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糖尿病治療薬セマグルチドの肥満治療における有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
セマグリチドの肥満への効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年2月10日ウェブ掲載された、
週1回皮下注射する糖尿病治療薬を、
肥満治療に活用した臨床試験結果についての論文です。

肥満は糖尿病や血栓症など多くの病気の原因となり、
高度の肥満はそれだけで体動を困難として、
骨折や寝たきりの大きなリスクとなります。
その深刻は影響はアメリカでは顕著ですが、
日本においても肥満の増加は明確な影響として認められます。

肥満の基準は国際的には、
概ねBMI(キログラムの体重をメートルの身長で2回割ったもの)が、
30以上で定義されていますが、
日本の場合は25以上とされています。
BMIが25から30は国際的には過体重という扱いです。

肥満の治療は適切なダイエットや運動などの、
生活習慣の改善が基本ですが、
実際にはその有効性が臨床試験で示されている訳ではありません。
肥満者が自主的に生活改善して体重を落とし、
かつリバウンドを生じないというのは、
現実には非常に困難なことであるからです。

そのために食欲の抑制剤や脂肪吸収の阻害剤、
胃の容積を縮める手術療法などが試みられ、
一定の有効性も認められていますが、
その一方で看過出来ない副作用や有害事象、
合併症などもあって、
安全で長期的に有効性の確認された治療というのは、
存在していないのが実際です。
また体重自体は減少しても、
糖尿病のリスクを明確に低下させた、
というような結果も得られていません。

そこで注目されている治療の1つが、
糖尿病治療薬であるGLP-1アナログという、
インクレチン関連の注射薬の使用です。
もともと糖尿病の治療薬ですからその予防効果は期待され、
これまでの臨床試験においても、
体重減少効果が確認されているからです。

今回の臨床試験はアメリカにおいて、
BMIが30を超えているか、
27以上で1つ以上の肥満の合併症を持っている、
トータル1961名の一般住民を、
くじ引きで2対1に分けると、
本人にも担当医にも分からないように、
一方はGLP-1アナログのセマグルチドを、
週に1回2.4ミリグラム皮下注射し、
もう一方には偽薬を同じように注射して、
こうした臨床試験としてはかなり長い、
68週間の経過観察を行っています。
食事や運動などの生活改善の治療は、
両群で同じように施行されています。

使用されているセマグルチドは、
日本ではオゼンピックという商品名で、
糖尿病には週1回の治療薬として使用されています。
ただ、使用量は通常0.5ミリグラムで、
最大用量でも1.0ミリグラムですから、
この肥満臨床試験の使用量は、
かなり高用量である、ということは言えます。

更に今年の2月からはリベルサスという商品名で、
1日1回の内服薬としても発売され、
注目されているところです。

68週の治療終了時において、
セマグルチド使用群では平均で14.9%の体重減少が認められたのに対して、
生活改善のみの群では2.4%の減少に留まっていました。
目標である5%を超える体重減少は、
生活改善のみの群では31.5%に認められたのに対して、
セマグルチド群では86.4%に認められ、
リバウンドの気回向も認められませんでした。
有害事象はセマグルチド群で、
吐き気や下痢などの消化器症状が多く認められ、
他に気になる知見としては、
セマグルチド群で胆石症の発症が増加していました。

このように、
かなり明確な肥満改善効果の認められたセマグルチドですが、
今回の臨床試験は主に白人種を対象としていて、
アジア人種でも同じような有効性が、
保証されるものではありません。
また、臨床試験としては長期観察された本試験ですが、
肥満は慢性病であり、
より長期の使用により、
有効性の減弱や予期せぬ有害事象の増加、
リバウンドなどの問題が生じる可能性もあります。

それでも、糖尿病ではその有効性の確認されている薬剤で、
明確な肥満改善効果の確認された意義は大きく、
今後の臨床利用について、
より実際的な指針が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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