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滅菌によるマスクの機能低下 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マスク滅菌後の有効性.jpg
JAMA Network Open誌に2020年6月15日に掲載されたレターですが、
サージカルマスクやN95マスクなどの医療用マスクを、
滅菌した場合の有効性の低下についての論文です。

新型コロナウイルスの感染拡大の予防に、
人同士が接触する際のマスクの装着が、
有効であることは、
今では世界的に実証されている事実です。

欧米では病気でない人がマスクをする、
という習慣がなく、
そのため「マスクに予防効果はない」という意見が、
今年の3月くらいまでの時期には、
専門家の間でも強かったのですが、
その後世界的な新型コロナウイルスの流行の中で、
マスクの有効性は見直され、
勿論マスクで感染を全て予防できるという訳ではありませんが、
適切にマスクを使用することにより、
感染を8割は抑制することが出来る、
という知見が世界的に認められています。

マスクを巡る考え方は、
この数か月で劇的に変わったのです。

マスクにも多くの種類があり、
衣類の一部のように使用されている、
ファッション性の高いマスクは、
一定の予防効果はありますが、
ウイルスを含む粒子を、
食い止めるほどの力は持っていません。

医療関係者が通常装着しているサージカルマスクは、
5μm(5000nm)程度の大きさの粒子を、
濾過して捕捉する機能を持っています。

N95マスクと称されるより高性能のマスクは、
0.1から0.3μm(100から300nm)の粒子を、
95%以上濾過して捕捉する性能を持っています。
これはアメリカの規格です。

それに対抗して中国で作られた規格がKN95で、
KN95マスクというのは、
中国版N95マスクと言うべきものです。

ウイルス粒子の大きさは100nmくらいですから、
どんな高性能のマスクでも、
それを完全に濾過して捕捉するような機能は持っていません。
ただ、通常はウイルスは飛沫と共に、
一体となって降りかかってくることが殆どで、
飛沫粒子の大きさは5μm(5000nm)以上はあるので、
飛沫の予防という意味では医療用のマスクには、
充分な有効性があると言えるのです。

一方で通常の市販のマスクが濾過捕捉出来るのは、
10から100μm(10000から100000nm)とされています。

今は少し余裕のある状態ですが、
感染が急激に拡大するとマスク不足が問題となります。

マスクは使い捨てが原則です。

ウイルスの飛沫などを濾過捕捉することがマスクの役割ですから、
装着したマスクはそれ自体感染リスクのある不潔なものです。
従って、一度装着したマスクは手を触れず、
外した時にはそのまま廃棄することが原則です。

しかし、マスクがないのであれば、
何等かの形で再利用するしかありません。

そこで他の医療用具と同じように、
マスクを滅菌して再利用する、
という考え方が生まれました。

滅菌すれば確かに再利用は可能です。

しかし、滅菌によりマスクの性能に影響はないのでしょうか?

今回の研究では、
N95マスク、KN95マスク、サージカルマスクの3種類のマスクを、
過酸化水素による滅菌と二酸化塩素による滅菌という、
2種類の滅菌法で滅菌し、
その前後でマスクの性能を比較検証しています。

通常日本の医療施設での医療器具の滅菌は、
エチレンオキサイドガス滅菌か放射線滅菌が主体だと思いますが、
過酸化水素滅菌も、
ステラットという過酸化水素プラズマ滅菌器の使用が最近増加していて、
厚労省のN95マスク滅菌再利用の資料でも、
この滅菌器利用の記載があります。

N95マスクの指標とする、
濾過補足効率で見たところ、
N95マスクは97.3%、KN95マスクは96.7%、
サージカルマスクでも95.1%という、
高い濾過補足効率を示しました。

これを過酸化水素滅菌すると、
N95マスクが96.6%、KN95マスクが97.1%、
サージカルマスクが91.6%と、
軽度ながら滅菌による性能の低下が認められました。

二酸化塩素滅菌後には、
N95マスクで95.1%、KN95マスクで76.2%、
サージカルマスクでは77.9%と、
過酸化水素滅菌より滅菌による性能の低下は大きく認められました。

特に捕捉可能な粒子のうち、
最も小さいレベルである0.3μm(300nm)のみの濾過率でみると、
N95マスクでも86.2%に低下しており、
KN95マスクでは40.8%に、
サージカルマスクでは47.1%に、
と著明な濾過性能の低下が確認されました。

以上は1回のみの滅菌による影響なので、
複数回の滅菌処理を繰り返せば、
その性能はより低下することも推測されます。

このように、
滅菌法によってもマスクの性能に与える影響には違いがあり、
医療従事者の感染防御のためには、
日本においてもこうした検証をしっかり行った上で、
海外のデータを引用するだけの通達ではなく、
もっと実効性のあるマスク再利用の指針が、
作られることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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