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「Go To トラベル」と新型コロナウイルス感染症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GOTOと感染拡大.jpg
査読前の論文を公開するサイトである、
medRxivに2020年12月5日掲載された、
東大などの研究者らによる疫学論文で、
「Go Toで感染拡大?」と、
報道もされ政治的にも議論になっている、
件の論文の原文です。

これは内容的にはですね、
楽天の登録者に送られた、
メールのアンケートみたいなものを元にしているのですね。

224389名にアンケートを送信して、
12.5%に当たる28000名から回答を得て、
内容が不自然なものを除外して、
25482名のデータを解析しています。

アンケートは8月下旬から9月末に掛けて行われていて、
その時点から1か月以内に、
新型コロナウイルス感染症を疑わせる症状、
具体的には高熱、咽頭痛、咳、頭痛、味覚嗅覚障害が、
認められたかどうかと、
その人が「Go To トラベル」を利用したかどうかを、
比較検証しているものです。

その結果、「Go To トラベル」を利用しない場合と比較して、
利用した場合には、
高熱が生じるリスクが1.90倍(95%CI:1.40から2.56)、
咽頭痛のリスクが2.13倍(95%CI:1.39から3.26)、
咳のリスクが1.97倍(95%CI: 1.28から3.03)、
頭痛のリスクが1.26倍(95%CI:1.09から1.46)、
味覚嗅覚障害のリスクが2.01倍(95%CI:1.16から3.49)、
それぞれ有意に増加していました。

年齢に分けての検証を行うと、
15から64歳では「Go To トラベル」使用者での、
リスク増加は認められましたが、
65歳から79歳という高齢者では、
そうしたリスクの増加は認められませんでした。

これね、例数は確かにかなり多いのですが、
あまり精度の高い研究ではありませんよね。

もともとのアンケートも今回の研究のためのものではありませんし、
新型コロナウイルス感染症と診断された人のデータではなく、
症状を聞き取りしただけで、
それに結び付けるのはかなり無理筋です。
丁度「Go Toトラベル」の盛り上がっていた時期ですから、
楽天のアンケートに答えるような人で、
利用した率が多いことは当然ですし、
利用するような人は、
他の社会活動や娯楽にも、
活発に参加していたと思いますから、
多変量解析するにしても、
「Go Toトラベル」だけをやり玉に挙げるのは、
かなり強引だと思います。

データをみますとね、
頭痛の症状などは、
「Go Toトラベル」を利用した人の29.4%、
しない人の25.5%にもあるのですね。
この集団、ちょっと症状のある人が多過ぎませんかね。
現物のアンケートを確認していないので何とも言えませんが、
ちょっと聞き方に問題があるように思います。

この論文はデータはこれしかないのですが、
考察の部分は結構饒舌なのですね。

その趣旨はですね、
経済と感染対策の両立を図る時に、
「Go Toトラベル」のような施策は重要であるけれど、
それで感染が広がる結果になっては元も子もないので、
感染リスクの低い集団のみで行うのが望ましい、
という考えなんですね。
具体的には感染を伝播し易い若い世代は、
若い世代のみで活用して、
65歳以上の高齢者は、
一緒に活用はしない方が良いのでは、
「ステイホーム」しているべきでは、
という提言になっているのです。

論文では「Go Toトラベル」によって感染が広がった可能性がある、
とそこは結構はっきり言っているのですね。
これだけのデータでそこまでは言い過ぎじゃないかしら、
というくらいの表現になっているのです。
ただ、それじゃ「Go Toトラベル」やめろ、
ということではなくて、
高齢者を除外するなどプランを練り直すのが良いのでは、
というように言っているのです。

結構政治的に踏み込んでいますし、
実際にそうした対策が今の傾向として、
政治的にも考えられていますよね。

おそらく著者に近い辺りからのアドバイスが、
働いている部分があるように思います。

従って、メディアや政党の一部が煽っているような、
「Go To トラベル」否定の論文ではこれはないのです。
仮に原文を読んでもなお、
そうした主張をしている人がいるとすれば、
ちゃんと読めていないか、
読めているのに敢えて曲解していのかのいずれかなのです。

個人的は見解としては、
意義のある研究であることを否定はしませんが、
かなり雑な研究であることは確かですし、
査読を受けて一流どころの雑誌に掲載される可能性は、
高くはないように思います。
そして結論についてはデータの不確かさから考えれば、
ちょっと踏み込み過ぎの考察になっているように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルドステロン分泌と仮面高血圧 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
仮面高血圧とアルドステロン.jpg
Hypretension誌に2020年12月7日ウェブ掲載された、
仮面高血圧のメカニズムについての論文です。

仮面高血圧というのは、
クリニックや病院の外来で測定した血圧は正常なのに、
自己測定した家での血圧が高いという状態のことで、
白衣高血圧の反対の現象です。

外来では血圧が上昇して家では正常という、
白衣高血圧と比較して、
あまり注目されることの少なかった仮面高血圧ですが、
正常血圧と比較して、
明確に心血管疾患のリスクも死亡リスクも高まるという知見が、
近年明確になるに従って、
次第に注目されるようになってきています。

現行、アメリカ心臓学会など、
アメリカの複数の循環器系学会のガイドラインでは、
診察室での血圧が130/80mmHg未満でありながら、
24時間血圧計を用いた、
昼間の血圧の平均が130/80mmHg以上となっている場合を、
仮面高血圧と定義しています。
この基準を満たすような高血圧症の患者さんは、
確かに多くいそうであることは、
臨床的な感覚でも納得のゆくところで、
高血圧で治療をしている患者さんの30から50%、
治療をしていない正常血圧とされる人でも、
8から20%はこの仮面高血圧の基準を満たす、
という報告もあります。

それでは、
自宅での血圧が診察室より上昇する原因は、
一体どこにあるのでしょうか?

