SSブログ

新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの有効性(ファイザーなど) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
RNAワクチンの有効性論文.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年12月10日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症のワクチンとして、
もう海外では一般への接種が開始され、
日本でもおそらく最初に接種が始まりそうな、
ファイザー社などによるmRNAワクチンの、
有効性についての臨床試験結果をまとめた論文です。

今回開発されたのは、
mRNAワクチンというタイプのワクチンです。
その仕組みの概略がこちら。
RNAワクチンのメカニズムの図.jpg
mRNAというのは、
人間の細胞がリボゾームという工場でタンパク質を作る時に、
その設計図となる遺伝子の鋳型のようなものですが、
それを合成して新型コロナウイルスの突起部分の蛋白質の、
元になる遺伝子を挿入します。
それを脂質の膜のカプセルで保護して粒子にしたのが、
このワクチンの原型で、
それを筋肉注射で身体に送り込みます。

それが、抗原提示細胞と呼ばれる免疫細胞に取り込まれると、
そこで抗原蛋白が作られ、
それが新型コロナウイルスに対する免疫を、
誘導することになるのです。

これまでのワクチンは、
基本的に抗原蛋白そのものを投与して、
それで免疫を誘導するという手法でしたから、
今回のワクチンはその元になる遺伝子を投与して、
身体の細胞に抗原蛋白を作らせる、
という点が全く違っているのです。

このワクチンは30μgを3週間の間隔で2回筋肉注射で接種します。

今回の臨床試験は主にアメリカで、
16歳以上の43548名をくじ引きで2つに分けると、
一方は上記のワクチンを2回接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
その後の両群の新型コロナウイルス感染症発症率を、
比較検証しています。

その結果はこちらをご覧下さい。
RNAワクチンの有効性の図.jpg
かなりクリアな有効性が示されています。
2回目のワクチン接種から7日以上経過後に発症した、
新型コロナウイルス感染症は、
ワクチン接種群では8件であったのに対して、
偽ワクチン群では162件で、
2回のワクチン接種により、
新型コロナウイルス感染症は95%
(95%CI: 90.3 から97.6)有意に抑制されていました。
(上記画像のデータとは、
少し条件が異なっているので件数が微妙に違っています)

今回の臨床試験においては、
ワクチンの有害事象は、
主に接種部位の疼痛や発赤、
だるさや頭痛などで、
重篤なものは少なく、
偽ワクチンと有意な差は認められませんでした。

これはまだ数ヶ月の有効性に過ぎませんが、
実際の感染症の発症で95%という有効性が、
厳密な臨床試験で示されているというのはかなり画期的なことで、
今後は一般に接種が拡大した際の有効性と安全性のデータが、
蓄積される経過を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「燃ゆる女の肖像」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
燃ゆる女の肖像.jpg
セリーヌ・シアマ監督による、
魅力的な設定のフランス映画で、
登場するキャストも殆ど女性です。
こういうのを昔は「女性映画」と言ったりしていましたが、
勿論今はそんな言い方はしませんね。

18世紀を舞台にして、
女流画家と貴族の娘との、
道ならぬ恋の物語です。
舞台が島にある城館で、
貴族の娘がまだ会ったこともないイタリア貴族と結婚するために、
先方に送るための肖像画を、
女流画家に依頼するのですね。
2人は恋に墜ちるのですが、
それは肖像画が完成するまでの、
ほんの束の間の恋に過ぎないのです。

設定は工夫されていて非常に魅力的です。
映像は極彩色で美しく、
繊細なタッチも好印象です。
ただ、結果的には最後まで何も起こらない、
というお話なので、
もう少しダイナミックな展開を期待していると、
肩すかし的に感じることも事実です。

ラストがね、
もう結婚して子供もいる貴族の娘の顔のアップで、
それを延々と映すのですね。
勿論意図は分かるのですが、
「アップで語らせる」というのが僕はあまり好きではなくて、
正直、「あーあ」というように思ってしまいました。
ただ、これはもう好みの問題で、
このラストが良い、という人もいると思います。

