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ワクチン接種後新型コロナウイルス抗体の乳汁への移行 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチン抗体の乳汁への移行.jpg
JAMA誌に2021年5月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチンによって誘導される抗体の、
乳汁中への移行を検証したレターです。

新型コロナウイルスワクチンの接種対象として、
妊娠されている女性や授乳中の女性も含まれていて、
現状妊娠中の女性については、
専門学会では事前に超音波検査などの施行が望ましい、
という条件が外されていない、というような問題があり、
この間のワクチン接種の説明会では、
積極的には推奨されない、
というようなニュアンスの話がありました。
一方で授乳中の女性については、
むしろ積極的な接種対象となるようです。

授乳中の女性はワクチンの臨床試験に対象からは外されていますが、
医療従事者へのワクチン接種においては、
多くの授乳中の女性が含まれていて、
その有効性や安全性についてのデータが蓄積されています。

今回の研究は新型コロナワクチン接種で先頭を走る、
イスラエルでの医療従事者接種からのもので、
ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンを接種した、
授乳中の女性84名の乳汁のサンプル504件を採取し、
ワクチン接種から乳汁中への抗体以降を検証しています。

その結果、
乳汁中のIgA抗体は、
1回目のワクチン接種後2週間で軽度の上昇を示し、
2回目の接種後1週間で急激に増加してピークに達し、
その後は減少しつつ維持されています。

一方で乳汁中のIgG抗体は、
2回目の接種時までは殆ど上昇せず、
2回目の接種後1週間で上昇してピークに達すると、
その後も高いレベルで維持されていました。

これは、他のウイルス抗体などとも一致する結果で、
まず粘膜や腸管などの免疫に関わるIgA抗体が先に乳汁中に分泌され、
その後中和抗体であるIgG抗体が分泌されます。
2回のワクチン接種後にIgG抗体が乳汁中に増加することは、
2回接種の必要性を示唆しています。

抗体を口から飲んでも、
大人では殆どが消化管で分解されて、
有効性は示しませんが、
赤ちゃんはまだ腸管機能が未熟であるために、
一定レベルの乳汁中の抗体が、
血液中に移行して機能すると考えられます。
IgA抗体が先に上昇することは、
赤ちゃんの口からの感染に、
一定の防御を与えると想定されます。

つまり、乳汁中の抗体は、
赤ちゃんの免疫としても、
一定の有効性があると考えられるのです。

現状授乳されている女性のワクチン接種で、
問題となるリスクは報告されておらず、
授乳されている女性のワクチン接種は、
赤ちゃんを守る意味合いからも、
推奨されると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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メタボ改善のための太極拳の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メタボに対する太極拳の効果.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2021年6月1日ウェブ掲載された、
太極拳のメタボ改善のための有効性についての論文です。

勿論中国発の研究です。

国や地域によってその基準値については違いがありますが、
内臓脂肪の増加を簡単に測る物差しとして、
臍の高さのお腹周り(腹囲)があり、
それが一定の基準を越えていて、
他に血圧や血糖の上昇などの検査異常があると、
その後高率に動脈硬化が進行して、
心筋梗塞や脳卒中などのリスクになることは、
国や地域を問わず公衆衛生的事実として認識されています。

日本でもその考えに基づいて、
メタボリックシンドロームとして定義され、
メタボ健診が行われているのです。

メタボを指摘された場合には保健指導が行われ、
その主な軸となるのは食事と運動です。

ただ、それではどのような運動が、
メタボの改善に有効なのか、
という点については、
それほど科学的なデータがある、
という訳ではありません。

太極拳はご存じのように中国のお家芸の運動で、
高齢者の朝の習慣として定着しているものです。

高齢者が継続的に可能である、と言う点では、
健康のための運動の有力候補ですが、
それでメタボが改善するのか、
腹囲や体重が減少するのか、
と言うような点については、
これまであまり科学的なデータが存在していませんでした。

そこで今回の臨床研究は香港において、
50歳以上の一般住民で、
腹囲が男性90センチ以上、女性80センチ以上
(国際学会のIDFの基準値)の543名を、
くじ引きで3つの群に分けると、
コントロール群は特に運動指導を行わず、
通常運動群は1週間に3回、
1時間のジョギングと筋力トレーニングを組み合わせた運動を指導し、
太極拳群は週に3回1時間の指導を行なって、
12週間はそれを継続し、
その後は本人の自由に任せて、
38週までの経過観察を行なっています。

その結果、
12週の時点でコントロールと比較して、
通常運動群では腹囲が1.3センチ(95%CI:-1.8から-0.9)、
太極拳群では1.8センチ(95%CI:-2.3から-1.4)有意に減少し、
その腹囲減少は38週時点でも維持され、
より改善は顕著となっていました。

