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「森フォレ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当しました。

レセプトでギリギリの攻防があり、
更新は夜となってしましました。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
森フォレ.jpg
レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドが、
2006年に描いた戯曲「森フォレ」が、
今三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演されています。

ムワワド原作、上村聡史さん演出の舞台は、
前作の「岸リトラル」は観ているのですが、
正直その時はこの作品の真価が分からず、
苦痛なだけの観劇でした。

今回も、どうなのかしら、僕向きではないかな、
と思っていたのですが、
最初の1幕はちょっと抵抗もあったものの、
お話が進むにつれグイグイと引き付けられ、
特に3幕は最初から最後まで壮絶な場面の連続で、
演劇の快楽に酔いしれる時間となりました。

これね、2010年のモントリオールを舞台にして、
若い2人が自分達の血筋を過去へと遡る、
という物語なのですが、
次々と極彩色の絵巻物のように展開する歴史物語は、
何と19世紀中頃の普仏戦争まで遡り、
都合8から9世代に渡る多種多様なキャラが登場します。

普通こんな話、ごちゃごちゃするだけで、
とても成功しないと思うでしょ。

それがそうではないんですね。

歴史が遡るにつれ、
ゴシックロマンス的雰囲気が、濃厚に立ち上り、
現代には想像もつかない、
得体の知れない怪物が闊歩する異世界が、
立ち上がるのですね。

特にドイツアルデンヌの森に暮らす、
狂気の一家の物語は、
松尾スズキさんのかつてのアングラ芝居を彷彿とさせるような、
尋常ならざる凄味があり、
僕は大好きな松尾さんの「キレイ」を鑑賞しているような気分で、
この芝居の3幕前半を味わいました。

この芝居にはそうしたグランギニョール的な魅力があるのですが、
その後半には生涯出逢わなかった筈の親子が、
実は物語の前半で出逢っていた、
という極め付けの感動があり、
後半になって物語の本当に伝えたい部分が露わになると、
凡百の演劇では到底辿り着けないような、
深い感動が待っています。

これね、若い女性が自分の血筋を辿り、
そのルーツを辿るというお話なのですが、
結果的には人間にとって血筋や肉親、家族というものは、
実はあまり意味のないもので、
本当に重要なのは人間が共有している思いで、
それが世代や環境を越えて伝わり広がるところにこそ、
人間の本質があるという思想に至るのですね。

それを、2人の人間の性別を超えた魂の交流の中に、
具現化していると言う点に、
この作品の素晴らしさがあるのです。

凄い芝居だと思います。

演出もキャストもこの芝居の素晴らしさを、
十全に知っていることの分かる布陣で、
とても安定感がありますし、
現在日本で望みうる、
最高純度の演劇を見せてくれます。

キャストは全て素晴らしいのですが、
良い意味で無国籍性があって、
たとえば2幕で瀧本美織さんと麻美れいさんが出会うところなど、
国籍の違和感がまるでないのに感心します。

主役の瀧本美織さんは、
良くも化けたなあ、という、
ちょっと見には本人とはとても分からない見事な芝居で、
彼女が核になったことが、
この作品に華やかさを添えて、
その質を1段高いものにしていたと思います。

休憩を入れて3時間40分、
堂々たる大作で、
観賞に不安を覚える方もいるかと思いますが、
演劇の興趣に満ち、高い志を持った間違いのない傑作で、
日本で望みうる翻訳演劇の頂点として、
全ての演劇ファンに自信を持ってお勧めしたい傑作です。

凄いですよ、最高です。

ご興味のある方は是非!

石原がお送りしました。
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