますから、
1人が2日後には5人になるというペースで、
感染者が急増するのは、
これはもう自然の経過なのです。

こうした状況をみると、
今の報告された感染者数は、
これはもう既に氷山の一角である、
という現実が見えて来ます。

これは結果論になりますが、
今回の感染拡大期においては、
高齢者の重症化を抑止するためには、
学校や保育園の一斉休校は、
1つの有効な選択肢ではあったのですね。

ただ、2020年に同様のことをして、
「やり過ぎで弊害も大きい」という指摘を受けたので、
今回はその反省を元に踏み込まなかったのですが、
これはオミクロン株の性質を見誤っていたように思います。

③高齢者の入院困難
クリニックでも90歳を超える高齢者の感染を2例経験していて、
そのうちの1例は以前記事にしていますが、
土曜日で行政の入院調整が入らないので、
救急隊が60カ所に電話をして受け入れ先が見付からず、
クリニックで探してどうにか、という事例でした。
もう一例は高齢者施設のクラスターで、
届け出をしてすぐに入院調整を保健所に依頼したのですが、
入院が実現したのは1週間後でした。
オミクロン株そのものの感染によると言うよりも、
発熱で食事がとれなくなり、
衰弱や脱水が進行するのが入院が必要となる主な要因です。

テレビなどで必ず出て来る訪問診療のクリニックがあり、
保健所の依頼で往診に来たのですが、
あそこは点滴などはしないのですね。
来て、診察して帰って、とただそれだけでした。

こうした状況では、
いずれこうした高齢者の重症化や死亡が、
急増することは明らかで、
もう既に地域によっては起こっているのだと思います。
行政による入院調整が、
もう少し効率的に機能する必要がありますし、
それが無理なのであれば、
それまでの待機施設的な場所が、
是非必要であるように思います。
高齢者は宿泊療養の対象にはならないのですね。
入院が前提なのでそうしたことになっているのですが、
入院がすぐには困難な状況であるのですから、
その受け皿が至急必要な状況であるのです。

④検査の渋滞と診断の混乱
昨年は「熱が37.5度以上の方はいきなり医療機関を受診せず、
必ず事前に連絡して下さい」
という張り紙などをして、
多くの医療機関は対応していたと思うのですが、
今は熱がなくても、
風邪症状があるだけで感染の可能性は高いので、
「ちょっと咳が出る」
というくらいの人もトリアージをして、
通常の患者さんと分けて診察する必要があります。

そんな訳で風邪症状のある人は、
必ず事前に電話で連絡の上、
受診して頂くようにお話をしているのですが、
今は電話もひっきりなしに掛かって来て、
その多くは発熱者や濃厚接触者の相談や、
新型コロナワクチンのブースター接種の相談なので、
どうしても通話時間も長くなります。

電話は2回線あるのですが、
両方の電話に出ていると、
結果として診療が成り立たなくなってしまいます。
電話にスタッフが出ている間は、
そのスタッフは他の仕事は出来ないからです。

そのために全ての電話に対応することは出来ず、
結果として「何度電話をしても繋がらない」という状態になるので、
しびれを切らした患者さんは、
結果として直接クリニックに来てしまう、
という悪循環になります。

発熱外来と検査に使用しているブースは、
1人もしくは1家族しか使用出来ないので、
飛び入りの方がそこにお見えになると、
ブースが開くまで外で待って頂くしかなくなります。

クリニックの入り口の外はビルの共用部分の廊下で、
そこで仕方なくそうした患者さんに待ってもらっていたのですが、
他の借り手の方から、
大家さんを通じてクリニックにクレームが入り、
「感染者が通路を塞いでいて怖い」
「感染したらどう責任をとってくれるんだ?」
というようなお話でした。
具合の悪い方が勿論マスクをして通路にいて、
その横を通ることで感染が成立することがあるのだろうか、
それほど忌避の感情が強いのかしら、
というようには思ったのですが、
通路が共用部であることは事実で、
ご迷惑をお掛けしていることも事実なので、
丁重にお受けして対応することにしました。