日比谷のシネマシャンテで観たのですが、
結構高齢者で客席が埋まっていました。
ロマンチックな映画には一定の需要があるのだな、
というように感じました。

そんな訳で個人的には、
これだけじゃ物足りないな、というように思いましたが、
余白の多いロマンチックで美しい映画で、
お好きな方の心には刺さる作品だと思います。

ご興味のある方はどうぞ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

「23階の笑い」(2020年三谷幸喜演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
23階の笑い.jpg
ニール・サイモンの、
これまでにも翻訳上演されている戯曲を、
三谷幸喜さんが新たに上演台本を構成し演出した舞台が、
今世田谷パブリックシアターで上演されています。

1950年代のアメリカを舞台にしたお芝居を何故今、
というように思うのですが、
実際に舞台を観ると、なるほど、という感じがあります。

テレビのコント王とそのブレインのコント作家達が、
視聴者の嗜好の変化から人気を失い、
テレビ番組も打ち切りの危機に陥るという物語は、
日本の戦後のテレビの歴史とも一致して、
私達の身近な物語でもありますし、
その背景にある「赤狩り」の時代と政治と笑いとの対決は、
これも現代に通底するテーマでもあります。

この1時間45分ほどの笑いを交えたお芝居は、
観てみると非常に身近な世界を描いていて、
なかなかに引き込まれます。

三谷幸喜さんの演出は奇を衒ったところはありませんが、
作品への愛情の感じられる非常に丁寧なもので、
ラストのちょっとしたオチのために、
結構手の込んだ舞台チェンジを用意するなど、
なかなか贅沢な作りです。

キャストは大物コント王に、
三谷さんに抜擢されて今や堂々たる実力派俳優に成長した、
小手信也さんが演じて、
この作品の核になっています。
非常な熱演で期待にこたえたと言って良いと思いますが、
かなり鋭角で余裕はない芝居で、
コント王という存在の大きさやその愛らしさのようなものを、
表現するレベルには、
達していなかったようにも思いました。

取り囲むコント作家達は、
お馴染みのベテランから中堅まで、
華のある実力派を揃えていて、
なかなかの壮観でした。

そんな訳で三谷さんとしては、
安全運転の水準作という感じはありましたが、
ニール・サイモンへの愛に溢れた、
素敵なお芝居だったと思います。

なかなかのお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年12月18日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動や検診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は新型コロナウイルス感染症を巡る現状です。

東京では感染拡大が止まりません。

現状の感染拡大の意味合いは、
個人的な見解としては、
家族内感染が拡大している、
ということと同じであると思います。

家族内感染が止まらないのです。

これは正直当たり前のことで、
現状家族内感染を防ぐための対策が、
全く行われてはいないからです。

東京都の統計をみますと、
宿泊療養より自宅療養の方がずっと多くなっていて、
自宅療養は1200人を超えています。

問題はこの自宅療養の内容だと思うのですね。

個々の事例のお話しを聞いているとですね、
少なくともクリニックのある品川区において、
自宅療養が積極的に選択されている、
というような現状はないのですね。

同居者がいれば、
基本的には軽症でも宿泊療養が選択されるのですが、
結局空きがないと「待機」ということになるのです。
「待機」になるとどうなるのかと言うと、
毎日保健所から電話連絡はあり、
「体調はどうですか?」というような質問はあるのですが、
それ以外は医療もケアも何もありません。
感染予防のために何かの措置が取られる、
というようなこともありません。

そのうちに軽症者であれば症状は改善するので、
「今から宿泊施設に行っても意味がないですね」ということになり、
患者さん本人も勿論希望はしませんから、
そのまま何となく自宅で経過をみることになってしまいます。

これが、「自宅療養」と言われるものの実態であると、
現状を見る限りは思います。

「家族全滅」というケースが、
クリニックで関わった中では3軒ほどありました。
(守秘義務および患者の特定を避ける観点から、
一部は事実と異なる記載をしている部分があります。
ご理解下さい)

