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レニン・アンジオテンシン系阻害剤の中止が新型コロナの経過に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACE阻害剤の中止とコロナの予後.jpg
the Lancet Respiratory Medicine誌に、
2021年6月11日ウェブ掲載された、
レニン・アンジオテンシン系を抑制する薬剤の使用と、
新型コロナウイルス感染症の予後についての論文です。

新型コロナウイルスは、
人間の気道などにあるACE2という蛋白質を、
目印として結合することが知られています。
このACE2は血管を拡張させて血圧を下げるなど、
通常の状態であれば身体に良い働きがあり、
肺障害に対しても抑制的に働くと考えられています。

その一方で、
ACE2が増加すると、
それだけ新型コロナウイルスの感染が、
促進されるという可能性もあります。

ACE2を増加させる薬の代表は、
ACE阻害剤とARBと呼ばれる薬剤で、
いずれも高血圧や心不全の治療薬として、
臨床的に幅広く使用されています。

それでは新型コロナウイルス感染症の罹患時に、
ACE阻害剤やARBを、
中止した方が良いのでしょうか、
それとも継続した方が良いのでしょうか?

これまでの臨床データにおいては、
ACE阻害剤やARBの使用と新型コロナの予後との間には、
明確な関連はないとする報告が大部分ですが、
一部に悪化が認められたというものがあり、
また改善したというものもあって一定していません。

今回の検証はオーストリアとドイツの複数施設において、
ACE阻害剤とARBを1ヶ月以上継続使用していて、
5日以内に有症状の新型コロナウイルス感染症を発症した、
18歳以上の204名(年齢の中間値は75歳)をくじ引きで2つの群に分け、
一方はそのまま処方を継続し、
もう一方は処方を中断して、
30日の経過観察を行なっています。

その予後の評価は、
SOFAスコアという多臓器不全を数値化した値の、
観察期間中で最も高い(悪い)計測値の比較で行なっています。

その結果30日間におけるSOFAスコアの最高値は、
処方継続群と中止群との間で、
有意な差はありませんでした。
ただ、30日の時点でのSOFAスコアは処方継続群で有意に高く、
30日の時点でSOFAスコアが1以上の臓器障害もしくは死亡の頻度は、
中止群で11%であったのに対して、
処方継続群では23%で、
これも処方継続群で有意に高いという結果でした。

つまり、
トータルには処方を継続しても中止しても、
新型コロナウイルス感染症の予後には、
明確な差は認められませんでしたが、
病状の回復は処方を中止した方が早く、
臓器障害も軽く済む可能性がある、
ということを示唆する結果です。

この問題はかなり患者さんの個別性が高いと思われ、
安易に誰でも継続した方が良いとか、
中止した方が良いとは言えないと思いますが、
盲検ではないものの介入試験において、
こうした結果の得られたことは興味深く、
今後より詳細な検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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