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男性ホルモン治療の軽症糖尿病進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロンの糖尿病治療.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年1月1日掲載された、
男性ホルモン治療の糖尿病予防効果についての論文です。

肥満している男性では血液中の男性ホルモン(テストステロン)が低下していて、
それが2型糖尿病の発症リスクと関連している、
という疫学データが存在しています。
メタ解析ではテストステロン濃度が低い場合と比較して、
高いと2型糖尿病の発症リスクが低下する、
という解析結果も報告されています。

肥満している男性がダイエットで体重を落とすことにより、
糖尿病の発症リスクが低下し、
血液のテストステロン濃度も回復することが報告されています。
テストステロン補充療法を施行した介入試験において、
体脂肪が低下して筋肉量が増加するというデータはあり、
このことからは、テストステロンの補充を行なうことにより、
糖尿病の予防に繋がる可能性が示唆されますが、
実際に厳密な方法で、
テストステロンによる糖尿病予防効果が検証されたことは、
これまでありませんでした。

そこで今回の研究では、
オーストラリアの6か所の専門施設において、
50歳から74歳の男性で、腹囲が95センチ以上あり、
血液中の総テストステロン濃度が14.0nmol/L(404ng/dL)以下と低めで、
耐糖能異常があるか新規に2型糖尿病と診断された、
トータル1007名を対象として、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はテストステロンの注射製剤テストステロン・アンデカノエイトを、
1000mgで開始し、その6週間後、その後は3ヶ月毎に2年継続。
もう一方は偽の注射を使用して、
2年間の経過観察を行います。

治療開始後2年の時点で、
糖負荷試験での2時間血糖200mg/dLを超えた事例は、
偽注射群では21%に認められたのに対して、
テストステロン治療群では12%に認められ、
テストステロン治療は糖尿病のリスクを、
41%(95%CI: 0.43から0.80)有意に低下させていました。

テストステロン群の有害事象としては、
前立腺癌のマーカーであるPSAの上昇には、
両群で有意差はなかった一方で、
血液の濃縮度を示すヘマトクリットは、
テストステロン群で有意に高値を示していました。

このように、
テストステロンの使用は、
内臓脂肪が多く糖尿病のリスクの高い男性において、
糖尿病の発症を予防する効果が、
一定レベル認められました。
その一方で血液を濃縮させるなど、
有害事象は否定出来ず、
今後その安全性を含めて、
より詳細な検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唾液の遺伝子検査の有効性について(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談にて都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PCR唾液と鼻腔の比較.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年1月15日ウェブ掲載された、
唾液と鼻咽頭の遺伝子検査の精度を比較した、
カナダの研究者によるメタ解析の論文です。

唾液の遺伝子検査は
採取が何処でも痛みなく行える利点から、
日本では新型コロナウイルス感染症の診断のための検査として、
広く行われています。
自費検査と呼ばれるものは、
その殆どがこの唾液採取による方法で行われています。

通常症状出現から9日目までは、
鼻咽頭と唾液とどちらの検体でも良く、
10日目以降は鼻咽頭や喀痰などの検体のみ可、
というのが今の日本の基準になっています。
そのベースになっているデータは、
以前ブログでご紹介したことがありますが、
厚労省の研究班のデータが元になっているようです。

ただ、欧米においては、
唾液検体はそれほど積極的には採用されておらず、
遺伝子検査の検体は鼻咽頭から採取するのが一般的であるようです。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析です。
これまでの16の研究をまとめて解析した結果、
唾液の遺伝子検査の感度は83.2%(95%CI:74.7 から91.4)、
特異度は99.2%(95%CI:98.2 から99.8 )、
と算出されました。
一方で鼻咽頭の検体での検査の感度は84.8%(95%CI:76.8から92.4)、
特異度は98.9%(95%CI:97.4から99.8)で、
両者には統計的に有意な差はありませんでした。

このように、
特に軽症から中等症の事例においては、
唾液の遺伝子検査の精度は鼻咽頭の検体採取による検査と遜色はなく、
同様の信頼性を持つと考えて大きな間違いはないようです。

感度がやや低いのは、
陽性と判定されていても、
遺伝子の断片があるだけで、
もう治癒しているようなケースもあるからです。

ただ、これまでのデータの解析では、
唾棄の方がむしろ鼻咽頭より長期間、
遺伝子が検出されるケースが多いと記載されていて、
これは日本の今の基準と研究班のデータとは、
相反する知見です。

