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高齢者の糖尿病治療の問題点(カナダの老人ホームのデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病の不適切治療.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年3月1日ウェブ掲載されたレターですが、
カナダの老人ホーム(ナーシングホーム)で調査された、
高齢者の糖尿病の不適切治療についての報告です。

2型糖尿病の治療においては、
血糖値をなるべく正常に近づけることが、
患者さんの予後を改善する上で重要と考えられています。

ただ、生活改善のみで血糖が正常化すれば、
それに越したことはありませんが、
経口剤や注射薬といった薬剤を使用する場合、
血糖を正常化しようとコントロールを強化すると、
副作用である低血糖の危険が増す、
というジレンマがあります。

最近開発されたインクレチン関連薬や、
SGLT2阻害剤と言った糖尿病治療薬は、
低血糖は起こしにくい薬とされていますが、
それでもそのリスクはゼロではありません。

特にインスリンの注射薬と、
SU剤を呼ばれる強力な血糖降下作用を持つ飲み薬は、
低血糖のリスクの高い薬として知られています。

特に高齢者は低血糖が重症化しやすく、
低血糖による脳のダメージも受けやすいため、
現状世界中の糖尿病の治療のガイドラインにおいて、
概ね75歳以上の高齢者では、
血糖の目標値を高めに設定して、
インスリン製剤やSU剤の使用は極力控えることが、
望ましいとされています。
そのため血糖値の目標としては、
1、2ヶ月の血糖コントロールの指標であるHbA1c値を、
7.5%未満にはしないことが、
一応の目安とされていることが多くなっています。
(個々のガイドラインにより違いはあります)

ところが…

実際にはこの指針は常に守られている、
という訳ではありません。

これは国内外を問わないことだと思いますが、
SU剤で長く良好な血糖コントロールを維持しているような患者さんでは、
75歳になったからと言って、
急にSU剤を中止したり、
他の薬に切り替えるというのは、
主治医として勇気のいる決断です。
勿論明らかな低血糖症状があれば、
治療の変更は当然ですが、
実際には高齢者の低血糖は、
認知症などと誤認されることも多く、
気がつかれないまま、
低血糖を繰り返していても薬が処方され続けている、
というような事態も多いと考えられます。

日本の場合、
国外では基礎薬とされていて、
高齢者でも安全に使用可能な薬剤の筆頭であるメトホルミンが、
高齢者では慎重投与の扱いとなっていて、
薬剤の添付文書を読む限り、
高齢者に使える薬が殆どないという点が、
問題を複雑にしています。

今回の研究ではカナダのオンタリオ州において、
日本の特別養護老人ホームに似た施設であるナーシングホームに入所している、
2型糖尿病で治療中の65歳以上の高齢者、
トータル15034名の血糖コントールと認知症の重症度を解析したところ、
平均のHb1c値は7.3%で、
全体の50.3%に当たる7592名は、
HbA1cが7.0%以下になっていました。

入所者を認知症の重症度で分けて検討すると、
軽症から中等症に比較して、
重症の認知症の高齢者では、
HbA1c値が低い傾向が認められ、
特にリスクの高い薬剤(インスリンやSU剤)を使用していると、
そうした傾向が強く認められました。

このようにカナダの高齢者施設においても、
ガイドラインでは問題とされている、
HbA1cが7.0%以下の事例が多く、
低血糖が認知機能の低下に結び付きやすいことを考えると、
認知症が高度の事例でHbA1cが低い傾向があるという結果は、
今後慎重な検証が必要なものであるように思います。

老人ホームにおける糖尿病治療というのは、
身近でありながら管理に問題が生じやすく、
今後こうしたデータも蓄積しながら、
より適切なガイドラインが作成され、
遵守されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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