1例は高齢の両親と娘さんという3人家族で、
都営住宅に入居をされていた方です。
まず母親に軽い咳やだるさが出現。
それでも軽症であったので、
夫を連れてあちこちの医療機関を受診していました。
数日して今度は父親が咳込みと発熱の症状あり。
高熱になったため、
インフルエンザと新型コロナの遺伝子検査をして、
2日後に新型コロナウイルス感染症と診断されました。
同じ日に別の医療機関で母親も検査を受け、
こちらも新型コロナウイルス感染症と診断されます。
その時点では娘さんは無症状であったのですが、
数日後に咳や熱などの症状が出現しています。
この事例は高齢の夫婦の感染は、
阻止することは困難であったと思われますが、
もっと早期に適切なアドバイスがなされ、
迅速に入院が可能であれば、
娘さんへの感染は防がれたのではないか、
と思われたケースです。

もう1つの事例は50代の夫婦と、
10代の娘と息子4人の家族のケースですが、
娘さんの高校の部活でクラスターが発生し、
濃厚接触者として自宅待機になります。
その時点で一度RT-PCR検査が施行されて陰性でした。
ところが、陰性が判明した2日目に娘は発熱し、
その翌日に行われたRT-PCR検査で陽性が判明します。
自宅待機になってから陽性が判明するまでに、
5日が経過していて、
特に陰性が確認されてから2日は、
娘は自由に活動していました。
それから五月雨的に他の家族が発熱や下痢、
だるさなどの症状呈し、
次々と検査で陽性が判明しました。
この事例は濃厚接触者の管理の難しさを実感させるものです。
クラスター発生で濃厚接触者を認定して隔離して、
その隔離が適切に行われていれば、
有効性があるのですが、
結局行われていることは「自宅待機」で、
それで検査で陰性とされれば、
「もう大丈夫」と絶対思うでしょ。
いくら「2週間は注意して」と言っても、
それは人間の心理的に困難であると思うのです。

要するに、現状家庭がブラックボックス化していて、
そこに1000人以上の感染者が待機しているのです。
それがすぐに2倍になり3倍になりますよね。
500人が1000人に増え、1500人になっても、
全然おかしくありません。
いやむしろそうなるのが必然です。

ここからはもう2択で、
早期の隔離をして家族内感染を拡大しないために、
宿泊療養を今の3倍くらいにどうにかして拡充するか、
それとも何もしないで放置して、
「ステイホーム」、要するに家庭の感染を外には出すな、
という対策のみを行い、
一旦拡大した感染が、
自然におさまるのを待つのかの選択です。
家庭内感染を阻止するために、
専門のスタッフを大幅に増員して、
定期的に家庭を巡回して指導を行う、
というのもオプションとしてはありますが、
今はもうそのタイミングは逸したと思います。

現状は後者の選択肢が選ばれているのだと、
今の情報を見る限りは理解しているので、
これはもう感染の数倍の拡大を、
一旦は覚悟して対処するより他はないようです。

個人的には日々の仕事をこなしつつ、
少しでも検査結果を迅速に患者さんに届けられるように、
また家族内感染のリスクを減らし、
患者さんの自宅療養での不安を、
少しでも和らげられるような対応に、
微力ながら尽くしたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(1) 

新型コロナウイルス感染症の双子感染事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19双子の事例.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2020年12月8日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の、
興味深い事例を報告した短報(レター)です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、
問題となる点の1つは、
重症化する事例と軽症のままで回復する事例の、
何が違っているのか、ということです。