唾液の遺伝子検査に有用性のあることは間違いがありませんが、
その遺伝子検出期間については相反する見解もあり、
今後再検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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英国発新型コロナウイルス変異(B.1.1.7)の特徴 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
B.1.1.7変異の特徴.jpg
査読前の論文を公開しているmedRxivと言うサイトに、
2021年1月4日ウェブ掲載された、
英国発の変異ウイルスで日本にも既に侵入している。
新型コロナウイルスの「B.1.1.7」と名付けられた変異の特徴を、
疫学と遺伝子解析の観点から検証した論文です。

2020年12月19日に、
イギリスのジョンソン首相はこの変異ウイルスが、
実効再生産数(R1)を0.4増加させ、
感染感受性を最大で70%増加させる、
という内容をスピーチしましたが、
その元になっているデータが、
どうやらこの研究であるようです。

イギリスの数理疫学者ファーガソン博士らによる研究です。

さて、
2020年にイギリスで報告された変異ウイルスは、
「B.1.1.7」変異と名付けられ、
英国公衆衛生庁(Public Health England)は、
このウイルスをVOC(Variant of Concern 202012/01)と命名しています。

この変異ウイルスは17カ所の複数の変異が、
同時に認められているという点が特徴で、
その多くがウイルスが人間の細胞に結合する、
スパイク(突起)の部分の遺伝子に存在しています。

そのため、イギリスで現行主に使用されている、
RT-PCR検査では、
スパイク蛋白の遺伝子部分のプローブが反応せず、
典型的な結果が出ないという現象が生じています。

遺伝子検査では、
ウイルスに特徴的な幾つかの遺伝子配列を、
増幅してそれを組み合わせることで判定を行っているので、
通常結果の誤判定には至らないのですが、
SGTF(S-gene target failures)という特徴的な所見が認められます。

つまり、
遺伝子検査をして診断を行った新型コロナウイルス感染症の事例のうち、
このSGTFが認められた事例は、
ほぼ変異ウイルスであると考えて良い訳です。

このことを利用して今回の研究では、
変異ウイルスと今までのウイルスとの増殖や広がり方の違いを、
数理疫学的に解析しているのです。

イギリスにおいて変異ウイルスが急速に拡大して、
新型コロナウイルスの感染の主体となり、
それが感染そのものの拡大に結び付いていること自体は事実ですが、
実際にこの変異ウイルスが、
これまでのウイルスと比較して、
感染力が高いのかどうか、
という点はそれだけでは分かりません。

感染力が同じであっても、
そのウイルスの潜伏期が短いと、
同じ時間内においては、
感染者はより多くなるからです。

今回の検証では感染陽性者の分布と広がりを、
SGTFのあるなしで分類して比較することにより、
その比較を行っています。

その結果、変異ウイルスが急増した原因は、
潜伏期の違いは若干はあるにしても、
主因は感染力の違いにあることが確認されました。

1人の感染者からどれだけの数に感染させるかを示す、
実効再生産数(R1)という指標で比較すると、
これまでのウイルスと比較して、
変異ウイルスは0.4から0.7その数値を押し上げる力を持ち、
単独での実効再生産数は1.4から1.8と算出されました。
これはたとえば実効再生産数が0.8という地域があるとして、
そこでは1を切っているので、
感染はコントロールされているのですが、
そこに変異ウイルスが侵入して感染拡大すると、
それが1を超えることになるので、
急激に感染拡大に至る、という理屈になる訳です。

現状の対策が感染の押さえ込みに、
一定の有効性があって維持されていても、
そこに変異ウイルスが紛れ込むことにより、
対策は無効になって感染拡大に至る、
というところにこの変異の怖さがある訳です。

この変異ウイルスはより若者に感染しやすく、
それも感染拡大の主因となっていると想定されました。

どうやらこの変異ウイルスの感染力が高いことは事実のようで、
それが日本にも既に入り込んでいることを考えると、
感染収束への道筋は、
まだまだ混迷が予想されるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年1月18日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はまた新型コロナウイルス関連の現状についての話です。

➀RT-PCR検査が危ない!
先日RT-PCR検査を委託している検査会社の方から、
ショッキングな話を聞きました。

検査に必須の消耗品である、
検体を分注するチップや、
並べるプレートなどが不足しており、
もう既に枯渇してしまって検査の受注を中止している検査センタ-が、
複数あると言うのです。

委託している大手の検査会社では、
どうにか消耗品をかき集めて対応しているのですが、
1月中はどうにか目途が立っているものの、
2月以降の検査が出来るかどうかは、
まだ全く分からないということでした。

消耗品についてはほぼ100%が輸入品であるため、
渡航制限がより厳格化されている現在、
その入手はより困難になっているらしいのです。

同時期に厚労省と都の方からのメール調査があり、
5日程度の期間しかないという非常に余裕のないものでしたが、
委託ではなく自前で可能な、
抗原検査などの件数を報告するように、
というものでした。

