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スタチンによる筋肉痛とその意味 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンと筋肉痛.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年2月24日ウェブ掲載された、
コレステロール降下剤の筋肉系の副作用についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血液中のコレステロールを低下させる薬です。
スタチンにはそれ以外に抗炎症作用など、
コレステロールによらない動脈硬化の進行予防効果も併せ持つとされ、
心血管疾患リスクが高いと想定される人では、
スタチンを使用することが心血管系疾患の予防に繋がる、
というように考えられています。

つまり、
スタチンはコレステロール降下剤である以上に、
心血管疾患の予防薬なのです。

このように非常に有用性の高い薬であるスタチンですが、
稀に横紋筋融解症という、
重症の筋肉系の副作用の原因となることが知られています。
その頻度は上記文献の記載では、
スタチンで誘発される筋炎全体では、
年10000処方当たり1例程度ですが、
重症の横紋筋融解症に限ると、
年10000処方当たり0.2例程度です。

横紋筋融解症はこのように稀な合併症ですが、
スタチンの使用に伴い、
筋肉の痛みや違和感などを生じる事例自体はもっと多く、
強い痛みがあれば患者さんも心配になりますし、
主治医もそれを聞けば、
これはひょっとして横紋筋融解症では、
と心配になりますから、
多くの場合スタチンは中止されることになります。

しかし、実際にこうした筋肉の症状は、
どの程度スタチンと関連があるのでしょうか?

今回の研究では、N-of-1試験という方法で、
スタチン使用時の筋肉痛などの症状が、
本当にスタチン由来かどうかを検証しています。

このN-of-1試験というのは、
1人の患者に対して色々な条件をくじ引きで与えて、
その影響を評価するというものです。

イギリスの50か所のプライマリケアの医療機関において、
スタチン使用後に筋肉痛などの、
筋肉由来の症状が出現し、
血液検査では横紋筋融解症の所見はなく、
それによりスタチンが中止されたか、
中止が検討されている200名の患者を登録し、
個々の患者において、
2か月毎にスタチンの1つであるアトルバスタチンを、
1日20ミリグラムで使用するか、もしくは偽薬を使用して、
その間の症状の比較を行います。

結果として解析された患者は151名で、
トータルに見て、スタチンの使用期間と偽薬の使用期間とで、
筋肉痛などの症状に有意な差は認められませんでした。
また、経過中に耐えられない筋肉由来症状で投薬が中止されたのは、
スタチン使用期間中が9%に当たる18名であったのに対して、
偽薬使用期間中が7%に当たる13名で、
こちらも違いはありませんでした。

つまり、同一の条件であれば、
それがスタチンであっても偽薬であっても、
同じように筋肉由来の症状が出現したということになります。
逆に言えば、スタチン使用後の筋肉由来の症状の多くは、
それが血液検査で横紋筋融解症の所見のないものであれば、
スタチンとは関連のない可能性が高いということになります。

今回のデータは薬の副作用や有害事象の解釈として、
とても興味深いもので、
これだけで全てのスタチンの筋肉系の副作用が、
スタチンと無関係とは言えませんが、
全てが関連する訳ではないことも明らかで、
今後より適切に薬の副作用を判別するための、
方法の開発に繋がることに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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