検査データにはそれほどの動きはありませんでしたが、
HDLコレステロールは運動群で増加し、
中性脂肪は低下する傾向を示しました。

このように、太極拳は通常の運動プログラムと比較して、
遜色のない効果をメタボ改善に発揮していて、
一部はより有効性が高いという結果を示しています。

ただ、太極拳が浸透している地域での研究ですから、
慣れた運動の方が続けやすかった、ということはありそうですし、
中国でこうした臨床研究をして、
太極拳の方が劣っている、
という結果は絶対出せないようにも思いますから、
ある程度割り引いて考える必要はあるかと思います。

ただ、メタボ改善のような目的の運動は、
おそらくその地域地域で、
定着している慣れたものを中心に据えるのが、
一番有効性を得られやすいということは、
ほぼ事実と考えて良いのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2腫の抗血小板剤の併用はどのような場合に有効か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2種類の抗血小板剤の脳卒中予防効果.jpg
JAMA Network Open誌に、
2021年6月4日ウェブ掲載された、
脳卒中の予防のために2種類の抗血小板剤を併用する治療の、
効果とリスクについての論文です。

脳の血管が、
動脈硬化を原因として最終的には血栓により閉塞すると、
虚血性脳梗塞という状態になります。
血流低下により一時的に脳梗塞の症状が出現し、
自然に改善する場合は、
一過性脳虚血発作と呼んでいます。

いずれの状態も、
症状は改善しても再発が起こりやすい病気です。

このため、
虚血性脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こした患者さんでは、
血小板の働きを抑えて、血栓による閉塞を予防するために、
抗血小板剤という薬が再発予防目的で使用されます。

ただ、同じような動脈硬化に伴う血管の閉塞である、
虚血性心疾患の場合には、
再発防止目的で2種類以上の抗血小板剤が、
併用されることが多いのですが、
脳梗塞の場合に同じような併用をした方が良いかどうかについては、
まだ結論が出ていません。

虚血性梗塞や一過性脳虚血発作を起こしてから、
3か月以内に虚血性梗塞を起こす頻度は10%を超えていて、
死亡などのリスクは初発の発作の2倍に高まると報告されています。
(上記文献の記載より)

こうしたリスクを考えると、
発作を起こした患者さんに対して、
少なくとも3か月間、
2種類の抗血小板剤を使用して、
血小板機能を強力に抑えることは、
理に適った治療であるように思います。

ただ、それに伴う出血系の有害事象のリスクは、
併用により高まりますから、
本当の意味で患者さんの予後を改善するとは言い切れません。

この問題を検証する目的で、
POINTという臨床試験が行われ、
その結果は2018年のthe New England Journal of Medicine誌に、
論文として掲載されています。

これは欧米中心の世界10か国において、
軽症の虚血性梗塞や一過性脳虚血発作を来した患者さん、
トータル4881名を対象として、それをくじ引きで2群に分けると、
一方は抗血小板剤としてアスピリンのみを使用し、
もう一方は抗血小板剤のクロピドグレルをアスピリンと併用して、
90日の経過観察と行なっているものです。

その結果、
脳梗塞に心筋梗塞などを加えた病気のリスクは、
アスピリン単独と比較して、クロピドグレル併用群では、
25%有意に低下しましたが、
その一方で重篤な出血系の合併症は、
クロピドグレル併用群で2.32倍有意に増加していました。

つまり、
2種類の抗血小板剤を併用すると、
確かに脳梗塞などの再発は減るのですが、
その一方で出血系の合併症も増える、
という結果です。
単純に実数で言えば、
重篤な出血を起こした人より、
脳梗塞が予防された人の方が多いので、
一定の有効性はあるのですが、
かなり悩ましい結果ではあったのです。

今回の研究はこのPOINT試験の事後解析で、
患者さんの血圧が良好かそうでないかが、
試験結果にどれだけの影響を与えているのかを検証しているものです。

血圧が収縮期血圧で140mmHg未満にコントロールされている場合と、
140mmHg以上と高血圧の状態である場合とに分けて解析してみると、
血圧が140mmHg未満と良好なグループでは、
アスピリン単独と比較してクロピドグレル併用群では、
虚血性梗塞の再発は64%(95%CI:0.18から0.72)、
有意に抑制されていました。
その一方で血圧が140mmHg以上の群では、
虚血性梗塞の再発は21%(95%CI:0.60から1.02)の抑制に留まり、
有意な低下は認められませんでした。

出血系の合併症についても、
血圧が140mmHg以下ではアスピリン単独とクロピドグレル併用との間で、
有意な差はなかった一方で、
140mHg以上では3.05倍(95%CI:1.21から7.68)と、
全体の解析より高い結果を示していました。