これはそうは言わないものの、
RT-PCR検査が早晩実施困難になることを見越して、
対策としての調査であるように思いました。

そんな状況にも関わらず、
数十万人の住民に無作為に検査をする、
というような報道もあり、
それは無尽蔵に検査が可能であれば良いのかも知れませんが、
実際には本当に必要な検査が、
ギリギリの状態で行われていて、
消耗品の枯渇により検査不能になるかも知れない、
という現実があるのです。

皆さんも是非、そのことも頭においた上で、
検査数や住民検査の議論を見るようにして下さい。

②75歳以上の医療は現実壊滅している!
ある都内の救急病院の医師から聞いた話ですが、
その病院ではもうかなり前の時期から、
75歳以上の新型コロナ感染症の重症患者については、
一切挿管はせず、人工呼吸器管理も行っていない、
ということです。

これは臨床的に75歳以上の患者の予後は明らかに悪く、
呼吸器を付けるとその離脱は非常に困難で、
気管切開に至ることが多く、
何とか離脱が出来ても後遺症が残ることが殆ど、
という知見が元になっているようです。

40代から60代くらいまでのお元気な患者さんでは、
積極的に治療が行われて呼吸器管理もするのですが、
75歳以上ではそうした治療は最初から行っていないのです。

極端な言い方をすれば、
75歳以上の患者さんは入院しても自然経過をみているだけで、
積極的な治療は行っていないのです。

これは全ての病院が同じという意味ではありません。
病院により方針には違いがあり、地域性もあるとは思います。
積極的に高齢者の高度医療を行っている医療機関もあるでしょう。
しかし、積極的に行っても、
それほどの予後の改善には結び付いていないということは事実で、
75歳以上に積極的治療はしない、
という方針の病院が増えていることもまた、
事実と考えて良いと思います。

これも先日聞いた話ですが、
ある近隣のグループホーム(高齢者施設)で、
新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生したのですが、
嘱託医は「自分には関係ない」と一切の関与を拒否し、
入所者の入院は全て病院から拒否されたので、
患者をそのまま施設の看護師が、
自宅療養として診ているのが現状であるとのことでした。
施設長はストレスから体調を崩してしまいました。

この話だけを聞くと、
「何故早く入院させてあげないんだ」と思うところですが、
実際には入院をしても75歳以上の場合には、
積極的治療は行われないので、
さほど状況は変わらないのが実状なのです。

問題は従って75歳以上の感染を予防する、
ということ以外に正解はなく、
現状の治療水準で入院ベッドのみを増やしても、
高齢の患者さんの予後改善には、
結び付かないというのが実際なのです。

高齢者の命を守るためにはしたがって、
重症の事例を診られる病床を増やしてもあまり意味はなく、
高齢者のいる家族の1人が感染した時に、
その患者さんを速やかに隔離出来る、
という体制こそが必要なのです。
軽傷者を隔離出来る宿泊料用施設を増やすことの方が、
そのためには遙かに重要なことなのです。

今日は新型コロナウイルス感染症の現在についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「東京原子核クラブ」(2020年本多劇場上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
夜にはRT-PCR結果の連絡を、
15件ほどしないといけないのでクリニックには行く予定です。
結果を電話で説明して、
陽性であれば、
保健所に連絡をして…という一連の段取りがあり、
最近は25から50%くらいが陽性なので、
1時間から1時間半くらい毎日掛かっています。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
東京原子核クラブ.jpg
1997年に初演されたマキノノゾミさんの代表作の1つ、
「東京原子核クラブ」がマキノさんの演出で、
今下北沢の本多劇場で上演されています。

この作品は生で観るのは今回が初めてです。

公演は本日までですが、
客席は半分のみが使用され、
19時開始の公演が何回か中止となっていました。

客席はほぼ埋まっていましたが、
どちらかと言うと身内の方が多いかな、
という感じの印象でした。
多少ダレ場もある芝居ですが、
寝ているような方は殆どいませんでした。

これね、井上ひさしさんの「きらめく星座」や「闇に咲く花」のように、
軍人や政治家以外の日本人の戦争責任を扱った内容で、
ノーベル賞を受傷した朝永振一郎博士をモデルにした、
友田晋一郎という科学者が主人公です。

お分かりのように、
名前はモデルになった人物が、
明確に分かるように書かれているんですね。

第二次大戦中にはアメリカのマンハッタン計画以外にも、
各国で「原子爆弾」の開発が、
しのぎを削っていたのですね。
日本でも旧帝大の物理学教室を中心にして、
そうした研究が実際に行われていました。
朝永振一郎博士も湯川秀樹博士も、
その関わり方は様々であっても、
関わり自体があったことは確かであるようです。

