SSブログ

新型コロナワクチン接種後の心筋炎と心膜炎リスク(デンマークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オランダ コロナワクチンの心筋炎.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年12 月16日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチン接種後の、
心筋炎と心膜炎のリスクについての論文です。

この問題はこれまでにも何度も検証され、
論文やレターはブログでも何度も紹介しています。

新型コロナウイルス感染症予防のための、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
2種類のmRNAワクチンが、
その有効性において高い効果を上げていることは間違いがありません。

その安全性についても、
概ね満足のゆくデータが得られています。

ただ、幾つか気になる報告もあり、
その中で一番注目されているものの1つが、
ワクチン接種後の心筋炎や心膜炎の発症リスクの増加です。

これは報告の事例の多くが、
10代の男性であることに特徴があり、
その年齢層での疫学データにおいては、
他の年齢層よりも明確に高い発症率を示しています。

ただ、成人での発症事例も報告はあり、
その頻度についてはまだ議論のあるところです。

今回のデータは国民総背番号制の取られているデンマークにおいて、
年齢が12歳以上の住民4931775名を対象としたもので、
ワクチン接種後28日以内に発症した心筋炎や心膜炎の事例を、
2種のmRNAワクチン毎に比較検証しているものです。

トータルで269名の心筋炎もしくは心膜炎の事例が報告され、
そのうちの40%に当たる108名は12から39歳で、
73%に当たる196名は男性でした。

ファイザー・ビオンテック社ワクチンを接種した3482295名のうち、
28日以内に発症した心筋炎もしくは心膜炎は48例で、
これはワクチン未接種者の1.34倍(95%CI:0.9から2.0)と算出されています。
つまり、ワクチン後のリスクは高い傾向はあるものの、
有意なものではありません。
その頻度は10万接種当たり1.4件です。
男女別では女性の発症リスクが3.73倍(95%CI:1.82から7.65)で、
男性では0.8倍(95%CI:0.50から1.34)と、
女性のみで有意な増加が認められました。
年齢を12から39歳に絞ると、
その頻度は10万接種当たり1.6件とやや高くなっていました。

一方でモデルナ社ワクチンを接種した498814名のうち、
28日以内に発症した心筋炎もしくは心膜炎は21例で、
これはワクチン未接種者の3.92倍(95%CI:2.30から6.68)で、
こちらは接種者で有意に高くなっていました。
その頻度は10万接種当たり4.2件です。
男女別では女性の発症リスクが6.33倍(95%CI:2.11から18.96)で、
男性では3.22倍(95%CI:1.75から5.93)と、
こちらは男女とも有意な増加が認められました。
年齢を12から39歳に絞ると、
その頻度は10万接種当たり5.7件とより高くなっていました。

このように、
ワクチン未接種と比較してワクチン接種者において、
その後28日以内の心筋炎と心膜炎のリスクは増加していました。
ただ、リスク増加が全体で明確なのはモデルナ社ワクチンのみで、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンでは、
そのリスク増加は女性のみで有意に認められています。

これまでの報告は若年男性で多いというものが多かったので、
今回のデータとは異なる部分があります。
従って、この問題はまだ解決されているとは言い難く、
今後も幅広くデータが蓄積される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

「あなたの番です 劇場版」(ネタばれ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
あなたの番です.jpg
オリジナルのミステリードラマとして、
好評を博した「あなたの番です」の映画版が、
今ロードショー公開されています。

ミステリーは大好きで、
小学校からクリスティー、カー、クイーン、クロフツと、
創元推理文庫を読みあさっていたので、
結構年期は入っているのです。

ミステリーは小説と映像では、
かなりテクニック的に違いがあるので、
本来は小説の原作物ではなくて、
映像は映像のオリジナルが望ましいのですが、
高度な技巧が必要とされるので、
優れた映像オリジナルのミステリー作品というのは、
本当に少ししか存在していません。

その点「あなたの番です」のドラマは、
かなり頑張っていて、
最初に殺したい人のメモが交換されるのですが、
その内容が常に議論されながら、
最後の最後になって、
完全にクリアになるように出来ています。
映像でなかなかここまでやった作品は、
あまりないように思います。
脇筋のギャグパートで、
内容が引き延ばされている感じがあるのがやや残念ですが、
構成的にも幾つかの謎が連鎖的に登場して、
連鎖的に解決され、
ショッキングな前半のラストに至る、
という構成もかなり考え抜かれています。

今回の映画版はマーベル映画でも定番の、
並行世界的構想で、
交換殺人が起こらなかった場合を想定し、
その2年後にクルーズ船で主人公2人の結婚式が行われるという設定で、
そこでの殺人事件を1本の映画にしています。

以下少しドラマと映画の内容についてのネタバレがあります。

まだ鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。

よろしいでしょうか?

