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コーヒーと不整脈リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと不整脈.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年7月19日ウェブ掲載された、
コーヒーと不整脈リスクとの関連についての論文です。

久しぶりの一流誌に載ったコーヒー関連論文です。

コーヒーが多くの健康に良い効果を持ち、
1日3杯程度のコーヒーを飲むことが、
健康に良い習慣として世界中の専門機関に認められていることは、
このブログをお読みの皆さんには、
改めて言うまでもないことかと思います。

ただ、まだコーヒーやカフェインを含む飲み物が、
良くないとされている知見もあって、
その1つがカフェインによる不整脈誘発リスクです。

一部の専門学会のガイドラインには今も、
コーヒーなどのカフェインを含む飲み物は、
不整脈を誘発するリスクがあると記載されています。

ただ、
確かにカフェインには交感神経の刺激作用があるので、
心臓を刺激して不整脈を増やすのでは、
という可能性はあります。
しかし、それは推測であって証明されたものではなく、
こうしたリスクの裏打ちとなっているデータは、
1980年代の古い観察研究があるだけです。

今回の研究はこの問題の再検証を行なったもので、
大規模な遺伝子多型を含む臨床データである、
UKバイオバンクのデータを活用して、
トータル386258名の一般住民を平均で4.5年観察し、
不整脈の発症リスクとコーヒーやカフェイン含有飲料の摂取習慣との関連を、
カフェイン代謝に関わる遺伝子多型を含めて、
比較検証しています。

その結果、
他の不整脈リスクに関わる関連因子を補正した結果として、
習慣的なコーヒーの摂取は、
1杯当たり3%、不整脈の発症リスクを低下させていました。
このリスク低下は、
特に心房細動や上室性頻拍で強く認められていました。
カフェインの代謝酵素の遺伝子多型による解析では、
カフェインの代謝と不整脈リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでした。

このように、
少なくとも一般住民での解析では、
コーヒーの摂取は不整脈リスクを、
用量依存的に抑制していて、
その抑制効果はカフェインとは、
無関係である可能性が高いという結果です。

コーヒーが不整脈を誘発するという考え方は、
今後ガイドラインなどにおいても、
書き直される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症情報(2021年7月20日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はいつものクリニック周辺の感染症情報です。

先週までは、
東京の感染者が1000人を超えそうだというけれど、
一体何処で増えているのかしら、
というような感じであったのですが、
この1週間くらいでかなり状況は緊迫してきています。

クリニック周辺でも、
ホテル療養のホテルも満室、
入院先の病院も全て満床、
という状態が続いていて、
待機の患者さんが膨れ上がって来ています。

数日前に保健所からの依頼で、
新型コロナで自宅待機中の患者さんが、
胸の痛みを訴えて、
胸部レントゲン検査目的で受診されましたが、
30代のその方は、
もう39度を超える熱が5日続いていて、
入院先を探しているも見つからない、
とのことでした。

持病があって高熱が続いていても、
入院はベッドがないので出来ない、
というのが今の状況で、
自宅待機者にこうしてクリニックなどを受診してもらい、
診察や検査によってトリアージをして、
重症と判断された方のみを、
入院適応とする、というような方針が、
取られているようです。

濃厚接触者も、
家族以外はあまり補足されているという感じはなく、
「会社の換気の悪い会議室で、2時間以上会議をしていた、
と言ったのだけれど、濃厚接触とは認められなかった」
と言うような話を頻繁に聞くようになりました。
保健所もパンク状態なのだと思いますが、
明らかに以前のような濃厚接触者の同定はされていません。

家族内感染での感染拡大の強さも最近の特徴で、
乳幼児の検査をする機会が最近増えましたが、
以前は家族内で感染者があっても、
乳幼児への感染は極めて稀であったものが、
最近は多くの乳幼児で検査の陽性事例が確認されています。

医療崩壊に近い厳しい状況であることは確かで、
他に有効な方法がない以上、
1人1人の感染予防が、
今は何より重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児における新型コロナウイルス罹患後症候群の頻度 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ロングCOVIDの実態.jpg
JAMA誌に2021年7月15日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルス感染症罹患後に、
持続する症状の頻度を解析した短報です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
これまでにも多くの報告があります。