原爆に関わった科学者の話は、
「コペンハーゲン」とか海外には有名な戯曲がありますが、
日本ではあまり取り上げられないテーマではないかと思います。
通常演劇作品は文系の方が執筆されるので、
科学者の内面に踏み入るのは、
結構難しい作業なのではないかと思います。
井上ひさしさんにも、そうした作品はないですよね。

その問題に真っ向から取り組んだという意味で、
「東京原子核クラブ」は非常に画期的な作品であると思いますし、
評価されるのも納得、という感じの作品ではあります。

ただ、
理系の端くれの意見としては、
あまり主人公達に理系の研究者という感じはしないですね。
新劇青年やピアノ弾き、レビューの踊り子などが登場しますが、
そちらの描写はリアルである一方で、
科学者同士の会話はあまりリアルには感じません。

天才科学者の心理や倫理観というのは、
多分もっと別種のものですよね。
ラスト近くで戦争に関わった責任について、
絶叫的に懺悔する場面があるのですが、
ちょっとそれは違うのじゃないかな、
と少し醒めた感じで観てしまいました。

上演時間は休憩15分を入れて2時間50分。
前半は人物紹介から始まって、
東大野球部の偽部員の話がメインになるので、
ちょっと長いな、という感じがします。
後半は戦時中の話になって本筋になるので、
こちらは力感もあって集中して観ることが出来ます。
ベースの雰囲気は井上ひさしさんの「闇に咲く花」に近いですし、
野球を絡める辺りは影響もあると思うのですが、
ラスト、シリアスな場面の後で、
コミカルに振って終わりにするでしょ。
これはちょっとどうかな、というように感じました。
この重いテーマでラストにコミカルなオチを付けるのは、
計算違いであると個人的には思います。

キャストは皆さん熱演でしたが、
主人公が矢張りとても科学者には見えないんですよね。
これは役者さんにも責任はありますが、
戯曲自体がそう書けていない、と言う点が、
一番の問題であるように感じました。

そんな訳で生で観ることが出来て良かった、
と感じられた名作でしたが、
内容的には全面的に納得、
というようには思いませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「43年後のアイ・ラヴ・ユー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
43年後のあい・らぶ・ゆー.jpg
初恋の人に43年ぶりに再会するという、
ハートフルコメディで、
昔風に言うと「老いらくの恋」というジャンルの映画です。

アメリカのLAが舞台で、
主役はかつての演技派ブルース・ダーンですが、
スペイン、フランス、アメリカ合作で、
スペインの監督にヒロインはフランス女優、
スタッフも多くはスペインやフランスからのようです。

要するにアメリカ映画っぽい、
ヨーロッパの映画ということのようです。

地味な素材ですし、
通常であれば日本でのロードショーは、
なかったのではないかと思われますが、
コロナ禍でハリウッド映画はほぼ全滅ですから、
こうしたヨーロッパの地味な映画が、
公開されることが増えているようです。

でもこれね、そう悪くないんですよ。
ブルース・ダーンは演劇評論家で、
若い頃にフランス人の女優さんと恋に落ちるんですが、
一緒にはなれずに終わるんですね。
その女優さんがアルツハイマー病になって老人ホームにいることを知って、
自分は認知症の振りをして、
老人ホームに入所するのです。
もちろん認知症の女優は、
主人公のことを覚えてなどいないのですが、
それでも主人公はかつての恋を、
思い出してもらうために奮闘するのです。

まあ比較的ありふれた話で、
日本でしたら山田太一さんや倉本聰さんが書きそうですよね。
でもヨーロッパ製なので、
センスはちょっと違うんですね。
昔の手紙を読ませてそこに雨が降って来たり、
ユリの花と好きだったガーシュインのCDを送ったりと、
やることもロマンチックですよね。
ヒロインには夫がいるのですが、
三角関係で一旦こじれそうになりながら、
最終的には全て丸くおさまる、
というところ、
ドロドロさせないで面白く見せきる、
というところが好印象で、
89分という上映時間に過不足なくおさめている、
という点も良いと思いました。

殆どの映画は、
昔のように90分という尺で、
必要にして充分なのではないかしら、
そんな風にも感じました。

シェイクスピアの「冬物語」が、
重要なモチーフとして使用されていて、
かつてのヒロインの当たり役で、
ハーマイオニーの復活を、
認知症の彼女の記憶がもどる、
という奇跡に重ね合わせているんですね。
そればかりでなく、このお芝居が、
主人公と孫の世代とを結びつける役割も果たす、
という辺りに台本の工夫が感じられます。

それから主人公の友人が薬マニアという設定で、
リピトールやフォサマックなど、
馴染みの薬の名前が次々に登場します。
クレストールは効かないからリピトールに変えろ、
みたいな話まで出て来ます。