このように、
血圧のコントロールが良好であることが、
脳梗塞の再発リスク低下のためには何より重要で、
その条件を満たしていれば、
抗血小板剤2種の併用も、
比較的安全に施行可能である可能性があるようです。

これは事後解析なので、
今後血圧の要素を最初から条件に取り入れた、
脳梗塞再発予防の検証が、
行なわれることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アビガン(ファビピラビル)の新型コロナウイルスに対する有効性(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アビガンのメタ解析.jpg
2021年のScientific Reports誌にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
インフルエンザ治療薬アビガンの臨床的有効性を検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の話題は、
完全にワクチンがその主体になっている昨今ですが、
勿論予防と治療が感染症対策の両輪で、
その有効な治療薬が求められていることは、
今も変わりがありません。

しかし、実際には重症の入院事例に対する、
抗ウイルス剤のレムデシビルと、
昔ながらのステロイド剤に一定の有効性が確認されている以外は、
多くの治療薬候補が浮かび上がっては消えてゆく、
という感じで、
未だ有効な決定打のような薬はありません。

特に求められているのは、
インフルエンザにおけるタミフルのように、
軽症から重症まで使用が可能で一定の有効性があり、
予防にも使えるというような、
使い勝手の良い薬剤です。

アビガン(ファビピラビル)は、
RNAポリメラーゼ阻害剤で、
ウイルスが感染した細胞内でのウイルス遺伝子の増殖を抑える、
というメカニズムの薬です。
新型コロナウイルスもRNAウイルスですから、
インフルエンザと同様の効果が期待されたのです。

ただ、その後行われた臨床試験はそれほど大規模なものはなく、
その有効性もそれほど明確とは言えないものでした。
そのため、国内外のガイドラインにおいて、
現状アビガンは治療薬として推奨はされていません。

比較的小規模の臨床試験しかない場合に、
その有効性の検証の方法としてはメタ解析があります。

今回のデータは、
これまでの9件の臨床研究に含まれる、
827例のデータをまとめて解析したメタ解析です。

その結果、
入院後7日間における改善率は、
コントロールと比較してアビガン群において、
1.24倍(95%CI:1.09から1.41)有意に増加していました。
ただ、入院後14日間の改善率は、
これも10%高い傾向は見られたものの、
統計的に有意にではありませんでした。

また、入院後14日時点のウイルス除去率は、
11%アビガン群で高い傾向がありましたが、統計的に有意ではなく、
酸素療法の必要性の差などにおいても、
統計的に有意な差は認められませんでした。

このように、
比較的少数例の検証において、
アビガンにより新型コロナウイルス感染症の予後が、
若干改善したとするデータはありますが、
それほど明確なものとまでは言えないようです。

ただ、これはいずれも入院事例の検証で、
比較的重症の事例を対象としているので、
より軽症の事例では有用性がある、
という可能性も否定は出来ません。

最近アビガンの誘導体が、
新規の抗ウイルス薬として開発されている、
というような話題もあるようですから、
RNAポリメラーゼ阻害剤を新型コロナウイルス感染症の、
予防や軽症事例に用いるという考え方自体は、
まだ否定されたという訳ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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劇場の規制退場あれこれ [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
新型コロナワクチン集団接種のお手伝いで都内を廻る予定です。

今日は雑談です。

最近の演劇では終演後に規制退場と言って、
出口などが密な状態にならないように、
主に後方からブロックを決めて、
段階的に退場して頂くような方法をとっています。

新型コロナの感染対策の一環ですね。

これはコンサート会場や大規模なイベント会場、
概ね収容人数5000人以上のところでは、
退場時の混乱を避けるような意味合いで、
以前から行われていました。
そうした大規模会場で自由に退場を認めると、
出口に群衆が殺到して、
大混乱になったり、
圧し潰されて事故に繋がる危険があるからです。

ただ、特に収容人数が1000人以下のような、
所謂「中劇場」クラスでは、
これまでは自由退場が原則でしたし、
3000人クラスの演劇などとしては大規模な劇場でも、
規制退場をすることは稀でした。

ただ、勿論1人1人には個々の事情がありますし、
早く帰りたい、この場所から早く出たい、というのも、
ある種本能的な気分でもありますから、
規制退場と言われても、
「そんなの知ったことか、俺様は急いでいるのだ!」
という感じで場内のアナウンスを無視して、
出て行く人がいるのもいつもの風景です。

それでも最近は、かなり規制退場が浸透して来ましたし、
観客の多くもそれを当然と感じるようになって来たので、
我先にと飛び出すような行為は、
「ちょっとみっともないな」というような印象になり、
大多数の観客はそれに従うようになりました。