今回の研究はアメリカの高血圧専門施設(単独)において、
降圧剤の治療を受けていて、
診察室の血圧が130/80mmHg未満にコントロールされている、
トータル222名の患者さんを登録し、
診察室血圧と共に24時間自動血圧計により、
家庭内の血圧を測定すると、
更に血圧に影響するホルモンである、
カテコールアミンやレニン活性、アルドステロンなどを測定して、
そうした数値と仮面高血圧との関連を比較検証しています。

診察時の血圧は5分の座位安静の後、
1分間隔で6回の血圧測定を行なって、
後半5回の測定値の平均を活用しています。

その結果、
64名が仮面高血圧症と診断され、
実際に家庭内でも血圧がコントロールされていたのは、
48名に過ぎませんでした。
この2つの群を比較してみると、
24時間尿のアルドステロン濃度やカテコールアミン濃度、
メタネフリン濃度は仮面高血圧群で、
有意に増加していました。

しかし、外来時に測定した、
レニン活性、血中アルドステロン濃度、アルドステロン/レニン比には、
両群で有意な差は認められませんでした。

仮面高血圧群の32.8%では、
24時間尿のアルドステロン濃度が高値である一方で、
診察室でのレニン活性、血液アルドステロン濃度、アルドステロン/レニン比は、
いずれも正常範囲でした。

更には24時間尿のカテコールアミンとメタネフリン濃度は、
仮面高血圧症の患者さんにおいては、
24時間尿のアルドステロン濃度と血清レニン活性と相関を示していました。

ここから推測されることは以下になります。

仮面高血圧症の患者さんにおいては、
何らかの原因により家庭内での交感神経の緊張が高まっていて、
それがレニン活性の増加を介して、
アルドステロンの増加に繋がり、
家庭内での血圧上昇に結び付いている可能性がある、
という仮説です。

仮にこれが事実であるとすれば、
レニン・アルドステロン系を抑制するような薬剤や、
交感神経を抑制するような薬剤を使用することにより、
仮面高血圧症の患者さんの家庭での血圧上昇を、
抑制することが可能となるのではないでしょうか?

これはまだ仮説に過ぎませんが、
一見コントロール良好と見える高血圧症でも、
かなりの比率で仮面高血圧症が存在しているという知見、
およびそれが診察室での計測や検査では、
診断困難である、という知見は非常に興味深く、
今後の研究の進歩に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年12月9日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後はレセプト作業の予定です。

今日はちょっと限界という感じで、
正直もう無事に1日を送れそうな気がしません。

少々愚痴のような話題になることをお許し下さい。

体調がまず非常に悪いのです。
感染ではないのですが腰痛が悪化していて、
集団のインフルエンザ接種とか、
老人ホームやグループホームでの診察などがあると、
急激に悪化します。
今も痛くてたまりません。

昨日も結果が出次第、患者さんに連絡する予定で、
午後5時からPCR検査の結果のファックスを待っていたのですが、
午後8時になっても結果が来ません。
嫌な予感がして、
片端から検査会社の電話を掛けまくって、
漸く当直のような人につないでもらったのですが、
「今出力中のようです」のような返答です。
5時には来る結果が8時になっても来ないのですから、
連絡くらいしてくれてもいいでしょ。
何もないんですよね。
結局大騒ぎをして午後9時過ぎには結果が届いて、
それから患者さんにはお伝えしました。

他の検査会社の話を聞きますとね、
検査翌日の昼には大体結果が届いているんですね。
「何で遅いの?早くする方法はないの?」
と聞いても何の答えもありません。
行政検査なので検査代も高いんですね。
公費の時は良いのですが自費だと困ります。
検査が高いのは、仕方のない部分もあるんですよね。
保険点数として価格を決めているので、
それを下回ることが出来ないという理屈なのです。
医療機関が儲けているという訳ではなんですよ。
検査代をうちは請求されているだけなのです。
でもね、これだけ安い検査が沢山流通していて、
勿論精度管理はしっかりしているとしても、
やること自体は同じでしょ。
検査会社は明らかに相当儲けている訳ですよね。
間違いなくそうでしょ。
それなら、もう少しその利益で、
配送のスタッフを増やしたりして、
結果が出るまでのタイムラグを、
もっと短縮してくれてもいいのではないでしょうか?