「患者は通路ではなく、待つ必要があるなら外で待ってもらえ」
ということだったので、
それからは極力外で待ってもらうことにしました。

それがこの前の雪の日でしたか、
そうした飛び入りの方がお見えになって、
ちょっと外でお待ちください、ということになり、
それはもう苦渋の決断でしたが外で待ってもらったところ、
すぐにお怒りになって、
捨て台詞を残してお帰りになりました。

ブルーになります。

検査はなるべく可能な範囲でお受けしたい、
と思っているのですが、
かかりつけは他にあって、
そこに相談したらPCR検査はしていないと言われたので、
こちらに相談しています、
と言われたり、
かかりつけに連絡したら、
PCR検査は混んでいるので1週間後になります、
と言われたのでこちらに相談しています、
と言われたりするので、
最近はそうしたご依頼は、
なるべく「もう一度かかりつけに相談して下さい」
と大変申し訳ないのですが、
そうお話するようにしています。
1週間後というのは明らかな嘘なんですね。
同じクリニックで即日で検査をされたような方も、
他にいることを知っているからです。
かかりつけの患者さんの発熱であれば、
今はPCRセンターも稼働していますし、
幾らでも対応の余地はある筈です。
正式な紹介であるなら勿論お受けしますが、
それもなく「他の医療機関に行け、と言われたから来た」
というのはあまりに無責任ではないでしょうか?
でも、結局は患者さんからお叱りを受けるのはこちらなのです。

ブルーになります。

また近隣の小児科のクリニックですが、
3歳未満の子どものRT-PCR検査は対応していない、
と言って、
乳幼児の検査をこちらに廻して来るんですね。
勿論正式な紹介などではなく、
患者さんが探して連絡をされるのです。
そりゃないよね、何のための小児科なのかしら。
途中からはそのクリニックは、
濃厚接触者で子供が熱を出したと言うと、
連絡を受けただけで、
見做し陽性で発生届を連発するようになったのですが、
聞くとただちょっと咳や鼻水が出る程度のお子さんが、
皆見做し陽性で検査せずに届が出されています。
さすがに全てがコロナというのは無理がある状態で、
見做し陽性がこのように、
単に診察したくない、検査もしたくない、
という患者さんや医療機関の都合だけで、
科学的裏付けなく連発されている現状は、
あまりに酷いと思います。

⑤まとめ
現場は混沌としていて疲弊しています。

クリニックでもスタッフがもう2人、
お子さんの濃厚接触者で休んでいる状態です。

どうにかやりくりして仕事は続けていますが、
通常の業務以外に、
感染者の届け出や健康観察など、
以前は保健所が担っていた業務の多くを、
担わされている状態なのは、
とても理不尽に感じます。

現状を混乱させている元凶は、
軽症者が多く感染力が非常に強いという、
オミクロン株の特性に合った対策がないからで、
デルタ株の時の対策に、
オミクロン株の水際対策時の対策が乗っかって、
一時的に非常に厳しい対策になったのですが、
その後市中感染に移行したということで、
その上乗せの対策のみがなくなったのですね。
そうすると、結局はデルタ株の時の対策が、
そのまま適応される状態が続いているのです。
これが全ての元凶のように個人的には思います。

一刻も早くオミクロン株に合致した対策に、
シフトチェンジをして頂きたいと思います。

まだまだ書き残したところはあるのですが、
長くなり過ぎましたので、
今日はこのくらいにしたいと思います。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「孤独」の有病率(世界113カ国のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

昨日まではバタバタでしばらく更新出来ませんでした。
昨日の夜に一度記事を投稿したのですが、
前の記事を間違えて投稿してしまいました。

もう何か頭が解体しそうな感じです。
何もないとですね、強烈な睡魔で、
何処かに連れて行かれそうな気分になるのです。
今日からは平常に戻せればとは思っています。

今日は土曜日ですが少し間が開いたので医療の話題です。

今日はこちら。
孤独のメタ解析.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年2月9日ウェブ掲載された、
孤独を病気としてとらえた論文です。