主にヨーロッパでは、COVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
以前ご紹介したアメリカの研究では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現していました。
それ以外にロングCOVID(long COVID)、
というような表現も使用されています。
要するに、まだ統一された概念ではないようです。

新型コロナウイルス感染症には、
年齢による発症の違いがあります。

ただ、この新型コロナウイルス感染症罹患後症候群に、
年齢による発症の差があるのかという点については、
これまであまりデータがありませんでした。

今回の研究はスイスにおいて、
55か所の学校を無作為に抽出し、
そこに通う6歳から16歳の小児1355名に、
CIVID-19の抗体検査を施行し、
陽性であった109名と陰性であった1246名の、
その後の経過を比較検証しています。

その結果、
抗体が陽性であった109名のうち4%に当たる4名と、
抗体が陰性であった1246名のうち2%に当たる28名に、
1つ以上の症状が12週間以上に渡って持続していました。

抗体陽性例で持続が見られた症状は、
3%でだるさ、2%で集中力の低下、
2%で睡眠不足、などとなっていました。

このように、今回の検証では、
新型コロナウイルス感染症後に持続していた症状は、
6歳から16歳くらいの小児においては、
それほど頻度の多いものではなく、
また、抗体陰性のコントロールと比較して、
明確に上昇しているとは言えませんでした。

ただ、今回のデータは、
ある時点で抗体陽性であった学生のうち、
明らかに過去の感染を除外しただけなので、
厳密にその時点で感染したことが、
証明されている訳ではありません。

従って、今回の結果のみで、
小児における新型コロナウイルス感染症の後遺症は少ない、
というように言い切ることは出来ませんが、
現時点で後遺症が多いと言う根拠はない、
という言い方はして問題はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「物語なき、この世界。」(三浦大輔新作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
大井競馬場で新型コロナワクチン接種のお手伝いです。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
物語なき、この世界.jpg
ポツドールの三浦大輔さんの3年ぶりの舞台新作が、
今シアターコクーンで上演されています。

ポツドールの「愛の渦」の初演は、
大人計画の「愛の罰」の初演と並んで、
かつてないくらいの衝撃を受けた舞台で、
その後しばらくは大人計画とポツドールと共に生きている、
という感じすらあるほどでした。

ただ、それはもう当たり前ではあるのですが、
僕と同じように、大人計画の松尾スズキさんも、
ポツドールの三浦大輔さんも年を取り、
あのギラギラした小劇場のるつぼのような世界からは、
かなり遠くに来てしまいました。

三浦大輔さんは、
松坂桃李さんに舞台上で全裸の性行為を延々と演じさせた、
「娼年」という怪作がありましたが、
その後は映像に軸足を移した感じで、
舞台の仕事は企画公演がたまにあるだけ、
という感じになっています。

今回の作品は岡田将生さんと峯田和伸さんのダブル主演で、
どうしようもない駄目男の怠惰な世界を、
新宿歌舞伎町のゴジラ通りの一夜を舞台に描いた作品です。
星田英利さんが物語の「闇」の部分を体現し、
その地獄と死の世界に引き込まれそうになりながら、
最後は生還して朝を迎えるまでの物語です。

如何にも三浦さんらしい素材で、
主人公達のダメ男ぶりの表現や、
連鎖的に不運が訪れて、
闇の世界の入り口が開く感じなどは、
これまでの三浦さんの劇作に、
繰り返し描かれてきたものです。

ただ、今回の作品については、
これまでの作品と比較すれば相当マイルドで、
第一部の終わりで提示された「深刻な事態」も、
第二部の始めにはあっさりと解決され、
その後は何か傍観者的に、
主人公達の人生が俯瞰されます。

おっぱいパブや風俗などの描写はありますが、
それほど突っ込んだものではなく、
寺島しのぶさんも人生の師匠的立ち位置で、
かつてのNGなしの大暴れを期待すると、
少し拍子抜けする感じもあります。

ただ、これがおそらく良くも悪くも、
今の三浦さんの世界で、
かつての衝撃的な小劇場の世界を、
期待する方がおそらく間違っているのだと思います。

舞台セットはリアルではありませんが、
複数のセットが複雑に絡み合い、
歌舞伎町の地獄巡りをスピード感をもって表現した労作でした。

キャストは皆好演で、
以前のように女性キャストが作品中で変貌するような趣向はないので、
昔のポツドールを知る者からは、
どうしても物足りない感じはあるのですが、
峯村さんの2曲の生歌のサービスもあり、
まずは納得、という気分で、
劇場を後にすることは出来ました。