まあちょっと大甘のお話ですし、
それほど特徴的な見せ場や盛り上がりがある、
という訳ではない地味な映画なので、
たまに映画を…というような方には、
あまりお勧めは出来ませんが、
ギスギスして残酷で目まぐるしいテンポの、
今の娯楽映画にはうんざりという方には、
一服の清涼剤とはなると思います。

控え目のお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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持続性の咽頭症状に対するプロトンポンプ阻害剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
プロトンポンプ阻害剤の咽頭違和感症に対する効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年1月7日ウェブ掲載された、
持続するのどの症状に対する、
胃酸を抑える胃薬の効果を検証した論文です。

「のどの調子がおかしい」というのは、
非常に一般的な症状で、
クリニックの外来でも、
多くの患者さんがそうした症状を訴えます。

咽頭は人間の身体がウイルスなどの感染を食い止める、
門番のような役割を果たしている場所なので、
感染が起こると速やかに炎症を起こして、
のどは腫れ、熱は痛みを出します。
のどの更に奥の部分に炎症が及ぶと、
咳や嗄声などが起こります。
この咽頭痛や咳や嗄声などの症状は、
感染自体は治癒しても長引くことが多く、
患者さんは「いつまで経ってものどの痛みがとれない」、とか、
「いつまで経っても声が嗄れて出しにくい」、
というような訴えをします。

また咽頭の違和感や何かが詰まっているような感じ、
というような症状は、
東洋医学では「気鬱」と言って、
気分がふさいでいる時の症状とされていて、
実際にメンタルな不調で、
のどの症状が持続することも多いとされています。
これは西洋医学的には、
自律神経が過敏になっている、
というような説明をされることがありますが、
そこにさほどの科学的根拠がある、
という訳ではありません。

他の咽頭の違和感の1つの原因として、
胃酸の逆流によって咽頭や喉頭が刺激され、
炎症を起こすことによる、
という説明があります。

そうしたことが確かに、
のどの症状や長引く咳の原因となることが、
ないとは言えませんが、
不思議なことに胃食道逆流症によるのどの症状という指摘は、
消化器内科の医師より耳鼻咽喉科の医師によって、
多くされているという特徴があります。

持続するのどの症状が胃酸の逆流によるものだとすれば、
胃酸を抑える薬剤によりその症状が改善する、
という可能性があります。

耳鼻科を受診した患者さんが、
胃酸の逆流が原因だから内科で診てもらえ、
と言われて受診をされることもありますし、
耳鼻科でそのままそうした薬が処方される、
というケースもあります。

これは日本だけの現象なのかしら、
と思っていましたが、
上記論文を読むと、
イギリスのプライマリケアにおいても、
咽頭の違和感に対して、
胃酸抑制剤であるプロトンポンプ阻害剤が、
処方されるケースは非常に多いようです。

しかし、実際にはその効果は、
あまり科学的に検証されたものではありません。

今回の臨床研究はイギリスの8カ所の耳鼻咽喉科のクリニックにおいて、
18歳以上で持続的なのどの症状を訴えている患者346名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はプロトンポンプ阻害剤のランソプラゾールを、
1日60ミリグラムという高用量で16週間使用し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
症状の改善の有無を比較検証しています。

その結果、
16週間の治療後の比較においても、
その後12ヶ月後のフォローにおいても、
ランソプラゾール使用群と偽薬群との間で、
のどの症状に有意な変化は認められませんでした。

つまり、のどの違和感などの症状に対して、
胃酸抑制剤を使用しても、
少なくとも現状のような使用法では、
有効な治療であるとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年1月14日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はいつもの感染症情報です。

2020年12月は104例の新型コロナウイルスの遺伝子検査を行い、
陽性者は25名でした。
ほぼ4人に1人が陽性という頻度です。

無症状感染者や味覚嗅覚障害のみと言った、
軽症者が多いのですが、
少数ですが高熱が続いていたり、
強い全身倦怠感や息苦しさを訴える事例もありました。
ただ、入院や宿泊療養となったのは5例のみで、
それも月の前半に集中していました。
月の後半についてはその全てが最初から自宅療養か、
受け入れ先のない自宅待機のまま、
回復まで結果的にそのまま自宅で過ごした、
というケースでした。

70代の男性で癌の治療中という方がいて、
発熱と全身倦怠感で発症。
感染者との接触は不明でしたが、
お店をしているということもあり、
職場や商店街などでの人間関係の中で感染したと推測されました。
現状肺炎や低酸素血症を疑わせるような所見はないのですが、
明らかに高リスクではありますよね。
12月の前半までなら入院か、
少なくとも宿泊療養にはなった事例なのですが、
高リスクで届け出をしたのですが都の審査では却下となり、
高齢の妻との2人暮らしで自宅療養となってしまいました。

