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劇場の規制退場あれこれ [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
新型コロナワクチン集団接種のお手伝いで都内を廻る予定です。

今日は雑談です。

最近の演劇では終演後に規制退場と言って、
出口などが密な状態にならないように、
主に後方からブロックを決めて、
段階的に退場して頂くような方法をとっています。

新型コロナの感染対策の一環ですね。

これはコンサート会場や大規模なイベント会場、
概ね収容人数5000人以上のところでは、
退場時の混乱を避けるような意味合いで、
以前から行われていました。
そうした大規模会場で自由に退場を認めると、
出口に群衆が殺到して、
大混乱になったり、
圧し潰されて事故に繋がる危険があるからです。

ただ、特に収容人数が1000人以下のような、
所謂「中劇場」クラスでは、
これまでは自由退場が原則でしたし、
3000人クラスの演劇などとしては大規模な劇場でも、
規制退場をすることは稀でした。

ただ、勿論1人1人には個々の事情がありますし、
早く帰りたい、この場所から早く出たい、というのも、
ある種本能的な気分でもありますから、
規制退場と言われても、
「そんなの知ったことか、俺様は急いでいるのだ!」
という感じで場内のアナウンスを無視して、
出て行く人がいるのもいつもの風景です。

それでも最近は、かなり規制退場が浸透して来ましたし、
観客の多くもそれを当然と感じるようになって来たので、
我先にと飛び出すような行為は、
「ちょっとみっともないな」というような印象になり、
大多数の観客はそれに従うようになりました。

ただ、そうでないこともあります。

最近とても驚いたのは、
NODA・MAPを上演していた東京芸術劇場中劇場のケースで、
昨日お話しましたように、
お芝居は大変に素晴らしくて、
全ての演劇ファン必見と言って、
言い過ぎではないものでした。
最後にスタンディングオベーションになって、
それも無理矢理感のない、
「これはそうだよね、スタンディングしたいよね」
と素直に思えるようなものであったので、
とても良い気分で退場しよう、という感じであったのですが、
規制退場を行ないます、というアナウンスがあったにも関わらず、
1階の主に中央部の観客がそれを無視して一斉に出口に殺到し、
ぐちょぐちょでごちゃごちゃな、
所謂「密」の状態が発生したのです。
僕と妻はサイドの席にいて、
そこは当初の規制退場のプランであれば、
最初に退場するエリアであったのですが、
そのまま呆然としばらく状況を見ているしかありませんでした。

会場の係員の皆さんも、
最初は抵抗する素振りもありましたが、
おそらくこれは「いつものこと」であったのでしょう。
すぐにあきらめてしまって、
おとなしく座っている僕達に対しても、
「自由にご退席して下さい」
と頭を下げられたのです。

規制退場が崩壊した瞬間でした。

その時は規制退場を守らない人達のことを、
じっくりと観察することが出来たのですが、
比較的無表情のおじさん、おばさんが多くて、
若い方はあまりいませんでした。

その表情の感じは、
こちらが右折を待っていて、
もう向こうは赤信号で右折マークが点灯したのに、
直進して来る車の運転手の顔に瓜二つで、
ある自己中心的な決断、もしくは衝動によって、
規則を意図的に無視した行動をしたのだけれど、
もう自分はこの道を行くしかなく、
周囲の視線や自分の行為によって迷惑を蒙る他人の視線は、
無視するしかない、という決意のようなものを、
漲らせているのでした。

その一方でそうした自覚のある無表情の周囲には、
「なんだか分からないけれど、
周りの人が退場しているので、
これは自分も同じ行動をとる方が良さそうだ」
という程度の感じであったり、
殆ど行為に繋がる意識的な脳の働きもなく、
無意識的な行為として、
それに従うように行動している一連の人々の姿もありました。

こうした現象が起こった裏には、
スタンディングオベーションもおそらくは影響していて、
立ち上がって拍手をすると、
もう一度座って退場を待つよりも、
そのまま歩いて退場する方が、
無駄のない自然な動きになりますから、
特に無意識的な群衆とも言える人々にとっては、
それがこうした行動の後押しになった、
というようにも感じました。

確かに規制退場を無視した方が、
すぐに家に帰れて得をするように思えるのですが、
僕も何度も規制退場の現場に遭遇して思うことは、
それは確かにあなた1人だけがそう思っていて、
100人のうち、あなた1人だけが賢くて、
最初に劇場から出て行けるというシミュレーションであれば、
成立するのですが、
通常そうしたことはなくて、
100人のうち既に20人くらいはそうした行動をしようと待ち構えていて、
その20人が動くと、
50人くらいは無意識的にそれに反応して同じ動きをしますから、
少ない出口に結果として、
70人が殺到することになり、
それは結果としてあなたの退場が、
より遅くなるという危険を孕んでいることは間違いがないのです。

こういう光景を見ていると、
人間が群衆になる瞬間というのか、
無意識に動く1つの大きな生き物になって、
個々の人間であることを捨て去る瞬間というものを、
体感してちょっと慄然とする気分になります。

だからこそ人間は集団でリンチもするし、
いじめもするし、
レミングよろしく、後先も考えず、
ひたすら海に向かって行進して、
死ぬ気もなくむしろ生きようとする気満々なのに、
揃って海に入って溺れてしまう生物なのだな、
ということを実感するのです。

僕がこの光景を印象的に感じたのは、
それまで舞台で演じられていたお芝居が、
非常に感動的に命の尊さや人間の心の美しさを、
謳い上げるようなものであったからで、
それを観て、多くの人が泣いて、
スタンディングオベーションをして、
それから次の瞬間にスタッフの抑止を無視して、
出口に殺到するという行為に至るという、
人間というものの奇怪さに、
そのコントラストに、
とてもショックを受けたからなのです。

最後に規制退場をする側の、
以前出会ったちょっとユニークな試みをご紹介しておきます。

お芝居が終わってアナウンスが流れたのですが、
「これから規制退場をお願いします」と言った後で、
「特別お急ぎの事情のない方は、そのまましばらくお席でお待ちください」
と言ったのです。

その後の規制退場はとてもスムースでしたし、
「特別急いでいて」
無視するような人はいませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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