ただ、そうでないこともあります。

最近とても驚いたのは、
NODA・MAPを上演していた東京芸術劇場中劇場のケースで、
昨日お話しましたように、
お芝居は大変に素晴らしくて、
全ての演劇ファン必見と言って、
言い過ぎではないものでした。
最後にスタンディングオベーションになって、
それも無理矢理感のない、
「これはそうだよね、スタンディングしたいよね」
と素直に思えるようなものであったので、
とても良い気分で退場しよう、という感じであったのですが、
規制退場を行ないます、というアナウンスがあったにも関わらず、
1階の主に中央部の観客がそれを無視して一斉に出口に殺到し、
ぐちょぐちょでごちゃごちゃな、
所謂「密」の状態が発生したのです。
僕と妻はサイドの席にいて、
そこは当初の規制退場のプランであれば、
最初に退場するエリアであったのですが、
そのまま呆然としばらく状況を見ているしかありませんでした。

会場の係員の皆さんも、
最初は抵抗する素振りもありましたが、
おそらくこれは「いつものこと」であったのでしょう。
すぐにあきらめてしまって、
おとなしく座っている僕達に対しても、
「自由にご退席して下さい」
と頭を下げられたのです。

規制退場が崩壊した瞬間でした。

その時は規制退場を守らない人達のことを、
じっくりと観察することが出来たのですが、
比較的無表情のおじさん、おばさんが多くて、
若い方はあまりいませんでした。

その表情の感じは、
こちらが右折を待っていて、
もう向こうは赤信号で右折マークが点灯したのに、
直進して来る車の運転手の顔に瓜二つで、
ある自己中心的な決断、もしくは衝動によって、
規則を意図的に無視した行動をしたのだけれど、
もう自分はこの道を行くしかなく、
周囲の視線や自分の行為によって迷惑を蒙る他人の視線は、
無視するしかない、という決意のようなものを、
漲らせているのでした。

その一方でそうした自覚のある無表情の周囲には、
「なんだか分からないけれど、
周りの人が退場しているので、
これは自分も同じ行動をとる方が良さそうだ」
という程度の感じであったり、
殆ど行為に繋がる意識的な脳の働きもなく、
無意識的な行為として、
それに従うように行動している一連の人々の姿もありました。

こうした現象が起こった裏には、
スタンディングオベーションもおそらくは影響していて、
立ち上がって拍手をすると、
もう一度座って退場を待つよりも、
そのまま歩いて退場する方が、
無駄のない自然な動きになりますから、
特に無意識的な群衆とも言える人々にとっては、
それがこうした行動の後押しになった、
というようにも感じました。

確かに規制退場を無視した方が、
すぐに家に帰れて得をするように思えるのですが、
僕も何度も規制退場の現場に遭遇して思うことは、
それは確かにあなた1人だけがそう思っていて、
100人のうち、あなた1人だけが賢くて、
最初に劇場から出て行けるというシミュレーションであれば、
成立するのですが、
通常そうしたことはなくて、
100人のうち既に20人くらいはそうした行動をしようと待ち構えていて、
その20人が動くと、
50人くらいは無意識的にそれに反応して同じ動きをしますから、
少ない出口に結果として、
70人が殺到することになり、
それは結果としてあなたの退場が、
より遅くなるという危険を孕んでいることは間違いがないのです。

こういう光景を見ていると、
人間が群衆になる瞬間というのか、
無意識に動く1つの大きな生き物になって、
個々の人間であることを捨て去る瞬間というものを、
体感してちょっと慄然とする気分になります。

だからこそ人間は集団でリンチもするし、
いじめもするし、
レミングよろしく、後先も考えず、
ひたすら海に向かって行進して、
死ぬ気もなくむしろ生きようとする気満々なのに、
揃って海に入って溺れてしまう生物なのだな、
ということを実感するのです。

僕がこの光景を印象的に感じたのは、
それまで舞台で演じられていたお芝居が、
非常に感動的に命の尊さや人間の心の美しさを、
謳い上げるようなものであったからで、
それを観て、多くの人が泣いて、
スタンディングオベーションをして、
それから次の瞬間にスタッフの抑止を無視して、
出口に殺到するという行為に至るという、
人間というものの奇怪さに、
そのコントラストに、
とてもショックを受けたからなのです。

最後に規制退場をする側の、
以前出会ったちょっとユニークな試みをご紹介しておきます。

お芝居が終わってアナウンスが流れたのですが、
「これから規制退場をお願いします」と言った後で、
「特別お急ぎの事情のない方は、そのまましばらくお席でお待ちください」
と言ったのです。

その後の規制退場はとてもスムースでしたし、
「特別急いでいて」
無視するような人はいませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「フェイクスピア」(NODA・MAP第24回公演)(ネタばれ注意) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フェイクスピア.jpg
NODA・MAPの第24回公演として、
野田秀樹さんの新作「フェイクスピア」が、
今池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演されています。

これは素晴らしいですよ。

この20年くらいの野田さんの作品の中では、
間違いなく一番良かったですし、
野田さんの芝居を観て泣いたのは、
多分「赤鬼」の初演以来だと思います。

久しぶりに芝居を観られて至福の時間を過ごしました。

控え目に言って必見です。

以下少しネタばれがあります。

この作品は先入観なく観て頂いた方が絶対に良いので、
鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読み下さい。

よろしいですか?