届けを出してから6日後に保健所から依頼があって、
胸部レントゲンの撮影依頼であったので、
自宅待機の患者さんに、
他の患者さんがいない時間帯(休憩時間中)に受診をして頂いて、
胸部レントゲンを撮影して、
その後消毒に掛かりました。
レントゲン上は異常はありませんでした。

保健所の方にお聞きすると、
12月の初旬までは症状があって高リスクであれば、
入院治療の適応として問題はなかったのですが、
12月中旬以降は病床の不足が深刻化しているので、
「重症であることが客観的な指標により確認」されないと、
入院適応ではない、という判断になっているようです。

宿泊療養については慢性的に空きがない状態ですから、
結果として明らかな重症、という以外の方は、
殆どの方が実際には家で経過をみている、
というのが実際なのです。

現状一番の問題は、
軽症の方であっても、
発症1週間くらいの時点で呼吸困難を来すなど、
重症化するケースがあることで、
パルスオキシメーターを郵送して、
自宅でその数値をチェックして報告する、
というような対応は行われてはいるものの、
1日に1から2回程度の保健所からの電話連絡だけで、
その重症化の兆候をいち早く発見する、
というのは事実上不可能です。

少し前までは、
症状が悪化時にはすぐに病院受診、
という流れがあったのですが、
現状は病院は手一杯で即日の入院は困難、
という状況があるので、
「重症かどうかも分からないのに、
本人の症状だけで来られては困る」
という意識が強く、
簡単に受診することは難しいのです。

更には病院受診には専用の車を用意しなければならず、
そちらの手配もすくには困難、
という事情もあります。

現状自宅療養をバックアップする仕組みがない以上、
僕のようなクリニックの医者が、
そのサポートをするしかないと、
最近は考えるようになっています。

そのために、
少し前まではクリニックの仕事は、
患者さんを診断して保健所に連絡する、
という時点でほぼ終わり、という認識であったのですが、
現在では必ず検査陽性を伝える時には、
「何かあればクリニックに連絡して下さい」
とお話するようにしています。

保健所からも検査の依頼と共に、
自宅療養中の患者の症状悪化時に、
「レントゲンを撮って肺炎の有無を確認して欲しい」
という依頼が多くなっています。

ただ、検査であれば導線を完全にわけて、
通常の診療と同時に施行することも可能ですが、
レントゲンは新型コロナの患者さん専用にする、
という訳には行きませんから、
診療終了後などにするしかありません。
その後の除菌消毒もしなくてはいけませんし、
小規模のクリニックにとってはかなりハードルが高いのです。

本来はレントゲンで分かる肺炎は結構進行した状態であることが多く、
新型コロナの肺炎の初期像は、
CTでないと確認は困難です。

今後こうした状態が続くのであれば、
日本は小規模の病院レベルでも、
CTの普及率は非常に高く、
クリニックでも健診主体の施設や科によっては、
CTが常備されていますから、
そうした市囲のCTを、
適宜活用出来るような体制作りも必要なのではないかと思います。

個人的な見解としては、
現状の感染拡大は自宅療養の急速な拡大に伴う、
家族内や施設内の二次感染による部分が大きく、
本来は自宅療養での感染対策のサポート体制や、
宿泊療養施設の拡充が、
入院施設の確保と同じくらい重要であった訳ですが、
それがなされないまま感染拡大に至ってしまった現在では、
僕達のような医療機関がその下支えをして、
効果的な施策により感染自体の押さえ込みが、
どうにか成功するまでを、
耐え抜くしかないような気がします。

粘り強く、
今出来ることを探して、
少しでも感染収束に繋げられれば、
それ以上はないという気持ちで、
日々の診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の嗅覚障害の特徴と経過(ヨーロッパの大規模調査) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナの嗅覚障害の頻度と回復.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2021年1月5日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の嗅覚障害の特徴と予後についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の、
比較的特徴的な所見として、
嗅覚障害と味覚障害とがあります。
これはおそらく本質的なのは嗅覚障害で、
味覚障害は嗅覚障害に伴う二次的な現象と考えられています。

鼻腔の粘膜にウイルスが感染して、
そこで炎症や腫脹を来すことはほぼ事実とされていますから、
嗅覚障害が生じること自体は不思議ではありませんが、
何故他のウイルス感染症と比較して、
明らかに嗅覚障害の頻度が高いのか、
感染の重症度と嗅覚障害の間に関連があるのか、
といった事項に関しては、
まだ明確には分かっていません。