1つの考え方として、
患者さんの遺伝子の個人差が、
病気が重症化するかどうかに関わっている、
というものがあります。

仮にこれが事実であるとすれば、
遺伝子がほぼ同一である一卵性の双子では、
同時に新型コロナウイルス感染症に感染すれば、
同じ経過を辿ることが想定されます。

今回のレターでは、
60歳の双子の男性が、
同時に新型コロナウイルス感染症に罹患した事例が報告されています。
同じように発熱と鼻汁で始まり、
全身倦怠感と呼吸困難と空咳が続き、
発症10日後に同時に入院しています。

2人は同じ仕事をしていて、
生活環境も一致しており、
基礎疾患も共にありません。

入院の時点の検査において、
双子は2人とも軽度の間質性肺炎の所見を認めました。
2人は共通する医療チームにより、
酸素投与やヒドロキシクロロキンなどの治療が、
同様に施行されました。

ところが…

その後の経過は大きく違っていました。
入院後の2週間で1人目の双子は順調に改善して退院に至った一方で、
2人目の双子は急激に肺炎が悪化して集中治療室に入室しました。

要するに遺伝子を含めてその背景がほぼ同一で、
病状も初期は同一で同じ治療が行われたにも関わらず、
その後の経過は回復と重症化と、
正反対になってしまったのです。

一体何がこの違いを生み出したのかについては、
この事例から解読することは困難ですが、
少なくとも遺伝子の違いにより重症化が決まる、
というような考え方で説明出来るほど、
新型コロナウイルス感染症の重症化のメカニズムは、
単純なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

LDLコレステロールと死亡リスクとの関連(2020年デンマークの大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動と保育園健診で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LDLと死亡リスク論文.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年12月8日ウェブ掲載された、
LDLコレステロールと生命予後との関連についての論文です。

悪玉コレステロールと称されることの多い、
LDLコレステロールが血液中で高値であると、
動脈硬化が進行して心筋梗塞などの発症リスクが増加することは、
多くの精度の高い臨床データにおいて実証された事実です。
また、心血管疾患のリスクの高い対象者に、
スタチンというコレステロール降下剤を使用して、
LDLコレステロールを高度に低下させると、
その発症のリスクや再発のリスクが低下することもまた、
精度の高いデータで実証されています。

ただ、心血管疾患リスクなどのそれほど高くない一般住民で、
LDLコレステロールの値がどのくらいであると、
最も生命予後に良い影響を与えるのか、
というような点については、
LDLが低いとむしろ死亡リスクが高くなる、
というような報告もあって一定していません。

今回の疫学研究は、
デンマークにおいて108243名を中間値で9.4年観察した、
非常に大規模なもので、
LDLコレステロールと総死亡リスク、
心血管疾患と癌の死亡リスクとの関連を検証しています。

その結果はこちらをご覧下さい。
LDLと死亡リスクの図.jpg
これは総死亡のリスクと血液のLDLコレステロールとの関連をみたものです。

一番上がトータルでの解析で、
真ん中はスタチンなどのコレステロール降下療法をしていない場合、
一番下は治療をしている場合です。

全体と未治療群では、
LDLコレステロールは140mg/dLくらいが、
最も総死亡リスクが低く、
それより高くても低くても、
リスクは上昇するという傾向を示しています。
一方でコレステロール降下療法の使用群では、
89mg/dLくらいが最もリスクが低い、
というように低値にグラフがシフトしています。

そして、非致死性心筋梗塞の患者さんに限った解析では、
心血管疾患による死亡リスクは、
コレステロールが高いほど高くなるという、
直線的な傾向を示していました。

今回の結果は、
ほぼこれまで想定していた結果を裏付けるもので、
心血管疾患のリスクが高い群においては、
よりコレステロールを低値にした方が、
その生命予後は改善するのですが、
心血管疾患のリスクが低い一般住民においては、
140mg/dLくらいが最も健康的なコレステロールレベル、
というように考えて良いようです。

血圧もそうですがコレステロールの場合も、
闇雲に低くすれば良いということではなく、
その個々の人の動脈硬化進行のリスクを評価して、
その上でその人にとってのコレステロールの目標値を、
定めるのが正しいあり方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