絶対ですよ。

それでは続けます。

これね、
1985年の日本航空123便墜落事故をテーマにしたお芝居なんですね。

例の御巣鷹山のあれです。

何を今更、という感じがあるでしょ。

この事件はこれまでにも多くのフィクションで、
取り上げられていますよね。
小説では「沈まぬ太陽」や「クライマーズ・ハイ」がありますし、
演劇では劇団離風霊船の「赤い鳥逃げた…」が、
ラストに茶の間が一瞬で事故現場に変わる、
という一種の衝撃的屋台崩しで話題になりました。
ナイロン100℃の「ナイス・エイジ」も、
事件に1つの幸福な時代の終わりを重ねた、
叙情的な力作でした。

海外の芝居ですが日本でも燐光群が2002年から2003年に上演した、
「CVR チャーリー・ビクター・ロメオ」というお芝居は、
複数の事件のボイスレコーダーの音声を、
そのままコックピットを舞台にしたドラマに構成する、
という斬新な趣向の傑作でした。
その中にはこの事件も含まれています。
事故になった瞬間、強烈な爆裂音と共に暗転するんですね。
あそこまでショッキングな暗転というのは、
他にはまず体験したことがありません。
何度か墜落事件が続いて、
その後で奇跡的に助かる事例があるんですね。
「本当に助かって良かった!」という気持ちに観ていてなるのです。
面白いことを考えるものだととても感心しました。

多くの作家がこの事件に衝撃を受けるのは、
一瞬にして失われた多くの命のドラマに、
フィクションではとても太刀打ち出来ない、
という無力感を感じるからですね。
それもコックピットの音声がブラックボックスの中の、
ボイスレコーダーに残っているんですね。
間違いのない「最後の声」が、
そこに「真実」として存在している、
そのドラマにどのようにしてフィクションが立ち向かえるのか、
というのが創作者にとっての大きな壁なのです。

1985年は野田さんは劇団夢の遊眠社の人気のピークで、
神話に材を取った壮大な3部作を創作し、
大規模な会場での上演も行われていました。
ただ、その後は目立った新作は少なく、
再演や原作ものが主体となって、
そのまま遊眠社は解散に向かうのです。

この変化の1つの要因として、
御巣鷹山の事故があったと考えると、
少し腑に落ちる感じがします。

野田さんのお芝居は、
「走れメルス」のオープニングなどから既に、
「声」に対する偏愛のようなものがあって、
そこにNODA・MAPの時代以降は、
より新しいニュアンスが加わっているように思います。
おそらくその背景にも、
ボイスレコーダーの音声の存在があったのではないか、
それをいつか自分なりにフィクションに取り込んで、
その現実に一矢報いるような作品を作ろう、
というような思いが秘められているのではないか、
というようにも今回の作品を観て感じました。

これね、高橋一生さんが死んだ機長で、
35年後に橋爪功さん演じる自分の息子に、
その思いを伝えるために戻って来るというお話なんですね。
死んだ機長はブラックボックスの中にある最後の言葉を、
自分の息子に伝えるために持って来るのですが、
それはフィクションの世界に「死」をもたらすものなので、
「演劇の神」であるシェイクスピアが奪おうと狙っているのです。

最初に白石加代子さんがイタコの見習いとしてとして出て来て、
ダブルブッキングしたという高橋さんと橋爪さんが出逢うのですね。
親子の感動的な出逢いが最初にあるのですが、
通行人同士のようにしか見えない、
という辺りが面白いですよね。
橋爪さんがシェイクスピアの4大悲劇を、
次々と演じると、
そのヒロインが憑依した高橋さんと掛け合いをする、
という発想も冴えていますし、
そこに見習いイタコの白石さんが絡むのですから、
これはもう演劇好きには、
野田さんと併せて至福のカルテットです。
そこから野田さん演じるシェイクスピアと、
その息子のフェイクスピアが召喚され、
白石さんの母親の伝説のイタコとして、
前田敦子さんが召喚されると、
年齢が逆の親子関係が重層的に構成される、
ということになります。