今回の研究はヨーロッパの複数施設において、
2581名の新型コロナウイルス感染症の患者を解析し、
病気の重症度と嗅覚障害との関連や、
その症状の持続期間について検証しています。

その結果、
主に自宅療養で対応するような、
軽症の新型コロナウイルス感染症においては、
嗅覚障害の発症率は85.9%と非常に高く、
その一方で入院を要するような中等症から重症では、
中等症で4.5%、重症で6.9%と、
嗅覚障害の発症率は高くはありませんでした。

嗅覚障害を発症した患者のうち、
24.1%は60日後も症状は持続しており、
その自覚症状による平均持続期間は21.6±17.9日となっていました。
客観的指標(検査)において、
発症60日の時点で15.3%、6ヶ月の時点で4.7%の患者は、
嗅覚障害は回復していませんでした。
発症時の嗅覚障害の程度が重いと、
それだけ持続期間も長いという関連が認められました。

このように、
軽症の新型コロナウイルス感染症においては、
嗅覚障害は非常に頻度の高い特徴的な所見ですが、
肺炎を来して入院を要するような事例では少ないという特徴があり、
その持続期間は非常に長くて、
半年を超えるというケースも22人に1人程度は認められています。

何故軽症事例で嗅覚障害が多いのか、
という原因は不明ですが、
上記論文では、
免疫反応の違いが関連している可能性が示唆されています。

最初はその真偽も疑われた嗅覚障害ですが、
今ではその発症メカニズムはともかくとして、
その臨床的意義は確立していると言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ検査結果取り違え事件顛末 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は仕事の話です。

あってはならないことですが、
COVID-19のRT-PCR検査で結果の送信ミスがあり、
一昨日から昨日に掛けてはドタバタが続きました。

その経緯を今日はお話します。

以下の内容は基本的に事実ですが、
特定の個人や集団を非難したり攻撃するような意図ではありませんので、
その点はご理解の上お読み下さい。

クリニックでは主に大手の検査会社に、
新型コロナウイルスの遺伝子検査を依頼しています。

集配は1日に一度で、
3重に包装して検体が回収され、
翌日の夕方以降で、
クリニックに検査結果のファックスが送られて来る、
という段取りです。
以前は原則対面で結果をご説明する方針としていましたが、
遠方の方も検査に受診されることが増えたことと、
隔離して診察するスペースの管理の問題から、
現在は結果は電話でお伝えする方針としています。

1月9日の土曜日にもいつも通りに検査を行いました。
午前中の検査の時点では、
通常通り「明日のうちには電話でご連絡します」
とお話をしていましたが、
「待てよ、連休で通常通りの対応が取れるのかしら?」
と不安になりました。

1月3日の検査をした際に、
当然4日の夜には結果が来るものと思って待っていると、
幾ら待っても届かず、
問い合わせをして初めて、
その日はファックス送信が出来ない、
という事情を聞いた、ということがあったからです。

それで検査会社に問い合わせをすると、
「結果が届くのは早くて11日。遅いと12日になるかも知れない」
というビックリするような返事です。

法定の電源設備の1年に一度の点検があり、
それを1月10日に施行予定としているので、
ファックス送信の機能が停止してしまう、
というのです。

腹立たしいのはその点についての事前連絡が、
当日になるまで全くなかったことです。
事前に連絡があれば、その日の検査をなるべく減らしたり、
保健所依頼の緊急事案は他に廻してもらう、
というような対応は出来ましたし、
患者さんにもそのように説明出来たのですが、
もう後の祭りという感じです。

それでどうにか結果だけでも10日のうちに知らせてもらえないか、
というように担当者に掛け合うと、
電話で10日の夕方以降に口頭で連絡することは出来ます、
という返事でした。

10日は日曜日ですが、
レセプト作業がまだ終わっておらず、
1日突貫で仕事をする予定だったので、
それでも良いかと思ったのです。

10日の夜に約束通り電話が来ました。
9日は午前午後含めて11名の患者さん(生後2ヶ月から67歳まで)の検査をして、
そのうちの4名が陽性とのことでした。
電話でその4名の方の名前を教えてもらい、
それから電話を掛け始めました。

まず陰性の人からと思い、
最初の女性に電話を掛けました。
濃厚接触者で10日くらい前から軽い感冒症状があり、
数日前から味覚嗅覚障害が発生した、という事例です。
診察の時点でほぼほぼ感染しているな、という感触があり、
仮に発症から10日とすると、
唾液の検査はもう厳しいと判断して鼻咽頭から検体を採取しました。
それが陰性なので、おや、という感じがしました。
お聞きするとその日も症状は続いている、
というお話です。
これはタイミングで陰性になっただけかも知れないと思い、
12日にもう一度連絡をして、
経過を確認する方針としました。