基本的に寛容な三浦さんのファンであれば、
まずまず納得というレベルの作品で、
昔の過激さを愛する人には向きませんし、
引き締まった完成度の高いお芝居が観たい、
という向きには、
その真逆の作品ではあるので、
他の舞台を選んで頂いた方が賢明だと思います。
個々のキャストのファンの方には、
皆さんそれなりの見せ場が用意されていますから、
そう落胆することはないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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三谷幸喜「日本の歴史」(2021年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
日本の歴史.jpg
2018年に初演された三谷幸喜さん作・演出のミュージカルが、
今新国立劇場中劇場で再演されています。

これは初演は観ていないので今回が初めてです。

これは一種の変化球なのですが、
幾つかの時代が歌でシンクロして行く辺りなどは、
さすが三谷幸喜さんという感じはします。
3時間弱の上演時間(休憩含む)を、
少しの緩みや眠気を感じさせることなく、
疾走するのは凄いですし、
7人のみの登場人物でこの壮大な絵巻物的世界を、
過不足なく成立させてしまう技巧も天才的です。
ただ、ベタな繰り返しや扮装で笑いを取るようなところは、
それが三谷さんの娯楽性なのだとは思いますが、
正直あまり好みではありませんし、
大の大人の役者の悪ふざけや悪のり的な部分も、
僕にはあまり楽しめませんでした。
ただ、その辺はまあ好みの問題だと思います。

三谷さんの作品の中では、
アイデアで強引に乗り切ったという感じのもので、
ラスト2つの世界の接点が、
兵士2人が出逢うだけ、というのも、
ちょっと弱いように感じました。

以下ネタばれを含む感想です。
鑑賞予定の方はご注意下さい。

これね、「日本の歴史」という題名なのに、
いきなり西部開拓時代のお話で始まるのですね。
それから歴史の先生が出て来て、
日本の歴史を解説するパートになり、
それが交互に展開されてラストは1つに結び付く、
という構成になっています。

アメリカの年代記的部分は、
昔のハリウッド映画の、
「わが谷は緑なりき」や「ジャイアンツ」、
「大いなる西部」みたいな世界なんですね。
農場経営にショービジネス、油田を掘り当てて一攫千金、
みたいなあれですね。
三谷さん、こういうのが1回やりたかったんでしょうね。
大真面目にやっている、という感じです。

「日本の歴史」の部分は細切れに人物を紹介して、
それがミュージカルの歌になっている、というような趣向なんですね。
赤報隊の話とか、秩父事件とか、信長に仕えた「弥助」とか、
歴史好きには今更感はありますが、
埋もれた人物も取り上げて居るのが特徴で、
さながら、三谷さんの没ネタ展示会、
みたいな感じもあります。
かなり、エピソードには出来不出来はあって、
面白いものもあるのですが、
有名人物についてはゲンナリするような、
ただの人物紹介という感じのものもありました。

ミュージカルとしては相当頑張っている感じはあって、
特にショービジネスの核になる一曲は、
バーンスタインばりの複雑な構成になっていました。

キャストもなかなか頑張っていたと思います。

この作品の一番の問題は、
日本とアメリカの2つの年代記が、
必ずしも上手くシンクロしない、
というところにあると思います。
多分最初は「日本の歴史」だけでやるつもりが、
かなり平板な感じになってしまったので、
それでもう1つの世界と同時進行しつつ、
互いに影響し合うような、
そうした趣向に変えたのかな、
というようにも思うのですが、
ラストがアメリカの登場人物が、
戦争で日本兵に殺されて終わり、
というのはちょっと後味も悪いですし、
2つの世界がもっと高いレベルでシンクロし共鳴するような、
そうした作品になって欲しかった、
というようには思いました。

そんな訳で大満足というようには思わなかったのですが、
さすが三谷さんの天才を感じさせる部分は随所にあり、
キャストの豪華さも含めて、
三谷さんをもってしかなし得ない、
斬新なミュージカルにはなっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対する亜鉛とビタミンCの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
亜鉛とビタミンCの新型コロナに対する効果.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年2月ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する。
高用量の亜鉛とビタミンCの有効性を検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症に対する治療は、
現状重症の事例のみに、
早期の回復を期待して使用するものがあるだけで、
軽症の患者さんに使用して、
早く症状を消退させたり、
回復を早めるような治療薬は、
現状では確認されていません。