ペットと飼い主の糖尿病リスク(BMJ2020年クリスマス論文) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ペットと糖尿病リスク.png
British Medical Journal誌に、
2020年12月10日ウェブ掲載された、
ペットと飼い主の糖尿病リスクを解析した、
ユニークな論文です。

これも昨日ご紹介した論文と同じ、
この医学誌恒例のクリスマス特集の1本です。

真面目な研究ではあるのですが、
通常の時期なら載ることのない、
にやりとするようなユーモラスな研究なのです。

犬や猫も糖尿病になりますが、
人間で言えば1型糖尿病に近い、
比較的急激な発症でインスリンが高度に欠乏する、
というような病態が大部分であるようです。

人間の2型糖尿病は、
体質と環境要因の両者が合わさって発症すると、
考えられています。

それでは、同じ環境を分け合って生活している、
飼い主とペットの間では、
糖尿病の発症についてどのような関係があるのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
208980組のペットの犬と飼い主のペアと、
123566組のペットの猫と飼い主のペアを、
経過観察して糖尿病の発症を比較検証しています。

その結果、
糖尿病のない犬を飼っている飼い主と比較して、
糖尿病を発症した犬を飼っている飼い主は、
2型糖尿病のリスクが1.32倍(95%CI: 1.04から1.68)有意に増加していました。
一方で猫とその飼い主については、
同じような関係性は認められませんでした。

この現象の説明はまだありませんが、
犬と猫に差があるという指摘は興味深く、
ペットと人間と病気との関連は、
今後も検証の必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

執刀医の誕生日の手術は危険?(BMJ2020年クリスマス論文) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
執刀医が誕生日の手術は危険?.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年12月10日ウェブ掲載された、
執刀医の誕生日と患者の死亡リスクを比較するという、
ユニークな内容の論文です。

慶應大学の研究者や、
新型コロナについての情報発信などもされている、
津川友介先生らによる研究です。

データも本物で解析も真面目にされていますが、
これはクリスマス特集というこの雑誌の恒例の企画で、
ユーモアに満ちた肩の力の抜けた研究を、
特集しようというものです。

そのつもりで、
「ひょっとしたら、そういうこともあるかもね」
くらいに読んで楽しむという性質のものです。

その点は誤解のないようにお読み下さい。

さて、外科医も人間ですから、
本当は仕事をしたくない日に呼び出されて手術、
ということもあります。
そうした日とやる気満々で手術を迎えた日では、
その結果にも違いがあっておかしくはありません。

勿論手術を受ける患者の立場に立てば、
そんなことは絶対にあってはならないことですが、
きれい事ではなく現実の問題として考えれば、
そうしたことはあり得るのですから、
データを検証することは意味のある行為であるのです。

今回の研究はアメリカの65歳以上の高齢者への、
公的保険制度であるメディケアの大規模な医療データを活用して、
2011年から2014年に行われた緊急手術、
トータル980876件をその主治医毎に解析して、
手術日が誕生日であることの影響をみたものです。

手術は47489名の外科医によって行われ、
その0.2%に当たる2064件が外科医の誕生日に施行されていました。
関連する他の因子を補正して解析したところ、
外科医の誕生日に行われた手術を受けた患者の、
術後30日以内の死亡率が6.9%であったのに対して、
誕生日以外の手術の死亡率は5.6%で、
その差は1.3%(95%CI: 0.1から2.5)と、
誕生日の手術は若干ながら、
患者の死亡率の増加に結び付いていた、
という結果になっていました。

このデータをそこまで真面目に議論する必要は、
ないように思いますが、
医師の意欲やモチベーションによって、
手術の予後に変化が生じる可能性がある、
という指摘自体は重く受け止める必要があり、
こうしたことが起こらないような予防策については、
案外真面目に議論する必要があるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「異端の鳥」(2020年日本公開映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
異端の鳥.jpg
アメリカに渡ったポーランド人作家が、
1965年に発表した小説「The Painted Bird」を、
チェコ出身のパーツラフ・マルホウル監督が、
11年という歳月を掛けて映画化したという執念の力作が、
今日本でロードショー公開されています。