通常なら会社自体の利益優先でもいいと思いますが、
ある意味今は「非常時」でしょ。
PCR検査の結果がどれだけ早く出せるかで、
感染予防効果が違うんですよね。
これは論文もありましたよね。
以前ブログでも紹介しましたが、
介護施設のような感染リスクの高い集団では、
1週間に一度全員検査を行なって、
結果は数時間以内に出るようであれば、
感染防御効果が期待できるんですね。
それが1日掛かるようだと、
もう統計的には予防効果は証明されないんですね。

こうした場合の時間は、
それだけ重要なんですよ。

そんなことは百も承知の筈なのに、
何で対策はしないのかしら。

本当に本当に、嫌になってしまいます。

①当院のRT-PCR検査陽性率
大したことのない底辺の医療機関の記録ですが、
一応まとめておきます。

今年の6月までの期間においては、
原則としてRT-PCR検査は保健所や公的検査機関のみで、
行なわれていました。
その後各地域でPCRセンターが開設され、
クリニックなどの一般医療機関においても、
唾液のRT-PCR検査の施行が認められるようになりました。
現在では感染防御の上、
鼻腔からの検体採取も認められるようになっています。

クリニックでは7月の初めから都と集合契約を結び、
唾液のPCR検査を開始しました。
今では必要に応じて鼻腔の検査も行っています。

7月から11月の末までに、
行政検査として269名のRT-PCR検査を施行。
陽性者は27名で、
トータルな陽性率は10.0%です。

内訳としてみると、
7月の陽性率が12.5%、
8月は8.0%、9月は78件と最も検査数は多かったのですが、
陽性は2件のみで陽性率は2.6%でした。

それが10月は18.6%が陽性、11月は16.3%が陽性となっています。

これだけを見ても、
7月で鎮静化した感染が、
10月から持ち上がって、
それ以前を超える感染拡大につながっていることが分かります。

②「民間検査」と称するものについて
「民間検査」と言う言葉はテレビのニュースで知りました。
保健所が感染を確認する「行政検査」と対比する意味合いだと思います。

面白い用語を考案するものです。

当クリニックでは、
基本的に集合契約に基づいて、
「行政検査」のみを行なっています。
これは症状があって新型コロナウイルス感染症を疑うケース、
COCOAのアプリでの接触確認を含めて、
感染者との濃厚接触が疑われるケースで行なうもので、
全くの無症状で感染機会のはっきりしない時に、
「安心のために」行う検査は含まれていません。

行政検査は公費となるので検査自体は無料で、
医療機関の場合診察料などは掛かります。

これは管轄は厚労省になる訳です。

その一方でRT-PCR検査自体は、
行政検査以外でも行うことが出来、
必ずしも医療機関でなくても施行が可能です。

これは当初は海外渡航の必要なビジネスマンなどが、
「PCR検査の陰性証明」が、
渡航のために必要であることから、
経産省の意向により始められたものです。

こうした検査をする検査機関を、
経産省は招聘し募っていたという経緯があり、
僕が知っている小規模の検査会社も、
説明会などで強く施行を求められたので、
「仕方なくやることになった」と言っていました。

これが敢くまで渡航のための検査に限られているのであれば、
それで何の問題もなかったのですが、
実際には国内の帰省などでも検査をしたり、
スポーツやエンタメの団体などが、
興行のために全員に検査をしたり、
というようなことになってくると、
当初の思惑を離れて、
「商売としての民間検査」がはびこるようになって、
そこには利益優先の悪質な業者もあり、
ダンピング的な低価格競争もあったりして、
当初の健全な目的からは、
かなり離れてしまっているのが実際だと思います。

本来は民間検査の精度管理は、
行政検査と同じ水準で行われるべきものですが、
実際にはそうした検査なりチェックが行われている、
ということは全くなく、
検査のレベルは検査会社の自主性に、
任せられているのが実際です。
仮に利益優先の会社があるとすれば、
そんな管理にお金を掛ける訳がないですよね。

ただ、最初にも書いたのですが、
推奨出来ない「民間検査」の方が、
データが早く届くなどサービスは良いのですね。
クリニックで契約している大手の検査会社は、
グズグズ対応なのですね。
これを何とかしないと「行政検査」の方がいい、
というようには言い切れないですよ。

クリニックの近隣ではですね、
明らかにお金儲けの施設があって、
「PCR検査即日可能!」とかと宣伝しているのですね。
それはそれで問題だし、
テレビで大宣伝しているようなところも問題だと思いますが、
その一方でね、
通常の医療機関が、
「民間検査」を自費で行なっているケースも多いのですね。
本来は診療をしているのであれば、
行政検査をして、
その結果にも責任を持つべきでしょ。
基本的に「発熱者やコロナの疑いの人は受診お断り」
と言っていて、
それで「安心のための検査は自費でどうぞ」
というのは何か矛盾している行為のように、
思ってしまいます。

③もう症状では全然新型コロナは分からない、ということ
はっきり扁桃炎があったら、
それはコロナではない、
と断言をされている先生がいたんですね。
これは事実なのですが、
今はそれは通用しないというのが、
臨床での実感です。

実例がありましてね、
1人の方は咽頭痛と発熱があって、
夜だけ上がる、という症状だったのですね。
それで休日診療所を受診して診察を受けたのですが、
担当医はのどを診察して、
「これは扁桃炎だからコロナじゃないよ。検査は要らない」
と言って帰したんですね。
翌日咽頭痛が強いということでクリニックを受診されて、
RT-PCR検査の結果は陽性でした。

もう1つの例は咽頭痛があって、
2か所の耳鼻科と1か所の内科で、
いずれも扁桃炎ということで診断されたのですね。
それが治りが悪いということで受診をされて、
矢張りPCRは陽性でした。
ただ、この話には続きがあって、
熱は下がったので入院ではなく、
自宅療養の方針となって、
観察期間が終了したのですが、
その翌日に高熱になったのですね。
その人にはかかりつけ医がいたのですが、
連絡をすると、
「コロナと診断された人は来てもらっては困る」と、
受診を断られたので、
それでクリニックに連絡があったのです。