そこで多くの治療薬がその候補として、
臨床試験の対象になっています。

亜鉛は欧米では古くから「風邪薬」として販売されていて、
咳などの風邪の諸症状の、
緩和に繋がるという報告も複数存在しています。

ビタミンCは風邪の予防に有効とする報告が、
運動選手のみ対象であったりと、
その信頼性においてはやや疑問があるものの、
これも複数存在しています。

今回の研究ではアメリカにおいて、
遺伝子検査で新型コロナウイルス感染症と診断され、
入院は要しないと判断された214名を登録し、
くじ引きで4つの群に分けると、
通常治療のみと、1日50㎎の亜鉛、1日8000㎎のビタミンC,
そして亜鉛とビタミンC併用に割り付けて、
感染症状が50%以上改善するまでの期間を、
比較検証しているものです。

その結果、亜鉛もビタミンCも両者の併用も、
通常治療と比較して、
新型コロナウイルス感染症の予後に、
明確な影響を与えることはありませんでした。

ビタミンCの高用量は尿路結石などのリスクはあるので、
この試験のような高用量を飲むことは、
通常の目的ではお勧め出来ませんが、
亜鉛やビタミンCのサプリメント的な使用については、
有効性は確認されないものの、
有害性もまあありませんから、
感染時の自己責任での使用は、
特に問題はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスワクチンの肝硬変患者への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肝硬変患者への新型コロナワクチンの有効性.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年7月13日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチンの、
肝硬変の患者さんに対する有効性についての論文です。

新型コロナウイルスワクチンのうち、
mRNAワクチンである、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチンが、
感染予防に高い有効性を示していることは、
臨床試験と市販後の疫学データを含めて、
実証されている事実です。

ただ、その臨床試験においては、
重い内臓疾患があったり、免疫不全のあるような患者さんは、
最初から除外されているので、
そうした患者さんに対する有効性は、
実際に接種が拡大して以降のデータを解析しないと分かりません。

そうした臨床試験の除外疾患の1つが、
肝臓の機能が高度に低下した状態である肝硬変です。

肝硬変の患者さんでは、
免疫の主体である抗体を作る機能も低下しているので、
免疫力は弱く、
新型コロナウイルス感染症も重症化を来しやすいと想定されます。

この点からは、
肝硬変の患者さんは積極的にワクチンを接種するべき対象である、
ということになります。

その一方で肝硬変の患者さんでは、
免疫の働きが低下しているので、
ワクチン接種後の身体の免疫反応も弱いことが想定されます。

つまり、ワクチンの有効性も、
肝硬変のない人より低くなる、
という可能性が高い訳です。

ここにワクチン接種においての1つのジレンマがあります。

免疫の低下したような患者さんは、
積極的にワクチンを接種するべき対象ですが、
ワクチンの有効性もまた低い可能性があるのです。

それでは、実際に肝硬変の患者さんへのワクチンの有効性は、
肝硬変のない人と比較してどの程度のものなのでしょうか?

今回のデータはアメリカの退役軍人を対象とした、
肝疾患の疫学データを活用して、
肝硬変を持ち、1回以上ファイザー社もしくはモデルナ社の、
mRNAワクチンの接種を行なった20037名を、
肝疾患や年齢などの要素をマッチングさせた、
20037名のワクチン未接種者と比較して、
ワクチンの有効性を検証しているものです。

その結果、
ワクチンの初回接種後28日以降においては、
肝硬変患者のワクチンによる、
遺伝子検査で診断された新型コロナウイルス感染症予防効果は64.8%で、
新型コロナウイルス感染症に伴う入院や死亡のリスクの、
予防効果は100%でした。
ただ、肝硬変の状態で分けて解析すると、
非代償性肝硬変の感染予防効果は50.3%で、
代償性肝硬変の66.8%と比較して低率になっていました。
これを2回目の接種後7日以降で解析すると、
感染症予防効果は78.6%で、
入院や死亡のリスクの予防効果は100%でした。

