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新型コロナウイルス抗体測定の精度 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナテストの正確性.jpg
British Medical Journal誌に2020年7月1日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの抗体検査の精度についての論文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断のための検査は、
鼻腔もしくは咽頭からの検体によるRT-PCRが、
現時点ではスタンダードな方法となっていて、
唾液のRT-PCR検査も最近日本でも保険適応となり、
感染初期の10日未満であれば、
鼻腔咽頭検体と同等の精度があると報告されています。
これはウイルスの遺伝子の一部を、
増幅して確認するという方法です。

簡易キットなどによる抗原検査は、
インフルエンザに用いられるものと同じで、
他のコロナウイルスでも陽性になる可能性があるなど、
確定診断としては使用出来ませんが、
その場で結果が目視で判明する、
という診療上の利点があります。
ただ、検体採取時の感染リスクはRT-PCR検査と同等で、
施行者には同等の防御が必要になる一方で、
陽性となっても更にRT-PCR検査で確認する必要がありますから、
現状ではその使用は限定的と思います。
こうした検査は新型コロナウイルスが市中感染の病原体として、
風邪と同等の扱いとなり、
その治療薬などが抗原検査のみで使用可能となった時に、
初めてその真価を発揮するという性質のものです。

抗体検査は、
人間の身体がウイルス感染に反応して、
防御のために産生する特異的な抗体を、
血液で検出するという方法です。

血液検査なので周囲への検査による感染リスクが低く、
安全に検査可能であることが利点です。

ただ、抗体は感染初期には上昇はせず、
感染の早期診断には役に立ちません。
また、身体はウイルス感染に対して、
複数の抗体を産生していて、
種々の検査キットは、
それぞれ別個の抗体を独自に検出しているので、
結果も同一ではないという問題があります。

測定された抗体の意味合いも、
現時点でははっきりしていません。

当初はIgG抗体が感染の治癒に一致して上昇し、
その陽性は感染に掛かって既に治癒している状態、
を示していると想定されていました。

つまり、抗体が陽性化していればもう安心で、
再び新型コロナウイルス感染症に罹ることはしばらくはない、
というように思われていました。
一方で抗体が陰性であれば、
その人はまだウイルスには感染したことがない、
というようにも思われていたのです。

しかし、
その後の研究により、
抗体は数ヶ月以内という短期間で陰性化することがあり、
その一方で抗体が上昇しない感染もあり得る、
というような知見が判明して、
問題はそう単純ではないことが、
徐々に明らかになっているのです。

今回の研究はこれまでに市販されている主だった抗体検査を、
その検査法により分類し、
これまで報告されたデータから、
その感度と特異度を比較検証しているメタ解析です。

測定法としては、
イムノクロマトグラフィー法(LFIAs)、
化学発光免疫測定法(CLIAs)、
酵素免疫測定法(ELISAs)が検証されています。
詳細はややこしいので省きますが、
それぞれ少し違った検出法で、
血液のIgG抗体とIgM抗体を測定しています。
個別の測定法もありますが、
その意味合いも不明の点が多く、
これまでのデータは主にトータルの抗体を検出しています。

その結果はこちらをご覧下さい。
コロナウイルステストの正確性の図.jpg
今回のメタ解析の結果をまとめたものです。

実際に感染に罹っている時に、
検査が陽性である比率が感度ですが、
ELISAs法が84.3%(95%CI:75.6から90.9)。
LFIAs法が66.0%(95%CI:49.3から79.3)、
CLIAs法が97.8%(95%CI:46.2 から100)、
となっています。

注目頂きたいのはデータによりばらつきが非常に大きいことで、
この検査が現時点では、
あまり信頼性のないものであることを示しています。

抗体検査については国民全員が受けるべきだ、
というような脳内お花畑的な意見もあるのですが、
それはもう少し抗体の持つ意味合いが明確になり、
その測定の精度が上がって、
検査の持つ意義も科学的に明確にならないと、
ただの法外な無駄遣いになるだけであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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