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2腫の抗血小板剤の併用はどのような場合に有効か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2種類の抗血小板剤の脳卒中予防効果.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年6月4日ウェブ掲載された、
脳卒中の予防のために2種類の抗血小板剤を併用する治療の、
効果とリスクについての論文です。

脳の血管が、
動脈硬化を原因として最終的には血栓により閉塞すると、
虚血性脳梗塞という状態になります。
血流低下により一時的に脳梗塞の症状が出現し、
自然に改善する場合は、
一過性脳虚血発作と呼んでいます。

いずれの状態も、
症状は改善しても再発が起こりやすい病気です。

このため、
虚血性脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こした患者さんでは、
血小板の働きを抑えて、血栓による閉塞を予防するために、
抗血小板剤という薬が再発予防目的で使用されます。

ただ、同じような動脈硬化に伴う血管の閉塞である、
虚血性心疾患の場合には、
再発防止目的で2種類以上の抗血小板剤が、
併用されることが多いのですが、
脳梗塞の場合に同じような併用をした方が良いかどうかについては、
まだ結論が出ていません。

虚血性梗塞や一過性脳虚血発作を起こしてから、
3か月以内に虚血性梗塞を起こす頻度は10%を超えていて、
死亡などのリスクは初発の発作の2倍に高まると報告されています。
(上記文献の記載より)

こうしたリスクを考えると、
発作を起こした患者さんに対して、
少なくとも3か月間、
2種類の抗血小板剤を使用して、
血小板機能を強力に抑えることは、
理に適った治療であるように思います。

ただ、それに伴う出血系の有害事象のリスクは、
併用により高まりますから、
本当の意味で患者さんの予後を改善するとは言い切れません。

この問題を検証する目的で、
POINTという臨床試験が行われ、
その結果は2018年のthe New England Journal of Medicine誌に、
論文として掲載されています。

これは欧米中心の世界10か国において、
軽症の虚血性梗塞や一過性脳虚血発作を来した患者さん、
トータル4881名を対象として、それをくじ引きで2群に分けると、
一方は抗血小板剤としてアスピリンのみを使用し、
もう一方は抗血小板剤のクロピドグレルをアスピリンと併用して、
90日の経過観察と行なっているものです。

その結果、
脳梗塞に心筋梗塞などを加えた病気のリスクは、
アスピリン単独と比較して、クロピドグレル併用群では、
25%有意に低下しましたが、
その一方で重篤な出血系の合併症は、
クロピドグレル併用群で2.32倍有意に増加していました。

つまり、
2種類の抗血小板剤を併用すると、
確かに脳梗塞などの再発は減るのですが、
その一方で出血系の合併症も増える、
という結果です。
単純に実数で言えば、
重篤な出血を起こした人より、
脳梗塞が予防された人の方が多いので、
一定の有効性はあるのですが、
かなり悩ましい結果ではあったのです。

今回の研究はこのPOINT試験の事後解析で、
患者さんの血圧が良好かそうでないかが、
試験結果にどれだけの影響を与えているのかを検証しているものです。

血圧が収縮期血圧で140mmHg未満にコントロールされている場合と、
140mmHg以上と高血圧の状態である場合とに分けて解析してみると、
血圧が140mmHg未満と良好なグループでは、
アスピリン単独と比較してクロピドグレル併用群では、
虚血性梗塞の再発は64%(95%CI:0.18から0.72)、
有意に抑制されていました。
その一方で血圧が140mmHg以上の群では、
虚血性梗塞の再発は21%(95%CI:0.60から1.02)の抑制に留まり、
有意な低下は認められませんでした。

出血系の合併症についても、
血圧が140mmHg以下ではアスピリン単独とクロピドグレル併用との間で、
有意な差はなかった一方で、
140mHg以上では3.05倍(95%CI:1.21から7.68)と、
全体の解析より高い結果を示していました。

このように、
血圧のコントロールが良好であることが、
脳梗塞の再発リスク低下のためには何より重要で、
その条件を満たしていれば、
抗血小板剤2種の併用も、
比較的安全に施行可能である可能性があるようです。

これは事後解析なので、
今後血圧の要素を最初から条件に取り入れた、
脳梗塞再発予防の検証が、
行なわれることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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