それでは続けます。

これ、完全に西野七瀬さんのための映画なんですね。
まあ存在するだけで周りの人達を翻弄し、かき乱して、
互いに殺し合いをさせてしまうような特異な女性なんですよね。
ドラマ版の方も、結局は西野さんがテーマのドラマ、
という感じがありますし、
その存在によって歪められ暴走する世界というのが、
言ってみればその世界観の根幹なんですね。
それで映画はその変奏曲として始まるのですが、
彼女の存在をどう葬るのか、というのが一貫したテーマで、
それが曲りなりにも彼女の死によって、
1つの結末を迎えて終わるのです。

その意味ではドラマがA面とすれば映画はB面で、
これでこの世界は完結した、
という言い方は出来るのです。

ただ、映画としては失敗していますよね。

まず並行世界にした意味が、
あまりないですよね。
せっかく世界を変えるのですから、
もっとそのための力学が欲しいし、
変えたことによる展開の意外性が欲しいですよね。
ミステリーとしても、
閉じ込められた船内という典型的な密室劇ですし、
もっと結晶体のような濃縮された世界が欲しかったのですが、
内容的には元のドラマの殺人劇を、
ただ、舞台を船内に移して展開させた、
という点がつまらないと思いました。

犯人もまあ、引き算的に言うとそのくらいしかないのですが、
ドラマ版から推定されるキャラのまま着地するので、
かなりガッカリではありました。

僕はオリジナル脚本のミステリー映画というだけで、
かなり喜んでしまう方なので、
観て損とは思いませんでしたが、
一般の映画ファンにとっては、
おそらく失望以外の感想はなかったかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

ほうれん草と尿路結石リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ほうれん草と尿路結石.jpg
J Am Soc Nephrol誌に2007年に掲載された、
食事のシュウ酸の接種量と、
腎尿路結石リスクとの関連についての論文です。

腎結石の予防というような解説記事を読むと、
ほうれん草の制限が必要となることがある、
というような記載があります。
ほうれん草にはシュウ酸カルシウム結石の要因である、
シュウ酸が多いためだと大抵書かれています。

ただ、その根拠となるような具体的な知見は、
ほぼほぼ何処にも記載されていません。

これは単純にシュウ酸がほうれん草に多い、
ということだけから導かれた知見であるのか、
それとも疫学データなり臨床試験なりで、
ほうれん草の接種量と結石リスクとの関連が、
明確に示されているのか、
一体どちらなのか疑問に思い文献検索をしてみたところ、
まとまった疫学データとして目に留まった文献です。

内容を読んでみたところ、
ほぼほぼこの論文をソースとして、
解説記事が書かれていることが分かったので、
今回ご紹介します。

腎尿路結石の原因には幾つかありますが、
最も多いのがシュウ酸カルシウム結石によるものです。

シュウ酸(oxalate)は、
ほうれん草、タケノコなどに多く含まれる灰汁の成分ですが、
身体ではビタミンCなどの代謝産物などとしても合成されます。
つまり、コレステロールと同じように、
身体から排泄されるシュウ酸には、
食事由来のものと、
身体の代謝由来のものの2種類があるのです。
尿に排泄されるシュウ酸のうち、
どのくらいが食事由来であるかは正確には分かっておらず、
これまでの報告でも10から50%とかなりの幅があります。

それでは、
実際にほうれん草などシュウ酸を多く含む食品の摂取が、
どの程度腎結石のリスクと関連を持っているのでしょうか?

今回の研究は、
アメリカの有名な医療従事者の、
大規模な疫学データを事後解析したもので、
ほうれん草などのシュウ酸を多く含む食品の摂取が、
その後の腎尿路結石の発症に与える影響を検証しているものです。

HPFS(Health Professionals Follow-up Study)には、
男性の医療従事者45985名が含まれ、
NHS1(Nurse Health Study 1)には、
登録時30から55歳の女性の医療従事者92872名が、
NHS2(Nurse Health Study2)には、
登録時25から42歳の女性の医療従事者101824名)が含まれています。
今回の研究ではこの3つの集団を個別に解析して、
その比較を行なっています。
観察期間は連結で44年を超えるという長期間の研究です。