次の事例も濃厚接触者の女性で、
2人暮らしのパートナーの感染です。
こちらもほぼ無症状で味覚嗅覚障害で発症し、
発症から間もないという事例です。
これもね、経験的にはほぼ間違いなく陽性、
というような感触の事例です。
にも関わらず結果は陰性でした。

おかしいな、と感じました。

濃厚接触者で急性の味覚嗅覚障害でしょ。
それが2例続けて陰性、というのは、
あまりこれまでになかったことです。

先刻の電話で伝えられた結果は、
本当に正しいのだろうか、という疑問を感じました。

それでもう一度検査会社の担当者の携帯に連絡しました。
「夜分遅く申し訳ないのだけれど、
さっきの結果は本当に間違いないのだろうか?
ひょっとして陰性と陽性が逆、ということはないよね?」
と聞くと、
手元にはエクセルに記載されたデータの一部があり、
陽性は黄色で印字されているので、
その名前には間違いはない、という返事です。

そうか、それなら…と思い、
電話を掛け続けました。

陽性であった事例の1人は10歳の小学生で、
前日からの高熱と寒気のケースでした。
診察時には寝ていないとつらい、というような状態です。
ただ、咽頭所見は典型的ではなく、
周辺での感染事例もなし。
学校や家庭でも他に感染症状のある人はいません。

電話をして状態をお母さんにお聞きすると、
「今日はもう熱も下がってけろっとしています」
という返事です。

これも「おやっ」と思いました。

新型コロナで夜だけの発熱が続いたり、
熱の変動の大きな事例は結構あるのですね。
咽頭所見としては、
扁桃の腫大やリンパ濾胞の腫脹は目立たず、
咽頭後壁のみ真っ赤になっている、
というのが比較的特徴的な所見です。

1日のみの子供の高熱で、
翌日にはけろっとしているというのは、
新型コロナではない子供の風邪に、
その時比較的特徴的な所見でしたから、
経験的な勘というか印象としては、
「これはただの風邪」というものでした。

それでも、2度確認して結果には間違いない、と言うのですから、
これはもう信じるしかありません。
4名の感染者を含む11人全員に連絡を取り、
4名の発生届けを保健所に提出して、
電話での連絡を終えました。

翌日11日は極力家でゆっくりしたい、
という希望を持っていましたが、
結果の正式なファックスが届く筈なので、
その突き合わせだけは早くしたいと思い、
朝から検査会社に確認の電話を入れました。

すると…

問い合わせから2時間くらい経って連絡があり、
結果が間違っていた、という、
そうかも知れないな、と思いながらも、
そうあっては欲しくなかった事実が告げられました。

10日に陽性とされた4名のうち、
実際に陽性であったのは1名のみで、
他の3名は実際には陰性。
そして、味覚嗅覚障害で陰性とされた2名を含む、
別の3名が実際には陽性であった、というのです。

何故そんなあってはならないことが起こったのか、
というと、
データはエクセルで管理されていて、
通常入力後自動的にファックス送信となる場合には、
そこに人の手は加わらないのですが、
今回はファックス送信のシステムが点検で使えないので、
エクセルのデータをそのまま送信したのです。
その際検体に付けられた、営業所用の番号順に、
データを並び替えた時に、
陰性、陽性の表示の列が、
人為的ミスで並び替えられなかったので、
結果がバラバラになってしまったのです。

そんなことが起こり得るのだろうか、
と思いましたが、それが事実だったのです。

すぐにクリニックに向かい、
届いていたファックスを元にして善後策を練りました。

まず保健所に連絡をして、
10日に出した4人の発生届けのうち、
3人分を取り下げました。
そのうちの3名は既に保健所からの連絡が入っていました。
それから陽性と連絡して実際は陰性であった3名と、
陰性と連絡して実際は陽性であった3名に、
それぞれ電話をして結果を説明して謝罪し、
3名分の発生届けを再び提出しました。

検査会社の営業所の責任者と検査の責任者を呼び出し、
一緒に間違いのあった6人の自宅を廻りました。
結果の報告書を手渡しし、
同道した検査の責任者に説明と謝罪を再度してもらいました。

全て終わった時にはもう日は暮れていました。

今回の反省点としては、
矢張り重要な検査データは正式な形でもらうべきで、
イレギュラーな報告は大事なデータでは求めるべきではない、
ということです。
それから臨床の勘というものは馬鹿にするものではなく、
データが診察上の直感と明らかに乖離している時は、
データの信頼性について、
患者さんに説明して取り返しがつかなくなる前に、
しつこく検討する必要があるということです。

一歩間違えればもっと大事になりかねなかった事例であり、
今後も慎重に慎重を重ねつつ、
疲れた身体に鞭打って診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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