正直診察するのは嫌だな、
とは思ったのですが、
誰も診ないというのなら、診るしかないですよね。
診察したら、扁桃周囲炎でパンパンに腫れているんですね。
あちこちに掛け合って、
コロナ外来を経由して入院となりました。

これはおそらく扁桃炎の原因自体はコロナではないと思うのですね。
合併例で、重症化した、ということだと思います。

新型コロナの症状が出てから9日以降で無症状であれば、
もう周囲への感染はしない、
と言うこと自体はほぼ事実と信じていいと思うのですが、
実際には症状がいつ出現したのか、
分からないケースが多いんですね。

そこで対応を誤ると、
結局感染を広げてしまうことになるでしょ。

難しいですね。

扁桃炎で複数の医療機関を受診した事例などは、
途中で何処かでコロナをもらった、
という可能性も高いと思うのですね。

今は症状から新型コロナの判定は出来ない、
疑ったらすぐ検査するしかない、
というのが僕にっての経験的事実です。

今日は新型コロナを巡ってのあれこれをお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染流行時の小学校休校の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スクールクローズの影響.jpg
JAMA Network Open誌に、
2020年11月12日掲載された、
新型コロナウイルス感染症流行時の学校休校の影響についての論文です。

新型コロナウイルス感染症流行の第1波の時には、
日本国内のみならず欧米の多くの国においても、
小学校などの休校の措置が取られました。

ただその措置の有効性については、
その時点でも否定的な意見もありました。

当初感染拡大の媒介として、
無症状の子供の存在が注目されたのですが、
実際にはそうした現象は明確には確認されず、
むしろ子供からの感染は、
大人より限定的で少ないとする見解が主流になりました。

逆に休校することにより、
子供の学習機会が減少することは、
結果として子供の将来的な余命を短縮する、
というデータも存在しています。

今回の検証はアメリカにおいて、
新型コロナウイルス感染症の初期に行われた小学校の休校措置が、
子供の将来的な余命に与える影響を、
学習機会を奪われることによる損失と、
感染が拡大することによる死亡リスクとを、
天秤に掛ける形で数理モデルにより検証したものです。

その結果、
98.1%の確率で学校を休校するよりも、
そのまま継続した方が、
結果として子供の将来的な余命の短縮を、
抑制する効果があることが確認されました。

個人的には学校は大嫌いで、
小学校や中学校は地獄のような思い出しかないので、
休校した方が僕の余命には全然良いのに、
というようには思うのですが、
一般的な考え方としては、
学校は子供の健やかな成長を促し、
教育により余命の延長効果もあるようで、
休校措置は今回の新型コロナウイルス感染症の流行抑止には、
むしろ有害であるという考え方が正統的なものであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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赤身肉と虚血性心疾患リスク(2020年アメリカの疫学研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ベーコンと健康.jpg
British Medical Journal誌に2020年ウェブ掲載された、
赤身肉の摂取と心血管疾患との関連についての論文です。

牛、豚、羊などの赤身肉、
特にソーセージやベーコンなどの加工肉を多く摂ることが、
心血管疾患のリスクになるという知見は、
これまでにも数多くあります。

ただ、他の蛋白源との比較や、
加工肉とそうでない赤身肉の摂取との比較などは、
研究によってもまちまちで、
まだ検討の余地を残しています。

今回の研究はアメリカにおいて、
医療従事者の男性43272名を対象としたもので、
食事調査を行うと共に長期間の経過観察を行っています。

赤身肉の摂取については、
どのくらいの回数そうした食事を摂ったかのアンケートから、
その摂取量を推定しています。

その結果、
心血管疾患のリスクは、
トータルな赤身肉を1日1単位摂取することにより12%(95%CI: 1.06から1.18)、
加工肉を1日1単位摂取することにより15%(95%CI: 1.06から1.25)、
加工肉以外の赤身肉の摂取により11%(95%CI: 1.02から1.21)、
それぞれ有意に増加していました。

ここで赤身肉の摂取を、
同じ1単位の植物性蛋白(ナッツ、豆など)に交換すると、
トータルな赤身肉で14%(95%CI: 0.80から0.93)、
加工肉では17%(95%CI: 0.76から0.91)、
心血管疾患のリスクは有意に低下すると推測されました。

このように今回の大規模な検証においても、
赤身肉、特に加工肉の摂取と、
心血管疾患リスクとの間には関連が認められました。

赤身肉を多く食べている人で、
高血圧など心血管疾患のリスクのある人は、
なるべく加工肉の摂取は避け、
植物性蛋白の摂取を増やすことで、
そのリスクの低減に繋がる可能性があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年12月6日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業などして過ごす予定です。

ちょっと混沌としていまね。

クリニックでも毎日COVID-19の診断のために、
RT-PCR検査をしていますが、
その多くが最近は家族内感染の事例です。

数日前の事例でお話ししますと、
息子さんが高熱と咽頭痛で発症したのですが、
休日診療所を受診して、
「咽頭の発赤が強いのでコロナではない」
と断言されてアセトアミノフェンだけが処方されたのですね。
それから数日熱が下がらなくて、
保健所経由でPCRセンターで検査をして、
陽性が確定したのですが、
その時点で5人家族が一緒に暮らしていて、
発熱者を1週間くらい自宅で診ていたのですね。
都の審査によって入院という判断になったのですが、
今度は入院先が見つからない、ということになって、
そのまま数日自宅待機となって、
その間に他のご家族にも咳や咽頭痛などの症状が出たのです。
家族はクリニックを受診して、
そのうちの1名が陽性となりました。
それなのに、ですよ、
最初の感染した息子さんは、
待機しているうちに解熱したのですね。
そうしたら、もう入院は必要ないということになって、
結果として2人も家族で感染者が出ているのに、
何もせず、家で家族一緒に様子をみているだけ、
という事態になってしまったのです。