その結果観察期間中に4605件の腎尿路結石の事例が発症し、
食事のシュウ酸が最も少ない群と比較して最も多い群では、
腎尿路結石の発症リスクが、
男性で1.22倍(95%CI:1.03から1.45)、
比較的高齢の女性(NHS1による)で1.21倍(95%CI:1.01から1.44)、
それぞれ有意に増加していました。
NHS2を解析した比較的若年女性では、
そうした有意な増加は認められませんでした。
男性では、カルシウムの摂取量が少ない群において、
よりリスクが高い傾向が認められました。

今回の検証では食事由来のシュウ酸のうち、
その4割以上はほうれん草によるものでした。
そこでほうれん草の摂取量と腎尿路結石との関連をみたところ、
最もほうれん草の摂取が少ない群と比較して多い群(月に8単位以上)では、
腎尿路結石の発症リスクが、
男性で1.30倍(95%CI:1.08から1.58)、
比較的高齢女性(NHS1による)で1.34倍(95%CI:1.10から1.64)と、
それぞれ有意に増加が認められました。

このように、
食事のシュウ酸が多いと、
若干ながら腎尿路結石のリスクは増加していました。
ただ、それが主因であると言うほど明確なものではなく、
「原因の1つ」という程度のものと思われます。
また、以前からカルシウムやマグネシウムの摂取が多いと、
腎尿路結石のリスクは低下するとされていて、
その原因は食事のシュウ酸が消化管でカルシウムやマグネシウムと結合し、
そのまま便中に排泄されるからと説明されていますが、
それを裏打ちするようなデータも得られています。

従って、シュウ酸カルシウムによる腎結石が指摘された方は、
ほうれん草などの野菜はなるべくあく抜きして使用する、
というくらいの配慮は必要ですが、
あまり神経質に食事制限をする必要はなく、
むしろカルシウムを多めに摂ることなどに、
気を付けた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

オミクロン株の遺伝子解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株の構造.jpg
これはまだ未発表の論文のサーバーに掲載されていたものですが、
オミクロン株の遺伝子の特徴を、
他の変異株との比較において検証した内容です。

デルタ株の猛威が日本では収束に向かいつつある中、
世界では新しい変異株であるオミクロン株(B.1.1.529)が、
その強い感染力でデルタ株に切り替わっています。

どうやらその重症化率は、
デルタ株よりかなり低そうなのですが、
感染力が高いことは間違いがなく、
その性質は不明の点が多いのが実際です。

それでは、オミクロン株の遺伝子解析から、
何か分かることはあるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
オミクロン株の構造の図1.jpg
これは新型コロナウイルスの主要な変異株のうち、
アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、
そしてオミクロン株の5種の変異株の持つ、
スパイク部の遺伝子変異の部位と種類を表示したものです。

変異の多くには共通性があるのですが、
オミクロン株はこれまでの変異株より多い、
26箇所のアミノ酸の変異を有していて、
そのうちの23カ所は塩基の置換によるもので、
2カ所は欠失によるものですが、
残りの1カ所は、
別の塩基が挿入されたins214EPE変異で、
これについては、
これまでの変異株に見られない、
オミクロン株のみの特徴です。

実はこの挿入による変異は、
元々別個の感冒の原因ウイルスである。
HCoV-229Eというコロナウイルスが、
身体の細胞に同時に感染することで、
行なった可能性があるのです。

こちらをご覧下さい。
オミクロン株の構造の図2.jpg
これはオミクロン株になる前段階のウイルスと、
通常の感冒の原因となるコロナウイルスが、
人間の細胞に同時に感染した状態を仮定したものです。
細胞内で感冒のウイルス遺伝子の一部が、
新型コロナウイルスの遺伝子に挿入され同一化することにより、
オミクロン株が生まれたのではないか、
というメカニズムが提示されています。

本当にこの通りのことが起こったかどうかは推測でしかないのですが、
弱毒性の通常の感冒ウイルス遺伝子の一部が、
一体化することによってオミクロン株が生まれ、
その感染力を増した一方、
性質としては弱毒化して、
通常感冒に近づいているのではないか、
という推測は非常に興味深く、
今後の臨床的な検証を注視したいと思います。

