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新型コロナウイルス治療の経口薬モルヌピラビルの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
モルヌピラビルの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年12月16日掲載された、
メルク社の新型コロナウイルス感染症経口薬、
モルヌピラビル(Molnupiravir)の有効性についての論文です。

モルヌピラビルは新型コロナウイルス感染症治療薬として、
初めて開発された飲み薬で、
その後にはファイザー社の同種目的の飲み薬が控えています。
今のところの情報から言うと、
真打はファイザー社の経口薬のような感じですが、
まだ査読を受けた臨床試験の論文は出ていません。

今回の論文はモルヌピラビルの、
第三相臨床試験の結果をまとめたものです。

モラヌピラビルというのは、
遺伝子の材料である核酸に類似の物質で、
新型コロナウイルスが細胞に感染した際、
合成酵素であるウイルスのRNAポリメラーゼに、
本物の核酸と間違って取り込まれ、
その複製を妨害して、
増殖出来ないような不出来なウイルスを産生させることにより、
ウイルスの増殖を阻害する、
という性質の薬です。

今回の臨床試験では、
高齢(60歳を超える)や肺疾患、肥満など、
1つ以上の新型コロナウイルス感染症重症化のリスクを持ち、
入院適応ではない軽症から中等症の新型コロナウイルス感染に罹患して、
その症状出現後5日以内の患者、
トータル1433名を、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分け、
一方はモラヌプラビルを1回800㎎を1日2回で5日間使用、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
登録後29日までの経過観察を行なっています。

その結果、
開始後29日の時点までに入院もしくは死亡した事例は、
モルヌピラビル群では解析可能の385名中7.3%に当たる28名で、
偽薬群では377名中14.1%に当たる53名でした。
モルヌピラビルの使用により、
入院もしくは死亡のリスクは絶対リスクで6.8%有意に低下した、
と計算されました。(interim analysis)

実際の死亡事例はモルヌピラビル群で1名であったのに対して、
偽薬群では9名で、
モルヌピラビルは死亡リスクを89%低下させた、
ということになります。

ただ、この数値が報道などでも当初宣伝され、
死亡リスクを9割低下、のように言われたのですが、
実際には軽症の事例が殆どなので、
この少数の死亡事例の比較をもって、
そうした表現は過大であるように感じます。

そのメカニズムから言っても、
この飲み薬に一定の有効性のあることは事実と思われますが、
軽症の事例の予後を、
臨床的に意味があるほど改善するものであるのかは、
極めて微妙なところで、
個人的にはファイザー社の経口薬の、
試験結果の詳細を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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