こういう事例がそれこそ沢山あってですね、
まず診断されるのが遅いし、
感染経路はほぼ全て不明なんですね。
ほぼほぼ分からないのです。
それで家族に1人感染者が出るでしょ。
濃厚接触者ということで家族の検査をするのですが、
比較的重症でも入院先が見つからないのでそのままだし、
軽症だともう、
家で様子をみて下さい、という感じになっているのですね。

色々な意味でお手上げで、
家族内感染を放置しているので、
これはもう感染拡大を阻止出来る訳がないですよね。

ちょっと呆然としてしまいます。

この間読んだシンガポールの事例だったと思うのですが、
家庭内感染のリスクを検証した論文があって、
シンガポールでは専門のスタッフが巡回して、
家族内感染の予防のための指導に廻っているんですね。
そのスタッフから感染が広がったりすることもあるので、
なかなか難しい面もあるのですが、
こういうことを是非やった方がいいですよね。

もう多くの事例で入院や宿泊療養が出来なくなっていて、
家族で患者を診ているのが実際なんですね。
家族内感染が増えているというのは、
要するにそうした意味で、
それ以外の感染経路は不明というのが実態なのです。

こうした事態になった時には、
家族内感染予防のために、
その指導をするような態勢が、
最も重要な対策であるのですが、
それが全くないのが実際なのですね。

勿論病院のスタッフや看護師も足りないのは事実なのですが、
クリニックの現場で考えますとね、
それ以上に足りないのがそうしたスタッフなのです。

これがとても重要だと思います。

患者さんの家族の話を聞いてもね、
そのことを一番心配されているんですよね。
家族に感染を広げないためにどうすればいいのか、
と試行錯誤をしているのですが、
一般の方にそうした試行錯誤をさせる、
というような態勢はまずいですよね。

これはもう早急にそうしたスタッフを養成して、
巡回するような体制づくりが急務である、
というように思います。

検査についてはね、
大手の検査会社の対応が遅いんですよ。
今検体を出して、
結果がファックスされるのが翌日の夜なんですね。
早くて夜なのです。
なので通常結果をお伝えするのが2日後になってしまうのですね。
これじゃ遅いよね。
ファックスというのも原始的だし、
何とかならないかと思うのですが、
ロジスティックの問題なんですね。
検体を迅速に運ぶという体制が弱くて、
1日のうち1回しかそのための集配がないのですね。
検査をする場所には1日に1回しか運ばないので、
結局朝に検査をしても夕方にしても、
検査の結果は同じにしか届かないのです。

これじゃ駄目だよね。
でも言っても改善は全くされません。

安い自費検査があるでしょ。
診断や診療のためではない、という名目で、
金もうけ目的がありありなのですが、
そっちの方がサービスは良いし、
結果が出るのも早いんですね。

金もうけ目的のクリニックは、
「医療目的ではない」という趣旨の自費検査をじゃんじゃんやって、
陽性になると保険請求して、
高額な検査費を公費で請求しているんですね。
近所のクリニックは自費検査をじゃんじゃんやっていて、
この間陽性者が出たのですが、
そうしたらお金を返したのですね。
それは要するにそうした処理をしている、
ということだと思うのです。
でも、実際には自費検査は安いので、
その差額は懐に入れている、
ということになります。
厳密に言えば不正請求ですよね。

集合契約をしている大手の検査会社は、
検査の価格は下げないんですよね。
そのために自費でも高額になってしまうので、
無症状だけれど心配、
というような人は皆、
精度管理も怪しげで低価格の自費検査に走るでしょ。
何か間違っているな、
というように思うのですが、
改まる気配はありません。

大手の物流の会社などが、
自前の低価格のPCR検査を販売したりしているでしょ。
良いことをしているつもりなのは分かるのですが、
実際には本来濃厚接触者に当たる人が、
自費検査を受けて安心してしまって、
それで感染をばらまくという結果になるのですよね。
濃厚接触者は2週間の隔離が必要なのですが、
それがざるになってしまうのです。
陽性が出ても強制力はないから、
届け出もしないということもありますよね。

要するに、
検査をすることを感染防御に繋げるという視点が、
そこにないことが問題なのですね。

家族内感染が野放しで、
行政が責任を放棄してお手上げになっている現状では、
感染防御を民間で担うしかないのが現実なのです。

検査をするだけで感染防御になりますか?