SF的には、
強毒性のウイルス流行時に、
そのウイルスに弱毒性の感冒ウイルス遺伝子を、
意図的に組み込むことにより、
弱毒化して収束される、
というようなアイデアも面白そうですし、
何より遺伝子の変異自体は常に生じているのに、
何故特定の変異株のみが、
増殖してその勢力を拡大し、
感染の主体を占めるに至るのか、
その構造にその秘密があるのかどうか、
というような点など、
現実として考えるとゲンナリですが、
フィクションとして考えれば、
興味は尽きないところです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

深部静脈血栓症に対する2種の抗凝固剤の直接比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アピキサバンとリバロキサバンの比較.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2021年12月7日ウェブ掲載された、
2種類の広く使用されている抗凝固剤の有効性と有害事象を、
比較検証している論文です。

心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。

古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。

この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。

ただ、複数ある同系統の薬剤のうち、
いずれが有効性と安全性の面において優れているのか、
というような点については、
各製薬メーカーの売り上げに直結するような事項でもあり、
直接比較的なデータはあまり存在していないのが実際です。

ネットワークメタ解析などによる知見では、
他の薬剤と比較してアピキサバンが、
その有効性は他剤と見劣りはせず、
重症な出血系合併症の発症率は最も低いと報告されていますが、
これはメタ解析なので限界もある結果です。

今回の研究はアメリカの医療保険のデータを活用して、
深部静脈血栓症の再発予防目的で新規に使用開始された、
アピキサバンとリバロキサバンのデータを、
マッチングして解析したものです。

18618名のアピキサバン開始患者と、
同じ18618名のリバロキサバン開始患者を、
年齢などをマッチングして、
中間値でアピキサバンが102日、
リバロキサバンが105日の経過観察を行なったところ、
アピキサバン群はリバロキサバン群と比較して、
静脈血栓症や肺塞栓症の発症リスクが23%(95%CI:0.69から0.87)、
消化管出血や脳内出血の発症リスクが40%(95%CI:0.53から0.69)、
それぞれ有意に低下していました。

つまり、リバロキサバンよりアピキサバンの方が、
有効性は高く、出血系合併症は低かった、
というかなりクリアな結果です。

この結果はこれまでのメタ解析などの結果と一致するもので、
事例によってはリバロキサバンの方が、
その有効性においては勝っている可能性のあるので、
一概にリバロキサバンの劣性を証明するものではありませんが、
一般的使用における第一選択の直接作用型抗凝固剤として、
アピキサバンの優位性は定まりつつあると、
そうした言い方はしても間違いではないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

原発性副甲状腺機能亢進症の手術の高齢者骨折リスクへの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
副甲状腺切除の骨粗鬆症への効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年11月29日ウェブ掲載された、
副甲状腺切除術と骨折リスクとの関連についての論文です。

副甲状腺というのは、
甲状腺の背部に4つある小さな腺組織ですが、
そこから分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)は、
甲状腺とは全く異なる作用を持っています。
PTHは血液のカルシウム濃度を調節し、
骨の形成と維持に必要不可欠な働きをしているのです。

その副甲状腺にしこりが出来て、
無調節にホルモンを分泌するようになると、
血液中のPTHは上昇して骨からカルシウムを融解させ、
骨量は減少して骨折が起こしやすくなりますし、
血液中のカルシウムが上昇。
口渇や脱水など糖尿病に似た症状が出現し、
より高度では痙攣や意識障害が生じることもあります。

これを原発性副甲状腺機能亢進症と呼んでいます。

副甲状腺機能亢進症の治療は、
原則として腫大した副甲状腺を切除する手術治療です。

ただ、この病気は65歳以上の高齢者に多く、
症状がないか比較的軽度である場合には、
手術は行なわないことも多いことが報告されています。

問題は原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんに手術治療を行なうと、
その後の骨折リスクが本当に低下するのか、
という点についての、
実証的なデータがあまり存在していない、
という点にあります。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療保険のデータを解析する方法で、
65歳以上で原発性副甲状腺機能亢進症と診断された、
トータル210206名の患者データを抽出し、
その予後を手術をした場合としない場合とで比較検証しています。
診断された患者のうち手術が施行されたのは、
30.0%に当たる63136名のみで、
残りの70.0%に当たる147070名は手術はせずに経過観察がされています。

その結果、
平均で58.5ヶ月の観察期間において、
手術が施行されなかった場合と比較して、
手術が行なわれた場合には、
全ての骨折のリスクが22%(95%CI:0.76から0.80)、
大腿骨頸部骨折のリスクが24%(95%CI:0.72から0.79)、
それぞれ有意に低下していました。