神々の世界と人間世界の対立というのは、
野田さんの東大駒場小劇場時代からのお得意の構図ですが、
それが現実と虚構(フィクション)との対立という構図になり、
しいては現実の観客と劇作者である野田秀樹の対決になる、
という辺りがこの作品の巧妙さで、
それをアングラの女王であった白石加代子さんの口寄せを媒介とさせ、
「新劇の巨人」である橋爪功さんを主役に据えて、
そこに野田秀樹さんがシェイクスピア役で対立の軸になる、
という念には念の入った虚実ない交ぜの構成がこの作品の超絶的な凄みです。

この作品は如何にも野田芝居的と言うか、
遊眠社的な演出や趣向を多く取り入れ、
前半は野田芝居の総集編的な感覚があるのですが、
クライマックスはボイスレコーダーを忠実に再現した、
事故の再現になります。
こうした趣向は以前にも東南アジアの虐殺の再現など、
試みられたことはあったのですが、
それまでの野田芝居のレトリックに溢れた雰囲気とマッチせず、
あまり成功とは言えませんでした。

しかし、今回は違いました。
それまでの構成も非常に巧みにその場面に繋がっていて、
群舞的と言葉による演出も良く、
何より高橋一生さんと橋爪功さんのお芝居が素晴らしくて、
心が打ち震えるような衝撃と感動がありました。
この場面で航空機の尾翼に、
シェイクスピアと星の王子様がしがみつくのですが、
この破綻ギリギリの構図こそが、
最もこのお芝居の、
野田秀樹さんらしい瞬間であったと感じました。

星の王子様は初期の遊眠社のお芝居にも、
どれかは忘れましたが登場していたと思います。
ピーターパンなどと並んで、
野田さん幼少期のおもちゃ箱のヒロインで、
永遠の少年というのが初期野田芝居のアイコンでした。
シェイクスピアも、
野田さん自身何度も題材にし、
「野田版真夏の夜の夢」などの傑作を生み出した、
言わば「演劇の神様」です。
その2人の神様が壮絶な現実の尻尾にしがみついて、
必死で虚構に現実を絡め取ろうとする姿こそ、
野田さんの生涯の姿勢なのであり、
それがこの名シーンを生み出したのです。

キャストはともかく、
高橋一生さん、白石加代子さん、橋爪功さんのトリオが抜群で、
高橋さんも本当にいい役者になったと思います。
橋爪功さんも今回の芝居は一球入魂の新劇の奇跡で、
白石さんは以前は違和感を感じた「抜いた芝居」が、
今回は作品世界に膨らみを与えていました。
唯一違和感があったのは、
野田芝居初期の典型的キャラクターを演じた前田敦子さんですが、
多分野田さんは前田さんのことが好きなのですね。
そう言えば、昔の大竹しのぶさんに、
ちょっと似た雰囲気があります。

そんな訳でこの作品については、
語りたいことは沢山あって、
こうして書いていると幾ら時間があっても終わらないのですが、
野田秀樹さんの多くの仕事の中でも、
間違いなく代表作の1本になる大きな仕事で、
今年のベストともう既に断言してもいい、
演劇の素晴らしさに満ちた傑作だったと思います。

皆さんも是非。

ただ、観劇の際はかなり密な状況ですので、
感染対策にはご注意下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の再感染率(イタリアの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には廻ってから、
終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナの再感染率.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年5月28日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の再感染率についてのレターです。

新型コロナウイルス感染症は、
一度自然感染しても、
再感染自体はあり得るという事実は、
ほぼ確立したものと言って良いと思います。

つまり、一生においては何度も感染します。

ただ、一度感染してしばらくの間は、
再感染はしにくいということも事実です。

それでは、一度新型コロナウイルスに感染した人が、
その後1年以内くらいの間に、
再感染する率はどのくらいでしょうか?

これは色々な報告があって、
必ずしも一定はしていません。

以前ご紹介したアメリカの海兵隊の新兵のデータと、
デンマークの一般住民の大規模疫学データにおいては、
感染後3か月以降で、
概ね2割が再感染していて、
再感染予防率が8割程度と算出されています。
ただ、その大多数は軽症か無症状です。

今回のデータはイタリアのロンバルディア州において、
2020年の第一波の流行期に施行された、
122007件のRT-PCR検査の結果を元に、
経過の追える事例を解析したものです。

一度感染してから90日以降で、
RT-PCR検査が再び陽性となった事例を、
再感染として定義しています。

その結果、
平均で280日の観察期間において、
1579名の登録時の陽性事例のうち、
再感染は5例に認められ、
再感染率は0.31%(95%CI:0.03から0.58)と算出されました。
その多くは医療施設関連で、
入院患者が1例、2例は医療機関勤務、1例は毎週輸血をしている患者で、
1例は老人ホーム入所の退職者でした。