孤独というのは、
それが慢性的で重い状態である場合には、
公衆衛生上の大きなリスクになる、
という捉え方を最近はされるようになっています。

ここで言う「孤独(loneliness)というのは、
人が望むような他者との関わりを持つことが出来ず、
そのために強いネガティブな感情を持つことです。

対になるような言葉に「孤立(social isolation)」があり、
こちらは実際に他者と関われないような環境があることです。

たとえばコロナ禍で大学生が友達と交流を持てない、
というのが孤立状態で、
それが続くことにより、
その孤立を強いストレスと感じる、
孤独が生じるのです。

孤独はストレスホルモンを増加させ、
身体の緊張状態を高めます。
疫学的研究では、
多くの心血管疾患のリスクとも関連があると報告されています。

2015年に発表されたメタ解析によると、
慢性的な孤独症状は、
総死亡のリスクを26%増加させ、
これは肥満や運動不足と同じくらいの影響を、
健康に与えると推計されています。

今回の研究はこの病気としての「孤独」の有病率を、
世界113か国の疫学データをもとに解析した、
メタ解析の研究です。

世界113か国の57の疫学研究のデータをまとめて解析したところ、
思春期の孤独の有病率は、
南東アジアが最も低く9.2%(95%CI:6.8から12.4)、
東地中海沿岸地域が最も高く、
14.4%(95%CI:12.2から17.1)に上っていました。

地域ごとの解析データがあるのはヨーロッパのみで、
それによると年齢を問わず、
孤独の有病率が最も低いのは北欧諸国で、
高いのが東欧諸国という傾向が見られました。
ヨーロッパ以外に地域においては、
データのばらつきも大きく、
何を病気としての孤独とするかの統一もないため、
同様の解析は施行することは困難でした。

このように、
仮に孤独を病気として取り扱うとしても、
まだ科学的に使用可能なデータは限られており、
今後何を孤独として定義するのかの定義を含めて、
この問題はより厳密に検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス抗原自宅検査のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

毎日バタバタの状況でありまして、
不定期の更新になっていることをお許し下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ抗原試験のピットフォール.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年1月31日ウェブ掲載された、
新型コロナの抗原検査を、
家で施行する場合の問題点を、
心理的な実験で検証した論文です。

現状新型コロナウイルス感染症の診断のスタンダードは、
遺伝子の特徴的な部分を増殖して判定する、
RT-PCR検査です。

ただ、検査には時間が掛かるため、
迅速な診断には向いていないことが難点です。

抗原検査キットは、
専用のキットを使用すればその場でも、
簡単に結果が出せる点が利点です。

そのため、感染症の流行が拡大して、
全ての感染者や感染が疑われる人が、
医療機関や検査センターを受診して、
検査を受けることが困難な場合には、
自宅で自分で検査をして、
その結果を元にその後の方針を立てることが、
国内外を問わず行なわれています。

ただ、抗原検査は万能ではありません。

検体の採取は通常鼻腔から行ないますが、
鼻の中に綿棒を入れて自分で鼻水や粘液を採取することは、
かなり抵抗のあることなので、
鼻の中が乾燥していて傷みがあるような時には、
検体が適切に採取出来ないこともしばしばあります。

また検査は一定の抗原量がないと陽性にはなりませんから、
はっきり発熱などの症状がある時には、
抗原量も多いことが多く、
感染していれば陽性になることが多いのですが、
無症状やそれに近い状態では、
感染していても陰性になることも想定されます。

実際、クリニックにおいても、
鼻腔からの抗原検査では陰性で、
それでも症状はコロナの可能性が高い、
というような事例で、
RT-PCR検査を施行してこちらは陽性、
というようなケースを多く経験しています。