つまり、原発性副甲状腺機能亢進症の手術により、
その後の骨折リスクが低減されることが、
事例を登録して経過をみるような調査ではないので、
その点の限界はありますが、
初めてこれだけ大規模な検証で、
確認されたということになります。

今後はこうしたデータを元にして、
原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応について、
より厳密な検証が必要だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

城山羊の会「ワクチンの夜」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ワクチンの夜.jpg
大好きな城山羊の会の新作公演が、
今日まで三鷹市芸術文化センター星のホールで、
上演されています。

体調もかなり悪く、
レセプトもあるしとギリギリの感じだったのですが、
どうにかこうにか行って来ました。

1つのそれなりに裕福な家庭の人間関係の揺らぎを、
新型コロナワクチン2回目接種後の,
体調不良の一夜に限定して描いた作品で、
こうした「性」を梃子にした家庭劇は、
これまでにも何度かありましたが、
今回は途中で時間が飛んだりしない完全に一幕一場の形式で、
非常に緻密で完成度が高い作品に仕上がっていたと思います。

その一方で、
あまり破天荒な仕掛けや、
ファンタジーに振れているような部分などはないので、
全体がまったりとした感じで進み、
ラストまで平坦な形で終わってしまった、
という感じもありました。

城山羊の会の作品のエロスというのは、
シェイクスピアやモーツァルトに近い感じのそれですね。
この作品の若い男女と大人の男女を対比させる設定とか、
何より「森の番人」という設定などに、
「夏の夜の夢」や「フィガロの結婚」が彷彿とされます。
現代的なものとは少し味わいの違う、
古典的なエロスが描かれていて、
それがこの作品を格調高くしている一因だと思います。

役者は岩谷健司さんと岡部たかしさんがともかく抜群で、
今回は岩谷さんのお父さんが岡部さんという、
ちょっとあり得ないような設定なのですが、
それが何となく納得させられてしまう、
というだけでも凄いですし、
今や2人とも映像でも売れっ子ですが、
間合いにしても表情にしても、
映像とは全然別個の表現、
城山羊の会ならではの芝居を、
貫いている点が素晴らしいと思います。

小劇場の実力のある役者さんは、
テレビや映画などに出てそれなりに売れるようになると、
演技のスタイルが変わってしまって、
雰囲気もこぎれいになってしまって、
舞台に出るととてもつまらなくなってしまう人が多いですよね。
岩谷さんも岡部さんも、
1つの会話に2つのリアクションを時間差で微妙に付け加えるような、
城山羊の会特有の演技術を、
とても高いレベルで、
かつ素人の観客にも分かり易いように、
映像で売れても舞台では質を落とさず演じ続けているという点に、
今回はとても感銘を受けました。

今回は体調も悪く、
集中力もやや切れ気味の観劇であったので、
次回は体調万全で新作を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ご下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヴェノム.jpg
マーベルの敵キャラを主人公にしたシリーズの第二弾で、
上映時間は98分とマーベル映画としては短いですし、
80年代テイストのアクション映画として、
それほど派手さはありませんが、
ストレスなく見ることが出来ました。

敵キャラはほぼビジュアルは同じで、
色が赤いだけなんですよね。
それじゃ区別が付かなくて盛り上がらないのじゃないかしら、
と思っていたのですが、
実際に見ると、
取り憑かれた人間体が、
トム・ハーディとウッディ・ハレルソンという濃いメンツなので、
そうした混乱はないのですね。

何かもうアメリカ映画はマーベルしかないのかしら、
というような勢いですね。
ともかく滅多矢鱈と作品がありますし、
多層宇宙と開き直っているので、
死んだ筈のヒーローも平気で甦りますし、
時空を変えれば一度バットエンドになっても、
簡単にハッピーエンドに書き換えられてしまいます。

そうした何でもありを上手く利用して、
作品毎に多彩な魅力があり、
正統的なヒーローものもあれば、
ホラー色の強いもの、80年代アクション映画から、
ラブロマンス、哲学的で壮大なファンタジーまで、
何でもござれです。

ただ、何かモヤモヤする感じもあります。
今回の映画もひねった肉弾戦のアクション映画として、
なかなか完成度が高く仕上がっているのに、
クライマックスは定番のCGショーになってしまいますし、
ラストではスパイダーマンの世界と繋がってしまいます。
まあでも商売としての映画は、
こうでないと成立しないのかも知れません。

でも、五月蠅いことを言わなければ、
80年代テイストのダークなアクション映画として、
なかなか緻密な仕上がりになっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

