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1型糖尿病の長期経過と認知機能低下 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
1型糖尿病と認知症リスク.jpg
the Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年5月27日ウェブ掲載された、
1型糖尿病の長期経過と認知機能低下との関連についての論文です。

1型糖尿病というのは、
通常小児期に発症して、
急速にインスリン分泌が失われ、
高血糖が持続するタイプの糖尿病で、
自己免疫的なメカニズムが原因と考えられています。

このタイプの糖尿病は、
昔は治療の方法がなく、
糖尿病性ケトアシドーシスという状態になって、
死亡することも稀ではありませんでした。
それが劇的に変わったのは、
インスリンの注射により血糖を下げることが可能となったからで、
インスリン自己注射による治療の進歩により、
高血糖による死亡というような事態は、
ほぼなくなったと言って良い状態となりました。

一方で長期間インスリン治療を継続することは、
低血糖や高インスリン血症など、
一定の身体にとって有害な影響を伴います。

低血糖は脳神経細胞に障害を起こす可能性がありますし、
高インスリン血症の持続は、
動脈硬化を進行させる危険があります。

そこで問題となるのは、
長期的な認知機能の低下です。

今回の研究は、
2つの糖尿病の大規模疫学研究のデータを活用して、
1型糖尿病の患者、トータル1051名を対象に、
その長期の経過と認知機能経過との関連を検証しているものです。

患者は中間値で27歳の登録時に認知機能の検査を施行して、
その後2年、5年、18年、32年後にも認知機能検査を行ない、
血糖コントロールや低血糖の頻度などとの関連を検証しています。

認知機能は、
記憶効率、精神運動効率(言語機能など)、
精神的効率(注意力など)の3つに分類して計測されています。

その結果、
登録から18年と32年の間で、
認知機能の3つの指標はいずれも低下していました。
登録時から18年後までの低下と比較して、
18年後から32年後までの精神運動効率と精神的効率の低下幅は、
5倍大きくなっていました。

HbA1cの高値、重症の低血糖発症頻度の高さ、
収縮期血圧の高値の3つが、
独立したリスク因子として、
この認知機能の低下と有意に関連していました。
この3つのリスクを併せると、
認知機能低下を9.4年早めると推算されました。

このように、
1型糖尿病の患者さんの経過においては、
認知機能の低下が年齢と共に強く認められ、
その予防のためには、
血糖コントロールを安定させて、低血糖を予防し、
血圧を正常に保つことが、
何より重要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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