登録時は陰性であった13496名のうち、
感染したのは3.9%に当たる528名でした。
1日人口10万人当たり15.1件の新規感染に対して、
再感染は1.0件で、
これを年齢、性別、人種などの因子で補正した結果、
一度感染することにより再感染は、
93%(95%CI:0.06から0.08)予防されるという数値が得られました。

93%という再感染予防効果は、
ほぼmRNAワクチンの有症状感染の予防効果と一致しています。

これはデンマークやアメリカ海兵隊の、
80%という結果とはかなり乖離がありますが、
おそらく無症状感染があまり捕捉はされていないという点や、
年齢による違いが解析されていない点、
変異株が殆ど見つかっていない時期の解析である点、
などが影響している可能性があります。

これまでのデータを見る限り、
無症状を含めての再感染予防効果は80%程度で、
変異株の性質によっては、
より再感染率は増加する可能性がある、
というように理解しておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ファイザー・ビオンテック社ワクチンの12から15歳への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンの12から15歳での有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年5月27日ウェブ掲載された、
12歳から15歳の年齢における、
ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンの、
有効性と安全性についての臨床試験結果をまとめた論文です。

ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンは、
世界的に16歳以上の年齢に限定して接種が開始され、
アメリカにおいては2021年5月10日、
その適応が12歳以上に拡大されました。
その結果を受けて6月1日より、
日本でも接種対象が12歳以上と変更されています。

その決定の元になっているのが今回の臨床試験結果です。

アメリカにおいて、
2260名の12から15歳の年齢の対象者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常通り3週間間隔でワクチンを接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
主に2回目の接種後の中和抗体の上昇を、
16から25歳の年齢のこれまでのデータと比較しています。

ワクチン接種後の副反応には、
12から15歳と16から25歳との間で明確な差はなく、
中和抗体の上昇(幾何平均抗体価という指標で比較)は、
16から25歳より12から15歳の方が、
1.76倍(95%CI: 1.47から2.10)有意に増加していました。
2回接種から7日以降において、
偽ワクチン群では16名が新型コロナウイルスに感染し、
実ワクチン群では感染者はいなかったので、
ワクチンの有効性は100%と算出されましたが、
これは感染者数も少なく、期間も短いことから、
参考値以上の意味はないと思います。

このように、迅速さ重視で、
有効性などについては今後の検証も必要ですが、
今回のデータを元にアメリカでは12歳以上の接種が承認され、
日本でも迅速な変更がなされた、
というのが現在の状況なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染が通常医療に与える影響(デンマークの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。
新型コロナワクチンの2回目接種もあります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19流行と他疾患死亡リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年5月24日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の流行が、
他の病気の診療やその予後に与える影響についての論文です。

新型コロナウイルス感染症が急激に感染拡大に至ると、
病院の病床が不足して、
新型コロナウイルス感染症の患者のみならず、
本来は入院出来る筈の他の病気の患者が、
入院出来ない事態になる、
というようなことが良く言われます。

たとえば、急に脳梗塞で倒れた患者さんが、
救急車を要請しても、
コロナの患者で病床は一杯で、
受け入れてくれる病院が見付からないので、
適切な治療を受けられずに死亡してしまう、
というようなケースです。

特に問題になるのは、
知的障碍のある方や認知症の高齢者などの急変のケースで、
こうした方は通常の時期でさえ、
入院や救急診療を断られるケースが多く、
それがコロナの流行時期ともなると尚更で、
僕が嘱託医としている老人ホームでも、
普段は患者さんを受け入れてくれる病院の多くが、
「一切受け入れは出来ません」と、
最初から言われてしまうケースが多くありました。

このように、
コロナ禍の医療体制に多くの問題が生じることは事実ですが、
その一方で、
本来必要性の高くない医療行為や入院が、
自然と制限されるために、
むしろ多くの病気の罹患率は減る、
というような現象もまた報告されています。

実際海外でのロックダウンのような状況では、
不必要に出歩くことがなくなり、
感染対策にも注意をするので、
コロナ以外の感染症は激減しますし、
脳卒中や喘息の急性増悪、心筋梗塞などの急性疾患も、
風邪などの感染症をきっかけとして起こることが多いので、
そうした病気の発生も減少する可能性があります。

ロックダウンのような人流を制限する政策は、
それが長期化すると経済的にも心理的にも、
多くの悪影響をもたらし、
従来ではそれほどなかった病気の増加などにも繋がりますが、
短期間であって、経済的な補償なども適切に行われれば、
むしろ公衆衛生上メリットとなる可能性もある訳です。

このように、
新型コロナウイルス感染症の流行や、
それに対するロックダウンなどの政策の、
トータルな医療や健康に与える影響は、
それほど単純なものではありません。