これは今年公開の作品の中で、
「ミッド・サマー」に匹敵するカルトです。

内容は、東欧のある架空の地域を舞台にして、
ナチスの迫害のため親戚の元に預けられた少年が、
ユダヤ人であることと、
黒い目と黒髪のために「悪魔の手先」として迫害を受け、
家族との再会を目指して、
長い苦難の旅をする、という物語です。

ユリシーズのような、
苦難の旅路を描いた叙事詩的な物語なのですが、
暴力と偏見に満ちた異常な人物が、
フリークスのように次々と登場し、
少年を迫害するというエピソードが、
串団子のようにこれでもか、これでもか、
と続いてゆきます。
長くても数年の第二次大戦中の物語の筈ですが、
意図的に歴史を俯瞰するような表現がなされていて、
前半には女呪術師や、
鳥追いの男など、
中世的な人物が登場し、
後半はソ連軍とドイツ軍が入り混じる、
戦争の世界が描かれます。

ラストのテーマ曲を除けば音楽はなく、
モノクロームでシネスコの画面に、
堂々たるタッチで綴られる物語は、
たとえば1940年代の映画として観ても、
違和感のないような仕上がりです。
鼠の群れに人間を落として殺したり、
スプーンで眼球を抉りだすような残酷描写や、
獣姦趣味の美女などの異様な人物造形は、
突飛にも思われますが、
古い映画は結構こうした理知から外れた異常な描写を、
得意にしていたものなのです。

その一方で、
原題を象徴する、
鳥の群れが塗料を塗られた鳥を迫害し、
殺して落としてしまう場面などは、
CGの進歩した現代でなければ可能ではない表現ですし、
臨場感に溢れた音響効果は、
これも今の技術をもってしか、
なしえないものです。

東欧で撮影された生粋の東欧の映画で、
その独特の空気感がいいですね。
前半はタルコフスキーやドライヤーみたいな、
神秘主義の雰囲気もありますし、
後半の戦闘シーンは、
ワイダ監督の初期の戦争映画を彷彿とさせます。
村を襲うコサックとソ連軍の戦闘シーンなど、
その生身の凄まじさは、
今の映画にはあまりないものでした。

内容的にはね、
物議をかもすというか、
観る人によっては拒否感を覚えるようなところがあるんですね。

主人公の少年は、
最初は「両親と再会したい」という思いがあって、
それで苦難の旅に出たのですが、
「悪魔の手先」と言われて迫害されているうちに、
そんな感情はもうなくなってしまうんですね。
良識的な人が、
「人間性」と言ったり「心」や「精神」と言ったりするものを、
全て失ってしまうんですね。
欧米的には精神の象徴は「言葉」なので、
言葉も失ってしまうのです。
もう人間ではなくなってしまうので、
自分が暴行を受けると、
他人にもそれをするのですね。
老人を暴行してそれで平気だったりするので、
「人間性」みたいなものを信じて映画を観ている人は、
拒否感を覚えるのだと思うのです。

でも、これはそうしたことではないのですね。
この作品の思想においては、
「精神」などというものは一切存在はしていなくて、
周囲の社会や環境がそれを作る、というだけなんですね。
だから、主人公はロシア兵が「目には目を」と復讐すると、
自分も平気で同じことをするのです。

この徹底したニヒリズムのようなものを、
容認出来るかどうかが、
この作品を受け入れられるかどうかの、
分かれ目であるように思います。

僕個人としては、
そこまでニヒリズムでもありませんが、
これはこれでありかな、とは思うので、
変な人間賛歌の映画よりも、
素直に納得して観ることが出来ました。

娯楽映画ではありませんが、
ジュリアン・サンズとかハーヴェイ・カイテルとか、
結構馴染みの名優の競演も楽しいですし、
監督の執念の感じられる堂々たる大作で、
それでいて石井輝男監督の残酷時代劇のようなエグ味もあり、
万人向けではありませんが、
こうしたもののお好きな方であれば、
充実した3時間を味わえることは間違いがありません。