ならないですよ。

それくらいならね、
ロジスティックを大量に投入して、
医療用の検査が迅速に結果が出て、
それが迅速に医療機関に届くような体制に、
お金を出してもらえないですかね。

集合契約をしている多くの医療機関やPCRセンターで、
即日に結果を出せるような体制が作れれば、
それだけでかなり状況は変わるのですよ。

大手の検査会社はそうしたことをする気が、
120%ないんですよ。

それをどうにかしないと現状が変わりません。

それから家庭内感染を家庭で防御するための、
マニュアルとサポートするスタッフや技術開発、
体制整備が重要だと思うのです。

専門スタッフが感染者の家庭を巡回して、
必要な器具は全て提供するようにすれば、
それだけでかなり状況は変わるでしょ。

今は保健所から電話が入って、
「熱がありませんか?」くらいのことを言われるだけなんですよ。

それじゃ絶対駄目ですよ。

すいません。
愚痴が過ぎました。

重要なことだけ最後にもう一度言います。

今の感染拡大の主体は「家庭内感染」なのに、 それを予防することを行政は全くしていないのです。 何の対策もしていないのです。 隔離すら出来ていないのです。 誰かがそれをやらないと感染拡大は止まらないのです。

このようなことを考えつつも、
日々の診療をこなし、
自分に出来ることを、
細々と続けるしかないのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「サイレント・トーキョー」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
サイレントトーキョー.jpg
「アンフェア」などで知られる秦建日子さんの原案を、
SPシリーズの波多野貴文監督が、
引き締まったサスペンス映画に仕立てました。
そのロードショーの初日に足を運びました。

渋谷のスクランブル交差点で起こった大規模テロを、
リアルな野外セットとCGで再現した趣向が話題です。

これはなかなか良いですよ。

年末に何か面白くて分かりやすい映画を、
という方には一番のお勧めです。
あまり先入観なく観た方がより楽しめるので、
観賞予定の方は以下は観終わってからお読みください。
完全なネタバレはしていませんが、
何となく分かるような表現はあります。

よろしいでしょうか?

それでは先に進みます。

この映画は何より99分という短い上映時間がいいですね。
それでしっかり完結していますし、
内容も充実しています。
テーマ的には、
「平和ボケ日本の政治家に、
本当の戦争を知る個人が戦いを挑む」という、
まあ「SP」と同じ話で、
「相棒」シリーズの骨格も、
ほぼ同じ話ですよね。

ちょっと弱いのは、
時代が動いてしまっているでしょ。
問題意識は変わってはいないのですが、
今このコロナの現状を見ますとね、
ちょっとピンボケしてしまった感じはします。
でも、それはもう仕方がないですよね。
時代背景的には2017年から18年くらい、
という感じのお話しです。

何より台本が非常に練り上げられていますね。
ラストのレインボーブリッジが、
絵的にそれほど盛り上がらないのが弱いな、
という気はしますが、
中段の渋谷で頑張り過ぎたので、
これは仕方がないですね。
最初から細部まで計算されていて、
伏線の出し方も編集も上手いですね。
前半でちょっと過去の場面を入れ込むでしょ。
その時点ではそれがいつか分からないんですね。
こうしたところは上手いな、と思いますし、
観終わってすぐに、
冒頭を観返したいという気分になります。
これは成功ですよね。
一応ミステリーなので絵解きがあるのですが、
通常だとダラダラ銃を構えながら説明するところでしょ。
それをしないで、
登場人物を2人ずつの2組に分けて、
車の移動で処理しているんですね。
これは絶妙だと思いました。

何と言うのかな、
主人公達の思いのすれ違いと誤解を、
2台の車で表現しているんですね。
非常にクレヴァ―です。

これね、一応意外な結末、的ひねりがあるのですが、
まあ殆どの人には途中で分かってしまう、
という感じなのですね。
ただ、こういうのはこれでいいと思うのです。
あまり意外性のみを狙うと、
却って「唐突」になってしまうでしょ。
犯人の造形に説得力があれば良いと思うのです。
個人的には割と好みの設定で、
ジェフリー・ディーヴァーみたいでしょ。
結構好きです。

メインのキャストは、
佐藤浩市さん、石田ゆり子さん、西島秀俊さんの3人なのですが、
中村倫也さんの絡ませ方が上手いですよね。
これ3人で成立する話で、
中村さんは特に必要ない、
と言えば必要ないんですね。
ただ、中村さんを配置することで、
グッと物語に奥行が出るんです。
途中で中村さんが母親とその再婚相手に会う、
という場面があって、
その時はどうでもいいな、と思うのですが、
後半になって効いて来るんですね。
この辺りも上手いな、と思いますし、
今回は中村さんの「クールで何を考えているか分からない」
という持ち味が、
物語の中でしっかり活きた、
という感じがします。
この辺は脚本と演出の勝利だと思いますし、
中村さんの演技も良かったと思います。

そんな訳でちょっと出遅れたという残念さはあるのですが、
脚本、演出、演技と見応えがありますし、
スクランブル交差点のスペクタクルも、
相当日本映画としては頑張っていました。
娯楽映画としては自信を持ってお勧めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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歌い方と飛沫との関係(第九歌唱での検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
少し休憩しつつレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
第9.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、
2020年10月16日ウェブ掲載された、
歌の歌い方と飛沫感染リスクについての短報です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が、
日本においても止まる兆しがありません。

感染リスクの高い行為さえ避けていれば、
通常の生活をしていても感染は予防出来るのだ、
というのは多くの専門家も指摘するところですが、
それが事実であるという証明が、
必ずしも明確にある訳ではありませんから、
良心的な考えの人ほど、
「これ以上何をすればいいのか」と、
混乱を感じているのが現状ではないかと思います。

一方で確実に感染リスクが高い、
というような行為もあり、
その1つが「大声で歌を歌う」ということです。

これまでにカラオケ喫茶や合唱の練習などでのクラスターが、
国内外で複数報告されています。
これはいずれも集団で歌を歌うこと、により、
感染が拡大したことを示しています。

それでは、
歌を歌っている人から、
どのくらいの距離を取れば安全と言えるのでしょうか?