従って抗原検査は、
発熱などの症状があって感染機会もあり、
接触歴も疑われるような人で、
陽性の結果が出た場合には、
「ほぼ感染している」と判断して良いのですが、
感染を疑わせる症状があっても陰性の場合には、
感染の可能性が否定された訳ではないと考えて、
適切な隔離や療養を行なう必要があります。
また、症状がなく、感染機会も想定されない時に、
抗原検査も陰性であれば、
積極的に隔離を行なう必要はない、
という判断は出来るのです。

それでは、一般の方が自宅で抗原検査を自分で行なった場合、
どの程度適切な判断が下せるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
18歳以上の360名の一般住民に、
色々な条件で自宅で抗原検査を施行し、
それが陽性だったり陰性だったりした時の、
個人の反応をシミュレーションして検証を行っています。

実際に検査をするのではなく、
たとえば、ワクチンを接種していなくて、
発熱した時に、抗原検査が陰性であったら、
どのようにしますか?
というような質問に答えてもらうのです。

その結果、
抗原検査が陽性、という情報があると、
その状況が感染リスクが高いかどうか、
症状があるかどうかにはかかわらず、
95%の方が自分は隔離が必要という判断をしていました。

その一方で、
臨床的に感染リスクが高く、
実際には検査が陽性であっても陰性であっても隔離が必要、
と臨床的には思われるケースであっても、
一旦検査が陰性という情報があると、
何の指示も受けていない人の24%、
公的機関の指導のみを受けた人の33%、
より具体的な感染防御についての指導を受けた人でも14%は、
隔離の必要性を認識していない、
という結果が得られました。

つまり、検査には限界があり、
隔離の必要性の有無は、
検査と臨床症状や感染リスクを、
総合的に判断した上で考えるべきだと、
そうした説明を事前に受けていても、
検査が陰性であると、
無視できない確率で、
隔離の必要性を否定する人が存在する、
ということになります。

その一方で検査が陽性であると、
指導を受けているかいないかに関わらず、
大多数の人が隔離の必要性を理解して行動するようです。

上記研究では通り一遍の説明ではなく、
より具体的な感染防御についての指導を受けていると、
検査陰性の感染者が感染を広げてしまう、
というリスクを、
一定レベルは回避出来ると想定されていて、
そうした教育が感染防御には不可欠であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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赤身肉アレルギーと虚血性心疾患との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療に廻り、
レセプトなどの事務作業をして、
夜は夜とていつも通り、
RT-PCR検査の結果を待って、
電話連絡と保健所への届け出作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肉アレルギーと心血管疾患.jpg
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology.誌に、
2022年1月20日ウェブ掲載された、
赤身肉によるアレルギーと虚血性心疾患との関連についての論文です。

食物アレルギーは、
現代病ではないかと思われるほど増加していて、
多くの方が苦しまれていますが、
そのメカニズムには、
まだ不明の点が多く残っていて、
抜本的な治療の方法も確立されていないなど、
多くの問題があります。

最近肉を食べた後に数時間してから、
アナフィラキシーと呼ばれる、
呼吸困難や血圧の低下などを伴う、
重症のアレルギー症状が出現する事例が、
特にアメリカの南東部に多く発症することが注目され、
その発症のメカニズムが、
全てではありませんが、
解明されつつあります。

食肉アレルギー、
すなわち牛肉や豚肉などを食べて、
蕁麻疹などのアレルギー症状の出る方は、
食物アレルギー全体の中では、
稀なケースと考えられていて、
その多くは食肉のみのアレルギーではなく、
多くの食品にアレルギーのあるケースで、
症状も湿疹の悪化など、
軽症の場合が多いと考えられて来ました。

人間も哺乳類ですから、
その蛋白質の組成に、
牛や豚と大きな違いはありません。

通常の食物アレルギーというのは、
食物の中に含まれている、
人間の身体には存在しないタイプの蛋白質に対して、
それを抗原とするIgE抗体というタイプの特異的な抗体が出来、
抗原と抗体との反応が、
アレルギー症状に結び付くものと考えられています。

