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脳梗塞専用救急車活用の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳卒中の救急治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌の、
2021年9月9日号に掲載された、
脳梗塞の治療迅速化の試みの効果についての論文です。

脳梗塞の治療に大きな進歩となったのは、
日本では2005年から保険適応された、
組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の使用です。

この注射の血栓溶解剤は、
脳梗塞(虚血性梗塞)の発症早期に使用することにより、
詰まった血栓を溶解して、
血流を再開する効果があります。

ただ、それは同時に出血のリスクを増すことでもあり、
また脳梗塞による阻血から一定時間が過ぎると、
その有効性より出血などのリスクの方が、
より高くなってしまうことから、
発売当初は病気の発症から3時間以内、
現時点でも4時間半以内にその使用が行なわれる必要があります。

しかし、いつ何処で起こるか分からない脳梗塞です。

たとえば自宅で急に言葉が出ない、手足が動かない、
などの症状が出現したとして、
それから救急車を呼び、
救急車が来て、t-PA治療が可能な病院に搬送、
病院に着いてから、
迅速に頭部CT検査や血液検査などを施行し、
t-PA治療の適応であることを確認して、
治療に至るまでの時間が4時間半以内というのは、
かなり難易度の高いハードルであることは、
容易に想像が付きます。

それでは、より迅速に脳梗塞の患者さんのt-PA治療を可能とするには、
どうすれば良いのでしょうか?

その方法の1つとして期待されているのが、
脳梗塞専用の救急車を作って、
そこにCT検査や血液検査など、
t-PA治療の適応判定に必要な検査機器を附属させ、
専門の医療スタッフが乗り込んで、
患者さんを搬送しながら、
同時に検査と治療を開始しよう、
というような試みです。

既に欧米で複数の臨床研究が行なわれていて、
今回の報告はアメリカの多施設での試験結果をまとめたものです。

全体で脳梗塞発症早期の1515名が登録され、
そのうちの1047名がt-PA治療を施行されました。
このうち617名は脳梗塞専用救急車が活用され、
430名は通常の救急車で病院に運ばれて治療を受けました。

その結果、
脳梗塞症状が出現してから治療開始までの中間値は、
通常の救急車による搬送では108分であったのに対して、
脳梗塞専用救急車を活用した場合には72分に短縮しました。
通常の救急車の搬送では治療可能であったのは79.5%であったのに対して、
脳梗塞専用救急車では97.1%の患者さんが治療を施行されました。
発症後3ヶ月の時点で後遺症がなかった患者さんの比率は、
通常搬送が44.4%に対して脳梗塞専用救急車では55.0%で、
脳梗塞専用救急車の活用により、
24%の患者さんが後遺症なく治癒される、
という結果が得られました。

このように、
1分でも早く治療を開始することにより、
間違いなく脳梗塞の予後の改善が得られていて、
今後はその場で診断と治療が可能な救急車両の活用が、
最近話題のドラマではありませんが、
救急医療の目玉として、
議論されるようになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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