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認知症治療薬と転倒骨折リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症治療薬と骨折リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年9 月9日ウェブ掲載された、
認知症に使用する薬の使用と、
転倒骨折リスクとの関連についての論文です。

認知症の高齢者は不穏などのため、
転倒骨折を起こしやすいことが知られています。

認知症の進行抑制のためには、
コリンエステラーゼ阻害剤という、
脳内の神経伝達物質、
アセチルコリンを増やす薬が使用されます。

従って、この薬の使用により認知症の症状が改善すれば、
患者さんの転倒骨折が減少する可能性があります。
その一方でコリンエステラーゼ阻害剤の有害事象に、
副交感神経が緊張することによるふらつきや意識消失があり、
そうした症状は転倒骨折のリスクを高める可能性があります。

抗精神病薬も認知症患者の不穏に対して、
使用されることが多い薬剤です。
その使用により不穏や興奮が落ち着けば、
転倒骨折のリスクを減らせる可能性がありますが、
こちらもその一方で、
鎮静が強くかかるとふらつきなどが起こり、
転倒骨折のリスクをより高めるという可能性もあります。

このように、どちらの薬も諸刃の刃という側面がありますが、
それでは実際に未治療の時期と比較して、
そうした薬がどれだけ骨折リスクを増加させるのか、
という点については、
それほど実証的なデータがあるという訳ではありません。

今回の検証は台湾において、
65歳以上で抗精神病薬もしくはコリンエステラーゼ阻害剤を使用し、
転倒もしくは骨折を来した15278名を解析し、
転倒もしくは骨折を起こした時期と、
薬の使用開始時期との関連を検証しているものです。

その結果、
どちらの治療薬も使用していない期間の、
転倒もしくは骨折の発症率は、
年間患者100人当たり8.30件(95%CI:8.14から8.46)であったのに対して、
治療開始前2週間においては、
年間患者100人当たり52.35件(95%CI:48.46から56.47)と非常に高く、
抗精神病薬のみの使用期間では10.34件(95%CI:9.80から10.89)、
コリンエステラーゼ阻害剤のみの使用期間では9.41件(95%CI:8.98から9.86)、
2者の併用の使用期間では10.55件(95%CI:9.98から11.14)と、
こちらも未治療と比較すると有意に増加していました。

確かに認知症の患者に抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害剤を使用すると、
転倒や骨折のリスクは増加していますが、
実際にはその使用直前に、
最もそのリスクは増加しています。
これは薬そのものが転倒骨折のリスクになったと言うより、
そうした薬を使わざるを得なかった、
病状悪化がその要因であった可能性を示唆しているように思われます。

この結果をもって、
直ちに抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害剤の使用が、
転倒骨折リスクを増加させないとは言えませんし、
一定のリスクにはなっている可能性が高いと思いますが、
こうした薬の使用後の骨折が、
全て薬の影響とは言えないことも確かで、
薬剤の使用と想定される有害事象との因果関係の検証は、
それほど単純なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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