今回の研究はドイツで行われたものですが、
10人の合唱団のプロ歌手に、
日本でも非常にポピュラーな、
ベートーヴェンの「第九」の「歓喜の歌」の一節を、
歌詞を付けて大声で歌うヴァージョン、
歌詞を付けて声を抑えて歌うヴァージョン、
歌詞のみを大声で語るヴァージョン、
歌詞のみを声を抑えて語るヴァージョン、
歌詞ではなくメロディのみを大声で歌うヴァージョン、
メロディのみを声を抑えて歌うヴァージョン、
の6通りで歌い、
それを高性能のカメラで撮影して、
飛沫の飛散を比較検証しています。

日本でも富岳でシミュレーションしているのと、
基本的には同じ考え方です。

その結果、
興味深いことにメロディのみの場合には、
一番飛沫の拡散は少なく、
大声でも中央値で62センチ、
声を抑えると49センチしか、
飛沫は飛びませんでした。
その一方で歌詞を語るだけでも、
大声では中央値で82センチ、
声を抑えても74センチ飛沫は拡散していました。
歌詞を付けて歌うと最も飛沫は拡散し、
特に声を抑えた時に、
2メートルに近く拡散した事例も認められました。
正面と比べて、左右への拡散は少なくなっていました。

こうした知見から、
概ね前方で2から2.5メートル、側方で1.5メートル以上離れていると、
ほぼ飛沫を浴びることはないと推測されました。

プロの歌手は声を抑えても、
音を遠くに飛ばすという技術を持っているので、
やや特殊な面はありますが、
歌よりも言葉がより飛沫を拡散する、
という知見は興味深く、
今後の演劇や音楽の鑑賞条件と感染予防を考える上でも、
重要な知見であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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尿酸降下剤の心血管疾患に対しての安全性(2020年ヨーロッパの臨床研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フェブリクの安全性.jpg
Lancet誌に2020年11月9日ウェブ掲載された、
フェブリクスタットという尿酸降下剤の、
心血管疾患に対する安全性を検証した臨床試験の論文です。

尿酸降下剤としては、
アロプリノール(商品名ザイロリック)という薬が、
世界的には最も広く使用されています。
これは尿酸の合成を抑えて血液の尿酸を下げる効果の薬です。

その有効性は確立していますが、
問題は体質により重症薬疹の発症があることです。
遺伝子多型によりリスクが推測出来る、
というような報告もあるのですが、
現状は一般臨床において、
遺伝子検査により適応を判断する、
というような方法は使われていません。
その発症は欧米よりアジアにおいて多いとされています。

帝人ファーマにより開発されたフェブキソスタットは、
アロプリノールとは構造の異なる尿酸合成阻害剤で、
アロプリノールに変わり得る薬として注目されました。

アメリカでは武田製薬の子会社により販売され、
ヨーロッパでも別個に販売されるなど、
日本発の新薬としては珍しい成功例を言って良いものです。

その有効性は尿酸値の降下作用な痛風発作の予防という面では、
アルプリノールと同等と評価されています。
次に問題になるのは副次的な効果です。
尿酸の高値と心血管疾患とのリスクとの間には関連がある、
という指摘があり、
フェブリクスタットが心血管疾患の予後にも、
トータルに良い影響を与えることが期待されたのです。

ところが…

武田製薬の主導で行われた北アメリカにおける大規模臨床試験が、
2018年に発表されると、
その雲行きはかなり怪しいものになりました。

それがこちらです。
フェブリクスタットの効果NEJM.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載されたこの論文では、
痛風の患者さん6190名をくじ引きで2つの群に分け、
一方はアロプリノールを使用し、
もう一方はフェブキソスタットを使用して、
中央値で32か月の経過観察を行なっています。
これは偽薬も使用して、
患者さんにも担当医にもどちらが選ばれたか分からないという、
厳密な方法で行われた試験です。

結果はトータルな心血管疾患のリスクでは、
アロプリノールとフェブキソスタットの間に、
有意な違いは認められませんでした。

しかし、総死亡のリスクは1.23倍(95%CI: 1.01から1.47)、
心血管疾患による死亡のリスクは1.34倍(95%CI:1.03から1.73)、
アロプリノールと比較してフェブキソスタット群で有意な増加が認められました。

この結果を受けてアメリカのFDAは、
フェブキソスタットの位置づけを、
アロプリノールと同等ではなく、
アロプリノールが副作用などで使えない時などのために、
二次選択薬としての位置づけに降格したのです。

何故このような現象が起こったのでしょうか?
この点は不明ですが、掲載誌での議論では、
尿酸を下げ過ぎることが、
却って心血管疾患リスクの増加に繋がるのでは、
というような意見もあります。
また、フェビリクスタットが悪いのではなく、
アロプリノールに心血管疾患を予防するような作用があるのでは、
というような意見もあります。

