SSブログ

妊娠中の鉄剤には何が最適なのか?(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠中の捏材の有効性.jpg
Lancet Heamatology誌に、
2021年6月26日ウェブ掲載された、
妊娠中の鉄欠乏性貧血の治療についての論文です。

鉄欠乏性貧血はもともと若い女性に多い病気ですが、
妊娠中には女性の半数は鉄欠乏の状態になる、
とも言われています。
妊娠中は血液量も増え、
鉄の必要量が増加するからです。

このため妊娠中には鉄の補充が必要と考えられ、
妊娠中の鉄欠乏性貧血の治療ガイドラインも作成されています。

ただ、実際にはどのような鉄剤を、
どのような基準で用いるのが適切か、
といった具体的なことについては、
あまり実証的なデータがないのが実際です。

鉄剤には飲み薬と注射薬があり、
いずれも複数の種類があります。
飲み薬は簡単に使用が出来ますが、
吐き気や便秘などの副作用が結構高率に生じるため、
継続が妊娠中には困難なことも多いのが実際です。
注射に関しても、稀にショックなどの有害事象があり、
静脈注射のために医療機関に通わないといけない、
というストレスもあります。

今回の研究はこれまでの臨床データを、
まとめて解析したシステマティックレビューと、
ネットワークメタ解析で、
この問題の現時点でも知見を整理しているものです。

これまでの53の臨床研究に含まれる
3037事例の結果をまとめて解析したところ、
内服の鉄剤である硫酸鉄と比較して、
注射の鉄剤であるIron Sucroseは、
その使用により妊娠中のヘモグロビンと、
貯蔵鉄の指標であるフェリチン値を有意に増加させ、
別の鉄剤の注射薬であるFerric Carboxymaltoseは、
ヘモグロビン濃度を有意に改善していました。
しかし、それ以外の静注鉄剤については、
明確な差を示すデータは存在していませんでした。

経口鉄剤は吐き気や嘔吐などの消化器症状が強く、
注射の鉄剤の方が有害事象は少ないのですが、
稀に注射部位の痛みや腫れ、アレルギー反応などが報告されています。

要するに注射の鉄剤として、
明確にその効果が内服より優れているというデータがあるのは、
Iron SucroseとFerric Carboxymaltoseの2剤のみで、
他の薬剤に対しては、明確なデータはない、
というのが今回の結果です。

日本においては、
注射の鉄剤はSaccharated Ferric Oxideのフェジンと、
Ferric Carboxymaltoseのフェインジェクトの2剤のみで、
圧倒的にフェジンの使用頻度が高いと思いますが、
この薬の信頼のおけるデータは少なく、
低リン血症という特有の副作用があるので、
世界的にはあまり推奨はされていない薬です。
以前はもっと多くの剤型があったのに、
今このような事態になっているのは、
利益を生まない薬は発売を止めるという製薬会社の方針と、
必要な薬や世界的に評価されている薬などの薬の質を無視して、
全ての薬の薬価を下げ続け、
新薬のみを重用する厚労省の悪しき姿勢があるからで、
今後世界的に評価されている薬剤は、
優先的にその質を評価するような姿勢が、
行政とメーカーには望まれているように思われてなりません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(1)