このように、
臨床試験での95%程度と比較すると、
肝硬変の患者さんのワクチン予防効果は、
少し落ちることは間違いがありませんが、
それでも重症化予防という意味では高い有効性を示していて、
mRNAワクチンは肝硬変の患者さんにおいても、
接種に意義のあることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス流行と喘息治療との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ感染と喘息.jpg
Lancet Respiratory Medicine誌に、
2021年7月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症と気管支喘息についての解説記事です。

新型コロナウイルス感染症が流行することにより、
増える病気もあり、また減る病気もあります。

増えている病気の代表は痛風で、
新型コロナウイルス感染症が流行して以降、
クリニックでも痛風発作で受診される患者さんが、
多分3倍くらいには増えています。

おそらくはコロナの流行で在宅ワークが増え、
運動不足になった上に、
間食でお菓子を食べたり、
夜遅くにインスタントラーメンを食べるような食生活が、
内臓脂肪の増加に拍車を掛けて、
尿酸値がボーダーラインであったような人が、
高尿酸血症に進行して、
痛風の増加に繋がったのではないかと思われます。

その一方で減っている病気もあります。

その代表が気管支喘息の急性増悪です。

これは日本ばかりでなく、
世界の多くの国で小児喘息、成人喘息を問わず認められている現象です。

何故こうした現象が起こっているのでしょうか?

喘息の急性増悪はウイルス感染などの感染症が、
きっかけとなることが多いのですが、
新型コロナウイルス感染症対策で、
マスクをしたり密を避けたり、
手洗いをしたりの予防習慣が定着することにより、
コロナ以外のウイルス感染の機会が減り、
それが急性増悪の減少に繋がっていると想定されています。

これは喘息の患者さんにとっては朗報ですが、
喘息患者を診る医療者からすると、
それを本当の喘息の改善と考えて良いのか、
迷うところでもあります。

通常小児の喘息治療のガイドラインにおいては、
喘息のコントロールが改善し、急性増悪がなければ、
薬の減量などの措置を取ることが一般的です。

ただ、新型コロナウイルス感染症の流行期において、
同じ理屈は当て嵌まらない可能性もあります。

新型コロナ流行期の他のウイルス感染の減少は、
一時的な現象である可能性もありますし、
環境要因が一時的に変化しただけで、
喘息そのものの状態が、
改善した訳ではないという考え方もあります。

たとえば秋に喘息コントロールが改善しても、
安易に薬の減量はするべきではない、という考え方があります。
冬にはインフルエンザなどのウイルス感染症が増加するので、
そのリスクを考えるべきだと言うのです。

同様に、今の新型コロナ流行による環境変化は、
一時的な現象であると考える必要があるのではないでしょうか?

新型コロナウイルス感染症流行期の、
喘息急性増悪減少は、
非常に興味深い現象ですが、
その解釈と治療変更への考え方については、
今後慎重に検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス不活化ワクチンの有効性(チリでの第2相臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ不活化ワクチンの有効性チリ.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年7月7日ウェブ掲載された、
中国製不活化ワクチンの、
南米チリでの臨床試験結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルスワクチンとして、
最もその有効性が確立されているのは、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
mRNAワクチンであることは間違いがありません。
次にデータが豊富であるのは、
アストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンで、
それ以外に途上国を中心として、
ワクチン外交的な戦略もあって、
広く使用されているのが中国製の不活化ワクチンです。

中国の不活化ワクチンは幾つかの種類がありますが、
代表的なものの1つが、
シノバック・バイオテックス社による、
コロナバックと命名されたワクチンです。

このワクチンの第3相臨床試験は、
ブラジル、チリ、インドネシア、トルコで行なわれていて、
その結果はまだ部分的にしか公表されていません。

今回のデータはコロナバックの国を挙げての集団接種が、
2021年2月からスタートしたチリのもので、
16歳以上トータル1000万人余の健康保険のデータを解析し、
ワクチン未接種の547万人余と、
1回のみ接種した54万人余、
2回の接種を終えた417万人を比較して、
3か月間の新型コロナウイルス感染症の発症との関連を検証しているものです。