その後2019年のEuropean Heart Journal誌に、
日本で行われた同様の臨床試験の結果が発表されています。

2018年論文は痛風の患者さんを対象としていましたが、
こちらは一定の心血管疾患のリスクがあり、
血液の尿酸値が7.0mg/dLを超え、9.0mg/dL以下と対象としています。
ここでくじ引きで対象者を2つに分けると、
一方はフェブリクスタットを使用し、
もう一方は尿酸がより上昇した時のみアロプリノールを使用して、
36か月の経過観察を行なっています。
対象患者数は1070名です。

その結果、
当然のことですが尿酸値はフェブキソスタット群で有意に低下し、
心血管疾患と総死亡を併せたリスクは、
フェブキソスタット群が25%(95%CI: 0.592から0.950)有意に低下していました。

つまり、
2018年のNew England…の論文とは異なり、
フェブキソスタット群で心血管疾患の予後が改善したとする結果です。

ただ、
この試験は患者さんにどちらが選ばれたかは、
最初から分かっているような方法で行われています。
偽薬を使用するようなことはしていないのです。
対象となる心血管疾患についても違いがあり、
腎障害については微小アルブミン尿のようなものまで入れていて、
イベントのうち最も多いのは、
この腎機能障害となっています。
従って、個別の疾患で有意差が付いているのも、
腎障害だけです。
2018年論文では虚血性心疾患と脳卒中とそれによる死亡のみですから、
それだけでもかなりの違いがあるのです。

また、
本来フェブキソスタットの心血管疾患に対する効果を見るのであれば、
尿酸の低下はほぼ同一にして比べるべきですが、
今回の試験では尿酸値はフェブキソスタット群のみで低下しているので、
フェブキソスタットの独自の降下を見ているのか、
尿酸が低下したことによる効果を見ているのか、
それも定かではありません。

そもそもは2018年論文と同じようなデザインの試験をして、
そんなことはないよ、という結論を得られれば良かったのですが、
デザインは厳密ではない上に、
評価の仕方にもかなり無理があって、
とてもこの結果だけを見て、
フェブキソスタットは安全で心血管疾患の予後を改善する、
とは言えないような内容になっています。

今回の臨床試験はイギリス、デンマーク、スウェーデンにおいて、
60歳以上で痛風発作がありアロプリノールを使用している、
トータル6128名の患者さんが対象となっています。
少なくとも1つ以上の心血管疾患リスクを持っている事が条件で、
心筋梗塞や脳卒中を起こして半年以内の患者は除外されています。
尿酸値が6mg/dL未満と安定したコントロールにある時点で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそのままアロプリノールを継続し、
もう一方はアロプリノールをフェブキソスタットに切り替えて、
中間値で1467日の経過観察を行っています。

その結果、
アロプリノール群とフェブキソスタット群との間で、
新規の心筋梗塞や脳卒中などの発症やそれによる死亡のリスクに、
明確な差は認められませんでした。

つまり、
今回の2018年のNew England…論文に匹敵する規模の臨床試験において、
フェブキソスタットのアロプリノールと比較した、
心血管疾患に関する安全性には、
明確な違いはなかった、という結果です。

この問題はまだ解決したとは言えませんが、
現状フェブキソスタットとアロプリノールは、
同等の有効性と安全性を持つと、
そう考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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1型糖尿病に対する生物学的製剤の有効性(ゴリムマブの診療試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゴリムマブの1型糖尿病への有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年11月19日掲載された、
1型糖尿病の新しい治療法についての論文です。

1型糖尿病は主に小児期に発症する、
初期からインスリン分泌が高度に障害されるタイプの糖尿病で、
その原因として自己免疫による膵臓の炎症があるとされています。

通常一生に渡ってインスリンの自己注射が必要で、
補助的な治療はありますが、
インスリン注射が不要になる訳ではなく、
膵臓移植という方法はありますが、
日本の現状ではその施行は極めて限定的です。

最近関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの、
矢張り自己免疫による炎症が原因とされる慢性炎症性疾患で、
炎症性サイトカインに対する抗体製剤が、
生物学的製剤として活用され、
高い有効性を示しています。

特に腫瘍壊死因子(TNF-α)という、
炎症サイトカインに対する抗体製剤は、
複数開発されて実際に使用され効果を挙げています。
ゴリムマブ(商品名シンポニー)もその1つで、
副作用が少なく継続使用がし易い製剤として、
関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療に使用されています。

現状こうした製剤が、
1型糖尿病の治療に使用されることはありませんが、
1型糖尿病も自己免疫疾患で、
血液のTNF-αが増加しているという知見もあることから、
その治療にも有効であるという可能性はあります。

そこで今回の臨床試験においては、
年齢が6から21歳で顕性の1型糖尿病と診断され、
診断から100日以内の84名を、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2対1に分けると、
56名にはインスリン治療に加えてゴリムマブの皮下注射を継続し、
残りの28名は偽の注射を施行して、
52週間の経過観察を行っています。

その結果、
偽注射群と比較してゴリムマブ群では、
52週の時点での内因性インスリン分泌が改善しており、
インスリンの必要量も有意に低くなっていました。
ゴリムマブ群全体の54%に当たる30名で、
ゴリムマブに対する抗体が検出されました。

このように、
ゴリムマブの使用により、
1型糖尿病の病態は改善し、
内因性インスリン分泌にも改善が認められました。
抗体価が比較的高率に誘導されるなど、
その使用法については今後検討が必要ですが、
これまでインスリン以外に有効な治療のなかった1型糖尿病において、
その病態を改善させる可能性のある治療であることの意義は大きく、
今後のより詳細な知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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