それは基本的には即時型のアレルギー、
すなわち食べれば1時間以内に症状が出現する、
というパターンを取ります。

その理屈で言うと、
食肉の成分の蛋白質に対して、
IgE抗体が産生される、
という可能性は低く、
それが食肉アレルギーが少ない理由と考えられるのです。

ところが…

これまで原因不明のアナフィラキシーと考えられて来た症状の中に、
実は食肉の遅延性アレルギー反応によるものが、
混ざっているのではないか、
という見解が最近提唱されています。

一体何故、
そんなことが起こるのでしょうか?

それは、
赤身の肉に多く含まれる成分である、
galactose-α-1,3-galactose(略してα-Gal) と呼ばれる一種の糖鎖が、
抗原となってそれに対する特異的なIgE抗体を造り、
それが食肉アレルギーの原因ではないか、
という仮説です。

α-Galに対するIgE抗体の存在は、
そもそもセツキシマブという抗癌剤の副作用の分析から発見されました。

セツキシマブの使用により、
アナフィラキシーが、
特定の地域の患者さんに多く発生し、
その原因を分析したところ、
セツキシマブ自体の構造にα-Galと同じ糖鎖があり、
それに対するIgE抗体が存在する患者さんに、
症状が発現することが確かめられたのです。

アナフィラキシーは通常、
予め特異的なIgE抗体が存在する場合に、
2回目以降の抗原との接触で、
生じる現象の筈です。

しかし、
セツキシマブのアナフィラキシーは概ね薬剤の初回の投与で発症しています。

つまり、
セツキシマブでアナフィラキシーを起こした患者さんは、
それ以前に何らかの形で、
α-Galの抗体を産生するような機会があった筈です。

それは一体何だったのでしょうか?

赤身の肉にα-Galが多く含まれていることより、
ここで食肉アレルギーとセツキシマブのアレルギーが結び付きます。

両者は同じようにして起こっている現象なのです。

しかし、
牛肉を食べても、
体内にはα-Galに対する抗体は産生されません。

その初回の産生刺激は、
意外なことに、
アメリカ南東部に多い、
吸血ダニに咬まれることにより産生されることが、
最近になって初めて明らかにされました。

通常IgE抗体というのは、
蛋白質の抗原に対して産生されます。
α-Galは糖鎖であって蛋白質ではありません。

ところが、
ダニに咬まれてダニ蛋白に感作されると、
同時にα-Galに対する抗体が産生されるのです。

何故そんなことが起こるのでしょうか?

そのメカニズムは不明です。

メカニズムは不明ですが、
実際にそうしたことが起こり、
ダニに咬まれてからしばらくして、
肉を食べると、
その肉に含まれるα-Galと身体が反応して、
概ね食事後3~6時間後に、
アナフィラキシーのような強いアレルギー反応が起こるのです。

何故症状発現まで時間が掛かるのかについては、
身体に吸収されたα-Galが、
中性脂肪のリポ蛋白上にくっついて、
それが抗原として認識されるので、
時間が掛かるのではないか、
という説がありますが、
まだ実証されたものではないようです。

これも最近になって、
赤身肉アレルギーと虚血性心疾患との関連が指摘され、
それほど精度の高いデータではありませんが。
その関連が注目されています。

今回の研究はその点を、
心臓病に関わる疫学研究のデータを解析することで検証したものです。

対象は虚血性心疾患を疑って、
冠動脈CT検査を施行した1056名で、
血液中のα‐Gal抗体を測定して、
その解析を行なっています。

その結果、
年齢や性別、他の虚血性心疾患のリスク因子を補正して比較したところ、
α‐GalのIgE抗体が陽性であることで、
石灰化のない動脈硬化巣(プラーク)のリスクは1.62倍(95%CI:1.04から2.53)、
閉塞性の虚血性心疾患のリスクは2.05倍(95%CI:1.29から3.25)、
それぞれ有意に増加していました。