今回のデータは国民総背番号制の敷かれているデンマークのもので、
デンマークでは2020年3月11日から4月15日までに最初のロックダウンが、
12月16日以降で2回目のロックダウンが施行されています。
このロックダウンとそれに挟まれた時期の、
コロナと他の疾患の入院件数の推移と、
その予後についてを疾患別に比較検証しています。

その結果、
コロナ感染拡大以前の時期では、
1週間人口10万人当たり204.1人が入院していたのに対して、
最初のロックダウン施行後には、
これが1週間人口10万人当たり142.8人と、
70%(95%CI:0.66から0.74)に減少し、
ロックダウン解除後は徐々に元の水準に戻りましたが、
2度目のロックダウン後には、
1週間人口10万人当たり158.3人と、
78%(95%CI:0.73から0.82)に再び低下しています。

つまり、トータルな入院数はロックダウンで低下し、
ロックダウン後に元に戻っています。

次に入院後30日以内の死亡リスクを見てみると、
初回のロックダウン後に1.28倍(95%CI:1.23から1.32)、
2度目のロックダウン後に1.20倍(95%CI:1.16から1.24)と、
通常の時期と比較して高くなっていて、
特にコロナ以外による呼吸器疾患、
癌、肺炎、敗血症による死亡リスクは、
ロックダウン解除後の時期も含めて、
持続的に高い水準となっていました。

このように、
ロックダウンを行なうと、
コロナ以外で病院を受診することは減りますから、
コロナによる入院は増加しても、
トータルでは入院や病院の利用は減少しますが、
医療資源の多くがコロナ対応に振り向けられ、
患者さん自身も受診を控えるようになるので、
その生命予後は悪化することが想定されます。

ただ、これは勿論デンマークの個別のケースで、
仮にもっと爆発的なコロナ患者の増加が起これば、
より明確な医療崩壊となって、
入院自体も増加するケースもあり得ます。

日本においてもこのような検証は必要ですし、
特にどのような患者さんにとって不利益が生じるのか、
その点にはかなり偏りがあると想定されるので、
その点の検証も是非必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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モデルナ社新型コロナウイルスワクチンの遅発性局所性過敏症反応 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
モデルナワクチンの皮膚病変.jpg
JAMA Dermatology誌に、
2021年5月12被ウェブ掲載された、
モデルナ社の新型コロナウイルスワクチンに特徴的な、
皮膚症状についての論文です。

モデルナ社の新型コロナウイルスワクチンは、
ファイザー・ビオンテック社と同じmRNAワクチンで、
日本でも国主導の集団接種において、
その使用が開始されています。

このワクチンの有効性や安全性は、
ファイザー・ビオンテック社製ワクチンと、
ほぼ同等と考えられていますが、
モデルナのワクチンに比較的特徴的な副反応として、
接種後少し遅れてから生じる、
アレルギー性の皮膚反応が報告されています。

これは以前2021年3月のthe New England Journal of Medicine誌に、
解説記事が発表されていて、
それについては発表の時点でブログ記事にしています。

そこでは、
こうした遅延性アレルギー反応は、
初回接種の0.8%で報告されていて、
そのうちの12例が解説されていました。

今回の論文では、
前述とは異なるアメリカの単独施設において、
報告された16事例がまとめられています。

16事例のうち、
81%に当たる13例は女性で、
14名は白人種で2名はアジア人種です。
16名のうち13名は医療従事者です。
今回のモデルナワクチン接種以前にも、
ワクチン接種後の皮疹が認められたのは1名のみでした。
15名は初回接種時に病変が出現しています。
初回ワクチン接種後、
中間値で7日後に、
接種部位周辺にかゆみや痛みを伴う、
限局性の皮疹が出現し、
皮疹は中間値で5日間持続して改善しました。
ただ、3週間持続したケースも認められました。

16名中2回目の接種後に同様の皮疹が出現したのは12名で、
接種後中間値で2日で症状は出現していました。

つまり、
1回目の接種では1週間ほどしてから、
皮疹が出現していますが、
2回目の接種ではそれよりずっと早く、
症状が出現しています。

皮膚の生検を施行すると、
血管周囲に強いリンパ球と好酸球主体の炎症が認められ、
遅延性過敏症反応に合致した所見でした。

典型的な事例の画像をお示しします。
モデルナワクチンの皮膚病変の画像.jpg

このように、
モデルナ社の新型コロナウイルスワクチン接種後に、
初回接種後1週間程度経ってから、
かゆみや痛みを伴うアレルギー性の湿疹が出現し、
それが5日程度持続することがあります。
通常軽症であるので大きな問題はありませんが、
時に3週間持続するような事例もあるので、
そうした現象があるという認識は、
持っておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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