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タニノクロウ「虹む街」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
にじむ町.jpg
庭劇団ペニノを率いる、
演劇界きっての大変態(褒めています)、
タニノクロウさんの新作が、
今日までKAAT神奈川芸術劇場の中スタジオで上演されています。

今度は何をするのか分からない、
というような演劇人は今はあまりいませんが、
タニノクロウさんはその数少ない一人で、
毎回想像もつかないような企画を立て、
異常とも思えるような実行力で、
それを演劇という形にして実現させてしまいます。

その姿勢はかつての寺山修司と天井桟敷を彷彿とさせますが、
天井桟敷のお芝居が意外に分かりやすく、
素人にも間口の広いものであったのに対して、
タニノクロウさんの世界はその文体にしても内容にしても、
読解は非常に困難で、
「今この場で表現されていること自体は理解は出来ても、
何故何のためにこうしたことをしているのか、
何の意味があるのか、という点については、
全く理解出来ない」
という気分にさせられます。

台詞の内容やテンポ、リズムについてもそれはあって、
「何故こんなに生理的な心地よさを排して、
無理矢理のように変なリズムと間合いにするんだろう」
とこれも良く分からないのですが、
おそらくタニノさんの脳内リズムは、
僕達とは全く違う部分があるのだろうなあ、
とは思っています。

いずれもしても何が見られるのかと、
毎回楽しみなタニノクロウさんの作品ですが、
こちらにもその理解のためには、
相当な覚悟が必要なのです。

さて、今回の作品は、
KAAT神奈川芸術劇場と提携して、
中スタジオにリアルな横浜の飲み屋街を再現し、
その奥にあるコインランドリーが、
閉店する最後の日を描いたお芝居です。

タニノクロウさん自身を含めて、
プロの役者さんが6人出演し、
それ以外に多国籍の街の実際の住民が、
複数出演して、虚構と現実の境を曖昧にしています。

今回の作品は特に難解な部分はないんですね。
無言劇ではないのですが、
演劇的なやりとりのようなものも殆どなく、
大量のタオルを黙々と洗濯し続けている、
金子清文さんがメインで、
コインランドリーの主である安藤玉恵さんに、
仄かな恋心を寄せているようなのですが、
それは全く成就も進行もしないまま、
明かりが消えて舞台は終わります。

舞台の中で最も演技らしい演技をしているのは、
乾燥機や自動販売機などのコインランドリーの機械達で、
絶妙の間合いでアナウンスが流れたり、
乾燥が始まったり、止まったり、壊れたりします。
人間より機械の方に芝居をさせて、
人間の方はほぼほったらかしで、
台詞らしい台詞も見せ場らしい見せ場も殆どない、
という辺りに、
タニノさんの意地悪さが覗いている気がします。

正直もっと大掛かりなセットや、
細部に異常なほど手の込んだ作り込みをした小道具や装飾、
奇想天外な大仕掛けなどを何度も観た後なので、
少し物足りない感じはするのですが、
通常のレベルからすれば充分手が込んでいますし、
「笑顔の砦」と同じ傾向の、
タノニさんなりの市井の人間ドラマとして、
まずは楽しむことが出来ました。

次は何を見せてくれるのか、
果たして観ても理解が出来るのか、
戦々恐々としながらも、
次の作品を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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