ワクチンの有効性については、
2回の接種終了後14日以上経過した時点での、
感染の有無で評価を行なっています。

その結果、
コロナバックの2回接種により、
新型コロナウイルス感染症の診断事例で検証した予防効果は、
65.9%(95%CI:65.2から66.6)で、
新型コロナウイルス感染症による入院の予防効果は、
87.5%(95%CI:86.7から88.2)、
感染により集中治療室に入室するリスクの予防効果は、
90.3%(95%CI:89.1から91.4)、
新型コロナウイルス感染症による死亡の予防効果は、
86.3%(95%CI:84.5から87.9)と算出されました。

チリにおいては別個にファイザー社ワクチンの接種も行われていて、
同様の解析を行なったところ、
感染予防効果は92.6%、入院の予防効果は95.1%、
集中治療室に入室するリスクの予防効果は96.2%、
死亡の予防効果は91.0%とそれぞれ算出されています。

変異株はアルファ株が3割程度認められていて、
それ以外の問題となる変異株は少数という集団のようです。

このデータは実際に接種を行なった時の有効性を見ていて、
例数も非常に多いと言う点で意義のあるものですが、
3か月の期間が取られていても、
実際に感染した患者は、
接種完了後せいぜい1から2か月と思われますから、
長期の有効性については情報を提供してはくれません。

他の発表データを併せて考えると、
現状新型コロナウイルス不活化ワクチンの、
有症状感染予防効果は、
概ね60%程度と思われ、
90%を超えるファイザーやモデルナのmRNAワクチンと比較すると、
明らかに見劣りはしますが、
安定した供給が可能で、
価格も安く抑えられるという点は利点です。

ただ、ファイザー社のワクチンが、
6か月程度でその有効性をかなり低下させるのでは、
という趣旨の報道がありましたが、
不活化ワクチンがより短期間で、
そうした有効性の低下を来すという可能性も否定は出来ず、
変異株に対する効果も未知数であることに変わりはありません。

今後の検証を待ちたいと思いますが、
ワクチンは外交の道具として使われている側面もあり、
何処まで信頼性のあるデータが提出されるのか、
今後のデータ発表の経緯にも注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

極私的新型コロナウイルス感染症情報(2021年7月12日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はクリニック周辺に限定した新型コロナの現状です。

RT-PCR検査は、
クリニックで依頼される件数は今は少ないのですが、
若い世代での陽性率は間違いなく高くなっていて、
5例検査して全例陽性という日もありました。

友達とお酒を飲んで騒いで感染したり、
焼き肉パーティーで、そう言えば1人具合が悪かった、とか、
ライブで演奏して、メンバーの1人から感染とか、
そうした話が大半で、
保育園や学校の集団感染も増加しています。

そうした方の大半は軽症で、
頭痛があって熱が数日上がったり下がったり、
という感じなので、
本人もすぐに医療機関を受診することは少なく、
診断が付いた時には既に1週間くらいが経過して、
もう本人は回復していて、
周囲に感染は広がっている、
という事例が多いのです。

そこで職場や家庭でもう少し上の年代の人に感染すると、
こちらは高熱が続いて、重症肺炎で入院、
というようなことになります。

それから気になる事例としては、
ファイザーのワクチンを2回接種して、
1ヶ月経過後に家族から感染した医療従事者のケースがありました。

例外的なケースと思いたいのですが、
今後こうした事例が増えて来ることも、
想定しておかないといけないのかも知れません。

家族のような濃厚な接触がある場合には、
ワクチンでの抑止は困難な場合も当然あると、
そう考えておいた方が現実的だと思います。

一方である近隣の総合病院では、
ワクチン接種を妊娠希望という理由で受けなかった職員から、
感染が拡大して、病棟閉鎖、
というようなケースがつい最近に報告されています。

ワクチン接種が進行したことで、
病院や老人施設でのクラスターが減少していることは、
良い兆しではあるのですが、
少数とは言え、接種後の感染も見られていて、
ワクチンを過信することは危険です。
感染拡大の主体が若者や子供に移って来ると、
結局そうした世代の欲求の多くは、
感染拡大に繋がるような行為なので、
それを止めるということは日本の今の仕組みでは不可能で、
他人の感染対策や政治を非難している人が、
誕生日の焼き肉やカラオケでの大騒ぎ自体は止められないのですから、
それで今の感染拡大を抑止することは、
冷静に考えて相当な困難事例です。

それでもいつかは今の苦労が報われることを信じて、
日々の診療業務に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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