白内障手術と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
白内障手術と認知症.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年12月6日ウェブ掲載された、
高齢者の白内障手術が、
認知症リスクに与える影響についての論文です。

老化で起こる病気の代表は認知症ですが、
視力や聴力などの感覚機能も、
視力は白内障や黄斑部変性症などによって、
聴力は老人性難聴によって、
同様に低下してゆきます。

長く患者さんを経時的に診ていると、
視力が低下したり、聴力が低下することによるストレスが、
結果としてその後の認知症の発症に、
結び付いているのではないか、
と思えるような事例に多く遭遇します。

実際、感覚器からの信号は脳に情報として入るのですから、
両者は強く結び付いていることは間違いがないのです。

視力低下や聴力低下がその後の認知症の発症に結び付いているとして、
そうした感覚機能の低下を改善することにより、
認知症は予防可能なのでしょうか?

その点についての実証的で信頼のおける研究データは、
これまであまり存在していませんでした。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
年齢が65歳以上で認知症がなく、白内障と診断された3038名を、
加齢の影響を解析する大規模疫学データから抽出し、
白内障の手術を行なった場合とそうでない場合とで、
その後の認知症発症リスクの差を比較検証しています。

その結果、
白内障を手術で治療すると、しない場合と比較して、
観察期間中の認知症発症リスクは29%(95%CI:0.62から0.83)、
有意に低下していました。
別個に視力の改善にはあまり結び付かない、
緑内障の手術の有無で同様の比較を行なっても、
同様の認知症リスク低下は認められませんでした。

この結果からは、
白内障の手術による視力の改善が、
その後の認知症の予防に繋がった可能性が示唆されます。

この問題はまだ検証が必要ですが、
現状決め手となるような認知症の予防や治療が確立されていない現在、
コントロール可能なこうしたリスクの管理は、
非常に重要な視点であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(2)  コメント(0) 

新型コロナワクチンのデルタ株への有効性(ニューヨークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニューヨークのコロナワクチンの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年12月1日掲載された、
新型コロナワクチン3種の有効性を、
ニューヨークで経時的に検証した論文です。

新型コロナウイルスワクチンのうち、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンと、
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンに、
若干の差はあるものの、
高い有症状感染の予防効果と重症化予防効果のあることは、
ほぼ確認されている事実です。

しかし、その有効性はデルタ株の感染が、
世界的に主流となるにつれて低下しています。
ただ、それがデルタ株の特性によるものなのか、
それともワクチン接種後の時間経過によるものなのか、
と言う点については、
色々な推測はあるものの、
実地の臨床データは少ないのが実際です。

今回の検証はニューヨークにおいて、
ワクチン接種歴と新型コロナワクチンの感染歴が確認されている。
8690825名のデータを解析したものです。
そのうち150865名が新型コロナウイルス感染症の診断事例で、
14477名が入院となった重症事例です。

2021年5月1日の週ではデルタ株の感染は全体の1.8%でした。
ファイザー・ビオンテック社ワクチンのその時点での有効率の中間値は、
91.3%(84.1から97.0)で、モデルナ社ワクチンは96.9%(93.7から98.0)、
アストラゼネカ社ワクチンは86.6%(77.8から89.7)と算出されました。

3種類のワクチンの有効性は時間と共に同じように低下し、
2021年5月1日の週には中間値で93.4%(77.8から98.0)であったのが、
デルタ株が全体の85.3%であった7月10日頃には73.5%(13.8から90.0)となり、
デルタ株が99.6%になった8月28日の週には74.2%(63.4から86.8)に低下していました。

その一方で新型コロナウイルス感染の入院リスクは、
18歳から64歳の年齢層においては、
3種のワクチンの全経過において86%を超えていて、
デルタ株が拡大した時期においても低下することはありませんでした。

65歳以上の年齢層での入院リスクは、
2021年の5月から8月の間に、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンが94.8から88.6%まで低下。
モデルナ社ワクチンも97.1から93.7%に低下していました。
アストラゼネカ社ワクチンは、
元の重症化予防効果はやや見劣りがする一方、
その低下幅は小さくなっていました。

今回のニューヨークのデータでは、
3種類のワクチンのいずれにおいても、
デルタ株に対する有症状感染の有効率は低下していましたが、
高齢者以外の重症化予防効果は、
高く維持されていることが確認されました。
ただ、65歳以上の年齢層では重症化予防効果も低くなっていて、
今後はより詳細な検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0)