SSブログ

新型コロナウイルス感染症に対する抗体療法や血清療法の有効性(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ロナプリーブの有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年9月23日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
中和抗体をなどを利用した治療法の有効性についての
メタ解析の論文です。

新型コロナウイルス感染症に対する治療薬は、
多くの候補薬が名乗りを挙げ、
臨床試験などが行われていますが、
今のところ決め手となるような治療薬は開発されていません。

重症肺炎を来したような事例においては、
対処療法に加えて、
デキサメサゾンなどのステロイド剤と、
抗ウイルス剤のレムデシビルが、
一定の予後改善効果が認められ、
日本でも標準治療として使用されています。

ただ、比較的軽症の事例において、
その予後を改善したり、
入院や集中治療を要するような、
重症化を阻止するような治療法は確立していません。

この軽症から中等症の患者への、
重症化予防の治療として、
最近日本でも使用が開始されているのが、
「抗体カクテル療法」です。

商品名がロナプリーブというこの治療薬は、
カシリビマブとイムベビマブという、
それぞれ異なる構造を持ち、
新型コロナウイルスの抗原蛋白に結合して、
その増殖を阻害する作用の抗体を、
2種類混合した薬剤です。

2種類混合して使用するのは、
1種類ではその結合部位に変異が起こり、
有効性がなくなる可能性があるからです。

こうした中和抗体製剤としては、
ロシュ社が開発したロナプリーブ以外に、
グラクソ社のソトロビマブという単独抗体製剤、
イーライリリー社のバムラニビマブという単独抗体製剤と、
バムラニビマブとエテセビマブという、
2種の抗体のカクテル製剤があります。

それ以外にもう少し原始的な方法ですが、
血清療法と言って、
新型コロナウイルス感染症から回復した患者の血清を、
そのまま投与する方法や、
そこから抽出したガンマグロブリンを使用する方法、
更には中和抗体のみを取り出して使用する方法、
なども行われています。

こうした方法は主に緊急的に使用されているもので、
その本質はそこに含まれている、
新型コロナウイルスに対する中和抗体を利用する、
というものですから、
その安定供給の面でも、
予期せぬ副反応や有害事象の予防という面でも、
先にご紹介した中和抗体製剤が優れていて、
その中でも2種類以上の抗体を混合した、
カクテル製剤の方が、
変異株などにも有効性が期待出来るのでは、
と想定はされます。

ただ、実際にはこうした治療を直接比較したようなデータは存在していません。

今回の研究では、
リビング・システマティックレビューとネットワークメタ解析、
という最新の手法を用いて、
抗体療法や血清療法の有効性を比較しています。

2021年7月21日までに発表された、
トータル47の臨床試験データをまとめて解析し比較した結果、
中和抗体のカシリビマブとイムデビマブの合剤(ロナプリーブ)は、
軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の患者の入院リスクを、
71%(95%CI:0.17から0.47)有意に低下させていました。
これは中等度の信頼性を持つ結果です。
中和抗体単独製剤のバムラニビマブは、
同様のリスクを76%(95%CI:0.06から0.86)、
バムラニビマブとエテセビマブの合剤は、
同様のリスクを69%(95%CI:0.11から0.81)、
ソトロビマブの単独製剤は、
同様のリスクを83%(95%CI:0.04から0.57)、
それぞれ有意に低下されていましたが、
これはいずれも信頼性は低い結果です。

ロナプリーブのみが、
抗体陰性の感染者の死亡リスクを低下させる、
というデータを有していますが、
事例が少ないために実証されたとまでは言えないもので、
それ以外の抗体製剤は、
入院リスクの低減以外の有効性は確認されていません。

この中和抗体製剤の入院予防効果は、
最初から入院を要するような、
重症事例においては確認されていません。

また、中和抗体製剤以外の血清療法や免疫グロブリンなどの治療は、
入院予防効果を含めて、
明確な治療の有効性が確認されませんでした。

このように、
現状軽症から中等症で、
診断の時点で酸素療法や入院の必要性のない、
新型コロナウイルス感染症に対して有効な治療は、
中和抗体製剤のみで、
その中でも抗体カクテルのロナプリーブは、
限定的ながら死亡リスクの低減の可能性を示すデータがあります。

それ以外の治療については、
現時点で信頼の置ける有効性のデータはないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。

今後はこの中和抗体療法を、
どのように効果的に活用するかが、
新型コロナウイルス感染症の治療において、
最も重要な論点の1つとなりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0)