新型コロナウイルス感染症に対する吸入インターフェロンβの有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
これはシネアジェン社という、
イギリスのバイオテクノロジーメーカーの、
2020年7月20日付のプレスリリースですが、
報道などで「画期的新薬が…」というような感じで、
話題になっているものです。
ただ、画期的な効果があったとする、
メーカー主導の臨床試験の結果を、
かいつまんで説明しているだけのもので、
まだ論文化にも至っていないようです。
海外発のニュースですが、
一企業の宣伝を、
ただ垂れ流すという感じのニュースは、
如何なものか、
というようには思います。
インターフェロンβは、
抗ウイルス作用を持つサイトカインで、
その吸入剤としての使用は、
2014年に喘息患者のウイルス感染時の病状改善目的で、
同じシネアジェン社の主導で臨床試験が行われ、
こちらは論文となっています。
ウイルスの気道感染の際に、
気道上皮細胞はインターフェロンβを産生し、
それがウイルス感染の防御に重要な役割を果たしているのは事実です。
喘息の患者さんの一部では、
ウイルス感染時のインターフェロンβの産生能が低下していて、
それが喘息では感染時に呼吸機能が悪化することの、
要因ではないかという考え方があります。
そこで感冒症状の見られた喘息患者に、
インターフェロンβの吸入薬を2週間使用したところ、
喘息症状の改善が認められましたが、
患者の一部では増悪も認められました。
つまり、必ずしも結果は上手くいかなかったのです。
その後シネアジェン社はCOPDに対しても、
このインターフェロンβの吸入試験を試み、
そして今回は新型コロナウイルス感染症に対して、
同じ薬剤を使用した臨床試験を行なっているのです。
理屈から言えば、
新型コロナウイルスの下気道感染に対して、
気道のインターフェロンβを増加させることは、
感染防御とコントロールに有効である可能性はありそうです。
今回のプレスリリースによると、
イギリスの9カ所の専門病院において、
新型コロナウイルス感染症の入院患者101名を、
クジ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はインターフェロンβの吸入を16日間継続し、
もう一方は偽の吸入を施行してその経過を比較したところ、
偽吸入群では6%に当たる3名が死亡した一方で、
インターフェロンβ吸入群では死亡者はなく、
死亡か人工呼吸器を装着するリスクは、
吸入により79%(95%CI:0.04から0.97)有意に低下していた、
と記載されています。
これが事実であれば、
かなり画期的な重症予防効果です。
症例数は少ないですが、
二重盲検の介入試験で、
明確な臨床上の有用性が示された、
新型コロナウイルス感染症の治療薬というのは、
実際には殆どなく、
その意味でも画期的ではあります。
ただ、
これはまだ詳細なデータが開示されたとは言い難いもので、
現状は多分に一企業の宣伝という範囲を超えていません。
当該の企業は5年以上前から、
インターフェロンβの吸入の可能性を、
色々な病気で試して、
それほど明確な有効性を実証していないのに、
今回がこれだけ明確な効果が示されている、
ということにも釈然としない部分があります。
論文化を待たないと何とも言えないというのが正直なところで、
これが単独の宣伝報告に終わってしまうのか、
それとも実際に画期的な重症化予防の治療であるのか、
今後の検証を待ちたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
これはシネアジェン社という、
イギリスのバイオテクノロジーメーカーの、
2020年7月20日付のプレスリリースですが、
報道などで「画期的新薬が…」というような感じで、
話題になっているものです。
ただ、画期的な効果があったとする、
メーカー主導の臨床試験の結果を、
かいつまんで説明しているだけのもので、
まだ論文化にも至っていないようです。
海外発のニュースですが、
一企業の宣伝を、
ただ垂れ流すという感じのニュースは、
如何なものか、
というようには思います。
インターフェロンβは、
抗ウイルス作用を持つサイトカインで、
その吸入剤としての使用は、
2014年に喘息患者のウイルス感染時の病状改善目的で、
同じシネアジェン社の主導で臨床試験が行われ、
こちらは論文となっています。
ウイルスの気道感染の際に、
気道上皮細胞はインターフェロンβを産生し、
それがウイルス感染の防御に重要な役割を果たしているのは事実です。
喘息の患者さんの一部では、
ウイルス感染時のインターフェロンβの産生能が低下していて、
それが喘息では感染時に呼吸機能が悪化することの、
要因ではないかという考え方があります。
そこで感冒症状の見られた喘息患者に、
インターフェロンβの吸入薬を2週間使用したところ、
喘息症状の改善が認められましたが、
患者の一部では増悪も認められました。
つまり、必ずしも結果は上手くいかなかったのです。
その後シネアジェン社はCOPDに対しても、
このインターフェロンβの吸入試験を試み、
そして今回は新型コロナウイルス感染症に対して、
同じ薬剤を使用した臨床試験を行なっているのです。
理屈から言えば、
新型コロナウイルスの下気道感染に対して、
気道のインターフェロンβを増加させることは、
感染防御とコントロールに有効である可能性はありそうです。
今回のプレスリリースによると、
イギリスの9カ所の専門病院において、
新型コロナウイルス感染症の入院患者101名を、
クジ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はインターフェロンβの吸入を16日間継続し、
もう一方は偽の吸入を施行してその経過を比較したところ、
偽吸入群では6%に当たる3名が死亡した一方で、
インターフェロンβ吸入群では死亡者はなく、
死亡か人工呼吸器を装着するリスクは、
吸入により79%(95%CI:0.04から0.97)有意に低下していた、
と記載されています。
これが事実であれば、
かなり画期的な重症予防効果です。
症例数は少ないですが、
二重盲検の介入試験で、
明確な臨床上の有用性が示された、
新型コロナウイルス感染症の治療薬というのは、
実際には殆どなく、
その意味でも画期的ではあります。
ただ、
これはまだ詳細なデータが開示されたとは言い難いもので、
現状は多分に一企業の宣伝という範囲を超えていません。
当該の企業は5年以上前から、
インターフェロンβの吸入の可能性を、
色々な病気で試して、
それほど明確な有効性を実証していないのに、
今回がこれだけ明確な効果が示されている、
ということにも釈然としない部分があります。
論文化を待たないと何とも言えないというのが正直なところで、
これが単独の宣伝報告に終わってしまうのか、
それとも実際に画期的な重症化予防の治療であるのか、
今後の検証を待ちたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
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- 作者: 石原 藤樹
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2020/07/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)