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新型コロナウイルスワクチンの肝硬変患者への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肝硬変患者への新型コロナワクチンの有効性.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年7月13日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチンの、
肝硬変の患者さんに対する有効性についての論文です。

新型コロナウイルスワクチンのうち、
mRNAワクチンである、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチンが、
感染予防に高い有効性を示していることは、
臨床試験と市販後の疫学データを含めて、
実証されている事実です。

ただ、その臨床試験においては、
重い内臓疾患があったり、免疫不全のあるような患者さんは、
最初から除外されているので、
そうした患者さんに対する有効性は、
実際に接種が拡大して以降のデータを解析しないと分かりません。

そうした臨床試験の除外疾患の1つが、
肝臓の機能が高度に低下した状態である肝硬変です。

肝硬変の患者さんでは、
免疫の主体である抗体を作る機能も低下しているので、
免疫力は弱く、
新型コロナウイルス感染症も重症化を来しやすいと想定されます。

この点からは、
肝硬変の患者さんは積極的にワクチンを接種するべき対象である、
ということになります。

その一方で肝硬変の患者さんでは、
免疫の働きが低下しているので、
ワクチン接種後の身体の免疫反応も弱いことが想定されます。

つまり、ワクチンの有効性も、
肝硬変のない人より低くなる、
という可能性が高い訳です。

ここにワクチン接種においての1つのジレンマがあります。

免疫の低下したような患者さんは、
積極的にワクチンを接種するべき対象ですが、
ワクチンの有効性もまた低い可能性があるのです。

それでは、実際に肝硬変の患者さんへのワクチンの有効性は、
肝硬変のない人と比較してどの程度のものなのでしょうか?

今回のデータはアメリカの退役軍人を対象とした、
肝疾患の疫学データを活用して、
肝硬変を持ち、1回以上ファイザー社もしくはモデルナ社の、
mRNAワクチンの接種を行なった20037名を、
肝疾患や年齢などの要素をマッチングさせた、
20037名のワクチン未接種者と比較して、
ワクチンの有効性を検証しているものです。

その結果、
ワクチンの初回接種後28日以降においては、
肝硬変患者のワクチンによる、
遺伝子検査で診断された新型コロナウイルス感染症予防効果は64.8%で、
新型コロナウイルス感染症に伴う入院や死亡のリスクの、
予防効果は100%でした。
ただ、肝硬変の状態で分けて解析すると、
非代償性肝硬変の感染予防効果は50.3%で、
代償性肝硬変の66.8%と比較して低率になっていました。
これを2回目の接種後7日以降で解析すると、
感染症予防効果は78.6%で、
入院や死亡のリスクの予防効果は100%でした。

このように、
臨床試験での95%程度と比較すると、
肝硬変の患者さんのワクチン予防効果は、
少し落ちることは間違いがありませんが、
それでも重症化予防という意味では高い有効性を示していて、
mRNAワクチンは肝硬変の患者さんにおいても、
接種に意義のあることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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