また、ST上昇を伴う心筋梗塞の患者では、
健康なコントロールと比較して、
α‐GalのIgE抗体の陽性率が、
12.8倍も高くなっていました。

このように、
赤身肉アレルギーと心筋梗塞との間に、
一定の関連のあることは間違いがなさそうですが、
それが直接の関係であるのか、
それとも何か別の因子が介在しているのか、
現時点では何とも言えません。
ただ、この関係性は非常に興味深く、
今後より詳細な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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パニック障害の薬物治療(ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中のみで終わりますが、
午後の事務仕事などを経由して、
夜はいつも通りRT-PCR検査の結果を待ち、
結果が出次第電話連絡と発生届の提出の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パニック障害の治療薬比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年1月19日掲載された、
パニック障害の薬物治療についての論文です。

パニック障害は海外統計では、
生涯で1から5%は罹患する、
とされているほど多い病気です。

その症状は典型的には、
通勤電車や狭い場所、
ストレスの掛かる会議や発表などの時に、
動悸や呼吸困難などの発作を起こすというものですが、
症状は典型的なものから、
腹痛や頭痛、眩暈など、
自律神経症状と言われるものの多くを内包しています。

こうした発作は一度起こすと、
しばらくは繰り返し易い状態となり、
繰り返すことにより、
また起こるのではないか、
という予期不安と呼ばれる症状が出現、
抑うつ状態を伴ったり、うつ病に移行することもあり、
またうつ病のような精神疾患が、
パニック発作を伴うこともあります。

その治療には、
認知行動療法のような心理療法と共に、
発作の一時的抑制のためには抗不安薬が、
発作を持続的に抑制するためには、
抗うつ剤が使用されます。
抗うつ剤としては、
以前は三環系抗うつ薬と呼ばれる薬が主に使用されていましたが、
今はセロトニンを脳内で選択的に増加させる、
SSRIと呼ばれる薬が主に使用されています。

ただ、本当にSSRIが第一選択の薬と言えるのか、
複数あるSSRIのうち、
最も優れた薬と言えるものはどれなのか、
というような点については、
それほどしっかりとしたデータがある、
という訳ではありません。

今回の研究では、
これまでの87の精度の高い介入試験に含まれる、
トータルで12800名のデータをまとめて解析し、
12種類の薬剤の有効性と有害事象とを、
ネットワークメタ解析と言う手法で直接比較しています。

その結果、
三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、
SSRI、SNRIの4種類の薬剤は、
それぞれ偽薬と比較して、
パニック障害の寛解率を有意に増加させていました。
その有効率をSUCRA(累積順位曲線下面積)という指標で比較すると、
ベンゾジアゼピン系抗不安薬、三環系抗うつ薬、SSRIの3種類が、
他の薬と比べて高い有効性を示していました。

その一方で偽薬と比較した有害事象のリスクは、
ベンゾジアゼピンが1.76倍(95%CI:1.50から2.06)、
三環系抗うつ薬が1.79倍(95%CI:1.47から2.19)、
SSRIが1.19倍(95%I:1.01から1.41)と、
SSRIが他と比較して明確に低いという結果でした。

要するに有効性と有害事象とのバランスという点から考えると、
パニック障害の寛解に向けた薬物治療として、
最も優れているのはSSRIということになります。

今回のデータで解析されたSSRIの中では、
セルトラリン(商品名ジェイゾロフトなど)と、
エスシタロプラム(商品名レクサプロなど)が、
他剤と比較して有効性が高く、
有害事象も他剤と同程度であるので、
治療薬として優れている可能性が高いと判断されました。

ただ、トータルに見て個々のデータの信頼性や精度は、
それほど高いものではなく、
今後より精度の高い診療データが、
この分野の治療の評価には、
必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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