嫌いな方や受け付けない方はいても、
無視出来る映画ではない、
そうした作品で、
個人的には今年最も集中して観ることの出来た1本です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

「ミセス・ノイジィ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミセス・ノイズィ.jpg
注目の天野千尋監督の脚本、演出で、
篠原ゆき子さん主演の映画が今ロードショー公開されています。

これはアイデア賞というか、
企画賞的な作品で、
売れない主婦兼業小説家が、
炎上マーケティングに巻き込まれる悲喜劇を描いたものですが、
内容自体はそれほど目新しくないものの、
メインとなる隣同士の女性2人の造形が、
等身大にじっくりと書き込まれていて、
とても身近な怖さとして感じることが出来ます。
ちょっとあざとい仕掛けや、
非現実的なラストは好みの分かれるところですが、
観て損はない作品だと思います。

老若男女入り交じった客席でしたが、
後半は皆少し前のめりになって、
物語に引き込まれているのが分かります。
こういうのは明らかな成功ですよね。
決して役者のレベルや演出のレベルは、
高い作品ではないので、
それでここまで観客を惹き付けるのは、
これはもう物語自体の力だと思います。

以下、少し内容に踏み込みます。

鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか。

それでは続けます。

物語は篠原ゆき子さん演じる、
子育てをしながら小説を書いている主人公が、
早朝に大声を上げながら布団を叩き続ける、
大高洋子演じる奇行の隣人女性と関わりを持ったところから、
2人の女性の戦いが、
今の社会の異様さを娯楽性豊かにあぶり出して行きます。

端的に言えば2組の家族の物語なのですが、
特に2人の対称的な女性の描写がリアルで深く、
中段で表面的な滑稽さの裏にあるものが露になると、
その振り幅の大きさに感心しつつ、
観客は物語の中に入り込み、
怒ったり同情したり馬鹿にしたり共感したりしながら、
ラストでは結構感動に近い気分にもなります。

これはもう工夫を凝らした物語と、
人物描写の妙だと思います。

ただ、この作品、
映画としての質という意味では、
それほど高いものではありません。

低予算なのは仕方のないことで、
それが武器になる場合もあるのですが、
役者の質や演出の質はかなり稚拙で、
プロの商業映画とは言えない感じです。
役者については唯一主役の篠原ゆき子さんについては、
かなり頑張っていて、
彼女の演技の説得力で、
この作品はどうにか踏ん張れた、
という感じなのですが、
他のキャストについては及第点とは言えません。

ある人物の幻覚の描写があって、
本物の虫を皮膚などに這わせているのですが、
かなり生理的不快感を覚える表現で、
登場するタイミングは、
物語の節目の部分でもあるので、
かなり考えられた上でそうした表現が取られた、
ということは分かるのですが、
本物の虫を使うにしても、
もう少し使い方に工夫が必要ではなかったかな、
というようには思いました。

ラストはかなり甘いもので、
それも小説の社会に対する意義のようなものを、
やや脳天気に主張するような感じになっています。
個人的には少し脱力しましたが、
多分この表現は作り手の意図的なもので、
観客よりも作り手の関係者を意識したもののように感じました。
「小説は素晴らしいよ」と言った方が、
小説や創作の依頼も増えるでしょ。
これはそうした意味なのだと思います。
この物語において、
小説が悲劇の誘因であったことは確かなのですから、
家族が和解するにしても、
小説以外が媒介となった方が、
良かったのではないでしょうか?

そんな訳で不満や物足りない点も多い映画ではあるのですが、
この世界の恐怖に真っ正面から取り組んだ力作で、
多くの観客を前のめりにさせた力は、
本物だと言って良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

nice!(3)  コメント(0)